それでも俺は君が好き!

日向葵

1話 恋に落ちるまでのカウントダウン!

「なあなあ、今日、転校生が来るんだってよ!」
学校でそんな噂があっという間に広がった。
「へー、転校生?男?女?」
興味なさげに俺は友達の篠原裕貴に言う。
「女らしいぜ!可愛い子だったら良いなー!」
転校生に興味津々の裕貴と違って、俺は正直言って男でも女でもどっちでも良かった。だが裕貴の話にのってやることにした。
「女子かー。もしかしてアイドル並みだったり?」
「だったら最高だよな〜!」
と、ゲラゲラ俺たちは笑いながら妄想を繰り広げていた。
そんな俺らを冷たい視線がシャーペンの芯のように突き刺さる。地味に痛い…。
そんなこんなして妄想話が風船のごとく膨らんでいく中、パチンと割れるようにチャイムが鳴った。
「はいはい、さっさと席につけ!今日は紹介したい新たな仲間がいるからなー!」
担任の四ノ宮先生が言った瞬間、ざわつきはさらに増した。
四ノ宮先生が手を叩き静かにするよう伝えた。やや静まり返る教室になったところで、四ノ宮先生が「じゃあ、紹介しよう。どうぞ、マツノさん」と促した。
担任の言葉に誘導されマツノは教室へと入ってきた。
最初の印象は…長い。
黒髪は腰くらいまであって、スカートも膝が隠れるくらい長かった。
緊張してるのか顔が強張っていた。自信なさげに下を向く。
「松野紗英さんだ。松野さん、簡単でいいので自己紹介お願いできる?」
黒板に“松野紗英”と書くなり先生は松野に伝えるが彼女は首を振るだけだった。
「そうか。じゃあ名前と何処から来たかお願いします。」
(簡単で良いんだから、名前言ってよろしくで良いんじゃね?)と内心俺は思った。
「ま、松野…紗英…です。えーっと、その…あのー…」
 声が小さく見てられないほど彼女はみるみる赤面していった。
周りもざわつき、余計に言えない状況に追い詰められていた。
(おい、おい、大丈夫なのかよ。コイツ…)
俺は居ても立っても居られなくなりつい、
「言えないんだったら、よろしくお願いしますで良いんじゃねーの?」と言ってしまった。
女子たちの地味に痛い視線は俺へと向けられた。
「せっかく言おうと頑張ってるのに、何その言い方!酷くない?」
「こういう時優しくないよねー!男子って!」
「は?別にそんなの関係なくね?」
「男女差別すんな!」
男女の口論はさらに増し、松野の自己紹介どころではなくなった。
「静かにしなさい!」
その言葉に我に帰る俺たちだった。
松野と言えば俺たちを見て青ざめついには先生の後ろに隠れてしまった。
「恥ずかしくないのか!松野は登校初日でどんな学校なのか不安の中来たんだぞ!なのに、更に不安にさせてどうするんだ?!」
ごもっともである。
先生の言葉に俺たちは何も言い出せなかった。
「わ、悪かったよ…ごめん。」
「いや、うちらも…。ごめん。」
男女お互い謝り平和を取り戻した俺たちのクラスに松野はやっと安堵の表情を浮かべた。
そして彼女は自ら自己紹介をし始めた。
「ちょっと緊張しててなかなか言葉が出なくてごめんなさい。はじめまして、松野紗英です。横浜から来ました。よろしくお願いします。」
パチパチと複数の拍手が教室に響き渡った。
「じゃあ、席は…矢中、お前の隣空いてるよな?じゃ、松野さんその席で!」
四ノ宮先生が指差すその席とは…なんと俺の隣だった!
そう、矢中は俺、矢中康太である。
俺の隣に来て彼女は「さっきはありがと」と微笑を浮かべて伝えて来た。
だから俺は「べ、別に…」と素っ気なく返事した。




「矢中〜。良かったじゃん!」
俺の席に来るやそんなことを言って来るのは裕貴だった。
「何が?」
「またまた〜。とぼけちゃって〜。隣の〜。」
「あー、松野?」
「お!いきなり呼び捨てですか!?」
「はいはい、言いたいことは大体分かった。」
つまり、こうだろ?
『隣が転校生で良かったな。』
「別に。」と俺はそれとなく隣を見た。松野は登校初日で大人気になった。
女子がこんなに群がってるのを見るのは初めてだった。
「ここじゃーなんだし、場所、変えようぜ!」
「うん。いいよ。」
裕貴に誘われ俺は廊下へと移動した。
「松野さん、可愛いじゃん!告っちゃえば?」
「は?何で登校初日で告白させられたら流石にキモいだろ?」
「でも、康太!これはチャンスだぜ!」
「何、突然…。てか何のチャンスだよ?!」
俺が聞くと裕貴は俺の肩に手を当ててこう言った。
「彼女を作るチャーンス!」
「はぁ?」
俺はその言葉に呆れ果てた。
(だから、何で俺が転校して来たばかりの人を好きになったり告ったりするんだよ!?)
俺が呆れ果ててることについては完全無視になっている裕貴。
「裕貴、お前が好きになればいいじゃん。」
はぁーと大袈裟にため息をつく裕貴は俺に「お前じゃなきゃダメなんだよ!」と強く言い放つ。
(だから、何で?)
「恋はタイミングが大事なんだぞ!このナイスタイミングを逃して青春はどこにある?なあ?」
「いや、俺別に青春なんて…」
したくないと断ろうとした時、バコッと俺の背中を叩く裕貴。そしてなぜかニヤついていた。
(いてーよ、地味に。何で俺が…まぁ良いや。どうせノリってやつだろ?)
俺は裕貴に降参したポーズをとり、「で?どうすんの?」と裕貴の指示をあおった。
「あのな、お前が…」
ああ、その先の言葉はなんとなくわかった。
『好きですって告白してこいよ』だろ?




だが、どうやって松野を呼び出すか。
そっと手紙でも…いや、そんな勇気ないし…
適当に誘って…いや、怪しまれるな…
うーんと俺は頭を抱えて悩んでいた。
そんな時だった。
「頭、痛いの?」と隣の席から声がした。
「いや、考え事してて…って!」
その声の主は俺が今頭を捻るくらい悩んでどう告白しようか考えていた本人そのものだった。
「?考え事?」彼女の頭の上には?マークが並んでいた。
「えーっと、ほら!あれだよ!弁当何入ってんのかなーって!あはは。腹減ったな〜!」
誤魔化してどうすんだよ!と心の中でツッコミを入れつつ平常心を装った。
「ふーん。でも、今、授業中だよ!」とニコっと笑う。
「だよなー!」と言いつつ心の中では誰のせいでこうなったと思ってんだよ!とイライラしていた。
(あーあ、何で隣なんだよ…せめて後ろの席とかだったら…)と俺は思うのだった。



チャイムが鳴り下校の時間となった。
下校前に掃除があり、皆んな掃除道具を出して掃除し始めた。
どこに何があるのか分からない松野に女子たちが親切に教えていた。
(何だよ、朝とは大違いだぜ。はぁー。それにしてもどうしよう…松野に何て声かけたら。さっきみたいに向こうから声かけてくれたら…)と思った時だった。
「あの…矢中…君?」
「はぁい…い!」返事した相手が松野でびっくりしたがまた平常心を装った。
「何だよ…」
「朝は本当にありがとう!緊張してて頭の中真っ白だったんだー。」
「あー、そう。」
「矢中君が言ってくれたお陰で落ち着いたんだ!まぁ、その後口論になった時はびっくりしたけど…」
「まぁ、別に…。あのさ。」
このタイミングで言うしかなかった。
「今日、これから暇?」
「え?うん、まぁ。」
「じゃあさ、一緒に帰らねー?」
「え?いや、真紀ちゃん…磯田さんと待ち合わせしてるから…ごめん。」
磯田め!と思ったが、俺はあっさり諦めて下がるわけにはいかない。
「じゃあ、ちょっと話があるから掃除終わったら、教室にいてくれない?すぐ終わるから。」
「うん、いいよ。」
「ん。じゃあそう言うことで」
「うん。」
何の疑いもなく了承してくれた松野には申し訳ないが言わなくてならない。
偽りの告白を。




午後4時を回ったとこだろうか。
ついにこの時がきた。
松野に偽りの嘘の告白をする時が。どうせ、フラれてなーんてなって言うつもりだった。
でもまさかこんな展開になるとは俺は想定外だったんだ。

松野は約束通り教室に残ってくれていた。
俺は内心ホッとした。
怪しいから帰ったっておかしくない。
だが、何の疑いもなく俺を待ってくれた松野。
「わりーな、松野。」
松野は俺を見てはニコっと笑顔になり、俺もニコっと笑顔を作って見せた。
「あー!今笑った?」
「うるせー。笑ってねーよ。」
「嘘だ。笑ってたよ。」クスクスと俺を見て笑う彼女。
まぁ、いい。こんな感じでスタートするか。
「で、話って何?」
「うん、あー。いきなりで申し訳ないんだけど…」
これから言う俺の言葉に松野は口元を緩めて笑顔が消えてった。
「…えーっと、いきなり過ぎてちょっと考えられない。ごめんなさい!」と俺に言って走り去って行った。
残された俺はそりゃそうだよなと思った。




「言ったよ、好きだって。」
俺は裕貴に偽りの告白をしたことを報告した。
「お!どうだった?めでたくフラれたか?」
からかう裕貴に俺は横に首を振った。
「え?まさか…マジで⁈」
その答えにも俺は否定した。
「じゃあどうなったんだ?」
「さあ?」
「さあ?って…お前なー!」
「知るかよ〜。突然過ぎて考えられないんだってさ。」
「それって脈あんの無いの?」
「俺に聞かれても…」
「あー!もう何で白黒はっきりしないんだよ!」
「ノーコメントで。」
「もう一回告ってこいよ!」
え?何その発想。
「考え中なんだからそれでいいじゃん。」
「甘ーい!お前は女を見下してるな!」
「どっちがだよ…」
俺はもうどっちでも良かった。だが、裕貴はそれを許そうとせず再度の告白をしろと言うのだ。
(何で俺が…)
「明日まで待ってそれでも何にも発展しなかったらまた言えばいいんだろう?」
「お!その気だな!いけ!康太!」
あんたが行けよと言いたかったが、まぁ良いやどうせノリだしと心の中で言い訳をした。




翌日。
俺はいつも通り登校して教室へと向かった。また俺の隣は昨日に引き続き、祭り状態になっていた。女子たちが松野の席を囲み群がっている。その中には男子まで…。
俺からすれば松野のどこがいいのかサッパリだった。
席が隣の俺に気づいた松野は慌てた様子で挨拶した。
そこまで気にしなくてもと俺は内心思いつつ、空気を読まずに昨日の返事を聞き出そうとするが、そこへ待ったの声。
裕貴だ。
「どうしたんだよ?」
「どうしたんだよじゃない!」
「はい?」
「まずは松野を誘えー!」
「何でいちいち誘うんだよ!」
俺たちがコソコソしているのを気にしている松野に勘づき、裕貴は俺を廊下へと連れ出した。
「まだ言うな。タイミングってのがあるって言っただろう!」
「ああ。そうだったな。」
俺からすればもうカミングアウトしちゃってもいいんだけど…嘘でしたと。
「今日の放課後が勝負だ!いけ!」
何度も思う…何で俺が…
松野をチラッと見るとやや頬が赤くなっている気がした。
(風邪引いたのか?まさかな。)
勘違いも甚だしい俺とは違って松野は俺への告白に迷っていた。




「あのさ!」
びっくりした。また松野から声をかけられた。
「何?」
「き、昨日の返事!したいから…時間ある?」
「放課後なら。」
「わ、わかった。じゃあ放課後。また教室で。」
俺から誘おうと思ってたら、逆に本人から来るとは。
何だよ、トントン拍子で進んでいく。
特に何の苦労もしてなくて楽ちんじゃん!と思っていた楽観的に考えていた俺に雷が落ちるとはこの時は何度も言うが想定外でした!

俺は今日も誰もいない教室にいた。ガラガラとドアが開く。松野は「お待たせ」と言い、俺の隣の自分の席へ向かった。
そして、俺に向き直りこう言った。
「昨日はすごく驚いた。転校してきたばかりで誰が誰だか分かんないし、矢中君のことも私やっぱ分かんなくて…。だから、ごめんなさい。」
俺は予想通りの展開になっていると思った。これで、「うん、そっか。」と言って諦めて帰ろうと思ったが俺は腑に落ちないところがあった。
(なんで俺…フラれてんだろう。てかなんだよ、それ。
分かんないからごめんなさいって分かれば俺のこと好きになってくれるってわけ?)
俺の思いとは裏腹に俺の何かが弾けた。だから俺は予想通りだった展開を無理やり曲げてみた。
いや、曲げなきゃいけないと思ったし、たった一回の告白で「はいそうですか」と立ち去ってたまるかと強く思った。
だから、松野には悪いが俺の答えは…
「嫌だ。」
「え?でも、私…」
「それでも!それでも俺は君が好きなんだ!」
再度告白した後の張り詰めた教室に俺は居た堪れなかった。俺は悔しくて泣きそうで、そんな自分が情けなくて何か言いかけた松野を置いて教室を出た。
教室を出て俺は気がつけばもう家の前だった。
「ただいま」と言うが誰も返事がない。
俺は静寂に満ちた家の中へ入り、自分の部屋と進んだ。
部屋に着くと俺は何故か泣いていた。
(何で?偽りの告白だったのに…。)
それでも、告白して断られたことが思いのほか辛かった。
別になんとも思わないはずだったのに…

このころから俺が恋に落ちるカウントダウンは、涙とともに始まっていたのかもしれない…!

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