薬師シャルロット

なつめ猫

思いの欠片(1)

 ――翌朝

「シャルロット様、朝でございますよ?」

 メロウさんが部屋に入ってきて、何度か私の名前を呼んで来たところで、ようやく私は目を覚ました。
 そして、自分が寝入っていたことに気がつき「おはようございます」と、だけメロウさんの言葉に答えてから布団を出た。
 子供用の仕立てのいいドレスぽいスカートが少し膨らんだワンピースを着せられると、部屋の壁に掛けられている大きな姿見の前に座らされる。

「シャルロット様、少し髪が荒れているようですけど、何かございましたか?」

 この世界で、私という意識が覚醒してから2ヶ月が経過していた。
 最初、髪の長さは鎖骨までのミディアム程度だったけど、今ではセミロングくらいまで伸びている。
 おかげで、少し不摂生をしただけで、髪の毛にモロに影響が出たりするわけで。
 基本的に電気や、照明器具と言ったものが存在していないので、日が昇ったら起きて活動を行い日が沈んだら寝るという生活方式を取っている。
 時々、蝋燭などで明りを取ることはあるけど、現代日本みたく過剰なサービスを求める人なんていないと思うし、窓から外――城下町を見下ろしても明りを使っている家庭は本当に少ない。

 メロウさんの言葉に、私は否定的な意味合いを込めて頭を振るう。

「恐い夢を見て――」
「――!? だ、大丈夫でございますか?」
「――え? あ――、う……うん……」

 あれ? 眠れなかったと言ったら添い寝してあげますとか言われたり心配されたりしたら面倒かなと思って、子供らしい言い訳――、つまり、恐い夢を見て眠れなかったと言っただけなのに、ずいぶんと過剰な反応が返ってきた。

「シャルロット様! 少し、お時間を頂けますか?」
「――え? あ、うん……」

 メロウさんの言葉に、私は素直に頷く。
 なんだか、止めたら何か言われそうな気がしたから、事なかれ主義の日本人らしく条件反射で頷いてしまっていた。

 それでも、短時間で私の身支度をしたメロウさんは、すぐに朝食の用意をして部屋から出ていった。
 一体、何を慌てているのか分からないけど、何故か嫌な予感が止まらないけど……良く分からないことは考えても仕方ないことから考えないことにした。
 それよりも魔術の練習時間を考えないといけない。
 朝から夕方にかけては、メロウさんが殆ど部屋にいて私を部屋から出してくれない。
 一応、前までは暗殺の可能性があったけど、王妃様の後ろ盾もあるし、いまは大丈夫だと思うけど――。

 本当は昼の時間も、魔術の練習に使いたいけど――。
 そうすると、メロウさんを経由して国王陛下や王妃様に話しが行く可能性もある。

 だとすると、魔術の練習は夕方以降のメロウさんがいない時間帯。

「月と星明りを頼りに練習かなぁ……」

 正直、幼女な体なだけあってお昼寝と夕方以降、急速に睡魔が襲ってきて中々、起きていられない。
 昨日だって、日が沈んでから体感時間的に3時間くらい魔術の勉強をして、そのあと始めて熊のぬいぐるみを空中に浮かべたけど――。

 本を全部、本棚に返したら睡魔が急激に襲ってきて目が開けられなくなって、がんばってベッドに上がってから布団を被って寝たのだ。

「魔術の練習時間がほしい……と、いうか魔術を教えてくれる先生がほしい……でも、そんなの無理だし……」

 魔術の練習時間はほしいけど、国王陛下と王妃様には知られたくない。
 そんな相反するジレンマに悩んでしまうけど……。

「どうにもならないよね……」

 目的を忘れてはいけない。
 私は、シャルロットとして生活して生きていかなくてはいけない。
 だから、不審に思われるような態度や、6歳児が普通はしないであろうということをしたらダメ。
 あくまでもシャルロットとして成り切らないと。

「夕方から可能な限り魔術の練習をすることにしましょう」

 私は、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
 すると、扉が数回ノックされたあと、開かれ――。

「シャルロット様、王妃様がお呼びでございます」
「――え?」

 突然の言葉に私は、素で疑問を投げ掛けてしまっていた。

「シャルロット様?」
「お母さまが……わたしを?」

 私の問いかけに、メロウさんが頷きながら「はい、すぐにお会いしたいとのことです」と、答えてきた。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品