落ちこぼれの復讐者

紗砂

学園

母上が亡くなってから約3年がたち、僕は10歳になっていた。


「落ちこぼれが、王族の恥晒しがのうのうと生きてんじゃねぇよ」

「お兄様、行きましょ?
こんな恥晒しに構っている暇なんてありませんわ。
もうすぐ入学試験がありますもの。
お兄様の様に主席をとれるように魔法のお勉強をしたいですわ」


相変わらず五月蝿いのは何年たっても変わりは無かった。
僕は、母上が亡くなってから今まで必死に強くなろうと剣や魔法を覚えてきた。
だが、それをずっと隠してきた。
…明日に控えた学園の入学試験で主席をとり義姉の鼻を明かすためだ。
そのためならば何だって受け入れてきた。
なんと言われようと、何をされようと。


「あぁ、そうだな。
リリーフならとれるさ。
あんな恥晒しと違って優秀だからな。
念には念をって母上も言っていたしな。
俺がみてやるよ」

「本当ですの!
ありがとうございますわ、お兄様!」


僕も一応、確認をしておこう。
明日の魔法試験で使う魔法は既に決めてある。
その魔法の最終確認をしておこう。
その後は筆記試験のために今までの勉強の確認。
その後は騎士たちに混じって剣術や槍術を学ぼう。
それが終わって時間に余裕があるようだったら父への復讐の計画を立てよう。


「さ、僕も行こう。
時間が勿体無い」


与えられている部屋に戻ると僕はすぐに魔法を展開した。
この魔法は完全自作の魔法。
だからこそ誰にもバレるわけにはいかない。
特にあの兄妹には………。


「問題なさそうか。
あぁ、クラス分けの時のリリーフの悔しがる顔が目に浮かぶ。
楽しみだ…。
そろそろ訓練が始まる時間か」


僕は細かく確認してから魔法を消し、訓練場へと向かった。
今まで通り後列で騎士達に混じる。


「お前また来たのかぁ?
明日は学園の入試だろ。
勉強でもしてればいいのによ」

「問題ありませんよ。
合格は確定していますから。
順位が低くとも『落ちこぼれ』の一言で終わりますから。
僕は僕の好きな事をやりますよ」


ま、順位が低いって事は有り得ないけどね。
今まで3年間勉強も、魔法も剣術も槍術も全部必死でやってきたんだ。
その努力が報われないってのは無いだろうからね。


「変わってんなぁ……。
だが、お前が落ちこぼれなら俺等はどうなんだろうな」


それはまるで僕が落ちこぼれじゃないみたいじゃないか。


「明日の試験頑張れよ。
まぁ、お前なら大丈夫だろうけどな」

「……当たりまえです。
これでも一応は王位継承権を持つ列記とした王子なんですから……」

「そうだったな。
忘れてたよ。
王子は普通、こんなとこにはこねぇからな」


…普通の王子だったなら父に復讐なんて誓わなかったさ。
でも、まぁ…普通であればこんな自由な生活は出来なかっただろうけど。


「そうかもしれないですね…。
僕は訳ありですから。
『落ちこぼれ』と言われるのも『王族の恥晒し』と言われるのも仕方ありませんよ」

「そういうもんかねぇ…?」

「そういうものです」


そこら辺はちゃんと割り切れてる。
ただ、ずるずると3年前の事を引きずっているだけ。
復讐のためならば何だってしてやるって思う奴なんか確かに王族の恥晒しなんだよ。
その復讐のためだからこそ、学園に入りたいのだけど。

学園に入り、成績優秀者ならば悪魔と契約の儀式を行えるから。
その儀式が出来れば……もっと強くなれる。
父への復讐の道が一歩近付く。
だからこそ、学園に入りたい。
実力をさらけ出してでも。


「王子、こいよ。
本気でな。
いつもみたく手加減、すんじゃねぇぞ」


…こいつ、カーティスにはバレてたようだ。
当然といえば当然なのだろう。
こいつはこれでも騎士団1位の実力者だからな。
…明日の入学試験も控えているんだ。
今日くらいは本気でやるか。


「分かりました。
では…行きます!」


僕は今までの2倍以上の力をだす。
とにかく速く剣を滑らせ、カーティスの剣を避ける。
互いに「こんなに弱くないだろう?」とでも言うようにどんどんスピードをあげ、複雑な動きをする。


「ったく……ここまでついてこれんのかよ…。
お前ほんとに10歳、かよ!」

「失礼ですね。
列記とした10歳児です、よ!」


楽しい。
母上が死んでから1度も楽しいと思わなかった。
それはきっとこれからも同じだろうと思ってたのに…!
楽しい、楽しい…楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!
面白い!
もっと、やりたい。
もっと速く、強くなりたい。
勝ちたい。

僕は自然と笑顔になっていた。


「余裕そうだな!
こっちは結構ギリギリだってのに…。
…今日はここで終わりだ、王子」

「折角いいとこまできたのに…。
はぁ……でも、勝てなかったや…」


勝てなかった。
…父へのまだ復讐の道はまだ遠い。
せめて、カーティスに勝てるようにならくちゃ。


「ったく……普通10歳児はここまでついてこれねぇっての………。
お前は『落ちこぼれ』なんかじゃねぇ。
明日、それを証明してやれマシェリ」


マシェリ…久しぶりの呼ばれた気がする。
母上が呼んでくれた時以来だ……。
皆、僕の事は『落ちこぼれ』や『恥晒し』って呼ぶから……。
名前で呼んでくれたのは母上しかいなかったから。
名前を呼ばれただけなのに……何でこうも嬉しく感じるんだろう…。


「カーティスに言われなくとも頑張りますよ」

「そうか。
なら、いいさ。
俺にはちゃんと報告しろよ、マシェリ」

「……覚えていたらしますよ」


僕は服で顔を隠すようにしてから訓練場を後にする。
……くそっ。
調子が狂う。


「……筆記試験のために勉強しなきゃだ」


僕は変な考えを消すように勉強に取り組んだ。

ーーーその日の夜、僕は珍しく夕食に呼ばれた。


いつも僕だけは自分の部屋で夕食をとっていた。
それはあの兄妹が
「あんな落ちこぼれと一緒に食事をとりたくない」
と言ったのが始まりだった。
僕としてもそれは有難かったこともあり部屋で食事をとっていたのだ。


「父上、何故こんな落ちこぼれがここにいるのでしょうか?」

「そうですわ。
こんな王族の恥晒しと一緒に食事などしたくはありませんわ」


…知らないよ。
僕だってお前等兄妹と食事なんてしたくないっての。
けど、ここの一番上位である父に呼ばれたら応じないわけにもいかないだろう。


「…アルファード、リリーフ、黙れ。
マシェリは私が呼んだのだ。
何か文句でもあるのか?」


僕は周りの事など気にせずに黙々と食べ続ける。
その様子に何を思ったのか、父が僕と姉上に話かけてくる。


「リリーフ、マシェリ、明日の入学試験はどうだ?」


「こんな落ちこぼれとは違いますもの。
問題ありませんわ。
お兄様にも魔法を教えていただきましたもの」

「僕は…心配ですよ。
兄上や姉上の仰る通り僕は、
『落ちこぼれ』で『王族の恥晒し』ですから。
Dクラスにならないように頑張らなければなりませんからね」


入るとしたら姉上だろうけど。
僕はそんな失敗なんてしないからね。
主席は僕がとるんだから。


「…マシェリ、お前は『落ちこぼれ』でも『王族の恥晒し』でもない」


お前が、母上と同じ言葉を言うな。
母上を助けなかったお前が、母上と同じ言葉を口にするな。
僕は『落ちこぼれ』で『王族の恥晒し』だ。
だからこそ、そんな僕を産んだ母上は軽蔑され殺された!
何もしなかったお前が、そんな優しい母上と同じ言葉口にするな。


「…失礼致します」


僕はその場にいることが出来ず退出した。
その後、僕はいつも通り1人で夕食をとり明日にむけ、早めに就寝した。


ーーー次の日ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて…行くか…。
それにしても…城から出るのはいつぶりになるだろうな……」


母と街へ出た時の事を思い出し、感慨に浸る。
僕はそれを振り払う。
そして、用意された馬車を横切りそのまま歩いて学園に向かう。

…あの中にはどうせ姉が乗っているだろう。
ならば、あの兄も乗っているはずだ。
僕はそんな中に入る勇気なんてない。

…というのが表向きの理由であり、本当の理由はただあいつらと同じところにいたくないだけだった。


「マシェリ」


…その声は僕がこの世界で一番嫌いな奴のものだった。
僕は内心悪態をつきながらも笑顔をむけた。


「何でしょうか、父上?」

「…頑張れ」

「はい!」


…何故そんなことを…などと思いつつも父と話せて嬉しいという風を演じる。
復讐してやる、そんな思いをバレないように警戒を怠らない。
父がリリーフのもとへ行った事を確認してから僕は再び歩き始める。
僕が学園につくと、丁度リリーフが手続きをしているところだった。
僕はリリーフから一番遠い受付に向かい密かに手続きをする。


「すいません」

「はい!
あ、受験者の方ですね?
お名前を確認しても宜しいでしょうか!」


無駄に元気な人だった。


「マシェリです。
マシェリ・デラ・アーカイブ」

「……落ちこぼれ王子!?」


……この人もこれか。
この様子じゃ、主席とっても不正とかって言われそうだな。


「あ、すいません……」

「いいですよ。
言われ慣れてますから。
兄や姉には恥晒しなんてことも言われてますから気にしてないですよ」


そう言うと受験者表を受け取りその場から立ち去る。
時間までまだ時間があるようだったので木陰で休もうと思っていた時だった。
……面倒臭い奴、姉、リリーフが僕のもとへやってきた。


「あら、落ちこぼれじゃない。
王家の恥晒しが。
こんなところに来るんじゃないわよ。
恥を晒す前にさっさと立ち去りなさい」


どうしてこう、僕の知り合いには面倒臭い奴や五月蝿い奴しかいないのだろうか。
まぁ、今までなら従ってたんだけど……。
もう、その意味は無くなるからな。


「姉上、僕のためにありがとうございます。
…いえ、御自分のためでしょうか?
『落ちこぼれ』や『王族の恥晒し』と言ってきた僕に主席をとられたら自分が恥をかくからでしょうか?
立ち去れと言いますが僕がここにいるのは父上の決定です。
姉上は父上の決定を覆すおつもりですか?」


僕はあくまでにこやかに言う。

スッキリするね。
まだ言いたい事はあるけどここで言うべき事じゃない。
言うならもっと場を盛り上げてから。


「…あなた…私に逆らうというの!?」

「姉上こそ、父上に逆らうのですか?」


こんな形でもあんな父の名を借りなければならないなんて…情けない。
それよりも不快だ。
あんな奴の名を借りなければならないなんて。


「ふん!
いいわ、もう。
あなたはどうせ不合格なんだもの!
せいぜい悪あがきでもしてなさい」


悪あがき、ねぇ…。
それはこっちの台詞だけど……。
まぁ、姉の名誉のためにもこれは言わないでおくか。
…あぁ、休憩の時間が全て無くなったじゃないか。
ついてない……。


「受験者の方はこちらに集まって下さい!」


僕はため息をつくとその声のもとへ向かう。
確か最初は筆記試験だ。


「始め!」


……何だこの問題?
簡単すぎる。
舐めているのか?
…いや、独学だったからな………。
何処か間違えているかもしれない。
確認をしておこう。

それから30分後に筆記試験は終了した。
次は魔法試験だ。
そのため、校庭と砂漠の2つに別れて審査するらしい。
僕は校庭だ。
この選別方法に少しばかり不満があるが気にしない事にした。


「…次は、マシェリさんですね。
得意な魔法を放ちあの的、ゴーレムにあててください」


まぁこれは楽だな。
魔法は前々から準備していた自作のやつだな。


『我が道となりて導け。
我は汝が光とならん。
我は汝が闇とならん。
闇は光を侵食し光は闇を照らす。
業火が巻き起こり風が吹き荒れ大地は揺れる。
水が溢れ氷となりて雷、大地にふらん。
全ては我がもとに集結す』


闇、光を始め火、風、土、水、氷、雷全ての属性の複合魔法。
これが、僕の、オリジナルの中でもとっておきの威力の魔法だ。
いや、正確には精霊に借りた力、か。


『発動し…』

「こんの…馬鹿王子がぁ!!」

「うわっ!?」


いきなり頭を殴られた。
……酷い。
誰かと思い背後をみると、カーティスがいた。


「…何でここにいるんですか。
しかも、何故殴るんですか。
魔法に支障をきたしたらどうしてくれるんですか」

「それが目的だ!
はぁ……俺は実技試験の教官役なんだよ……。
お前がこっちに行くのが見えたかんな。
あの王女に虐められでもしたのかと思って来てみれば……。
あんな魔法、軽々打とうとしやがって!
こんの馬鹿王子が!!」


僕が王女に虐められるって……。


「虐められるってなんですか……。
虐められると言ってもあのくらいならすぐに治るので問題ありません。
……それに、こういう場の方が軽くてすみますよ。
攻勢魔法を当てられたり兄から剣で切りつけられたりはしませんからここの方が余程安心出来ます」


そう言うとただ呆れられた。


「…お前、それよく無事でいられたな……」


生きてくため、というか父への復讐のために頑張ったからね。
あの2人のやることはある意味訓練になったし。
それに、精霊が守ってくれたし。


「姉上と兄上のおかげで魔力操作のなかでも特に防御魔法や結界魔法が得意になりました。
突然なのでいい訓練にもなりますよ?」

「……なぁ、俺がおかしいのか?
兄妹から攻撃されておきながらいい訓練になるなんていう奴がおかしいのか!?」


それって僕じゃん。
ならカーティスがおかしいんだと思うけど。


「あの、カーティス様。
試験が……」

「…あぁ、悪ぃな。
馬鹿王子、いいか?
お前が貼れる一番硬い結界を魔法を打つ範囲にはれ。
いいな?
それから魔法を打て」


その言い方だと僕の魔法がおかしいみたいじゃないか。
まぁ、さっきみたいに邪魔されるよりはいいか。
足元に展開したままの魔法を維持しつつも僕のオリジナルの結界を貼る。
ちゃんと発動したことを確認してから僕は足元の魔法を放った。
瞬間


『ドゴォン!!』


と、凄い破裂音やらなにやらが聞こえてくる。
土煙がはれると結界のギリギリの範囲まで削れた校庭があった。
………思っていたよりも威力が高かったらしい。


「……バケモンかよ、お前」

「失礼な。
僕は列記とした10歳児です」

「普通の10歳児はこんな事出来ねぇよ」


その言葉に何も言いかえせなかったのは言うまでもない。


『…大地よ、自然よ。
あるべき姿に再生しろ』


一応、ゴーレムを含め直しておく。
申し訳ないと思ってはいるのだ。
なのに、またカーティスに呆れられた。


「……お前…一度常識ってもんを覚え直してこい」

「仕方ないじゃないですか。
姉上や兄上のせいで結界を貼りっぱなしにしてるんです。
魔力が上がるのも仕方ないと思うんですよ。
それに、僕には教育係も付けられませんでしたから独学なんですよ。
これくらいの失敗は仕方ないじゃないですか」


あくまで僕のせいじゃないと言っておく。
僕のせいじゃない。
姉上や兄上のせいだ。
あんな攻撃してくる奴が身内にいるから。
それに、教育係がいないせいで普通なんて知らないし。


そして、最後の実技試験に移行した。
僕の相手は当然のようにカーティスだった。
それも最後だ。
……目立つじゃないか。
待ち時間、することもないので前の人達を見ていると少女が話しかけてきた。


「さっきの魔法、凄かったですね。
あれ、なんていう魔法なんですか?」

「あの魔法は僕のオリジナルですから名前はありません」

「そうなんですか!?
オリジナル魔法って凄いですね!
良いなぁ。
私もあんな魔法作ってみたいなぁ……」


まぁあれは父への復讐のために作った魔法だからなぁ。
教える事も出来ないし。


「次!
馬鹿王….マシェリ!」


あいつ、馬鹿王子って言おうとしたな。
まぁ、昨日の続きだ。
今度こそ勝ってやる。


「じゃ、僕の番だから。
またね」

「うん、頑張ってね!」


こういうの、初めてかもしれないな。
この頃初めての事ばかりだ。


「さて、お前で最後になるわけだが……。
昨日の続きといこうか?」

「勿論。
今度は勝たせてもらいます!」


あの後、何度も何度もシミュレーションしたんだ。
あの場合の動きにどう反応したらいいか。
どう反応したらどう返してくるか。
予想の範囲に過ぎないが……僕の動きに対するカーティスの動きは全て頭の中に入ってる。


「今日は最初から本気で行くぜ」

「僕も本気で行かせてもらいます」


僕は、昨日のカーティスの動きを参考に、その動きの真似をする。
違う点があるとすればそれは僕の方がカーティスよりも動きがはやいという事だけ。


「うぉっ!?
ったく…どこまでもおかしな10歳児だな!
そりゃぁ昨日俺がやった動きだろうが!」

「少し違いますよ!」


少しだけテンポを遅くしている。
それだけで結構やりにくいはずだ。
そのうえで僕は自分独自の動きも織り込んでいる。
やりにくさは倍増しているはず。


「そんな簡単に負けるつもりはねぇよ!」


その瞬間、僕の手から剣がこぼれ落ちた。


「っ!?
…もう少し動きを複雑にしてフェイントを入れないと……。
帰ったらもう1回勝負してください!」

「嫌だ。
お前とやると疲れんだよ…」


ちっ。
次は絶対勝つからいいし!
やっぱり僕はまだ弱いなぁ。
カーティスとやるとそれが、思い知らされるや。

こうして今日の入学試験は幕を閉じた。

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