俺の妹が知らぬ間にネットでグラドルやってたんですけど

青キング

第6話夜のレッスンはほどほどに

突然部屋の外で大きい音がする。眠りから意識が薄らいでいき多少の不快を感じ俺は目が覚めてしまい、布団を捲って上体を起こした。
サイドテーブルの置き時計を見ると、時間は二時とすっかり夜は更けている。
「いたいわ、つまずいちゃった」
こんな深夜に何をしているのかはさておき、大きな音は母が転んだ音だったようだ。
「お母さん、なんで何もない廊下でつまずくの」
妹の声だ。母娘は秘密裏に何か事を行おうとしているのか? 廊下の電気がこうこうと点けられているところを見ても偶然で同時に起き出したとは考えにくい。
「兄さんや父さんが起きちゃったら、この事がばれる」
「ごめんねりつな、大きな音を立てないようにしないといけないんだったわね。気を付けるわ。さあさレッスンレッスン」
「はいはい」
「はい、は一回よ。二回言ったら赤ちゃんの四つん這いでの歩き方になっちゃうわ」
赤ちゃんの四つん這い? はいが二回? はい、はい……ああ、はいはいか。
他愛もない母と娘の会話に気にかけることはなく、俺は再び布団を被った。


次の日の夜、またも深夜に部屋の外が騒がしく目を覚ましてしまった。時間も同じく二時。
リビングの方から手拍子が聞こえてくる。
はっきりとはしないが話し声もし耳をそばだてて詳しく聞き取ろうとしてみる。
「はいっ、はいっ、はいっ」
母が一定の調子で手を叩いている。
「一体このレッスン、何が得られるわけ?」
不平じみた口調の妹の声まで届いてきた。
レッスン? そういえば昨日母が口にしてたな。手拍子なんかして何のレッスンだ?
さすがに気がかりだ。
俺はドアに近より耳を押し当てて、聞き耳を立てた。
「柔軟性の向上よ」
柔軟体操でもしているのか。それに手拍子が必要なのだろうか?
「確かに体をひねるのは多いけど、わざわざ向上させなくても今のままで充分だよ」
「甘いわ! スタイルをキープするのには柔軟性が肝なの! これを怠ればすぐにお腹周りがに肉がついちゃうのよ!」
やけに燃えてるな母さん。スタイルをキープとか肉がつくとか言ってるから、二人はダイエットでもしてるんだろう。でも何故深夜に?
俺が疑問を感じた時、手拍子が止んだ。
「おつかれ、これでまた一人前に近づいたわね」
「そうかなぁ?」
「不安になることなんてないわ、私の良遺伝子を受け継いでるんだもの。そして何よりもやる気と自信よ」
「わかった」
「じゃ、これで今日のレッスンはお仕舞い」
母と寝室へと、妹は自分の部屋へとそれぞれ戻っていった。
なんでダイエットをレッスンって言うんだ? 捕手のことを女房と言うのと一緒か?


そしてまた次の日の深夜、リビングで母と妹の話し声がしていた。
昨夜同様、ドアに耳を押し当てて聞き耳を立てる。
「今日もレッスンを始めるわ、りつな」
「お願いします」
母親に対して下手なんだな。
「ちょっと頼んでいい?」
「何?」
「スリーサイズ測らせて、りつな」
ええっ!
「ええっ」
妹が驚きを声に漏らし戸惑っている。母親とはいえ簡単に測らせはしないだろうな。
「これが最後のレッスンよ、プロフィールでのスリーサイズは一番スタイルに自信のある時期のを正式プロフィールにするものなの」
「うん……」
「大丈夫、不安になることなんてないわ。私の見立てでは非の打ち所のない完璧ボディよ」
__これってもしかしてグラビアのレッスンか、なんで母が妹に指導を?
「お願い測らせて、りつな」
その折、寝室から出てきたのだろう父がぶぶつひとりごちながら廊下を歩いてきた。
「なみ、ここにいるのか?」
父が母を呼んだ直後、リビングの会話がぴたりと止んだ。
「なんだ、りつなも居たのか。こんな時間に二人で何をやってるんだ?」
「あら、あらら、あららら、まことさん。どど、どうしたんですか?」
これは珍しい、いつも落ち着いている母が激しく動転しているらしい。
「はぐらかすなよ、なみ。りつなとここで何をしていたんだ?」
あくまで優しく父は母を尋問する。
「酷いです、まことさん。私とりつなが母娘の愛情を確かめ合っている最中に入ってくるなんて……」
「御託はいい、正直に話してくれ」
「うう、わかりましたよまことさん。りつなにグラビアのテクニックを教えてたんです」
「りつなに? またどうして?」
ついに父さんも知ってしまったか。
「どうしてなんだ、りつな?」
父は訳を聞くため、次はりつなに水を向ける。
「ええと、ネットでグラビアやっててお母さんがグラビアのテクニックを色々教えてくれるって言ったから、誘いにのっちゃった」
「そうか、わけは理解した。よく話してくれたな、りつな。ありがとう」
「ごめんなさい、まことさん。今まで黙っていて」
「それよりりつな、お父さんもレッスン手伝おうか?」
「ううん、いらない」
その言葉の後、すぐに父はとぼどほした足取りで寝室に引き返した。よほど拒まれたのが辛かったみたいだ。











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