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ラノベ作家になりたい俺とヒロインになりたい嫁

アレクさん

6話 リスタート 美佳の場合

オーディションの結果発表から一夜明けた土曜日、私は所属する事務所の一室で演技レッスンをしていた。レッスンといっても今日行っているのは、来週にあるオーディションに向けての練習だ。
私の事務所は所属する声優のために、レッスン場として一面鏡張りにされた広い部屋を設けている。ここではダンスレッスンをしたり発声練習をしたり、自由に練習することが出来る。といっても使用するのは、私たちのような新人声優がほとんどだ。


「やっほ、みかっち。調子どう?」
台本を一通り練習して、水を飲んで休憩していると、ある人物が私に声をかけてきた。


「あっ、深見ふかみさん!お疲れ様です」
その人物は、事務所の先輩の深見円ふかみまどかさんだった。年齢は29歳で『魔法少女忌憚』で主人公を務めた事務所の看板声優だ。
2年前にアニメで共演してからの付き合いで、度々様子を見に来てくれる。


「…正直、どうしたらいいか分からないです。またオーディション落ちちゃいましたし、この先この業界で生きていけるのかなって……」
「まぁ、ねぇ。2年以上もアニメに出演してないとなると、自身も無くすよね。後輩も追い抜いていくし」
「うっ…!」
グッサァ!この人はいつも、人のいたところを容赦なく突いてくる。
「でもね、みかっちには他の人にはない特徴があるじゃん」
「え?」
私に特徴?声だろうか?でも、声の特徴が薄いからなかなか起用してもらえないんじゃないだろうか。演技力の問題もあるけど。
「それは、恋する乙女。といっても人妻だけど」
はっはっはと大きな笑い声をあげながら、深見さんはそう言ってくる。
「ちょっ!大きな声で言わないでください!一応非公開なんですから」
「まぁまぁ、誰かにバレたって、売れてないんだから影響ないって」
この人はまた……!
「もう…!でも、それが特徴だからどうなるんですか?」
「そのジャンルのキャラクターに強くなるってこと。事務所に入るって時点で、声に特徴はあってそれなりに演技はできるんだけど、売れるにはそれだけじゃ弱い。その声や演技をどう磨くか。私の場合は特徴的なロリボイスがあった。最初はそれを徹底的に磨いたの。実際に保育園に行って、子供たちを観察したり、甥っ子を預かったりした。それで、初めて魔法少女忌憚で主役をつかめた。それから色んな演技をアニメを通じて勉強していった」
深見さんが、努力をしているのは知っていた。売れっ子になるためには相応の努力が必要だ。だから、私も必死に練習してきた。
でも、それは間違いなんだ。視野を広げなくちゃ。
「私は、若妻の演技を磨く……」
「そういうこと。それで、キャラクターを掴むの。みかっちは、旦那さんのことが大好きだっていうやさしさがにじみ出てる。それをお芝居にも反映できるように練習するの。それから他の演技も勉強していきな。でも、急がないと若妻じゃなくなっちゃうけどね」
「それは余計です!」
「はっはっは。でも、その顔だよ。頑張って!」
後ろ手に右手を振りながら、深見さんは部屋を出ていった。


鏡に映っていた私の顔には、闘志が灯っていた。

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