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薬師シャルロット

なつめ猫

偽りの心(2)

 私は、「お母さまには会いにはいきません」と、否定的な意味を込めて頭を振るいながら答える。

「シャルロット様!?」
「それより――あれを、読めるようになりたい」

 私は、部屋の本棚を指差しながら言葉を紡ぐ。
 とにかく、今は知識がほしい。
 この世界の常識と世界観、そして経済や通貨価値を知らないと何かがあった時に対応が出来ないから。

「読書でございますか? それでしたら――」

 メロウさんは眉間に皺を寄せながら本棚に近づき、本棚の一番したから一際大きな分厚い本を手に取り「これを、どうぞ――」と、差し出してきた。

「これは……」

 私から見たら、一抱えあるほど大きな本。
 カバーを捲りページを捲ると、そこには動物と思われる絵が大きく描かれていた。
 その絵と共に文字が少なからず書かれていて、元の世界の基準で言えば絵本と言っても間違いではない。

「それは、シャルロット様が一番、お好きだった絵本でございます」
「……」

 私は絵本のページを捲る。
 本物のシャルロットが、好きだった本。
 それが、どんなものなのか……。
 とても気になるものであった。

 文字を読むことは出来ない。
 だけど、絵を目で追っていけば大体、どんなものだったのか分かる。
 その物語は……。

 誰かを守るために自分の身を省みず、誰かを助けていく話であった。



 日差しが弱くなり、部屋の中が薄暗くなってきたところで、「シャルロット様」と、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 そのとき、丁度――絵本を読み終えたこともあり私は慌てて声の主であるメロウさんのほうへと顔を向けた。

「どうでしたか?」

 メロウさんは、部屋のテーブル上に琥珀色の紅茶を注いだティーカップを置きながら、私に話かけてきた。
 彼女の言葉に、私はなんともいえない表情を浮かべる。

 物語の流れは殆どが絵で描かれていることもあり、話の流れは子供でも理解できると思う。
 でも、それで物語の本質。
 手に持っている本が、読者に何を訴えかけたいのか。
 その話の内容は到底、子供が理解できる内容とは思えなかった。

「その絵本は、著名が分からない本なのです」

 彼女の言葉に私は首を捻る。
 そんな本を子供が読む場所に置いていいのだろうか? と――。
 ただ、私は、そのことを指摘することはしない。

「その本を持ってきたのはシャルロット様なのです。中庭を散歩中に拾ったと言われまして――」
「…………」

 メロウさんは、抑揚の無い言葉で、淡々と語りかけてくる。
 嘘をついているようには見えないけど……。

「私が落ちた泉のところ……?」
「はい、思い出されましたか?」

 彼女の言葉に「うん、少しだけ――」と嘘をつく。
 すると、彼女は少しだけ困った表情を私に見せてきた。
 一瞬、どうしたのかと思ってしまっていたが、すぐにメロウさんはいつもの笑顔を私に向けてきた。
 ただ、その表情には陰りがあるような気がしてならない。

「シャルロット様、お茶のお時間に致しましょう」

 彼女の言葉に私は頷く。
 部屋に置かれている椅子は、一人では座ることができないこともあり、私は読んでいた絵本をベッドの上に置く。
 ベッドから降りると、近づいてきたメロウさんが両脇から私を抱き上げると椅子の上に座らせてくれた。

 テーブルの上には、ティーポットにティーカップ。
 そして、サンドイッチなどの軽食や、一口で食べられるようなパンケーキが添えられている。

 私は、まずはティーカップに口をつける。
 味がしない紅茶を口に含んだあと、私は先ほどまで読んでいた絵本の内容を思い出す。

 先ほどまで読んでいた絵本。
 シャルロットが好きだったという物語が描かれている絵本には、救われない王女の話が描かれていた。

 人の趣向というのは千差万別だけど……。
 それだけでは説明がつかない。

 どう考えても子供が好む内容の物語ではないと思う。
 普通は、勇者が捕まった王女などを助けて幸せになる物語のほうが子供に受けるはず。

 それなのに、読んだ絵本にはまったく救いがなかった。

 こんな物語の内容である本を、6歳の子供であったシャルロット本人が、どうして好んだのか私には、この時まったく理解することはできなかった。

  

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