転生したようなので妹のために奮闘することにしました

紗砂

無事に目覚めたらしい



「ルーシャ様!!
大丈夫ですか!?」

「私よりも心配する方がいるでしょう?」


「う……カリー、ナ?
あな、た?」


無事目覚めたようだ。

失敗していないようで良かった。


「あ…あ……お、お母様!!」

「ラシャーヌ!!」


……ラシャーヌというのはこの人の名前だろうか?
まぁ、家族の無事を祝っている時に無粋な事は出来ないな。
静かに外で待っているとしよう。


「ルーシャ様、ありがとうございます…!!
母を救っていただき本当に……」

「…救ったのはアマテスです。
私の力ではありません」


アマテスの力が無ければ私はこの人を救えなかった。
私はまだ実力が足りない。
これでは巫女を名乗る資格はない。


「ルーシャ様が居なければ母は助かりませんでした…。
ですから、あらためてお礼を言わせてください。
ありがとうございます、ルーシャ様」

「…カリーナ、その方が私を助けてくださった方……?」

「はい」


無理に起きようとするのは辞めてほしい。
……まだ体力が戻っていないはずだ。
そこら辺をちゃんと考えてほしい。


「無理はしないでください…。
まだ体力が戻っていないはずです。

申し遅れました。
私は、ルシャーナと申します。
教会での治療を主にしております」


巫女という事は告げずに自己紹介をする。
……が、すぐに余計な一言を口にした奴がいた。


「巫女様、ラシャーヌを救っていただき本当にありがとうございます…!!」

「巫女……巫女様…!?
失礼しました。
私はラシャーヌ・ハリスと申します。
巫女様に救っていただいたなど……」


……だから嫌だったんだけどな。


「私はまだ巫女を名乗るには実力不足です。
ですから、私の事はただのルシャーナとして扱ってください」

「実力不足などではありません!
ルーシャ様は学園の試験でも首席だったじゃないですか!」


…うん?
私、カリーナに言った覚えがないのだけど。
……うわぁ、怖い。
何で知ってるんだろう?


「カリーナ、あなたは今幸せ?」

「はい!
勿論です、お母様。
私はルーシャ様にお仕えする事が出来て本当に幸せです!」


ラシャーヌはそう、と嬉しそうに微笑んだ。
その笑みを見ているとラシャーヌを救えたという実感が湧いてくる。
それに、ラシャーヌがカリーナを愛しているという事までもが伝わってくる。


「…巫女様、私を救っていただき本当にありがとうございます。
カリーナをよろしくお願いします」

「私は私に出来る事をしたまでです。
それに…私は伯爵に交渉しにきただけですから」


私は素っ気なく答えるがラシャーヌは意味深に笑みを浮かべた。


「あなた、また後で話しましょう」

「…あぁ。
ラシャーヌ、すまない…」


…勘違いされている気もするが、いいとしよう。

その伯爵の表情を見て何かを悟ったのかラシャーヌは少し眉を潜めたが伯爵がそれに気付いた様子は無く私達は部屋を出て伯爵の執務室へと向かう。
執務室に入ると紅茶が出された。
先日の事もあり少しだけ警戒するが毒は入っていなかったようだ。


「…巫女様、申し訳ございませんでした。
巫女様の身を害そうとしたこと、申し開き出来るとは思ってはいませぬ!
ですから、どうか、どうかカリーナとラシャーヌだけは…家族には温情を頂きたい!!」


……私、そこまで酷い奴に見えるかなぁ?
というか、まずカリーナと来た時点でおかしいと思おうよ。


「私は交渉と言ったのですよ?」


これ、交渉って言わないよね?
私がここに来た意味の1つでもあるんだから勘違いはしないで欲しい。
それに、ここで伯爵を捕まえても他の人に変えるだけでしょ?
なら、無駄にしかならないよね。


「家族の命以外でしたら何でも差し出します!
ですから、ですから……」


……悪化してない?
気のせい……じゃ、ないよね。


「…はぁ……。
私が知りたいのは1つだけです。
貴方に私を殺すように命じた人物です。
私は別にあなたがたを捕らえるつもりはありません。
あなたがたの命か、それともあなたの後ろにいる人物か……。
どちらを選びますか?
そうでした。
ラシャーヌさんにかけられていた呪いですが……中級とはいえあのように根深い呪いなど…ラシャーヌさんにかなり会う人物しかいません。
さて…それは一体何方なのでしょうね?」


私は脅しつつも責めるように口にする。
出来るだけ自分を責めるようにと仕向けたのだ。
だが、何故か伯爵はフッと微笑んだ。
その微笑みは悲しげでもあった。


「巫女様はお優しい……。
…私がラシャーヌを危険な目に合わせたのですね……。
…私に取引を持ちかけてきたのはギルスティン家です」


ギルスティン……あぁ、あの馬鹿貴族か。
アマテスとエリーを侮辱した方の馬鹿だな。
……リオが魔法を使ったと思うのだけど……?


『魔法の反応はあるから解けてはないよ。
多分、ルーシャが消えれば魔法が解けるとでも思ってるんじゃないかな?』

「……分かりました。
伯爵、教えてくださりありがとうございます。
それと、ラシャーヌさんの事は心配しなくとも大丈夫です。
強いて言うならラシャーヌさんに付いてあげてください」


私は懐から水晶を2つ程取り出してテーブルに置いた。


「これは……?」

「これは、私の元へ繋がる転移水晶です。
1つはカリーナに、もう1つは何かあった時に使用してください。
使うときは範囲の指定をするようにしてください。
カリーナにはまた、私の元で働きたいと言った場合にのみ渡すようにしてください。
では、私はそろそろ戻らせていただきます」


カリーナはちゃんと自分で決めるべきだ。
私が助けたなんて関係なく自分の意思で選ばなければならない。
カリーナが居なくなるのは少しだけ寂しい気もするが私にはリオもいるしエリーもいる。
偶にしか会うこともないがアマテスもいる。
だから、カリーナが家族と暮らしたいというのなら私はカリーナの意思を尊重しよう。


「さて…折角の時間ですし魔法の研究でもしましょうか」


私はこの頃行っていなかった魔法研究室へと向かうことにした。
王宮の一角にある魔法専門の研究所で時々だが私も手伝いをする事があった。
……殆どは自分の研究だが。


「こんにちは」

「おぅ!
ルーナ、来たか!!」

「ルーナちゃん、こっち手伝ってくれぇ!!」

「おい、ずるいぞ!
ルーナちゃんはこっちの研究を手伝うんだよ!!」

「ルーナさん、あんな奴らなど放っておいて私と共にやりませんか?」

「「「お前は引っ込んでろ!この女たらしが!!」」」


相変わらず五月蝿い研究所だ。
……そんないつも通りの楽しそうな様子がなんだかんだ言っても私は好きだ。


「ったく……お前等もルーナを困らせんな。
ルーナ、今日はどうする?
自分の研究を進めるか?
それともアイツらの研究を手伝ってくか?」


自分の研究もやりたいがあんなに私に手伝って欲しいみたいだったからな。
手伝う事にしよう。


「お手伝いさせてください」

「おぅ!」

「ルーナちゃん、俺の手伝いを!」
「ルーナちゃん勿論こっちだよな!?」
「ルーナさん、向こうで私との愛を……」
「ルーナちゃん、さぁこっちに……」


……怖っ!?
というか、1人!
おかしい奴いない!?
私は苦笑しつつも周りを見渡す。


「……とりあえず片付けませんか?」


……研究所は既にゴミ屋敷の一歩手前の状態になっていた。

それから1時間たち、ようやく片付いた頃もう既に私の巫女としての勉強が始まる数分前となっていた。
残念だが仕方ない。
また今度来れる時間があればいいが。


「そろそろ行かないといけないで…失礼しますね。
あ…そうでした。
私、学園に入学することになったのであまり来れないかもしれません…」


学園に入学するとその分、ここに来れる時間も減るんだよなぁ。


「えぇぇぇ!?
ルーナちゃんが学園!?」

「所長!!
俺、学園の1年のみ講師を希望します!」

「あっ!
ずりぃぞ!?
所長、俺も希望します!」

「私が!!」

「俺がやります!」


皆が騒いでいる中、所長はひくひくと頬を引き攣らせていた。
……あ、不味いわこれ。
そう思ったその時だった。
黙って研究に向き合っていた人がスっと手をあげた。


「……生物学、特別講師……」


その人はあまり喋る事がなく眠そうな表情をしている事が多かった。
そのためこの話に入ってくるとは思わなかった。


「んぁ?
ヤグラなら問題ねぇな……。
分かった。
希望が通るようにしてやる」

「……(ぺこり)」


彼は所長をみて一礼するとすぐに作業へと戻っていった。
だが、後ろ姿からは喜びが感じられた。


「所長、俺は魔法学の特別講師で!!」

「いや、私が!!」

「俺にやらせてください!!」


……再び元の状況へと戻ってしまった。
…何故だろうか?
そんなに講師っていいのかな?


「タナトス、お前に任せる」

「うぉっしゃぁぁぁぁ!!」

「死ねぇぇぇぇぁぁぁ!!
タナトスを湖に落とすぞ!」

「あぁ!
足は石で固めよう!」

「協力します!」


……本当、変なところで団結力あるよね。

私は呆れたまま研究所をあとにし、勉強へと取り組んだ。


……その後、タナトスが湖で気絶した状態で見つかり他のメンバーは所長にかなり怒られたらしい。
当たり前だとは思うが。

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