転生したようなので妹のために奮闘することにしました

紗砂

強欲は囚われているらしい

マモン・ジスベクトールと名乗った白に紫の混じったような髪で、赤紫の瞳の男は憂い顔で私に訴えかけてきた。


「私の契約者を……彼を救ってください。
彼は私の力に呑まれてしまったっ!!
そのせいで彼は……っ!
……私の契約者は…ル…。
あの子を……お願……ます」


私に託し、彼は消えてしまった。
……そして残された私は座って考え始めた。
マモンが言った名前。
途中のルしか聞き取れ無かったが、彼と言っていた事から男だと分かる。
そして、呑まれたといえどマモンの契約者。
1回戦は残っているはず。
今までで終わったのは…AからCまで。
始まる前に暴走させるとは思えない事から既に試合は終了している。
その地区の勝者で中間にルが付くのは……私と同じA地区のガルアただ1人。


「……ルーシャ…」

「リオ、私を戻して」

「……無理は、しないで……。
また、向こうで…ルーシャ」


リオの悲しげに震えた声をあとに、私は目覚めた。


「んっ……」

「ルー!
起きたんですのね!」

「お姉ちゃん!!」

「ルーナ!」

「身体は大丈夫なのか!?」


皆に心配をかけてしまったようだ。
……申し訳無いことをした。
私は笑顔で大丈夫だと言うと安心したようにため息をついた。

もう、暫くは安全だろうという事で私は結界をとくと外へ出た。
外は、私が想像していたよりも酷く荒れていた。
すると、アンリがこちらに掛けてきた。


「…ルーシャ様!!
ご無事の様で何よりです。
ここは危険ですので今すぐ避難を……」

「……そうですね…」


確かに何があるか分からないので一応、避難をすることにした。
…勿論、後で抜け出すが。


「ルーシャ様、お怪我はなされていませんか?」

「問題ありません。
ご心配をおかけしてしまった様で申し訳ございません」

「いえ、ルーシャ様がご無事であればそれでいいのです」


アンリに連れられてきた避難所は王族専用の所であった。
私とエリーは慣れたもので普通に入る。
リマも戸惑いはしたものの私達が平然と入ったためか付いてきた。
だが、お母さんとお父さんだけは入る気配が無かった。


「お父さん、お母さん?」

「…ルーナ、エリー、ここでお別れだ。
また後で会おう」

「……ごめんなさいね、ルーナ、エリー。
私達は入れないの…。
だから……」

「構わぬ。
ルシャーナとエリアスは義理の娘。
その実の両親というのであれば問題はあるまい。
それに…どうでも良い事で迷っていてはいかんからな」


国王から許しが出たため私は両親とアンリを中に押し入れる。
そして、そのまま出られないように結界を貼った。


「ルー!?」
「お姉ちゃん!?」
「ルーナ!?」
「何をしているの!?」
「ルーシャ様!?」
「ルシャーナ!」
「ルーシャ様、何故!?」


リマ、エリー、お父さん、お母さん、ケヴィン、国王、アンリの順で私の名を呼ぶ。
その声は酷く驚いているようだった。
それは当然だ。
なぜならこの扉は中からは開かない。
そしてここにいるのは私を含めて8人。
1人は必ず残る必要がある。

…最初はアンリがその役を努めようとしていた様だった。
それを私が邪魔した形となったのだ。
アンリを押し入れ私だけが外にいるということは、私が犠牲になると伝えているようなものだから。
私は、誰も犠牲にしたくはなかった。
それに、どうせ後で出なければいけないのだ。
ならばいつ外に出てようと関係ないのだから。


「ルー!
早く、早く開けなさい!!」

「……リマ、リマは、さ……。
私の事、信じてくれる?」


そう、私は尋ねた。
すると、当然と言うようにリマは頷いた。

そんなリマの反応を見て確信した。
リマはきっと今まで通りに接してくれる。
リマが私を信じてくれるなら私もちゃんと信じよう。
そして、リマの親友と胸を張って言えるようになりたい。


「ルー……?」

「リマ、私ね、ずっと隠してた。
私の称号はね、『巫女』。
それに、私は七つの大罪の1つ、憤怒の悪魔と契約してる。
だから、大丈夫。
私は必ず戻るから…」

「……何故、今…なんですの…。
私だって…!!」

「お姉ちゃん!!
私も、私も行く!」


そんな2人を見ていると自然と決意が固まった。
皆を助けるためにも全力を尽くそうと。
そんな中、ケヴィンだけが静かに私を見つめていた。
ケヴィンはゆっくりと私に向けて膝をついた。


「……ルーシャ様。
…いえ、お嬢様。
私は、あなたの剣であり、盾であると昔に誓いました。
私は1度、あなたを裏切った。
ですが、もう、あなたを裏切らない。
ですから、お嬢様の従者であったケヴィンとして、もう一度お嬢様を守らせてください。
もし、許してくださるというのであれば……。
私は、今度こそお嬢様をお守りする剣となり、盾となりましょう」


それは……あの頃の、前世にした約束のやり直し。
私にとってあの約束は何よりも大切で、私とケヴィンを繋ぐたった1つのものだった。
そして、その約束がない今、私とケヴィンを繋ぐものはない。
ケヴィンはその約束をもう一度と言った。
私はケヴィンが差し出す手を、とった。


「……これが最後だと思いなさい。
ケヴィン。
それと…今の私はルーシャ・カルナヴァルではありません。
ただのルシャーナです。
……ですからあの約束はもう不要。
私達を繋ぐものはルーシャとケヴィンのした約束の形とその結果。
これ以上は、分かるでしょう?」

「はっ!
お嬢様…よろしいのですね?」

「えぇ、存分にやりなさい」


私達はニヤリと笑い、扉を閉めた。
前世でのケヴィンの能力は『知識を統べる者』。
この無属性魔法は今てまは使い手がいなく、ケヴィンだけとなっている。
そして何より、この能力は全てを知る事が出来る。
だからこそ、サポートとしては一番いい。
その意味が伝わったからこそ、私は扉をしめ、薄く、魔力の通り道を作った。
これでケヴィンの声は風で伝わるはずだ。
彼の能力は映し出すことも出来る。
だからこそ、あそこにスクリーンとなるものを発動させたのだから。


「ケルヴィン……どういうことだ?」

「…私とお嬢様は前世の記憶を持っているというだけです。
……その前世の力もどうやら使えるらしいので……。

『知識の主たる私の意思に従え』」


ケヴィンがそう唱えるだけで壁にはルシャーナの姿が映し出される。
それを見ながらも他の情報へと目を向け、自らの主に報告をする。


「お嬢様、ステージへと向かって下さい!」



ケヴィンのそんな声を聞きながら私は風を操り加速しつつステージへと足をむける。


「……こわ、ス……。
ジャマ、するモノ…スベテ……ケ、ス

『壊せ』」

「早速!?

『私は破壊を否定する!』」


これは、前世での私の無属性魔法。
『否定と肯定』だ。
魔力消費は多いがその分、強力な魔法だ。
その証拠にあの破壊の塊のような魔法が消え去った。


「ジャ、マ……許さ、ナイ!

『消え、ろ…。
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!』」


「『世界がどんなに願おうと私はそれを否定する』」


私は再び彼の放った魔法を打ち消した。
これで2回目。
のこり3回ま使えば私の魔力は底を突く。


『お嬢様、私があなたの盾の変わりとなります。
ですから……』


その後は聞かなくても分かる。
…私に彼の闇を浄化しろと言っているのだ。
その時間を稼いでくれると。
ならば私は、私を信じてくれるあなたをもう一度信じよう。


「『私の心を委ねます。

あなたの光は冷たく凍り
あなたの闇は鋭く  切り裂く刃となった。

私の光は暖かく穏やかで
私の闇は光を冷たく包み込む。

私の暖かな光の中で
あなたの鋭く光る闇を照らしましょう。
あなたの凍った心を溶かしましょう。

私の光は全ての闇を優しく包み込む
たった1つの希望の光

希望はまだ失われず
絶望の中であなたを待ち続ける

その扉の先に待つものは
暖かな日差しのように穏やかで優しい未来へと続く希望の道

私の願いはただ1つ

全ての冷たく凍る心を暖かな光で溶かすこと

全てはあなたの望む
たった1つの願いと共に

私は飛び立とう
例え冷たく光る闇だとしても
そこにあなたがいるのなら

どんな絶望が襲いかかろうと
希望の光はいつも
あなたの傍にある

さぁ、手をとって
共に優しく包む希望の光へと飛び立つために

さぁ、目覚めなさい

私の進むは赤き鮮血で血塗られた茨の道

あなたの進むは未来へと繋がる希望の道なのだから

私はあなたのために奏でよう
全ての闇を照らす暖かな光の音色を』」


長い長い詠唱が終了する頃には彼は気を失い倒れていた。
…けれどもう、彼を覆っていた闇はなく、穏やかに眠りについている。

そんな彼を最後に、私は気を失った。
その直前、


『ありがとう』


と、強欲の悪魔であるマモンの声が聞こえた気がした。

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