世界は黄色いユリのようだ

縁呪

8話 他人

人間というのは大きくわけて二つの部類がある。
できる奴か否かだ。
必要とされる人間は昔から努力してきたのだろう。自分を好いてほしくて、必要とされたくて、自分がいないとダメと思われたいのだろう。
だけどそれは必要とされない人間だって変わらないと思う。ただそいつは努力が実らなくて自分より上がいると思っているから自分はいらないと思い込んでしまっているのだろう。
多分こういうのを勝ち組負け組というのだろう。
世間が
周りが
そいつの特徴を見つけてあげられなかっただけなのに。
そいつの未来はどん底に落ちていく。
ということはそういう形で関わってしまった周りのやつは加害者と言えるだろう。
そして未来を壊す程の重大なことをした奴らは犯罪者と言っても過言ではないのでは?
どちらともスタート地点では考えていることは同じなのだ。なのに距離が開くと考えていることは変わってくる。そこで前のやつに追いつこうとしないから負け組になるのだ。
つまり負け組というのは自分から道を踏み外した愚か者であって、勝ち組というのは基本的に周りを陥れて頂点に立ちたがる独裁者のようなものだ。
結論を出そう。
できる奴とできない奴の違いは周りに災いをもたらすか、自分に災いをもたらすかということである。
だから俺は今被害者であることを伝えます。



よし。これでいいだろう。
満足げに作文を書き終えた逃伊崎愛人はそれを提出した。


「逃伊崎、ちょっとこっち来い。」
帰りのホームルームが終わったあと俺は担任の入江先生に呼ばれた。
「なんでしょうか。」
「なんでしょうか。じゃあないだろ!なんだこの作文は!ふざけてるのか。」
少し怒っている様だ。
「いやいや全然ふざけてないですよ。だってこの作文のテーマは『高校生活で感じたこと』じゃないですか。だからそのままですよ。」
「はぁ、まったく君という奴は。」
俺が正論で返したつもりでドヤっとしたせいか、先生はため息をこぼし呆れさせてしまったようだ。
「普通はこういうものでは、勉強が難しくて困っているが友達がいるから大丈夫。とか部活が楽しいとかそういうことを書くものだろう?」
「いや俺友達いないですし、部活なんて..」
昨日のことを思い出して口を閉じた。
結構重要なこと話してもらったから仲いいってことでいいのかな?
「ん?どうした?なにかあったのか?」
先生はそう質問してきたが
「いや、逆に全く何も無かったです。」
そう嘘をついてしまった。まあ意味の無い嘘だから大丈夫だろう。
「そうか。ならばよいが。」
先生はふっと息を吐いてこう続けた。

「彼女は君のようにひねくれてないし、評判もいい生徒だ。だが人が良すぎるあたりそれが仇となることもあるのだろ。その分の彼女は苦労は耐えないだろうな。だから君は彼女を救ってやってくれ。」
真剣そうな顔でそう言ってきた。
「・・・何言ってるんですか。まったく。俺が人を救えるのならまず真っ先自分を救いますよ。
それに彼女は俺の救いなんて必要としてないと思いますよ。」
そうだ。俺は人を救えない。だから自分だって救われない。だから俺に期待はできない。
「・・・ふふっ。そうか。そうだな。」
何かを察したように先生は笑った。
「じゃあもう出ていいぞ。それとこれ。明日までに書き直して再提出な。」
笑顔でプリントを渡してくる先生に少し後ずさった。
全く笑いかけてくるとかやめてくれよ。あんた綺麗なんだからドキッとしちゃうだろ。


部室(相談室)に入ると新山莉織の姿はなかった。
珍しいなと思ったがあれっと思った。この部屋の鍵ってあいつしか持ってないのになんで開いてるの?
すると、ロッカーの方でガタッと音がした。
急だったのでひっと声が出てしまった。
そのロッカーに恐る恐る近づくと中から小さな笑い声が聞こえてくる。
ロッカーのドアを開けると中には新山がいた。
「ひっ、ってひっ、って。」
すごく馬鹿にしてくる。
だがその笑顔のせいで怒る気も失せた。なんでみんな笑ったらこんなにかわいいの?意味わかんない。俺も笑ったら可愛くなるかな。あ、やめよ。ゴミを見るような目でみてくる。
「...なにしてんのこんな所で。」
「普通の人かと思ったの!私人気者だから一人でいるところとか見られるわけにはいかないじゃない。それくらい理解してよ。」
あ、俺普通の人じゃないんだね。
これがドッキリとかだったらときめいてたかもなのにな。もう最初の時の気持ちなんか無くなっちゃってるよ。
まあ、俺の知らない一面を見れて良かったかな。

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