妹を助けようとしたら死にそうなんだが
凍てつく洞窟
先程のような流れを三回ほど繰り返した辺りで、俺たちはひらけた場所に出た。
「ここは、」
「ここが写真の場所付近ですね部長」
「そのようだな」
じゃあ、この近くに里香がいるって事か?!
「っ! 後輩たち静かに!」
「どうしたんすか先輩?」
「何か来る!」
目をこらすと奥の方に人影があった。いや人影という風に表現しているがその時俺は既に確信していた。
「里香!」
俺は人影に向かって走り出す。
段々はっきり見えるようになってきた。歳は16歳くらいの女の子。腕には人形のような物を抱えているが、間違いない里香だ。
俺は里香に近づき触れようとした、
「--いけ」
「え?」
「出て行け!」
「危ない!」
後ろから俺の腕に強烈な蹴りが入る。
俺はそのまま慣性にしたがって横に吹っ飛んだ。起き上がって見ると、俺がいた場所に氷の柱が出来上がっていた。
「大丈夫か四宮後輩! 蹴りはすまんが、迂闊な行動は控えてくれ!」
あんたには言われたくねぇ、と言おうとしたが言葉が出ない。
「あれは本当に君の妹なのか? 兄としてあれを許してはいけないだろう」
「分かりません。けど見た目は里香のまんまなんです」
「里香…四宮後輩の妹の名前か」
里香と思われる何かはこちらに向かって来る。
「出て行け、出て行け」
「なるほど、ここの宝の番人と言うわけか。四宮後輩は木更津後輩と一緒に下がっていろ」
先輩が構える。
「ここは私が引き受けよう」
ただ言いたいだけだろ。それ。
だけど俺がここにいても役に立たないのは事実だ。
「頼みましたよ、先輩」
「おう、頼まれたぞ、後輩」
俺は優羽の所まで走った。
「さぁ、やろうか四宮妹」
篠崎紫乃の体が白く輝きだした。これが身体強化の魔法だ。
地面を蹴り、一瞬で『何か』に肉薄する。しかしすんでのところで躱される。よく見ると『何か』は少し浮いていた。
そのあとも氷壁でガードされたり、躱されたりと、なかなか攻撃が当たらない。
(宙浮きながら、氷壁造るってのは相当魔力消費するはずだが)
ここで篠崎紫乃はある違和感を覚えていた。
それは、模擬戦などで相手をしている者との何かが違う感覚。
(体を守っていない?)
そう人間は反射により危機が迫ると体をかばってしまう。玄人は経験でそれを克服する者もいるようだが、
(だけどそんな感じはしないんだが……よし)
再び篠崎紫乃が『何か』に蹴りを入れる。しかし氷壁でガードされる、がフリーの手を使い火の魔法を打ち出した……『何か』が持っている人形に向けて!
「!!!!」
虚を突かれた何か驚愕の表情を浮かべ、なんと体で人形をかばった。
「やっぱりか。本体はそっちかい?」
すると、なんと人形が動き出した。
「なるほど。怪しいとは思ったが、まさかお前がこの『迷宮』の宝か」
「よく見破ったのう、お嬢さん。わしがこの『迷宮』の『コレクション』じゃよ」
「コレクション?」
「なんじゃ、知らんのか。まぁ良いわい」
人形がふわりと浮かび上がり言い放った。
「お前さんはここで死ぬんじゃからな」
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人形が浮かび上がってから先輩が押され始めた。
相手がパワーアップしたのもあるが、地面が氷壁や氷柱だらけで先輩の身体強化による俊敏さが発揮できていない。
何か打つ手は、
ここであることを思いつく
「なぁ-----」
「なっ、確かに出来るかもしれませんが危険過ぎます!」
出来るのか、それだけ確認できれば十分!
俺は氷壁などを利用しながらばれないように二人に近づく。
そして先輩がいる氷壁の後ろ側につけることに成功した。
「先輩! 聞こえますか?」
「っ! その声は四宮後輩か? 下がっていろといっただろう!」
「作戦があります。今から3秒数えます。そのあとあいつに隙ができるはずなんで、そこを先輩がお願いします」
先輩は少し黙ったが、
「わかった。無茶はするなよ」
「ありがとうございます。」
こちらに『何か』が接近してくる。
「いきます。3、2、1」
『何か』は手を振り上げ俺達の隠れている氷壁を破壊しようとした。
「ここだ!」
そう言って俺は『何か』にスマホのライトを向けた。
そう忘れていたが俺たちは今暗視の魔法をつかっているのだ。
ならば当然『何か』も暗視の魔法を使っているはず、そこにいきなりライトなんてものを向けられたらどうなるか。
「っ!」
きっと太陽光を直視したときより激しい光が視覚を襲うだろう。
『何か』が苦しそうに目を覆い、勢いよく氷壁に激突した。
「先輩!」
「まかせろ! はぁぁぁぁ!!」
先輩の渾身のパンチがクリーンヒットした!
そのまま『何か』は人形を巻き込みながら壁に激突した。
「優羽! 人形を拘束してくれ!」
「了解!」
こうしてなんとか俺たちは勝利を収めた。
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