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薬師シャルロット

なつめ猫

魔術師への第一歩(3)

 何度も、メロウさんが私に話かけてくる。
 心配しているのは伝わってくる……だけど……。
 ずっと寝たふりをしていると彼女は、何も言わずに部屋から出ていった。
 布団から、少しだけ顔を出す。
 部屋の中を見渡すと、部屋の中は綺麗に掃除されていたけど、テーブルの上にロールパンとチーズ、ガラス瓶に入れられた水が置かれていた。
 お布団から出て、テーブルに近づくとお腹が鳴った。

「少しだけなら……」

 小説や物語だと飲み物やスープ、金属製の器に毒を塗って毒殺するようなシーンはあるけどパンに毒が盛られるような場面は見たことがない。
 だから、きっと……たぶん大丈夫なはず。
 私は、お皿の上に置かれているロールパンを1個、手にとり指先で千切って口に入れた。

「あれ――?」

 思わず言葉が出てしまった。

「――味がしない?」

 まるで、粘土を噛んでいるみたいに何も味がしない。
 もう一度、千切って口に含んでみたけど、小麦で作られた小麦特有の味が一切しない。

「これって……まさか……」

 私は、自分の体に起きていることを何となくだけど察した。
 たぶん、これは……。
 おそらくだけど精神的外傷から来る味覚障害だと思う。。

 これだと、毒が入っていても判断がつかない。

「どうしよう。私は、どうしたらいいの?」

 今の私は、一人で自立するだけの力も経済力も無い。
 だから、正体を隠して生きていこうと思っていたのに。

 もしかしら、人を騙すという行為をしようとしたから……。
 考えすぎかもしれない。
 だけど、魔術というものが存在する世界なのだ。
 神様だっているかもしれない。
 でも、これは、あまりにも酷い仕打ちではないだろうか?

 

 メロウさんの「シャルロット様、おはようございます」という声で、私は目を覚ました。
 体を起こそうとすると、どこか体がだるい。

「シャルロット様、今日は中庭でお散歩などされませんか?」
「ごめんなさい。お部屋にいます」

 今日は、体がだるくて、あまり動きたくない。

 それに、よく小説や物語で庭を散策中に暗殺者などを使い殺させる手口があった。
 そう考えてしまうと……。

「そうですか」

 メロウさんは、小さく溜息をつくと通りドアの近くに椅子を置いて座ってしまった。
 もう、私のことなんて放っておいてほしいのに……。

「シャルロット様、今日は、クレイク国王陛下が来られるそうですよ?」

 メロウさんの言葉に、心臓が跳ね上がる。
 だって、私が攻撃魔術に適正が無いと分かった時に、落胆し苦悩した表情を見せてから一切、姿を現さなかった国王陛下が来られるから。

「メロウさん、お父さまはいつごろに来られるのですか?」
「恐らくは、ご公務が終わられてから来られるかと思います」

 公務ということは、国王としての仕事が終わってからという事になるはず。
 そうすると、お昼以降になりそう?

 いままで、魔術適正が判明するまで私に優しくしてくれていた国王陛下が部屋に尋ねてきた時間を考える。

「夕方くらいでしょうか?」
「どうでしょうか? 慌てていたようですので――」

 慌てていた?
 それって――。
 私が、毒入りの食事を取らないことに業を煮やしたから?
 それとも、もしかしたら先ほど散歩のことを聞いてきた時に、何とかしようとしていた?

 ――だめ。頭がぼやけて考えが、上手く纏まらない。
 嫌なイメージばかり、どんどん浮かんでくる。
 でも、もし私の考えが正しかったら――。

「一体、どうなさったのですか?」

 彼女は、部屋のクローゼットからタオルを取り出すと私の頬に当ててくる。
 そこで、ようやく私は自分が涙を零していることに気がつく。
 一体、どうして――。
 涙が止め処なく流れてくる。
 ただ、メロウさんに、こんな場面を見せたくない。
 国王陛下に何かを言われたら困るから。

「なんでもないです」
「何でも無くは無いから泣いていたのではないですか?」

 メロウさんが、しつこく私に聞いてくる。
 彼女に話せることなんて何もないのに、詳しく私のことを聞いてどうするのだろう?
 そんなに、私に関わって彼女は何を求めているのだろうか?

「メロウさんには関係ないです!」

 私はずっと溜め込んでいた苛立ちから、つい叫んでしまった。
 人には言えることと言えないことがあるというのに、どうしてそこまで聞いて来ようとするのか。
 よく分からないけど、感情が抑制できない。

「出すぎた真似をしてしまい申し訳ありません」

 メロウさんは、沈んだ声で私に語りかけてきた。
 だけど、彼女の声は演技にしか思えない。
 だって肉親であるはずの国王陛下すら会いに来なくなったのだから。
 だから、給金をもらって付き人をしている彼女を、私はどうしても信用できなくなっていた。

「もう、出ていって! お父さまにも来なくいいからって伝えて!」
 私は、ベッドから降りると追い出すかのようにメロウさんを部屋から押し出して扉を閉めた。
 そして扉に寄りかかかりながら考える。

 ――もう嫌だ。

 みんな、嫌い。
 みんな、大嫌い。
 嘘をついている自分も嫌い。
 いい人ぶった顔をして私に近づいてくるメロウも嫌い!
 やさしい顔をして心配するふりをしてくるアレスさんも嫌い!

 そして――。

 国王陛下が一番嫌い!
 優しくしたと思ったら魔術の適正が無いだけで、私を捨てた国王陛下が嫌い! 大嫌い! 話もしたくない! 顔も見たくない! みんな、みんな大嫌い!
 ――でも一番は、こんな世界に生まれてきた自分が一番嫌い……。
 だって、私が前世の記憶を取り戻さなかったら、本来のシャルロットは、いい人生を歩んでいたのかもしれないから――。
 もう死にたい――。

「……そうだよ」

 簡単なこと。
 そう、本当に簡単なこと。
 殺されるのが避けられないなら。

 私はテーブルに近づく。
 ナイフを手に取る。
 切れ味はあまり良さそうには見えないけど、それでも十分だと思う。

 殺されるのを待つくらいなら――。
 その恐怖と絶望に打ちのめされるくらいなら――。

 私は右手でナイフを持つ。
 そして刃先を自分の左手の動脈に当てる。
 頭がボーッとする。
 息苦しい。

 数度、私は咳き込む――。

「もう、いいや――」

 私は右手に持ったナイフを引く。
 それだけで、子供のやわらかい皮膚は綺麗に切れて血が滲んでくる。

 踝まで埋まるくらいの部屋に敷かれている白いカーペットの上に、左腕から流れ落ちる血が赤い色彩を作り出していく。
 そこで、私はふらつき近くの椅子に寄りかかるようにして倒れた。

 大きな音が部屋に響いた気がするけど、もういいよね――。
 誰かに殺されるくらいなら、自分で死んだほうがずっと楽だもの……。





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