邪神使徒転生のススメ

黒イライ

26.エルフ

 「王都までどうやって行くんだ?馬車か歩きだよな?」

 「…一応この間言った八日は徒歩計算でしてたから馬車だと大分早くなるけど…私はどっちでもいいよ」

 うーん、馬車で行ってもいいけど色んな町を見てみたい気がするからなぁ。馬車だと通り過ぎるかもしれないからなぁ。

 「うーん、《金龍祭》まであと何日あるっけ?」

 「…あと二週間はあるよ」

 「じゃあ歩きにするかな。道中も色んな町とか見てみたいし」

 「…分かった。じゃあテントとか買わないと。マヤは持ってないんでしょ?」

 「もちろん。」

 もちろん野営道具など何も持ってはいない。まあ一応一週間ちゃんと魔法石は取ってたからある程度金はある。



 商店街でテントやその他諸々野営に必要な物を購入しシェイと一緒にレイゼルの街を出て東へ向かって歩き出した。
 この国は王都のラグゼナーダを中心に東に行く程女神教の教徒が増え、西へ向かう程邪神教の教徒が増えているということらしい。
 王都ラグゼナーダは完璧に中立な場所という立ち位置らしい。
 

 「今日はどの辺りまで行く予定なんだ?」

 「…今日はとりあえず日が沈むまで歩いてみてレイゼルから出て二つ目の村に着けるぐらいかな。もし着けなかったら野営だね。」

 「ん、分かった。」




 シェイと歩き始めて五時間。大体80km程進んだ所で少し休憩する事にした。
 地球にいた頃は一時間歩くと大体5kmぐらいしか進めなかったけどこっちに来て体力も上がったっぽいな。いや、身体能力とかが全体的に上がったのか。


 「…………ん?」

 「…どうしたの、マヤ?」

 「いや…何かあそこに人が倒れてないか?」

 俺が指を指した先には大きな岩があり、(恐らく)右手が少しだけ見えていた。

 「…確かに……いるね。」

 「あれは…助けた方がいいよな?」

 「…まあそうだね。でも念の為注意して近付こう。」

 「分かった。」

 シェイに言われた通り注意しながら近付いていく。無いとは思うけどいきなり襲われたりしたらたまったもんじゃない。

 そっと近付くとそこには綺麗な女性が横たわっていた。

 「…これは、森林種エルフだね。」

 確かに言われてみれば俺が知ってるエルフの特徴に似通った部分がある。白い肌に長い耳、金髪では無かったが艶やかな銀色の髪をしていた。年は俺とシェイと同じか少し上といったところか。

 「…見たところ気を失ってるだけみたいだよ。」

 俺が初めて見たエルフに見とれている間にシェイは彼女の身体を調べていた。

 「とりあえずさっき休憩してた場所まで戻って寝かせてあげよう。」

 「…そうだね。今日はちょっと早くなったけどここで野営しよう。この子を抱えて次の村までは無理だからね。」

 今は大体一つ目の村と二つ目の村の中間ぐらいの位置で日の沈み具合からすると十七時ぐらいだろう。
 本来ならもう少し歩いたところで野営にする予定ではあったが仕方が無い。倒れている人を放っていくのは後味が悪い。



 「あの子、何であそこに倒れてたんだろうな。」

 「…どうだろう。テントの中で少し服を脱がせて身体を確認してみたんだけど傷が大分付いてるみたいだった。血は出ていなかったし命に別状は無いとは思うけど…誰かに襲われた、って考えるのが妥当かな…。」

 「ということは、この子を狙ってる奴がいるかもしれないってことか…。」

 「…そうだね、その可能性はあると思うよ。」

 まあとりあえずこの子が目が覚めるのを待つしかないよな今は。



 俺はとりあえず自分のテントを設営しておく。シェイのテントはもう設営を終えて今はエルフの子が使っている。
 あんまり今はする事もないからシェイに少しエルフについて聞いてみた。

 「エルフってこの辺に住んでたりするのか?」

 「…いや、ここの近くにエルフの集落は無かったはず。」

 「じゃあこの子は旅をしてるってことか。」

 「…それかエルフの集落から追放されたか、だね。」

 「何でわざわざ追放なんかしたりするんだ?」

 「…追放される理由…ね。…マヤはエルフと会ったことはある?」

 急に話が逸れたな。まあいいけど。

 「いや、会ったことはないな。」

 というかエルフってこの世界に居たんだなって思った。

 「…マヤのことだから多分エルフの習性とか特徴も知らないよね?」

 何だその言い方は。酷いぞ。事実だから口では言えないけども。

 「まあ知らないな。」

 「…エルフは昔から高貴というか、自尊心が高い種族で他種族とあまり関わろうとはしてなかったの。まあ稀に好奇心旺盛なのもいたりするんだけどね。」

 うーん、まあ確かに自尊心…プライドが高いのはイメージあるよなあ。

 「…そして、これが重要なんだけど…エルフの髪の色は古来からみんな金か緑に近しいものなの。それ以外の髪色の者は他のエルフ達から蔑まれてきてたらしい。」

 ………酷い話だ。髪色一つで何だってんだ。そんなくっだらない理由で蔑んだりするなんて可笑しな話だ。

 「…しかも…この子の髪色は綺麗な銀髪。多分…大分辛い人生を送ってたんじゃないかな。」

 「何でそんなことが分かるんだ?」

 「…この話は人間の間ではあまり広まってないんだけど、鬼族オーガの集落にいた時聞いたことがあるの。エルフの中では銀髪は憎悪の対象だって。昔、エルフの里の一つが人間に滅ぼされたの。しかもエルフ達が為す術も無く。エルフと人間が真正面から戦えば余程の人数差がない限りはエルフが勝つはずなの。エルフの方が魔力も高いし戦闘に慣れている。なのにすぐに何も出来ずに滅ぼされた。何でだと思う?」

 「……スパイ…いや、内通者がいたんだな。」

 「…正解。その内通者はエルフの指揮系統を混乱させる為に指揮官を暗殺し、族長も殺していた。戸惑うエルフ達に人間が圧倒的な戦力で攻め込み一気に里は落とされた。そしてその裏切ったエルフっていうのが…」

 「銀髪のエルフ…ってことか。」

 シェイが軽く頷き首肯する。

 「だとしても、いけ好かない話だ。確かにそのエルフは酷い事をした。許されることじゃないからな。でも他のエルフは違うよな。ただ銀髪で産まれてきただけで蔑まれる、なんて馬鹿馬鹿しい。」

 「…私もそうは思うよ。でも私達が動いたところで状況は絶対に変わらないだろうからね。まあ運悪く銀髪のエルフで産まれてきた子は、エルフの里では受け入れてはもらえないだろうけど人間の世界では別に忌み嫌われてるわけでもないからね。こっちに逃げ込めば大丈夫だとは思う。」

 確かにそれが唯一の救いだよな。まだ逃げれる場所があるんだからな。


 「…………………うぅぁ……………ここ、は?」

 どうやらエルフの女性が起きたみたいだ。とりあえず、事情聞いてみるか。

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