竜の巫女と光剣使いの剣聖譚

ベル

第15話「立て!立ち上がれ!!」


「私の命の恩人を、友人を。よくもこんな目に合わせてくれましたね」

雷電が迸った瞬間、美しい響きの声音がアイルやハンチの耳を打った。
その声音の発声源の正体は、薄暗い洞窟の中で一層輝きを増す金髪金眼の少女ルナだった。
出会ったばかりではあったが、いつもニコニコとして、優しい笑顔を村の人々に見せていた顔のルナは今まさに鬼の形相。かなり興奮して、憤怒の感情を全身から漂わせていた。

「ルナ.....」

なぜ、彼女がここに。疑問がアイルの頭を飛びまわる。すると、

「アイル!!」

「テ、テト!?」

「あぁ、ボクさ。良かった、無事みたいだね」

ルナのインパクトな登場に遅れて、テトがひょっこりと姿を現し、アイルに駆け寄る。

「どうしてお前とルナがここに?それに、ルナには村に残っているようにお願いしただろ?」

「ごめんなさいアイル。でも、やっぱり私もこの村の子供たちを助けたい。そう思ったらもう体が動いて森に入っていたわ。アイルとテトの向かった北側を真っ直ぐに進んでみると、大きな洞窟の前でテトが1人で沢山のワーウルフと闘っていたものだから..」

「そうそう、ボクもちょっと体力の限界が近づいていてね。やばいなって時にルナが来てくれて、さっきみたいなラムズ・ボルトでぜーんぶコゲコゲにしてくれたよ!」

見るとテトの服は返り血を浴びすぎて真っ赤を通り越してドス黒くなっていて、獣臭かった。
それにもっとよく見てみると、噛み傷や切り傷が沢山あった。

「ごめんな、テト。お前を1人残してしまって」

「何を言うんだいアイル!ボクが提案したんだ。だから君が気に病むことはないさ!それよりも」

コロっと可愛い笑顔を消し、現在の状況を確認するべくテトは周りを見渡す。
そして奥にあった鉄の檻を発見し、駆け寄った。

「アリーちゃん!それに皆んな!大丈夫かい?」

「テ、テトラスさん。助けに来てくれたんですね。ありがとうございます!私は大丈夫ですけど、子供達が少し危ないかも知れないです」

「そうか、分かった。今すぐこの檻をぶっ壊すから、アリーちゃん達は檻の端に寄っていてくれるか—」

「あぁ、アァ、嗚呼!巫女よ!最美にして全能にして全知の、我らがアリア様と対等の立場の御方、”竜の巫女”よ!!」

黙り込んでいたハンチが急に大声をあげ、跪く。そしてルナに向けて土下座をし、額の皮が剥けんばかりに地面に額を擦り付けていた。

「御方を目の前に邂逅する事ができ、この私、【レジスタンス】獣使いのハンチ。誠に誠にまぁこぉとぉにぃぃぃ!!光栄至極でございます」

狂ったかのよう今度は額を地面に叩きつけるハンチ。額が割れて血が吹き出しながらもなお、ハンチは土下座を止めようとしない。

「何をしているのです、立ちなさい外道。私は貴方を退治しに来たのです」

「——退治?退治!あぁ、貴方のようなお方に退治されるとは、私は本当に素晴らしい運を持っているようだ」

ハンチはそう言いながら、再び仰け反り、頭を左右に振り、膝をガクガクさせた。そして勢いよく上体を起こし、前のめりになりながら血だらけの顔をルナに向け

「しかぁし、私のレジスタンスの任務は貴方の捕縛。そして連れ帰る事です。今貴方に殺されるのはとても嬉しい事ではありますが、それは後にお願いしてもよろしいでしょうかねぇえ?ヒェッヒェッヒェ!!!」

白目をむいて今までにない高笑いをあげたハンチは両手を広げて盛大に笑い声を洞窟内に響かせた。

「レジスタンス?何ですかそれは。それに竜の巫女とは?」

「ほへ?」

ハンチは癖のように長いもみあげをくるくるしながら、考え込んだ。そして何かを思いついたように、また狂い始めた。

「はっ!まさか、まさかまさか!貴殿は自分の存在がどのようなものであるのか、忘れてしまったのですか!??」

「自分の存在?何の話をしているのです!」

「本当に忘れてしまったようですね。しかし、私の仕事はあくまで貴方様の捕縛、そして連れ帰る事。その為に少々荒くなってしまいますが、お許しください....ヒュドラ!いつまで眠っているのですか!早くこちらへ戻って来なさい!!」

指笛を鳴らし、先ほどルナの雷属性魔法を受けたヒュドラはどうやら麻痺から回復したようで、ハンチの命令通りのしのしと戻ってきた。

「アイル。立てますか?」

「....すまねぇ、ルナ。お前も巻き込んじまって」

「いえ、気にしないでください。私は勝手に動いたのですから、責められるのは私の方です」

「でも、俺は。俺はあんなにカッコをつけてあんな事を言ったくせに、いざ大きな敵と戦ってみると、この様だ」

そう呟いて、アイルは俯く。
思い出した過去。無理矢理押し殺していた恐怖が心の底から湧き上がり、今のアイルの戦意を喪失させている。

誰かを失ってしまうのが本当に怖いのだ。
もうあんな悲惨な出来事で、大事にしてきたモノを人を失いたくない。
そうできるなら、なんだってやりたい。
だけと、体が拒む。恐怖している。

「.......」

黙り込むルナの顔も見ることもできず、俯き続けるアイル。
俺のことがルナには今どう見えているのか。
情けない男。頼りない男。格好悪い男。
そんな風に思われているのだろう。
あぁ、ほんと嫌になってくる。

「立ちなさい!アイル・アルガンド。貴方は何のために今ここにいるのですか!」

突然横からルナの説教が飛んできた。
当然、こんな俺を見てあたりの意気地なしさに呆れたのだろう。
それも仕方ない。

「アリーを助けに来たんだよ....」

「じゃあ立ちなさい!誰も失いたくないのでしょう?」

「でも、怖いんだ。あんなバケモノ、かなうはずがないんだよ」

「まだ、分からないじゃないですか」

「分かるんだよ!アイツは俺の母親と父親を。父ちゃんと母ちゃんを殺したんだ!俺の目の前で!」

「だったら貴方は愚か者だ!貴方は大好きな人を守る為に剣を振るうんじゃなかったのですか?」

言われた。女の子にそれを言われた。言わせてしまった。
そうだ。俺は今まで自分の大好きな人を、大切な人達を守る為に剣を振るった。
嘘はない。本当だ。だからこそ、あの銀髪の青年から腰にある”伝説の武器”を託された。
だけど、人間はそこまで強くはない。
怖いのは当たり前、誰だって死ぬのも失うのだって嫌だろう。

「貴方のその愚かさは、大事な人を守りたいと言いながら、こうして大事な妹が危険な目に遭っているというのに、ヘコタレて、自信をなくして、自己嫌悪に陥って!」

ルナは強く、強く語る。

「貴方は口だけなのですか?大切な人を失ってもいいのですか!?怖いのは当たり前です。私だって怖い。しかし、立ち向かわずしてどう助けると言うのですか!!」

「——ッ!!」

立ち向かわずに、どう助けるのか。
まさにその通りだ。
助けたい助けたい、失いたくない失いたくない。そう口にする事は簡単だ。
それを行動に移さなければ、事態は何も変わりはしない。それどころか、皆んなやられてしまう。

助けたいと本気で思うのなら....
立ち上がれ!!!

「ルナ...」

「はい」

「ごめん」

「また謝るのですか」

顔を上げるとルナは頰をぷくーっと膨らませて怒っていた。

「いいや、違うな。ありがとう、ルナ。おかげで目が覚めたよ」

「それならよかったです!」

ニコッといつものようにアイルに笑いかけ手を差し伸ばすルナ。
その手を取り、立ち上がったアイルはルナにお願いをした。

「頼みがある、ルナ。俺に協力してくれ」

「もちろんですっ!!」

そういって再び眩しい笑顔を見せた少女。
あとでお礼を言わなければならないな。

「まさに、御涙頂戴デスね!ヒェヒェ!」

今までのやり取りを全部見ていたハンチが手を叩き、笑いを堪えながら言った。

「もう、よろしいのですか?」

「あぁ、いいぜ。今から俺は、お前とそのバケモノをぶっ飛ばす!」

「ほぉほぉ、やれるものならやってみなさい!!」

「ルナ、前衛は俺がやる。後方から魔法のでの支援を頼む!俺はあのバケモノの首を落とす!」

「分かった!」

「それとテト。放置していて悪かったな」

「ホントだよ!まったく。シャキッとしなさい!このバカアイル!」

「も、もう立ち直ったから!!テト、頼みがある。アリーと子供達を連れて村に戻れ。怪我人がいたら怪我をヒールで治してやってくれ」

「うん分かった。絶対、タノン村に帰って来てよ?ルナと一緒に」

「あぁ、約束する」

「よし、分かった。じゃあアリーちゃん!今助けるからね!」

テトは鉄の檻の柵を両手で2本掴み、2本の柵を広げ、子供が通れるくらいの幅を作った。
そして子供達は檻から出て来て、テトと共に洞窟の出口へ向かった。

「.......ばかおにぃ...」

最後に兄を侮辱する愛する妹の発言が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにしようと思う。

「さぁ、いくぞルナ。サポート頼んだ!」

「うん!2人でやっつけちゃお!!」

アイルは再び剣を握り、未だ口に炎を含んだヒュドラに向かって走り出す。

そして、このハンチとの戦いに起こった奇跡の出来事を、誰も予想する事はできなかった。

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