落ちこぼれの復讐者

紗砂

生活

「ユーリの部屋、用意させないとだな……」

「…あぁ、その事ならば心配いらんぞ。
私がお前の部屋で寝ればよいからな」

「……ユーリがそれでいいならいいか。
食事は……用意させるよ」


まぁ、悪魔には食事なんて要らないんだろうけど。
ユーリは何だかんだ言って結構食事は好きなようだし。


「これより先は…」

「ユーリは僕の契約者だから覚えておいて」

「「……はっ」」


この門番もか。
はぁ……兄妹のせいだ。
あの2人は僕の事をとことん嫌って色々と噂を作ってるからな。
それが伝わったのか、それとも僕が『王族の恥さらし』と言われているからか。
どちらかだな。
……気にする事はないか。


「…ユーリ、行く…って…何してるの…」

「あぁ、気にするな。
少し殺るだけだ」


ニュアンスが違う気がするんだが気の所為だろうか?
……いや、きっと気の所為じゃない。
この目は本気の目だ。


「ユーリ、ストップ。
揉め事は駄目」

「……揉めるつもりは無い。
ただ、遊ぶだけだ」

「じゃあそれも駄目。
ユーリ、僕は気にしてないから」


ここでユーリの好きにさせたら僕の復讐を果たすのが遅くなってしまうかもしれない。
僕は出来るだけ早く復讐を果たしたいのだ。


「………承知した。
…おい、貴様等次は無いと思…………」

「ユーリ。
2人とも、悪いね。
それと、いつもお疲れ様。
ユーリ、行くよ」


はぁ……これからは今までよりも大変そうだ。
やっていけるかな、僕。


「……いいのか?」

「いいよ。
僕の目的はただ1つだから。
その他の事は興味ない」

「……ほぅ?
そうは見えないがな。
私は言った筈だぞ?
お前の中には光と闇がある、とな」


あぁ、そういえばそんな事を言われた気もするな。
闇は分かるが、光はなんだろうか?
ふむ、分からない。


「……僕には光なんて無いよ」

「……まぁいい。
そういう事にしておいてやろう」


はぁ……分からない。
あ、忘れるところだった。
僕は厨房へと足を向けた。


「…すいません、今日から僕のところに運ぶ食事はもう1人分増やしてください。
お願いします」

「あぁん?
……『落ちこぼれ』王子か?」

「まぁ、そう言われていますね。
余り…いえ、全く気にしていませんけれど」


母上は僕の事を落ちこぼれじゃないと言った。
僕はそれだけでいい。
母上がそう言ってくれたから。
他の奴らなど気にはしない。


「あ、食事の件、お願い出来ますか?」

「…あぁ、いいぜ。
だが、今日は陛下から王子の分も食事を用意してっぞ。
そっちに用意しておくぜ」


あぁ、面倒臭い。


「…露骨に嫌そうな顔すんじゃねぇよ……」

「え?
顔に出てましたか?
この3年でポーカーフェイスを学んだつもりだったんだけどな……」


この3年間でやれることはやってきたのだ。
ポーカーフェイスは必要だと思ったため、ちゃんと練習しておいたし。


「……10歳とは思えねぇな…」

「そうですか?
……周りには大人くらいしかいなかったからでしょうか?」

「大人すら少なかったろうに…」


それは、まぁそうだけどさ。


「静かで良かったですよ?」

「…普通は寂しいとかって思うもんだけどな」


そうなのか。
ふむ、勉強になるな。
寂しい、寂しいか。
そんなふうに考えた事は無かったな。


「あ、僕、これからやりたい事があるので行きますね。
食事、お願いします!」


やばい。
時間を忘れてた。
騎士達の訓練に混じろうと思ってたんだ。
時間、間に合うかな?


「僕はこれから訓練に参加したいからユーリは僕の部屋いってて。
僕の部屋はこの先の突き当たりだから!
じゃあ!」

「承知した」


僕はちゃんとユーリが返事をしたのを確認してから急いで訓練へと向かう。
……ギリギリでなんとか到着した僕はいつもと同じように後ろに並ぶ。


「マシェリ、今日は随分遅いじゃねぇか。
どうしたんだよ、まさか彼女か?
彼女でもいんのか!?」


………カーティス五月蝿い。
そんなのいない事なんて分かっているだろうに。
嫌味か、嫌味だな!


「…そんな人はいませんよ。
女癖が悪く大人気無い巫山戯たチャラ近衛さん」

「長っ!?
って……誰が女癖が悪い、大人気無い、巫山戯た馬鹿な騎士だって?」


うん?
僕、馬鹿は言ってないよ?


「馬鹿、は言ってません。
記憶力まで残念なようですね。
僕は馬鹿な騎士ではなくチャラ近衛と言ったんです」


あ、今更だけど近衛って知ってる事言っちゃった。
しかも今考えるとこのやり取り売り言葉に買い言葉じゃん。


「あ、俺、お前の専属になったから」

「そうです……うん?
え、僕の専属って!」


何故!?
あぁ、でもカーティスならいいか。

そう考えてしまった自分に少し嫌気がさす。


「ったく、ガキがそんな顔すんなっての。
それと、陛下が今日は祝いだってよ。
お前も正装で参加だかんな?」


マジか。
嘘だろう?
僕はそんなの無理だって。
教育だってろくに受けてないんだ。
そのうえ……


「……僕、正装持ってない……。
1回もパーティーに出席した事ないし……。
この先も必要ないって思ってたし………」

「はぁ!?
おい、嘘だろ!?
急ぐぞ!!」


僕はカーティスに襟を捕まれ引きずられていった。
悲しいかな。
僕は何も抵抗出来なかった。


「……うん?
思っていたよりも速かったではな………貴様、すぐにその手を離せ。
離さぬというのであれば……殺すぞ」

「わぁぁぁぁ!!
ちょっと待って!
ユーリ、ストップ!」

「だが……」

「お願いだからやめてー!!」


何でユーリはこんな物騒なの!?
悪魔って皆そうなの!?
僕、もうやだよ!?


「……マシェリ、そいつが契約した悪魔か?」

「……うん。
僕の契約者のユーリ。
ユーリ、こっちは騎士のカーティス。
昔から、色々とお世話になってるんだ」

「カーティスだ。
宜しくな!」


カーティスは笑顔で手を差し出すが、ユーリは冷たい目で見つめ、手を払った。

………何してんのさぁ!!


「……人間、私に触れるな。
私に触れていい者は契約者と一部の者のみだ」


あぁ……何故こうなる。
ユーリには仲良くするという言葉が分からないのか。


「………カーティス、気にしなくていいよ」

「…契約者よ。
お前は私が初めて主と認めた者なのだ。
魔王と呼ばれた私が認めたのだぞ?」

「………おい、マシェリ。
魔王って……」

「あーあーあー!
聞こえないなぁー!!
僕は何も聞こえないなぁー!!」


僕は誤魔化す事にした。
全力で誤魔化す事に決めたのだ。
……いや、だってさ。
仕方ないじゃん。


「……あ、正装どうしよう」

「どうしたのだ主よ」


そういえばユーリにまだ言って無かったか。


「それが、夕食の時に正装で来いって言われたんだ。
あ、ユーリも正装でお願い」

「ふむ、承知した。
つまりは、主の正装が無いのだな?
私ので良いのであれば使うか?」


ユーリに借りるのか。
まぁそれでもいいか?


「うん、お願いしてもいい?」

「勿論だ。
少し待っていろ」


………あれ?
今更だけど僕の呼び方が主に変わってない?
貴様→お前→契約者→主
か。
………今日1日で結構呼び方が変わったな。


「待たせたな主」


……速くない?
流石は魔王?


「………ありがとう、ユーリ。
それにしても……速くない?」

「当たり前だ。
主を待たせているからな」


あぁ、うん。
まぁ、有難く借りておこう。
それにしても嫌だな。
あの父だけでも嫌なのにあの兄妹までいるとか最悪じゃん。

僕とユーリは正装に着替え、準備を始めた。
装飾は最低限にし、シンプルに目立たないような服装を試みる。
ユーリを見ると………元の容姿もあってか凄くカッコよくなっている。
あぁ、これ絶対目立つやつだ。
終わった。

そんな事を思いながら、戦争…もといパーティーへと向かった。
入学祝いと、悪魔契約の祝いという事なので結構な客人が来ているようだ。
僕が入ると、僕をみてザワザワし始めた。
残念ながら僕はそんなに気にしないのだが…。
 そんな僕のもとへ近づいてくる物好きが1人……誰かと思ったらキャロだった。
キャロも貴族だったっけな。


「お久しぶりですわ、マシェリ様」

「お久しぶりです、キャロット嬢。
ですが、私には話し掛けない方がよろしいかと」


僕に話し掛けると他の貴族から色々と言われるからね。
そんな意味を込めて口にしたがキャロは気にしないらしく笑顔を作った。


「問題ありませんわ。
マシェリ様はお優しいのですね。
私の事をご心配して下さるなど……」


そう来るか。
まぁ、キャロがいいと言うならいいか。


「キャロ、その男は誰だ。
俺という婚約者がありながらそんな男と話すなど」


キャロには婚約者がいたのか。
だが、まぁ僕の事は知らないらしいな。
注意しようとしたキャロを視線で止め、僕は前に出てお辞儀をする。
そして、満面の笑みを浮かべた。


「お初にお目にかかります。
私はキャロット嬢と同じクラスの者です。
貴殿のような高貴な方に名乗れるような者ではありませんので御容赦お願いしたい」

「え……マ…」


僕は男に見えないように喋らないように伝えると笑うのを隠すかのように礼をした。


「ふん!
まぁ、俺はリンカーベル公爵家の跡取りだからな!」


あぁ、コイツは馬鹿か。
馬鹿なんだな。
……可哀想に。
リンカーベル公爵の治める領地はコイツの代で終わるな。


「……主よ、コイツは殺して……」

「……ユーリ、お願いだからやめてくれ」

「……チッ」


ユーリ、お願いだから辞めて……。
というか、舌打ち……。

そんな事をやっているうちに父が来たらしい。
一気に騒がしくなった。
周りから、「今日も陛下は……」などと下らぬ事が聞こえてくる。
父が手で制すると皆、一様に声を沈めた。


「…今日は皆に報告したい事がある。
皆、知ってはいると思うが、我が娘と息子が無事、悪魔契約を果たした。
そして、今日皆に集まって貰ったのは我が息子を紹介したかったからだ。
……マシェリ上がってこい」


聞いてないんだけど?
そのために正装でこいと?
ユーリは……付いてくるようだね。
ならまだマシか。


「はい、陛下」


僕は意を決して父のもとへゆっくりとした足取りで歩き出した。
薄く笑みを浮かべ、出来るだけ好印象になるように、一歩一歩細心の注意を払っていた。
僕は階段の前でユーリを止めると一礼をして上る。
父の前までいくと、再び礼をし、父よりも一歩下がったところで立ち止まった。
父は僕を引き寄せると、声を挙げた。


「さぁ、紹介しよう!
この者が我が息子、マシェリ・デラ・アーカイブだ!
…あぁ、我が息子の事を『落ちこぼれ』だの『王族の恥さらし』などと言った者達がいたな。
覚悟は出来ているのだろう?
マシェリは入学試験で主席をとったのだ。
そのマシェリが『落ちこぼれ』だというのであれば……貴殿らの子息、息女はどうなのだろうな?」


どうしたのだろうか?
父がこんな事を言うなど有り得ない。


「あぁ、そうだ。
リリーフ、マシェリ。
契約した悪魔をここへ…」


あぁ、ユーリをか。
問題を起こしてくれるなよ?


「はい、ポプラ、行きますわよ」

「……はい、ユーリ」


ユーリは早速やらかした。
階段を上がらずに転移をしたのだ。
……礼儀が、礼儀がぁぁぁ!!
それに比べ姉とポプラは階段を使っていた。
まぁポプラはぁも礼儀は駄目そうだからいいか。


「ご紹介致しますわ。
この子が私の契約した悪魔、ポプラですわ」

「あ、えっと…ポプラです。
へ、陛下…あ……ユーリ陛…様、どういう挨拶をすれば……」


ユーリの侍女はどうなってるのさ。
もう、正体バレてるんじゃない?


「……普通にだ」

「えぇぇぇ……あ……魔界では魔王陛下のメイドをやらせて頂いてました!
えーと…よ、宜しくお願いします…?」


何故最後疑問形!?
大丈夫か、このメイド!!


「……私の契約者のユーリです」

「ご紹介に預かった。
主からユーリと名を授かった」


その時点で皆、僕の契約者が生まれたての弱い奴だと判断したようで興味はポプラへと行っていた。
このまま終わってくれればいいが。


「あぁ、言い忘れていたが……私の初めて認めた主を傷付けてみろ。
八つ裂きにしてくれる。
魔界での役職は……」


は!?
言う気か!?


「ちょ…ユーリ、それは駄目だ!」


あ、大声出しちゃったよ…。
やっちゃった。


「……承知した、主よ。
という事で言わぬ」


まぁ、バレなかったし、いいよね?
あとはポプラが言わないのならば大丈夫そうだな。


「あれ?
陛下、どうしたんですか?」


ランツェ~!!
何言ってんだ!
折角僕が隠そうとしてたのに。


「……陛下…?」


父も不審に思っているじゃないか。
どうしてくれるのだ。


「主よ、殺るか?」

「……ユーリ、ニュアンスが違う。
殺らないからね?」

「ふむ…ならばシバくか?」

「……それもやらないよ?」

「……ならば半殺…」

「何でそう物騒なの!?」


はっ……素で会話してしまった。


「……ユーリ、もう言っていいよ…。
あの馬鹿のせいで駄目になった」

「承知した。
…ランツェ、後で話がある。
いいな?」


ユーリが話があるって言ったあたりでランツェが恐ろしいものを見るような表情になったんだけど……。
何かしたのか?


「……はぃ……」


めっちゃ萎んでるんだけど!?


「……私は魔界で魔王と呼ばれていた。
役職はあるとすればそれ位か?
もう一度言っておくが……主を傷付けた者は殺す」


僕は深くため息をついた。

父は話題を変えた。

「今宵、もう一つ知らせがある!
皇太子についてだ」


皇太子、兄の事か。
婚約でもしたのだろうか?


「現、皇太子、アルファードを廃嫡する。
そして、次の皇太子はマシェリとする!」


……は?


「お断り致します」


あ……。
つい条件反射で……。


「あ…私よりも兄上の方が優れています。
私は『落ちこぼれ』で『王族の恥晒し』なのでしょう?
ならば、そんな私などよりも兄上の方が優れているという事でしょう」

「…この場で言っておくか。
マシェリは、余とユーリアが封印を施している。
そして、ユーリアには魔王の血が入っていた」


…封印?
どういう事だ?
僕の力が封印されていた?
何故?
母上も共に?
それに、魔王の血って……。
僕は思わず隣のユーリを見た。


「ユーリアは私とレランの娘だぞ」

「嘘……!?
えぇぇ……ユーリが…僕の御祖父様って事……?
えぇぇぇ……」

「主は私の孫という事になるのか……。
確かに今ならばレランの言う事が分かる気がするな」


何が!?
っていうか、僕のお祖母様がレラン様なんて聞いてないし!!

レラン様は偉大な魔術師であり、自分にも他人にも厳しい方だ。
そのうえレラン様の祖先は聖の刻印の持ち主だったのだ。
レラン様は衰えを見せる事なく今も尚現役で魔物と戦っている。
そんなレラン様に憧れを抱くものは少なくない。
かつての僕もその1人だった。
だが、レラン様の話をする度に母上が嬉しそうに微笑んでいたがまさか血縁だったとは……。


「……陛下、申し訳ありませんが…少し休んでも良いでしょうか?」


僕は思いつめたような表情を意識して問いかけた。
色々とユーリ……御祖父様?に聞きたい事があるのだ。


「あぁ、良い」

「ありがとうございます。
では、失礼させていただきます」


……僕は部屋へ戻ると早速ユーリを問い詰めた。


「…ユーリ、御祖父様って呼んだ方がいいかな?
お祖母様って、どんな方なの?」

「…ユーリで構わないぞ。
レランは強く、真っ直ぐな女性だ。
私が魔族だと知ってすぐに言った事は何だと思う?」


え……。
お祖母様が言いそうな事?


「……それがどうしたの?
とか?」

「…いや、レランは私に向かってこう言ったのだ。
『元からあなたが魔王だって知ってるわ。
大体、魔王だからって何よ。
結局は同じ命を持った者でしょ?
魔族だ人間だって五月蝿いのよ。
皆、実際に会って、話した事すら無いくせして偏見なんて持っちゃって…馬鹿みたい』
だ。
面白いとは思っていたがまさかあれ程大胆な考えの者だったとは思ってはいなかったな」


ユーリは懐かしむように目を細めて語った。
お祖母様は本当に変わった人のようだ。
だが、変わっていなければ魔王なんかと結婚しないだろう。


「……会いたいか?」

「…え?」

「いや、私もこの頃会っていなかったからな。
主も共に会いに行くか」

「…ユーリ、僕の事はマシェリでいいよ」


でも、お祖母様に会いに、か。
あのレラン様に会えるんだ。
…母上と一緒に行けたら良かったな。


「マシェリ、捕まっていろ」

「え…うん」


僕はユーリに抱き抱えられ…ユーリはそのまま空へと跳躍した。
ユーリだから僕を振り落とすような事はないだろうから悲鳴を上げる事はなかった。
空から見る夜の街の風景はキラキラと輝いていて昼よりも落ち着いた様子がする。


「マシェリ、そろそろ着く」


そのユーリの声に僕は強制的に現実へと引き戻された。
ユーリはそっと僕を降ろすとシンプルで落ち着くような木の家に入って行った。


「レラン、いるか?
私だ。
紹介したい者がいる」

「…あら。
久しぶりね、マオ」

「あぁ…暫く家を空けて悪かったな。
マシェリ、紹介する。
私の妻のレランだ。
レラン、私の主となったマシェリだ」


えぇぇぇ……主ってそこを伝える?
普通孫、とかじゃないの?


「お初にお目にかかります。
マシェリ・デラ・アーカイブと申します。
お祖母様」

「お祖母様と言われる筋合いはありませんよ?
私は、レランです。
王子殿下」


え……拒否された…?
……拒否されなかったのって学園の3人と魔族とあとは母上だけか……。
あ、カーティスもいたっけ。
実の祖母にも拒否されるって……。


「……ユーリ、僕は帰るよ」

「マシェリ、送るぞ」


ユーリは来ちゃだめだろ。
レラン様といた方がいい。


「いいよ。
ユーリはお祖……レラン様といなよ。
レラン様、これで失礼させていただきます」

「…待ちなさい。
娘は…ユーリアは元気にやっている?」


…この人は知らないのだろうか?
母上が死んだ事を。


「……母上は3年前に亡くなりました」

「母上?
母上と言ったの?
あなたは……ユーリアの子供…なの…?」


うん?
あれ?
僕の事知らなかったのか?
何だ。


「はい」

「…あぁ……ごめんなさい…。
酷い事を言ってしまったわね。
マシェリ…私の愛しい子…確かにあの子が付けそうな名前だわ…。
…マオ、この子は私が引き取るわ。
娘が死んだ事すら伝えられていなのだもの。
それ位、いいはずよね?
娘の忘れ形見なのよ?
そんなこの子をあんな馬鹿王のとこに置いとけないわ。
いいわよね?」

「私はいいが……マシェリはどうなのだ?」

「……僕は…」


あんな所になんていたくないけど…でも、復讐が……。
あぁ、でも……この人のところで暮らしたいな…。
復讐は、この人のとこにいながらでも出来る。


「マシェリ、私達と一緒に暮らしましょう?」

「…ですが、僕は闇と聖の2つの刻印を持ってますよ?
それに、僕は『落ちこぼれ』などと言われてますし…」


それに僕は、魔力はあっても魔法は使えない。
使えるのは、精霊のみ。


「問題無いわ。
聖の刻印についての資料ならこの家に沢山あるもの。
闇の刻印についての資料はマオの頭の中にあるわ。
それに私は魔術師よ?
なんとかして見せるわ。
そして、あなたを『落ちこぼれ』と言った奴は覚えている?
私がこの世から消し去ってあげる。」


レラン様は最強って言われる程の魔術師だしな。
だが、最後のはだめだろ!?


「そ、それは大丈夫です!
…では、その…お言葉に甘えても…?」

「えぇ!
勿論よ!
そうと決まればあの馬鹿王に言いに行きましょう!」


行動力やばいなこの人!!
いや、実の祖母だけどさ!?
それに、ユーリも頷いてるし!!


「今は、パーティーの途中のはずですよ?
良いのですか?」

「いいわ。
そんなもの。
さぁ、行きましょう。
マオも行くわよ」

「あぁ」


お祖母様は一瞬で陣を作り上げると発動させパーティー会場のど真ん中に転移した。
………本当にどんな行動力だよ……。


「なっ!?
レラン様!?」

「レラン様が何故ここに!?」

「しかもその隣にいるのは先程の
『落ちこぼれ』王子か!」


うわぁ……色々言われてる。
あ、最後の奴倒れた。
お祖母様が魔法を放ったようだ。


「何の用だ、レラン殿」

「あら、あなたのような馬鹿王に名を呼ばれる筋合いは無いわ。
……あなた、私の娘が死んだ事、黙っていたわね?
それに、この子がいることも。
この子、『落ちこぼれ』と言われているのでしょう?
ならば私の方で引き取ります。
この子はユーリアの子だもの。
1つ残念な事があるとすればあなたのような馬鹿王の血が混じった事ね。
そういう事ですからこれで失礼します。
あぁ、それともう2つほど。
1つはこの子に金輪際近づかないで。
2つめは、この子の事を侮辱した奴は出てきなさい。
全員まとめて消し炭にしてあげるわ」


怖っ!?
1つめは嬉しかったけど、2つめは駄目だと思うんだ。
さすがにそれやったら殆ど消えちゃうし。


「お、お祖母様!
ぼ……私は気にしていません!」


僕が慌ててお祖母様を止めようとするとお祖母様はスッと優しそうに目を細めた。
ホッとしたのもつかの間。
お祖母様は僕の頭を撫で……


「安心しなさい。
マシェリ、気にしなくてもいいわ。
ただ、存在を消し去るだけよ?」


だけって何!?
だけってそれ以上の事もあるの!?
って、存在消したら駄目じゃない!?

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