薬師シャルロット
科学魔術(2)
目の前で起きている出来事が信じられない。
驚きのあまり両腕から力を抜いてしまう。
両手で抱き抱えるようにして持っていた本がカーペットの上に落ちてしまう。
幸い、床に敷かれていたカーペットがやわらかい事もあり衝撃を吸収してくれた。
「よかった……」
私は本を落としたことで音が鳴らなかったことに安堵の溜息をつく。
そして、もう一度、視線を空中に浮いている熊のぬいぐるみの方へと向ける。
「――い、いったい……」
呆然と空中に浮かんでいる熊のぬいぐるみに近づいていく。
「これって……」
何が起きているのか判断がつかない。
ぬうぐるみへと手を伸ばす。
そして、触ってみておかしいことに気がついた。
なんだか――ぬいぐるみが硬い。
いつもの縫いぐるみぽい触感ではなくて中身がいっぱい詰まっていて張っているような、中身に余裕がないような、そんな感触が伸ばした指先から伝わってくる。
縫いぐるみに本来詰みこまれている以外の物が入っているのが、否応なしに理解できてしまう。
それの意味することは一つしかない。
それは……。
「すごい。魔術が成功した? でも、一体……何の魔術が成功したの?」
私は首を傾げる。
遅効性の魔術など使った覚えもない。
使った魔術と言えば。
ライターの火と同じくらいの大きさの火を発生させる火の魔術。
熊のぬいぐるみを空中に浮かせる風の魔術――熊だけじゃなくてもいいけど……。
物体を硬化させる地の魔術。
そして、最後に直径5センチくらいの水の玉を作る水の魔術。
どれでも即応性のある魔術で成功はしていない。
それなのに、空中に熊が浮いているということは……。
「分からない……と、結論付けるのは簡単だけど……あっ!?」
このまま、熊のぬいぐるみが空中に浮いていたら、私が魔術を使えることがメロウさんや国王陛下に分かってしまうかも――。
あれ? で、でも……私が魔術を使えないから国王陛下は、私を、どうにかしようとしたのだから……魔術が使えるところを見せたら、きっと前みたく! やさしくしてくれ……。
そこまで考えたところで――。
冷や水を掛けられたように冷静になる。
冷静になってしまう。
「……私、馬鹿みたい……」
魔術が使えないと言うだけで、国王陛下に邪険にされているのに……魔術で気を引こうと考えるなんて、そんなの……とっても浅ましい行為に違いないのに……。
魔術を見せれば、また優しい笑顔で接してくれると一瞬、思ってしまった自分が恥ずかしい。
それに、国王陛下が私に見せた笑顔だって――。
本当は実の娘であるシャルロットに見せていたものであって……私に見せたものではないのに――。
「本当に……私は身勝手にもほどがある……」
何のことはない。
いつも自分のことしか考えていない。
だから、誰かを傷つけて誰かに疎まれてしまう。
それは、必然であって偶然ではない。
でも、私が魔術を披露すれば少なくとも使える人間ということで、殺されることはないかもしれない。
そうすれば、王妃様が後ろ盾となっていなくても――。
「ダメ、それは絶対にダメ――」
私は、頭を振るう。
今、私は何を考えた?
魔術が使えれば、シャルロットの真似をしなくてもいいと、心の片隅で考えてしまった。
私が、私としての意識を持たなければ、この体の本来の持ち主であるシャルロットは――。
王妃様の、本当の子供であるシャルロット本人の意識は消えることは無かったのに……。
「私、最低だ……」
自分の額に手を当てながらカーペットの上に座り込む。
結局、魔術が使えても使えなくても、私がやる事に変わりはない。
私が、今やらないといけないこと――。
それは、王妃様の子供、シャルロットとしての役目であり演技。
気がつけば、頬が濡れていた。
子供になってからというもの感情の抑制が上手く出来ないでいる。
生まれ変わる前なら、学校でどんなに無視されようと苛められようと、私には逃げ込める場所があった。
だから、いくらでも我慢することが出来た。
そう、本の中――。
本に書かれている物語の中なら、私はいくらでも主人公になれたのだから。
どんなに現実が苦しくても、成績が良くても誰にも理解されなくても。
本を読んでいただけで、私は満たされていたのだから。
「そう……」
誰かに理解されなくてもいい。
誰かに期待して、自分に期待して、何かに期待して、裏切られるくらいなら。
結果に裏切られて傷つくくらいなら、最初から何も無いほうがいい。
そんなことなんて、ずっと前から知っていたこと。
何度も何度も繰り返して、自分を戒めても何も私は変わってない。
だから――。
「まずは魔術の探求と研鑽から入りましょう」
今度は、魔術に私は傾倒することに決めた。
驚きのあまり両腕から力を抜いてしまう。
両手で抱き抱えるようにして持っていた本がカーペットの上に落ちてしまう。
幸い、床に敷かれていたカーペットがやわらかい事もあり衝撃を吸収してくれた。
「よかった……」
私は本を落としたことで音が鳴らなかったことに安堵の溜息をつく。
そして、もう一度、視線を空中に浮いている熊のぬいぐるみの方へと向ける。
「――い、いったい……」
呆然と空中に浮かんでいる熊のぬいぐるみに近づいていく。
「これって……」
何が起きているのか判断がつかない。
ぬうぐるみへと手を伸ばす。
そして、触ってみておかしいことに気がついた。
なんだか――ぬいぐるみが硬い。
いつもの縫いぐるみぽい触感ではなくて中身がいっぱい詰まっていて張っているような、中身に余裕がないような、そんな感触が伸ばした指先から伝わってくる。
縫いぐるみに本来詰みこまれている以外の物が入っているのが、否応なしに理解できてしまう。
それの意味することは一つしかない。
それは……。
「すごい。魔術が成功した? でも、一体……何の魔術が成功したの?」
私は首を傾げる。
遅効性の魔術など使った覚えもない。
使った魔術と言えば。
ライターの火と同じくらいの大きさの火を発生させる火の魔術。
熊のぬいぐるみを空中に浮かせる風の魔術――熊だけじゃなくてもいいけど……。
物体を硬化させる地の魔術。
そして、最後に直径5センチくらいの水の玉を作る水の魔術。
どれでも即応性のある魔術で成功はしていない。
それなのに、空中に熊が浮いているということは……。
「分からない……と、結論付けるのは簡単だけど……あっ!?」
このまま、熊のぬいぐるみが空中に浮いていたら、私が魔術を使えることがメロウさんや国王陛下に分かってしまうかも――。
あれ? で、でも……私が魔術を使えないから国王陛下は、私を、どうにかしようとしたのだから……魔術が使えるところを見せたら、きっと前みたく! やさしくしてくれ……。
そこまで考えたところで――。
冷や水を掛けられたように冷静になる。
冷静になってしまう。
「……私、馬鹿みたい……」
魔術が使えないと言うだけで、国王陛下に邪険にされているのに……魔術で気を引こうと考えるなんて、そんなの……とっても浅ましい行為に違いないのに……。
魔術を見せれば、また優しい笑顔で接してくれると一瞬、思ってしまった自分が恥ずかしい。
それに、国王陛下が私に見せた笑顔だって――。
本当は実の娘であるシャルロットに見せていたものであって……私に見せたものではないのに――。
「本当に……私は身勝手にもほどがある……」
何のことはない。
いつも自分のことしか考えていない。
だから、誰かを傷つけて誰かに疎まれてしまう。
それは、必然であって偶然ではない。
でも、私が魔術を披露すれば少なくとも使える人間ということで、殺されることはないかもしれない。
そうすれば、王妃様が後ろ盾となっていなくても――。
「ダメ、それは絶対にダメ――」
私は、頭を振るう。
今、私は何を考えた?
魔術が使えれば、シャルロットの真似をしなくてもいいと、心の片隅で考えてしまった。
私が、私としての意識を持たなければ、この体の本来の持ち主であるシャルロットは――。
王妃様の、本当の子供であるシャルロット本人の意識は消えることは無かったのに……。
「私、最低だ……」
自分の額に手を当てながらカーペットの上に座り込む。
結局、魔術が使えても使えなくても、私がやる事に変わりはない。
私が、今やらないといけないこと――。
それは、王妃様の子供、シャルロットとしての役目であり演技。
気がつけば、頬が濡れていた。
子供になってからというもの感情の抑制が上手く出来ないでいる。
生まれ変わる前なら、学校でどんなに無視されようと苛められようと、私には逃げ込める場所があった。
だから、いくらでも我慢することが出来た。
そう、本の中――。
本に書かれている物語の中なら、私はいくらでも主人公になれたのだから。
どんなに現実が苦しくても、成績が良くても誰にも理解されなくても。
本を読んでいただけで、私は満たされていたのだから。
「そう……」
誰かに理解されなくてもいい。
誰かに期待して、自分に期待して、何かに期待して、裏切られるくらいなら。
結果に裏切られて傷つくくらいなら、最初から何も無いほうがいい。
そんなことなんて、ずっと前から知っていたこと。
何度も何度も繰り返して、自分を戒めても何も私は変わってない。
だから――。
「まずは魔術の探求と研鑽から入りましょう」
今度は、魔術に私は傾倒することに決めた。
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