最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

会議

 王都に着いたワタルたちの目に最初に入ったのは、所々が崩れている大通りと、それを修復しようと動く人々の様子だった。

「なにがあったんだろ」
「ただ事ではなさそうじゃな」

 ひとまず、レイから預かった魔女の封筒を渡すために、ワタルたちは城へと向かうことにした。
 城の門に立つ兵士たちはかなり気を張っており、誰も通さない、という雰囲気を醸し出していた。

「あの、アニマ様に謁見したいんですけど」
「冒険者のワタル様ですね。どうぞ、アニマ様は謁見の間でお待ちしておられます」

 ワタルはてっきり門前払いを受けると思っていたが、兵士はワタルを見るなり、直前までの雰囲気を一変させ、丁寧に通してくれた。

「アニマ様が待ってる?」

 なぜアニマが自分を待っているのか。
 ワタルにはそれがわからなかったが、会えるというなら好都合だった。
 以前来た時を思い出しながら、ワタルは謁見の間へと足を運んだ。

「おお、来たか」

 ワタルが謁見の間の扉を開けると、そこにはアニマの他に、ヨナス、アルマ、カレン、リナ、レクシア、エレナの計7人の姿があった。
 謁見の間には、普通は置かないであろう大きな長机と椅子が置かれており、そこに座っている。

「おお、帰ってきたか。とにかく座れ」

 7人はなにか真剣に話しているようだったが、ワタルたちに気付くと、アニマが椅子に座るように促す。

「なにがあったんですか」

 ワタルは言われるがままに座るなり、気になっていたことをアニマに聞く。
 王都の大通りがあれほど傷付くなど、本来ありえる話ではない。
 それに、先程までの真剣な表情、大変なことが起きたということは、ワタルにも伝わっていた。

「それには私が応えよう。実は……」

 ワタルの質問に答えたのはヨナスで、王都で起きた魔族騒動について話してくれた。

「新しい魔王ですか」

 その話の中でも、最もワタルたち3人の興味を引いたのは、やはり自称新しい魔王の男のことだった。

「魔族が送り込まれたのも、その新しい魔王とかいう男の魔法ですかね」
「あの、それに関してですが、原因がわかりました」
「本当か!」

 魔族が王都に突然現れた理由。
 原因を突き止めるのに時間がかかると思っていたが、リナの一言に全員が驚いた。

「はい。王都の裏路地で転移魔法陣を見つけました」
「転移魔法陣じゃと?」

 リナの言葉に、誰よりも早くマリーが反応した。
 その表情には余裕が見えず、驚きに染まっている。

「魔女か」
「はい。恐らく、禁忌の魔女の1人だと思います」
「なぜそう思う?」
「魔女は基本的に他種族と関わらんのじゃ。それに、今回里に行ってきたが、里を抜けた者は居なかったからのう」

 ヨナスの問に、マリーが答える。
 ほかの魔女から嫌われているとは言っていたが、里の魔女はちゃんと全員覚えているらしい。

「禁忌の魔女が魔王軍に居るということか」
「そうです。私とマリーとあと1人、セレナーデという禁忌の魔女は、人間と魔女を恨んで復讐を狙っていました」
「魔王軍に禁忌の魔女……また面倒なことになったな」

 ヨナスが大きくため息をつく。
 ほかの面々も、表情が明るいとは言い難い。
 マリーやリナといった禁忌の魔女は、例外なく強力な力を持っている。
 それは1人で戦況を変えるほどだ。

「魔女といえば、アニマ様。これを」

 ワタルは魔女の話題が出たのを見て、レイから預かった封筒をアニマに渡す。

「これは……ほう」
「アニマ様、なんと書かれているんですか?」
「魔女からの同盟申し出だ。ワタルよ、よくやってくれた」

 アニマの言葉に、里に行ったワタルたち3人以外が驚きを隠せない、といった表情になる。
 今まで人間を寄せ付けなかった魔女との同盟。
 それを可能にしたワタルたちの功績は大きい。

「これから魔王軍との戦争は、総力戦になってくるだろう。ここに集まってもらったお前達には、信用をおいておる」

 アニマが一息置き、この場の全員を見ながら話し出す。

「魔王となった男の言葉通りなら、魔王軍も準備に時間がかかるはずだ。お前達には、その間に戦力の増強をしてもらいたい」
「戦力増強ですか」
「そうだ。ヨナスやアルマ、カレンはそれぞれ自分の部下を鍛え、ワタルたちには個人の技量を上げてもらいたい」

 アニマは本気で魔王軍との全面戦争に備えるつもりのようで、各自に自分の考えを話す。

「お前達が戦争の鍵となるだろう。期待しているぞ」
「「「はい!」」」

 ワタルたちの返事と共に、その場は解散となった。



 ヨナスたち3人は自分の仕事場へと戻り、ワタルたち5人はは家へと戻った。

「王都を離れようと思うんじゃが」

 家に帰るなり、マリーが突然こんなことを言い出した。

「突然どうした」
「魔女の里に行こうと思ってな。あそこなら、わしより魔法の扱いが上手い魔女も多い。学ぶことも多いはずじゃ」
「鍛錬か。俺もちょっと王都から離れようかな」

 マリーの話に乗るように、ワタルも王都から離れると言い出す。

「魔王軍の動向は気になるけど、それよりも今は、もっと強くなりたいんだ」
「私はここに残るからな。心配はするな」
「私も残ろうかな」
「私もです」

 エレナ、レクシア、ハラルは王都に残るようで、エレナの言う通り心配する必要はないだろう。

「よし、そういうことなら明日出発しよう。マリー、俺も魔女の里まで送ってくれない?」
「別に構わんが、ワタルも里に来るのか?」
「いや、俺は別の場所だよ。気になるところがあってさ」
「そういうことなら任せておけ。転移魔法陣はまだ使えるはずじゃからな」

 ワタルとマリーは魔女の里へ、エレナとレクシア、ハラルは王都に残ることで決まり、その日は最後ということで少し豪華な夕飯を取ることにした。

「ワタル、買い物に付き合ってください」
「ん、わかった」

 ワタルはハラルに買い物に誘われ、2人で食材を買いに行く。

「私が渡した剣と盾、使ってないみたいですけど」
「うっ……」
「はあ、別に私はいいですが、鍛錬に行くならあの剣と盾を持っていった方がいいですよ。あれ手入れ不要ですし、壊れませんから」
「壊れないってすごくない?」

 ハラルからもらった剣と盾の効果を完全に忘れていたワタルは、壊れないということに驚く。
 それに、手入れ不要ということは刃こぼれもしないということだろう。
 普通の武器としては考えられない。

「当然です。あれ私が管理してる宝ですから。デュランダルって知ってます?」
「神話に出てくる壊れない剣だっけ」
「そうです。神話では剣となってますが、デュランダルは本来剣と盾からなっているものなんです。ワタルさんに渡したのは、そのデュランダルなんですよ」
「初めて聞いたんだけど」
「初めて言いましたからね」

 あの剣と盾がデスペリアスライムを倒せたのも、その効果あってのものだろう。
 それが最初からわかっていれば、ワタルはあの剣と盾を率先して使っていたはずだ。

「あと、夜想曲の剣でしたたか。それ私に預けてほしいんですが」
「別にいいけど、なにするの?」
「帰ってきてからのお楽しみです」

 ふふっとハラルはなにか企んでいる笑顔を見せたが、それは教えてくれなかった。
 2人で買い物を終え、家に帰るとエレナが調理を始める。
 しばらくなくなるだろう、5人揃っての食事を終え、ワタルたちは眠りについた。

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