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薬師シャルロット

なつめ猫

異世界転生(1)

 ――寒い。
 何故だか知らない。
 何故だか分からない。

 ……でも、体からゆっくりと熱が抜けていく感覚。
 そのわりには、体には一切、力が入らない……と、いうよりも何も感じない。
 でも、自分の体がゆっくりと冷えていくのだけは分かる。
 それが、決定的な何かが零れていく。
 そんな過程であったとしても――。

 わからない……。

 私は、一体――。

 ……どうして、こんな状況に……。

 今のような、感覚だけが果てしなく伸ばされた状況に立たされているのか考える。
 どうして、私は、体の感覚がなく、ただ漫然と時を浪費しているのかと言うことを。

 そして、思い出した。

 そう、私は――。

 最後に見た光景は。

 私に向かって、落下する鉄骨であったということを。
 おそらく、ビルを作っていた建材だったのかもしれない。

 信号無視をした車に轢かれそうになって、避けることはできた――できたけど、結局、鉄骨の下敷きになってしまったなんて……どれだけ不運なのか――。

 でも、ずっと死にたいと思っていたから、丁度良かったのかもしれない。
 それでも一つだけ心残りがあるとしたら――。

 それは……。
 お母さんのこと。
 一人で私を育ててくれたお母さんに何も恩返しすることができなかった。

 あと、心残りはホールショートケーキにホールモンブランケーキを食べてから死にたかった。
 それと、駅前の立ち食いそば屋で、全トッピングうどんを食べたかった。

 そういえば、聞いたことがあった。
 話によると、人は死に瀕すると思考速度が極端に上がるらしい。
 だんだんと息が苦しくなっていく。
 口の中に水が入って――って!?

「シャルロット様!」

 声が――。
 声が聞こえてくる。
 すると突然、腕を捕まれた。
 体が引っ張られ、気がつけば私は水を吐いていた。

「シャルロット様、大丈夫ですか?」

 私は、息を吸い込む。
 ただ、上手く息をすることが出来なくて何度も咳き込んだ。
 誰かが背中をさすりながら「大丈夫ですか?」と語りかけてくる。

「だ、大丈夫です」

 何がどうなったか分からない。
 たしか、私は鉄筋に押しつぶされたはず。
 それなのに、どうして水を飲んでいたのか……。
 意味がまったく分からない。

 とりあえず私は、背中をさすってくれている方へ、お礼の言おうと視線を向けたところで「えっ?」と、言う言葉が思わず出てしまった。

 そこには黒いワンピースの上に白いフリルのついたドレスを着て、頭にホワイトブリムをつけたメイドさんが立っていた。

 ハーフのような顔立ちをした女性は、金色の髪の毛を頭の上で纏め上げて背中に流していた。
 そして、さらに不思議に思ったこと。
 それは、女性がやたらと大きく見えたこと。

 私の身長は160センチくらいだけど、その私が子供に見えるくらい目の前の女性は大きい。
 さらに極め付けは、肌の色も透きとおるように白く、耳がまるで空想上の御伽噺に出てくるエルフのように尖っていて……長い?

 私は、そこで首を傾げた。
 たしか、私が事故にあった場所は、新宿だった。
 少なくとも新宿には、メイドの格好をするような人は朝からいないと思う。

「どうかなされたのですか? シャルロット様?」

 彼女が、語りかけてきた言葉が一瞬、分からなかった。
 私は首を傾げながら周囲を見渡す。

「ここって……ど、どこなの?」

 私は、呆然と呟く。
 だって、目に映った世界は今までいた高層ビルが乱立していた新宿でなく、そこに存在していたのは白い大理石で作られた建物であったから。

「大丈夫でございますか?」

 女性が心配そうな表情で私に語りかけてくるけど、今は、それどころじゃない。
 自分が、どこにいるのか?
 それが分からないと、恐くて仕方がない。

 さらには近くに噴水まであり、目算で直径20メートル、深さ2メートルはある池があり中央には美しい女性の彫刻が置かれている。
 女神像のような彫刻は抱えている水瓶から水を吐き出している。



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