竜の巫女と光剣使いの剣聖譚

ベル

第1章【タノン村での邂逅と目覚め】 第1話「始まりの予兆」Part 1

目を開くと広がる空は澄んだ蒼で、白に近い灰色の雲は自由気ままに空の海を泳いでいる。
太陽は容赦なく光を差すが、泳ぐ雲に覆われる。と思ったら、雲の隙間から陽が差し込んで、俺は目を細めた。

「いけね、寝すぎたか」

腹筋で脚を持ち上げ、振り下ろす勢いで上体を起こし立ち上がったアイルは、森の中にある開けた草原に仰向けになって寝ていた。
キリッとした蒼い目。紅蓮に猛る炎の如く赤い髪にアホ毛を一本チョコンと垂らしている。あれから長い年月を経て18歳になったアイルは体躯も筋肉もガッチリとした剣士の体つきに成長し、その容姿も男らしく、逞しく成長した。
森の中で何をしていたかというと、ずばり、修行だ!
アイルは毎日森に潜っては何年も使っている片手剣で「魔物」を狩り続けていたのだ。

魔物。この世界にいる人間の害敵で、人を襲う事でチカラを蓄え、繁殖する、人以外の魔力を持った生き物である。

「そろそろ帰るか....。粗方片付いただろ。3日も潜ったら、アリーに怒られるからな」

アイルはこうして毎日森に潜り、「修行」と称した魔物狩りをしている。これは10歳の頃から続いている。初めは、1匹倒すのがやっとだったが、今では魔物の群れに遭遇しても戦えるようになっていた。
しかし、いくら戦えるようになっても、このような行為を一人で何年もやってると流石に危険は伴う。
が、それでもアイルは躊躇わない。全てはあの炎の夜に誓った約束を果たすため。それが、今までのアイルを突き動かす衝動だった。
暫く草木が生い茂る森を歩いていると1つの小さい村が見えてきた。実際、村というほど大きくはなく、集落のような場所だ。
ここ、タノン村はアルガム王国のずっと南東にある小さな村で国の警備も行き届かない貧しい村だ。そして、ここがアイルの故郷であり、悲劇が起こった村だ。

「おにぃ!やっと帰って来た!」

「ん?アリーか。ただいま!」

アリー・アルガンド。俺の妹であり、11年前の悲劇の夜『タノンの炎』の生き残りの一人。現在15歳の元気な子で、笑顔を絶やさない女の子。大きなクリッとしたサファイアの瞳に、小さく尖った八重歯は小悪魔っぽさを強調していて、艶のある赤の髪を首元まで伸ばしている。容姿端麗とはこの事か!と思ったりするが、残念な事に胸はそれほど育っていないのだ。

(この様子じゃ、怒ってはいなかったようdっ!!?)

ドスッ!と、いきなり正拳突きをされた。
見事に腹に直撃し鳩尾みぞおちをくらった。ジャストミートだ。やっぱり妹は怒っているようだ...。

「兄の帰還早々に溝打ちはないぜぇ...妹よ。それに5日じゃない!そう、3日dっ!?」

今度は顎に昇竜拳をくらった。クリティカルヒットだ。そのまま俺は地面に背を叩きつけた。ダメージが加算されていく。

「何馬鹿言ってるの?ううん、馬鹿のおにぃに馬鹿って言うのは間違いだわ。アホなの?3日じゃないわよ、5日よ、いーつーか!どんだけ長く潜ってるのよ...。これまでの記録で3位よ」

「アリーさん?たしかに俺は頭悪いけど、馬鹿もアホも結局は同じなんじゃ?...グフッ!」

腹に正拳突きから顎に昇竜拳。そして今度はまた、腹にトドメの踵落とし。俺のHPゲージは赤ゲージまでグッと下がった。そんな気分だ。もしかして俺の妹は、俺より強いのでは?

「同じじゃないわよ、て言うか今はそんな話してないでしょ?反省してないの?してないならもう1発くらわすわよ?」

「ごめんなさいごめんなさい!反省してます、次から気をつけますから〜」

正直妹に怒られるのは慣れっこだが、まさか5日も潜っていたなんて。我ながら自分の頭の悪さには毎回驚かされる。
因みに、今まで潜った日数の第1位は9日である。帰るとアリーと村の人達はとても心配してくれたようで、泣いて心配してくれたのだ。だから、これからはあまり長く潜らないようにしようとしていたのだが、まさか5日もか...

「これこれアリー、兄ちゃんをあんまり苛めてやるな。」

枯れた声はアリーの後ろからだった。
アイル兄弟は声を聞くとすぐ声の主が誰なのかわかった。
長い白髭を生やしており、身長は150ちよっとだが、ものすごい猫背だからか、髭の長さは地面に付くほどある。目を長すぎる眉で覆い隠し、どこを見ているかよくわからないが、大きな鼻と口だけは見える、不思議な老人だが、彼はタノン村の長にして、村1番の物知り。フォクス長老だった。

「だって爺じ!おにぃがまた5日も森に潜ったんだよ?怒ってやる以外他にないわ!」

「ほぉ、5日か。これで何回目かの。じゃがアリー、アイルのおかげで村に魔物の被害が無いのもまた事実。少しくらいは許してやりなさい」

「爺ちゃん......」

「じゃがアイル。やはりお前さんは懲りないのぉ。そんなお主には...」

ニヤリ。と、怪しげに笑ったフォクス。何か思いついたようだ。それをアイルは察してか、

「え?嘘だろ...?爺ちゃん、あれだけは勘弁してくれ!頼む、ギャァァァァァァ!!!!!」


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