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薬師シャルロット

なつめ猫

科学魔術(1)

 私は、ベッドから降りると本棚に向かう。
 本棚から魔術に関連している本を手にとったあと、ベッドの上まで運ぶ。
 そのあと、ベッドに寝そべりながら月明かりを頼りに本棚から持ってきた何冊もの魔術関連本を読んでいく。

「これにも、これにも書いてない……」

 私が地球で読んでいた小説の知識を元にするなら、回復系の魔術は、見習い僧侶でも使えたはず。
 つまり、そんなにハードルが高いものではないはずだけど。
 それに王妃様が回復魔術を使えるようなことをメロウさんは言っていた。

 神官や聖女がいるかどうかは知らないけど、一国の――しかも王妃が回復魔術を使える。
 本来、国王に嫁ぐ王妃には気品や、立ち振る舞い、そして夫を補助するために政治的知識や人脈作りが必須となる。
 それは簡単に身に付くものではなく、幼少期から長い時間をかけて培われるもののはず……。

 つまり、あまり難しい工程が必要とされる技術……つまり政に直結しない魔術というのは重要視されないはず。
 ただ、重要視されないからと言って覚えていないとは限らない。
 つまり覚えるのが簡単なら、回復魔術を仕えてもおかしくないということ。

 ただ、そこで矛盾点が生じる。
 どうして魔術本に記載されていないかという点。

 導き出される答えとして、あくまでも仮定として考えるなら。

 一つは回復魔術というのは何かの才能が必要であるということ。
 もう一つは回復魔術を習うためには、莫大な金品が必要であること。

 それも王族か、それに次ぐだけの資産か権力を持っている必要があるのか。

 色々と考えられるけど……。
 それでも、本に書かれていないというのはおかしい。
 もし、才能が必要な、とても希少性の高い魔術ということなら、メロウさんが言わなかった理由も分かるし本に書かれていない理由にも説明はつくけど……。

 説明はつくけど釈然とはしない。

 そもそも人間というのは、つねに体調が万全な状態ということはありえない。
 それこそ、どんな病気に負けない空想上の御伽噺に現れるような生物でも無い限り。

 私の風邪を治してしまった回復魔術。
 それも一日も経過せずに治せるなんて、信じられないと思う。
 現代地球なら、風邪はウィルスが起こすものであって対処は風邪薬を投与するか、発汗から来る発熱により病原体を殺す方法がある。
 それをしない方法があるなんて、すごい魔術だと思う。

 そんな、回復魔術が魔術関連の本に書かれていないのは謎でしかないけど、所詮は仮定の域を出るものではない。
 仮定に仮定を積み重ねても真実に辿り着くとは限らないから。
 それなら、別の角度から物事の本質に迫った方が有用。

「とりあえず……このへんからかな……」

 私は、魔術基礎入門書を手に取る。
 そこには、四大元素の魔術の使い方が書かれていた。
 一つは明確なイメージ。
 そしてもう一つは詠唱と魔術発動のための言葉。

「えっと……水晶球で調べたときに赤く光った者が使えるようになる魔術になると。なるほど……ファイアーボール? えっと……直径1メートルほどの火の玉を作り出す魔術……」

 窓から差し込む月明かりを頼りにしながら魔術基礎入門書を読み続ける。

「風の魔術を使うためには緑色の適正が出た者。土の魔術を使うためには、灰色の適正が出た者、そして……水の魔術を使うめには、青色の適正と――」

 そこまで読んで、私は捻る。
 やはり、白い閃光を放つような適正色はないと――。

「考えてもよく分からないから……とりあえず使ってみる?」

 魔術基礎入門書には、屋内で練習が出来るような魔術も記されている。
 例えば――。

「えっと軽い物を浮かせる練習? 風を操って浮かせるって感じ? えっと……、頭の中で、まずはイメージを作り上げてから両手を浮かせたい物に向けてから、詠唱。次に魔術を発動させる浮遊のキーワードを口ずさむと……」

 頭の中で、物体を浮かべるようなイメージを思い描こうとするけど、普通に考えて固体である物質を中に浮かせるなんて、相当な風力がないと無理なわけで、そんな事をしたら部屋の中が台風に直撃されたみたいになってしまう。

「――と、とりあえず練習をしてみましょう」

 もしかしたら隠された力とかが覚醒するかもしれないし……。
 まぁ、そんな主人公補正が私にあるとは到底思えないけどね。 

「えっと……とりあえず、浮かべるものは熊の縫いぐるみでいいかな?」

 私は、布団の枕元に鎮座していた1メートルほどの、私と同じくらいの大きさである熊さんを担ぎ上げると、布団から下ろし引き摺りながら、部屋の中央部分、カーペットの上に置く。
 そして、両手を熊さんに向けて風が熊さんを空に飛ばすイメージを思い浮かべる。

「浮遊!」

 詠唱部分の文字が、私が知っている文字と違っていて良く読めなかったから、詠唱は省く。
 成功するかどうかすら妖しいし、そのへんは適当で――。
 すると、案の定というか何と言うか……。

「うーん、発動しない……」

 やっぱり魔力の適正が違うのか分からないけど、成功はしない。
 そのあと、火の魔術に土の魔術に水の魔術も練習したけど、肝心の詠唱部分の文字が読めないせいで魔術が、一切発動しない。

「だめかぁ……。やっぱり適正は絶対なのかな……それとも詠唱に鍵がある?」

 私は小さく溜息をつきながら、ベッドの上で寝転がり部屋の中央に鎮座している魔術の的である熊のぬいぐるみを見る。
 そもそも質量のある物体を浮かせることが風で出来るのかと言えば、吹き飛ばすことは出来るかもしれないけど、本当の意味で浮かせることができるかどうかは、それは出来ない。
 何故なら、原子の密度がまったく違うから――。
 だから物体の密度が圧倒的に違う物質を空中に浮かべるなら、その物質を浮かべるだけの何かが必要になる。
 たとえば、空気よりも軽いヘリウムガスや水素ガスと言った具合に――。

「どちらにしても、私には魔術の才能はお父さまが見たとおりに無いみたい……」

 少しだけだけど、異世界に転生したのだから少しは魔術が使えるものかと期待したけど、私は、やっぱり私だったわけで中身が変わらないのに、何かが変わるわけもないわけで……。

「熊の縫いぐるみの中身にヘリウムガスを突っ込んだら空中に浮かびそうな……」

 私は一人呟きながら、そんなアホみたいなことを妄想しながら魔術基礎入門書を閉じる。
 そして――。

「浮遊の魔術とか使えたらよかったのですけど……」

 そうすれば、窓を開けて外に出られたかもしれないのに……。

「さて……と、本を片付けよ……」

 熱中していたこともあって、ベッドの上には10冊以上の本が散らばってしまっている。
 この様子をメロウさんに見られたら不審に思われてしまう。

「それよりも、問題は――えっ!?」

 本を抱きかかえてベッドから降りようとすると、部屋の中央に置いておいた熊の縫いぐるみが空中に浮かんでいる光景が瞳に飛び込んできた。

「魔術が……成功している!?」



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