異世界転移者バトルロワイヤル
序
……俺が何に見える?
男だ。一人の人間の男。
俺はどこにいる?
小汚いスラムだ。そのスラムの隅に、フライパンの焦げみたいにへばりついた、ボロいアパートの一部屋だ。
なぜここにいる?
知るか。気がついたらここにいた。
何をしている?
働いている。食うのがやっとくらいの金を稼ぐために。
俺は何者だ?
俺はリュウマ。もともとこの世界に存在しなかったが、あるとき別の世界から突然飛ばされてきた、いわゆる“転移者”。
俺は転移者番号154831、リュウマ・タカギだ。
毎日必ず一回は、自分が何者でもない何かになったような気がする。
だからこうして自問自答をすることで自分の存在を確認する。
このまま存在が希薄になって、果てには消えてなくなればどんなに楽か。ある日突然、別の世界に飛ばされて、そこで生きなくてはいけなくなるような理不尽なことが起こるのだから、人がスッと宇宙から消え去ったっていいだろうに。
だが俺には自殺する勇気がない。発狂して働くことが不可能になることも、ストレス性の病気か何かで突然死したりすることもできない。
だから俺はこうして精神をなんとか現世に繋ぎ止めながら、転移者居住区という監獄の中、過酷な労働を強いられている。
ネズミの這う音も聞こえなくなった深夜、部屋の真ん中で俺は下着だけで胡座をかき、いつものように存在を維持する作業をしていた。しかし夕立が降るように急に外が騒がしくなり、作業は中断された。
『君たちにチャンスを授けよう』
男とも女ともつかない声が大音量で頭の中に響いた。イヤホン、という固有名詞も懐かしいが、まるで音量を最大にまで上げたイヤホンから話しかけられながら、なおかつ同じ声を部屋中に置いたスピーカーからぶつけられているような、体中が震える声だ。だが声を張り上げているわけではない。声自体は落ち着いた囁き声だ。
『君たち転移者の中から一人選び、新たな時空の監視者に据える。私が決定したルールに則った、戦闘の結果で選ぶ』
「“戦闘”?」
俺が呟くと、外がより騒がしくなった。どうやら他の転移者は部屋の外へ出てきて、この声を聞いているらしい。ということは声の主は外にいるのだろうか?
『君たちが疑問に思うのも最もだ。今から詳しく説明しよう。転移者はこの世界以外にもいる。この世界のように大勢の転移者が存在する世界もあれば、転移者がたった一人の世界もある。
私が確認でき、かつ志願した転移者の間で戦い、最終的な勝者を、新たな監視者とする。
監視者になれば、私とほぼ同等の能力が手に入り、あらゆる世界に干渉しながら、あらゆる世界のしがらみから解放されるのだ。
死亡するか、棄権するまで、戦う権利はある。わかりやすく言えば、“バトルロワイヤル”だ。どうだおもしろそうだろう』
「転移者同士で殺し合いしろってことか」
声の主が何者か知らないが、ふざけた奴だ。監視者がどうとか言っていたがきっとあいつ自身が楽しみたいという理由もあるだろう。
『では予選ということで、君たちこの世界の転移者で志願した者同士戦ってもらおう。志願は特別な手続きはない。心の中で思えばいい。志願者の頰には志願者であることを示すマークが現れる』
「まて!ここで戦わせるつもりか!」
俺は立ち上がって簡単に服を着、玄関のドアを開けて外に出た。
瞬間、俺の顔を高速で何かが掠めた。
志願者たちが、志願者かどうかも確認せずに転移者に襲いかかっている。頰にマークが入っていない非志願者が、同様に非志願者を鉄パイプで殴り、殴ったそばから志願者に刺し殺され、そいつはまた他の志願者に殴り殺される。
この混乱に乗じてただ暴れたいだけの奴や、強盗に入って金目のものを盗んでいる奴もいた。
看守のいない監獄で暴動が起きていた。
転移者の監獄で。
男だ。一人の人間の男。
俺はどこにいる?
小汚いスラムだ。そのスラムの隅に、フライパンの焦げみたいにへばりついた、ボロいアパートの一部屋だ。
なぜここにいる?
知るか。気がついたらここにいた。
何をしている?
働いている。食うのがやっとくらいの金を稼ぐために。
俺は何者だ?
俺はリュウマ。もともとこの世界に存在しなかったが、あるとき別の世界から突然飛ばされてきた、いわゆる“転移者”。
俺は転移者番号154831、リュウマ・タカギだ。
毎日必ず一回は、自分が何者でもない何かになったような気がする。
だからこうして自問自答をすることで自分の存在を確認する。
このまま存在が希薄になって、果てには消えてなくなればどんなに楽か。ある日突然、別の世界に飛ばされて、そこで生きなくてはいけなくなるような理不尽なことが起こるのだから、人がスッと宇宙から消え去ったっていいだろうに。
だが俺には自殺する勇気がない。発狂して働くことが不可能になることも、ストレス性の病気か何かで突然死したりすることもできない。
だから俺はこうして精神をなんとか現世に繋ぎ止めながら、転移者居住区という監獄の中、過酷な労働を強いられている。
ネズミの這う音も聞こえなくなった深夜、部屋の真ん中で俺は下着だけで胡座をかき、いつものように存在を維持する作業をしていた。しかし夕立が降るように急に外が騒がしくなり、作業は中断された。
『君たちにチャンスを授けよう』
男とも女ともつかない声が大音量で頭の中に響いた。イヤホン、という固有名詞も懐かしいが、まるで音量を最大にまで上げたイヤホンから話しかけられながら、なおかつ同じ声を部屋中に置いたスピーカーからぶつけられているような、体中が震える声だ。だが声を張り上げているわけではない。声自体は落ち着いた囁き声だ。
『君たち転移者の中から一人選び、新たな時空の監視者に据える。私が決定したルールに則った、戦闘の結果で選ぶ』
「“戦闘”?」
俺が呟くと、外がより騒がしくなった。どうやら他の転移者は部屋の外へ出てきて、この声を聞いているらしい。ということは声の主は外にいるのだろうか?
『君たちが疑問に思うのも最もだ。今から詳しく説明しよう。転移者はこの世界以外にもいる。この世界のように大勢の転移者が存在する世界もあれば、転移者がたった一人の世界もある。
私が確認でき、かつ志願した転移者の間で戦い、最終的な勝者を、新たな監視者とする。
監視者になれば、私とほぼ同等の能力が手に入り、あらゆる世界に干渉しながら、あらゆる世界のしがらみから解放されるのだ。
死亡するか、棄権するまで、戦う権利はある。わかりやすく言えば、“バトルロワイヤル”だ。どうだおもしろそうだろう』
「転移者同士で殺し合いしろってことか」
声の主が何者か知らないが、ふざけた奴だ。監視者がどうとか言っていたがきっとあいつ自身が楽しみたいという理由もあるだろう。
『では予選ということで、君たちこの世界の転移者で志願した者同士戦ってもらおう。志願は特別な手続きはない。心の中で思えばいい。志願者の頰には志願者であることを示すマークが現れる』
「まて!ここで戦わせるつもりか!」
俺は立ち上がって簡単に服を着、玄関のドアを開けて外に出た。
瞬間、俺の顔を高速で何かが掠めた。
志願者たちが、志願者かどうかも確認せずに転移者に襲いかかっている。頰にマークが入っていない非志願者が、同様に非志願者を鉄パイプで殴り、殴ったそばから志願者に刺し殺され、そいつはまた他の志願者に殴り殺される。
この混乱に乗じてただ暴れたいだけの奴や、強盗に入って金目のものを盗んでいる奴もいた。
看守のいない監獄で暴動が起きていた。
転移者の監獄で。
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