不幸な男は異世界で最強になったようです

大島 こうのすけ

12#エレナの真実、21の種族

翔太は昨日のエレナの言葉の意味を考えながら王城の兵士に王の間へと案内されていた。今朝からエレナはずっと浮かない顔をしていたのを覚えている。


「こちらです。どうぞ」


そうして案内されたのはやはり王の間。見ていたリターナとほぼ変わらずの内装。変わったことといえば大臣と王様くらいだろうか。


「姪の護衛、ご苦労であった。ありがとう」


開口一番王は感謝の言葉を述べる。なぜか王が一言一句話す度にエレナが震えているのが目の端で見えた。


「君の話は弟から聞いているよ、ショウタ君。弟の妻の命を救ってくれたんだってね。私からも例を言わせてくれ」

「ありがたきお言葉。光栄です」

「出来れば表をあげてくれんか。その顔を拝みたいのだ」


翔太達は顔を上げる。ただ一人、エレナを除いて。


「?そこのローブの者も表をあげてくれ。頼む」


俺はエレナに小さく耳打ちする。


「エレナ、上げろって。早く早く」

「で、でも.....」


そう、さっきからエレナはこの調子なのだ。下を向いたまま何一つ喋ろうとしない。いつものエレナとは正反対だった。


「いいから、ほら!」


やっと折れたエレナが顔を上げる。その瞬間ローブが取れ、顔が顕になる。


「....お前は!」


エレナの顔を見た瞬間ロイの眉間にシワがよる。


「エレナ!お前今ままでどこに行っていたんだ!お前が消えてからというものこの国は大騒ぎだ!国の後継者がいなくなり大騒ぎだぞ!そんなことで国の未来が背負えると思っているのか!いい加減にしろ!政治を担うものとしてこんなことは許されないのだぞ!全く、王族の割に身勝手なことばかりしよって!ワシは情けない....」


ロイの怒号が響いている中翔太の目に映ったもの、それはエレナの今までに見たことのない表情。明るくて、元気でいつでも笑顔のエレナが見せた初めてのしょんぼりとした表情。その顔を見た瞬間翔太の怒りが頂点に達した。


「....待てよ」


翔太は跪いていた格好から立ち、静かに言い放つ。そして


「あんた何にもわかってねぇな!!国の未来だぁ?政治を担う者だぁ?ふざけてんじゃねぇぞ!あんた国の都合ばっかり押し付けてこいつの心配何一つしてねぇじゃねぇか!国が保てば娘のことなんかどうでもいいのか!?政治がしっかりとしてれば娘のことなんかどうでもいいのか!?いい加減にしろよ!こいつが逃げ出した理由わかってんのか!?分かってないからそんなことが言えるんだろ!分かってないからこいつの表情を見えてないんだろ!見てみろ!こいつの今の気持ちがわかるか!自分に愛情を注がれないで、ただただ期待されて育ってきたこいつの気持ちが!だからそんなこと言えんだろ!国の心配と娘の心配を吐き違えてんじゃねぇぞ!国の心配する前にこいつの心配しやがれクソ親が!」


翔太の怒号が周りに響く。誰もが口出しする間も無く雰囲気に気圧され、黙っていた。エレナやエミリ、ルビーは顔が真っ青になっていた。それはそうだ。普通は王にこんな口の利き方をすれば処刑だからだ。


「貴様!王になんて口の利き方を!こいつを捕らえろ!牢にぶち込む暇もなく処刑してやる!」


大臣の一言で騎士達が翔太に武器を向け戦闘態勢をとっていた。だが翔太はそんなことお構い無しに続ける。


「うるっせーな!今そんなこと関係ないだろ!今、王とかそんな立場なんて関係ねぇんだよ!一人の人間として目の前のやつの矛盾を正してるんだろうが!それがわかんねぇのか!てめぇらも武器構えてる暇があるなら黙って聞いとけ!」


そう、今の翔太を捕らえる輩は誰もいないだろう。王でさえもさっきからずっと黙っている。大臣と騎士達に関しては言葉を失っていた。


「とりあえずだ、あんた!今すぐこいつに謝れ!そして今までの事に対しての非礼を詫びろ!あんたの中にこいつに対しての罪悪感があるならな!」


翔太はそう言い放つ。そして口を閉じていた王がついに口を開いた。


「.....いい仲間を持ったな、エレナ。確かにワシは間違っていた。国の心配ばかりをして、エレナには何1つしてやれなかった。エレナにはひたすらにこの国を背負ってもらうということしか追求してこなかった。本当にすまなかった.......ショウタ君の言葉で目が覚めたよ。こんなに娘のことを気にかけてくれるものがいるなんて思いもしなかった。ありがとう。そしてすまなかった......エレナ、もう一度だけワシにチャンスをくれんか?」


エレナは少し迷うような顔をして翔太の方へと向く、翔太は静かに頷くだけだった。


「別に私は怒ってもいなければ悲しいとも思ってません。前場自分がいけないと思ってましたから。でも、裕福な暮らしはできた、それだけはありがたいと思ってます。私こそ何も言わないで背負い込んで、挙句の果てに逃げ出して、ごめんなさいお父様」


その瞬間、王の涙腺が崩壊したらしい。そのあとしばらく嗚咽を漏らしながら泣いていた。そして一段落した。


「すまない。さて、エレナせめても母さんと妹たちに顔を見せてやりなさい。ワシが言える立場ではないがね」

「わかりました。ショウタ、また明日ね今日は泊まっていくわ。じゃあね」

「分かった。明日な」


そうしてエレナは横の通路を進んでいく。


「さて、それじゃあショウタ君ちょっと来てくれんか。後ろの方々は客室に案内しろ」

「ちょ、ちょっと!ショウタ!」

「悪い、ちょっと待っててくれ、な?」

「.....分かったわ。行きましょう、ルビー」


そうして騎士を先頭にエミリとルビーは王の間を出た。


「それではワシらも行こうか」


翔太はそう言いながらエレナが入っていった横の通路へとは言っていくロイの後について行った。通されたのはおそらく今で言う談話室と呼ばれるところだろう。対面式の二脚のソファ、間に机があった。ロイと翔太は対面して座った。机にはメイドが持ってきた紅茶が置かれていた。


「さて、本来はジレンから頼まれていたものを渡すだけだったのだがね」


そういいロイは何かが沢山入っている袋とB4サイズほどの紙を机に置く。


「金貨500枚と屋敷の権利書だ」

「ありがとうござい.......屋敷の権利書!?」


翔太は驚いた。当たり前の反応である。なぜなら、報酬はなぜか金貨と住む家なのだから。


「ワシは君が気に入ったよ。ワシを前にしてあんなことを言えるのは君だけだろう。最近土地を買ったのだがね、そこに建っていた屋敷もついてきてちょうど余っていたのだよ。だからワシからのプレゼントと思ってくれていい。明日エレナも連れてそこに書かれている場所に見学に行くので君も来てくれ」

「え、えぇ......」


翔太は渋々受け取りエミリ達と城を出た。


「にしても、まさか屋敷貰えるなんてね。思いもしないわよ、あんなこと言ったのに」

「私、人生の終わりを予感しました.....」


二人の疲れた表情を見て少々罪悪感があったがそれよりも先にあるものに目が止まった。


「なんだあれ....?」


翔太が指さした先にはケモ耳の女性がたっていた。その他にもすれ違う中に度々人間ではない生き物が確認された。


「あれは獣人族アニマ猫人ケット・シーね。そう言えばショウタには話してなかったわね。この世界には21の種族があって種族ごとに順位が決まっているの。『種族序列』って言うんだけどね。1位が神族ゴッド、2位が竜族ドラゴン、3位が精霊族エレメントっていうふうに種族ごとに序列が決まっていてね、私たちは16位なの。ちなみに獣人族は9位よ」

「あんなに可愛い人とかいるのに9位なのか!?」

「まぁ、一部のやつが頑張ってるみたいなの。だから基本的には害はないわ。今のあの人みたいにね」

「へぇ~そうなのか。んじゃ俺がこの前倒したのって第二位のやつだったのか?」

「まぁ、そうなるわね」

「へぇ~あんなに弱いのか第二位って」

「あれでもまだ幼体よ。あの後に長が来たじゃない?あれはめちゃくちや強いらしいわよ」


「そうなのか。んじゃあさエミリ、あれは?」
翔太が日指した先そこには翼の生えた女の騎士が悪魔の様なものに追いかけられていた。


「あれは種族序列7位戦天使族ヴァルキリーね。んであっちが.....って種族序列6位の悪魔族デーモンじゃない!あいつらは基本地獄ヘルから出ないはずなのに....しかも3体に追いかけられてるわよ!」

「何かまずいのか?」

「まずいわよ!悪魔族の闇市では戦天使族の翼が高値で取引されてるの!だからきっとあれもそうよ!」

「お前、よく知ってんな」

「フフフ、父親を誰だと思っているのかしら?それよりも急いで助けなきゃ!」


翔太たちは戦天使族と悪魔族の飛んでいった方に急いだ。翔太たちがついた時には空中で激しい戦闘が繰り広げられていた。


「さぁ、お前のその翼をよこしな!きっと高値で売れるぞ.....ヒヒヒ....」

「何度も言うが断る!私たちにだって痛覚はある!」

「そうか、なら力づくだ!」


悪魔が襲いかかろうとした瞬間


「『サンダーアロー』!」

「『雷光ライトニング』!」


雷を宿した矢が悪魔三体の背中に刺さった。そして刺さった瞬間3体に雷が落ちた。


「がぁぁぁ!な、なんだぁ!?」


悪魔3体はいっせいにこっちを向く。


「人間!?お前らごときが俺たちに楯突こうってか!おもしれぇ、お前らの四肢も良い値になるからな、五体満足で帰れると思うなよ!」


「ダメだ!逃げろ!」


悪魔がこちらに向かってくる中、戦天使がこちらに向かって叫ぶ。だが翔太は迷わず剣を抜いた。


「五体満足で帰れると思うな?おもしれぇやってみろってんだ。エンチャント『深淵』!」


翔太の剣に水が顕現する。そして剣を構え


「『アビスブレイク』!」


ホワイトドラゴンにも叩きつけた1トンの水圧を横薙ぎに一閃した剣から放つ。その水は3体の悪魔を捉え、いっせいに勢いよく地面に叩きつける。


「がぁ!ぐっ!ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」


悪魔3体はなんとか守ったため体は潰れなかったが、相当なダメージを与えた。


「な、何なんだこいつら!人間のくせにここまで強いなんて!今日はこのくらいにしといてやる!」


悪魔は雑魚がよくいうセリフを吐き捨てて飛び去って行った。
なんかどっかで聞いたような......
翔太が首をかしげているあいだに戦天使が近づいてきた。
その戦天使はポニーテールの金髪で顔が整っていて可愛いというよりは美人、つまりは大人の雰囲気があった。もちろん下は鎧にスカートというよく分からない服装だが。


「ありがとう、助かった。今頃私一人なら翼をもがれていたかもしれない」

「気にすんなって。困っていたらお互い様って言うだろ?そういうことだ」

「助けてもらったからにはなにかお礼をしたいところなのだがすまない、私はこれから用事があるんだ。また今度会ったらお礼をさせてほしい」

「お礼なんていいさ、気にすんなって」

「それじゃあまたどこかであったらその時はよろしく頼む」


そういい戦乙女は飛び去って行った。エミリは先程から目を輝かせて見ていた。


「かっこいい~」

「え?あ、お前戦乙女が好きだったんだな」

「好きも何も!あの凛とした翼、あの整った顔!もうかっこいい以外の何をあてはめろというのよ!もう死んでもいいわ!」

「縁起でもないこと言うな。ほら、ギルド戻るぞ。もう夜だ」


気がつけばあたりは暗くなっていた。翔太たちは各々の休息を取り明日に備えることにした。

コメント

  • ノベルバ愛読者

    主人公のキャラが好き!
    面白い!更新楽しみにしてます!
    頑張って続けてください!

    2
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品