最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

雷帝3

 雷帝が盾で炎球を防ぎ、その上からエレナが粛清剣を振る。
 質量が小さくとも、速度が乗ったその攻撃は雷帝の盾を体ごと後ろへ弾いた。
 そこへワタルが追撃をかけようと走るが、そこへ雷帝の雷の槌が振り下ろされる。

「させるわけがなかろう」

 しかしその槌は、マリーの作り出した土の柱により、ワタルに当たる前に止められる。
 槌が小さかったこともあってか、土の柱が破壊される前にワタルの攻撃が雷帝へと届く。
 狙いは右腕で、雷の槌を手放させるのが目的だ。

「ぐああ!」

 剣は狙い違わず振り上げられるが、全力で振るった剣も雷帝の腕の半ばで止まり、雷の槌も手放していない。

「やばっ!」
「まず1人だ」

 戦意を欠片も失っていない雷帝は、ワタルの剣を盾で弾き飛ばし、雷の槌を横薙ぎに振る。
 今度はマリーの魔法も間に合わず、槌は真っ直ぐにワタルへ向かっていく。
 その槌とワタルの間に、粛清剣を交差させ防御の姿勢をとったエレナが割って入る。
 槌はエレナの持つ粛清剣へと直撃し、持ち手であるエレナにも電撃が伝わる。

「やれ、ワタル」
「音よ、集まれ。土よ、閉じ込めろ」

 魔法によって音を集め、それを土魔法で作った球体で閉じ込める。
 気絶したエレナを下で抱きとめると、その球体を雷帝へと放物線状に投げ、耳を塞ぎ急いで後ろへと下がる。

「こんな物で時間を稼ぐとでも」

 雷帝の言葉はそこで途切れた。
 盾で球体を破壊した次の瞬間、雷帝を襲ったのは180デシベルの爆音だ。
 ガード下を電車が通過する音が90デシベルと言われ、その倍の音が目の前で炸裂する。
 そうして起こる症状は、難聴と耳鳴り、目眩などだ。
 これほど、大きな音を聞いたことなどない雷帝にとって、今の自分の状況は未体験のものだった。

「な……」

 脳は混乱し、体の自由を奪われる。
 マリーに見せたこの魔法だが、マリーが使えないのも当たり前だろう。
 これは生前の知識を活かし、ワタルがスタングレネードの音のみを再現して作った魔法だ。
 この魔法を使うためのイメージは、この世界の住人には不可能だろう。
 爆発魔法の使えないワタルがこの魔法を使うには、敵が球体を破壊することが前提になる。
 付けた名前が兵器魔法。
 現代の兵器を元にした、威力抜群の魔法だった。

「これなら、わしの魔法も当たりそうじゃな」

 体の自由が利かず、立ち尽くす雷帝を見て、マリーが行動する。
 その背後に大量の小さな魔法陣が展開され、それは全て雷帝へと向けられている。

「わしも人間の頃はある魔法が適正でな」

 マリーが雷帝へと杖を向け、魔法陣が光り出す。

「今では強力すぎて扱いきれんが、止まっている相手に当てるぐらいなら簡単じゃ」

 魔法陣の準備を終え、マリーは魔法を発動させる。

「流星」

 大量の小さな魔法陣から光の矢が放たれ、その全てが雷帝へと向かっていく。
 聖属性魔法。
 使える者の数が少ないその魔法は、悪魔などの神に背く存在を消滅させるという。
 聖属性魔法はその特性上、神官などの職に就く者が覚えることが多いという。
 威力も高く強力だが、その難易度にほとんどの魔導師たちが、習得を諦める希少な魔法だ。
 今の雷帝にそれを避けられるわけもなく、鎧と盾は破壊され血飛沫が舞い、ゆっくりと雷帝が後ろへ倒れていく。

「ワタル、エレナを見せてみい」
「うん、お願い」

 マリーにエレナを渡し、ワタルは右回りに歩いていき、雷帝の顔を確認しようとする。

「傷はひどいが、命に危険はなさそうじゃな。上手く防いでおる。すぐに回復魔法をかけよう」

 マリーからエレナの様態を聞き、ほっと胸をなで下ろす。
──背後で音が聞こえた。
 急いで振り向いたワタルの目の前には、拳が迫っていた。
 盾で防ぐが、咄嗟のことで踏ん張れず、後ろへ飛ばされる。
 すぐに上体を起こしたワタルが見たのは、立ち上がり肩で息をする雷帝だった。

「生きておったか」
「聖属性だったのが残念だな。俺には効果が薄い」

 マリーはエレナを庇うようにして、杖を構える。
 背後のワタルには見向きもせず、雷帝はマリーに向けて走り距離を詰めていく。

「魔力は尽きてる。武器は……あれだ!」

 ワタルは魔法を使おうとするも魔力切れで、水を作り出すことも出来ない。
 兵器魔法は強力だが、普段使わないようなものを作り出すため、消費魔力も激しく燃費が悪い。
 武器も弾かれ、周りを見回したワタルが見つけたのは、台座に突き刺された魔剣だった。
 ワタルが急いで台座へと行き、魔剣の柄を掴む。
 すると、驚くほど簡単に魔剣は抜け、ワタルの右手へと収まった。

「これなら……」

 雷帝たちの方を見れば、マリーが土の壁を作り出し、雷帝の進撃を食い止めていた。
 最後の力を振り絞り、全力でそちらへと駆けていく。

「うあああああ!」
「お前、その剣を何故!?」

 ワタルに気付き振り向いた雷帝は、信じられないものを見るような目で、ワタルの手の魔剣を見る。
 横薙ぎに振られる魔剣を、丸まるよう身を縮めて防ごうとするが、魔剣は雷帝の体を簡単に斬り、腹部を大きく切り裂く。

「すみません……ハラル様」

 崩れ落ちる雷帝は、最後にそう言い残して地面に倒れた。
 その言葉は、ワタルたち3人に聞こえることはなく、雷帝は光の粒子となって消えていく。

「なんだ?」
「見たことない死に方じゃな」

 粒子は、ワタルの手にしている魔剣へと吸い込まれ、やがて全て消え去った。

「あー、勝ったね」
「そうみたいじゃな」

 数秒の沈黙のあと、確認するようにワタルがそう言って、マリーが同意する。
 今度こそ戦闘が終わったのだと確信し、ワタルはその場に座り込む。
 マリーはすぐにエレナの治療にかかり、それぞれ張り詰めていた糸が切れる。

「そうじゃ。ワタル、その魔剣を見せてもらっていいかの?」
「いいけど、結構重いよ」
「バカにするでない。剣の1本なら簡単に持てるわ」

 エレナの治療を終えたマリーが、興味が湧いたのかそう言って魔剣を見る。
 冗談交じりに笑ってワタルは魔剣を差し出し、マリーがそれを受け取ろうとする。
 マリーの手が柄に触れようとしたその瞬間、見えないなにかに阻まれマリーの手が弾かれる。

「む?」
「あれ?」

 マリーが魔剣を掴もうと何度手を伸ばしても、その手は弾かれ続け、持つどころか触ることすらできない。

「どういうことじゃ」
「いや、俺に聞かれても」

 2人で顔を見合わせ、魔剣をじっと見つめる。

「んー……」
「うわっ!?」

 突如、魔剣から声が聞こえワタルは慌てて魔剣を放り投げてしまう。
 投げられた魔剣は、まるで意志があるようにくるくると回転し、その姿が人へと変わる。

「初めまして。私は神殺しの魔剣レクシア。新しいマスター、私を楽しませてね」

 透き通るような薄い水色の髪に、黄金色の瞳をしたレクシアと名乗る少女……というか魔剣は、満面の笑顔でそう言った。



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