邪神使徒転生のススメ

黒イライ

29.ミレイア・ネーデ

 夕飯を食べ終わり夜になった。今はシェイとミレイアは一緒にテントで寝ている。俺は夜の見張り当番だ。
 この世界では魔獣が出るのは《迷宮ミゴン》だけではないらしい。

 大昔、まだ魔法による結界が構築されていなかった頃、《迷宮》から魔獣が溢れ出し、溢れ出た魔獣達は外の世界で独自の生態系を成していた。
 他にも、退屈を持て余した吸血鬼ヴァンピールが生み出した、等という説もあるらしい。
 そのため魔獣の警戒のため俺は見張りをしている。今はミレイアを追っているエルフも来るかもしれないし。
 ただ────

 「………暇だ」

 そう、暇なのだ。危機察知のスキルを常時発動しているため気を張っている必要がないから何もすることがない。この世界は工業の方は魔法を用いて多少発展しているようだが娯楽の方はほとんど無い。強いて言うなら本はあるのだが少し値段が高い。



 暇を持て余して世界平和とは何かを考えてたらテントから誰かが出てきた。

「……ん?ミレイアか、どうしたんだ?」

 テントから出てきたのはシェイの寝巻きを着ていたミレイアだった。寝巻きはシンプルな花柄のデザインの水色のワンピース型でミレイアの銀髪と相まって芸術作品と見紛う程の美しさだ。

 「あ、あの。少し、お話をしたいなぁ、と思いまして…ご迷惑でしたか?」

 「いーや、全然だ。というか暇過ぎて死にそうだったから丁度良かった」

 話し相手が出来るのは素直に嬉しい。ミレイアも不安もあるだろうから話して気が紛れればいいんだけどな。

 「それで?話って何?」

 「えっと、さっきシェイさんともお話させてもらったのでマヤさんともお話が出来れば、と思いまして…。…………もっと私のことも知ってもらいたいですし……」

 言葉の最後の方は声が小さくてよく聞こえなかったがどうやら話がしたいらしい。

 「そっか、じゃあ何について話すかな。何か俺に聞きたいこととかあるか?」

 「それじゃあ…マヤさんとシェイさんってどうやって知り合ったんですか?」

 「シェイがスキルで俺の《仕事ラボロ》を見て声を掛けてきたんだよ」

 「最初に声を掛けたのシェイさんだったんですね。意外です…。シェイさん、出来るだけ人と関わらないようにしてたって言ってましたし」

 うーん、そうだったのか。全然知らなかったな。

 「…それだけ、マヤさんが纏う雰囲気がシェイさんにとって安心出来るものだった、ということでしょうか」

 ミレイアがこちらを覗き込むようにしてからかう様な笑みを浮かべていた。うーむ、何だか照れる。

 「……さあな、それはシェイに聞かないと分からないだろ」

 「ふふっ、そうですね。今度聞いてみましょうか?」

 「…別に聞かなくていいよ、何か恥ずかしいし」

 「そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思いますよ?」

 「いや、大分恥ずかしいから」

 「では私が聞くだけにしておきます。マヤさんには言いませんから」

 んんん?それは…どうなんだろうか。俺が知らない間にシェイが俺をどう思ってる気持ちだけがミレイアに伝わる…。それはそれで何か恥ずかしい。

 「あーもう分かったよ。今度聞くよ。何かミレイアだけが知ってるってのはもっと恥ずかしい様な気がするしな」

 「分かりましたっ。明日シェイさんに聞きましょうねっ!」

 何だかうまくやり込まれた気がする…。意外にミレイアってやり手か?

 「はいはい、分かったよ。それより、話の続きはしないのか?」

 「あ、そうですね。マヤさんとシェイさんは出会ったのはいつ頃だったんですか?」

 「んーと、確か一週間半前ぐらい…だったかな」

 「ええっ!まだ知り合ってからそれだけしか経ってなかったんですか!?お二人共とても仲が良さそうに見えたのでもっと長いお付き合いかと思ってました…」

 「そうだなぁ。俺も一週間少しの付き合いとは思えない程には仲が良いつもりだな」

 異世界に来てからまともに話した初めての人だしな。

 「………私も、そんな風になれるといいなぁ………」

 「ん?何か言ったか?」

 「あっ、いえ!何でも無いです!何でも無いんですっ!」

 また何言ってるか聞き取れなかった…。まあミレイアも何も言わないから重要なことではないのだろう。

 「あの…そういえば、シェイさんはステータスボードを持ってるって言ってましたけど本当ですか?」

 「ああ、本当だよ。今は俺の収納カードに入ってるよ」

 「もし良かったらでいいのですが少し貸して頂けませんか……?」

 「ん、別にいいぞ。まあシェイならオッケーすると思うし」

 「………?おっけー?」

 おお、この反応懐かしい。

 「ああ、オッケーっていうのは了解とかそういう意味の言葉だ」

 「…なるほど…。おっけー……。今度使ってみます」

 別に使わなくてもいいんだよ?

 「まあとりあえずそれは置いといて。ほい、これ。どうぞ」

 シェイのステータスボードを収納カードから取り出しミレイアに渡した。

 「ありがとうございます。私、ステータスボード使うの初めてなんです」

 「え、そうなのか?今まで無かったのか?」

 「はい、今まで使う機会も無かったですし。私、自分の《仕事》も知らないですよ?」

 えぇ……そんなことって有り得るのか?いや、でもミレイアの境遇を考えれば当たり前か。生まれた時から里から離れた場所で暮らしててステータスボードなんて買える金無かったらしいからな。

 「これ、どうやって使うんですか?」

 「この版の上に手を乗せて魔力を流せば体内の魔力の流れからステータスが表示されるんだよ」

 俺もついこの間知ったんですけどね。

 「こう…ですか?」

 ミレイアが戸惑いながらも魔力を流した。するとボードから文字が浮かび上がってきた。
 どれどれ………。


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 ミレイア・ネーデ
 《仕事》/ 聖女 / Lv.42
 力 562
 物理耐久 695
 敏捷 839
 魔力 4578
 魔力耐久 741

 《スペキアーリススキル》
 回復強化 Lv.3
 超回復 Lv.2
 癒術空間キュアーエスパース Lv.1
 再生リジェネレイション Lv.1



 ふむ。この感じから見ると回復型ってところか。にしても魔力だけは高いのか。他のと比べて違い過ぎる。魔力だけ見ると俺と同じぐらいか。
 ………本当に邪神使徒とそれ以外は全然ステータスが違うんだな。ミレイアの《仕事》の聖女ってのがどんぐらいすごいやつかは知らんが俺がLv.17の時に今のミレイアと魔力を張り合えているからな。


 「へー…ステータスってこんな風になってるんですね。私の《仕事》は…聖女…ですか。」

 「スキルの詳細とか知りたかったら分かるけどどうする?」

 「出来れば見たいです。もしかしたらお二人のお役に立てるかもしれないので。」

 ミレイアのスキルの詳細をタッチして調べてみる。



 回復強化

 回復魔法を用いる際に回復量増加。


 超回復

 魔力を用いず瞬時に回復する。精神を摩耗する。


 癒術空間キュアーエスパース

 一定範囲内の指定した目標に癒術をもたらす。


 再生リジェネレイション

 欠損した部位の再生。副作用あり。


 回復に全振りだな。しかし…この再生リジェネレイションってやつはすごいな。欠損ってことは仮に腕が千切れたりしても治せるのか。まあ副作用はあるらしいけど。この副作用ってのは再生した部位の具合にも拠るのかもしれない。

 「わ、私のスキル…お役に立てますか…?」

 「ああ、すごいな、このスキル。俺達は邪神使徒だから聖属性の癒術は使えないらしいから居てくれると助かるよ」

 「ほ、本当ですか!?私お二人のお役に立てるんですねっ!」

 さっきは少しからかうような感じだったのに今はその姿は鳴りを潜めていて可愛らしい小動物、といった印象がある。
 うーん、可愛い。何だか子犬がぶんぶん尻尾を振っているような感じだ。愛らしい。癒される…。聖女ってミレイアにとって天職だな…。

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