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薬師シャルロット

なつめ猫

回復魔術師(4)

 私は味のしない食事を済ませたあと、寝巻きのまま布団に入る。
 体調は悪くないけど……王妃様の話によると私は風邪を引いていたらしい。
 たしかに、昨日は体全体がだるかったし、意識も朦朧としていた。

 それにしても、この世界には攻撃魔術だけではなく回復魔術まで存在しているらしいことは分かった。
 それが、昨日と今日の一番の収穫だろう。

「あの……」

 私が話かけると食事の後片付けをしていたメロウさんは、「なんでしょうか?」と振り向いて話かけてきた。

「いつも、国王陛下ばかりが会いに来てくださってはいましたけど、どうしてお母様とは会えなかったのでしょうか?」
「――ああ、そのことですか……」

 メロウさんは、体ごと私の方を振り向いてくると「王妃様は、現在は体がとても弱っておいでなのです。――ですから、王妃様ご自身がお部屋から出られることは、殆どありません」と、私の質問に答えてきた。

 彼女の言葉を、心の中で反芻する。
 王妃様の体が弱っているということは、私にとっても一大事なこと。
 だって、私の後ろ盾は王妃様で――。
 よく貴族などの物語などでは、実の母親が無くなった際に、後妻として入ってきた人に辛く当たられたり、殺されたり、苛められたりする場面が多々、存在する。
 そう考えてしまうと、王妃様には元気でいてもらわないと。

「あの、回復の魔術って誰でも使えるのですか?」
「それは……、――私には分からないです」
「そうなんですか」

 私は、素直に引き下がる。
 彼女はたぶん、知っていると思う。
 だって、お母様が嫁いできたときから、ずっと仕えてきたのだから。

 メロウさんは片付けが終わると「シャルロット様、それでは今日は、ゆっくりとお休みください」と言って部屋の扉を開けて外へと出ていった。
 私は、小さく溜息をつくと、部屋に置かれている本棚の方へ視線を向ける。
 本棚には数十冊の本が並んでいて――。

「この世界の文字が読めれば……少しは、本を読んで知識を身につけるのに――」

 知識は身を助ける。
 それは、誰の言葉であったか……もう、忘れてしまったけど――。

 たしか……元は芸は身を助けるなどの意味だったはず。
 つまり知識や技術を持っていれば生きていけますよという意味で……。

 今の私は自分の身を守る力も、文字も読めないから知識もない。
 あるのは、地球で済んでいたときに本を読んで身に着けた知識だけ。

「とりあえず、明日になったらお母様に会いに行って回復の魔術を教えてもらおう」


 
 誰かの会話が聞こえてきたことで、私は目を覚ました。
 部屋の中は薄暗く、窓ガラスから見える外の景色は夜の帳が落ちていて、すでに真夜中と言うことが分かる。
 私は、音を立てないように布団から出ていると、踝まで沈むほど柔らかい毛皮で編まれたカーペットの上を歩いていく。

 扉の前まで来たところで私は首を傾げる。

「シャルロットの様子はどうだ?」

 扉越しに聞こえてきた声に私の心臓は大きく鼓動を鳴らす。

「今日一日、お休みしているようです」
「そうか……」

 どうやら国王陛下と話をしていたのはアレスさんだったみたい。

「メロウは何か気になった点はあったか?」
「気になった点といいますか……、陛下――彼女は、本当にシャルロット王女様なのでしょうか?」
「どういうことだ?」
「いくら記憶が無いと言いましても、今のシャルロット様は、まったくの別人に見えます」
「ふむ――」

 国王陛下が、メロウさんの話を聞いたあと頷くと、声が聞こえなくなった。
 もしかしたら、私が立ち聞きしているのがバレた?
 そんなことは無いと思うけど、魔術なんて不思議なモノが存在する世界だから下手したら、私が聞いていたことも感づかれたかもしれない。

「具体的には、どういう風に?」
「私のことをメロウと呼び捨てではなく、メロウさんと語りかけてきました。あとは、言葉遣いですが、あまりにも大人びています」
「なるほど――。それでは、引き続き様子を見てくれ。何かあればすぐに報告するように――」

 国王陛下の命令に二人は、同時に「わかりました」と答えていた。
 そして、私は扉に背中をつけて震える両手で体を抱きしめる。

 たしかに、メロウさんの言うとおり、私の話し方は社会人として意識して会話していた。
 王族が、貴族が話すような言葉ではない。
 ――でも、生まれも育ちも一般家庭の私には、どういう風に対応していいのか分からない。

「それでも、やらないと――」

 きちんと演技をして怪しまれないように行動しないといけない。
 それが、今の私に与えられた役割なのだから。
 王妃様の子供として、求められる役割をきちんと果たさないと――。
 それがシャルロットの体に転生してしまった私の罪滅ぼしなのだから。 

 


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