白髪の少年と星都市

飛荒一里

第1章 1話 「夕暮れの襲撃」

 ーー1

…ドサッ!!
起きたらソファーから落ちていた。
リビングに差し込む夕暮れの日差しは、少年・風滝鬼助かぜたき きすけを照らしていた。
「ん~~~っ」
欠伸をして気付いた。先程まで鬼助の寝ていたソファーに1人の愛らしい少女が寝ていたのだ。
「なんで良美が、寝てるんだ?」
良美と呼ばれた少女は、鬼助の妹である。
もしかして自分と一緒に寝ていたのか?なんて普通の人ならハッピーに捉えるところを鬼助は、何も考えず流す。
テレビを、つけた。
『あの謎の飛行機不時着から今日で12年目になります』
12年前に起きた飛行機不時着のニュースが、流れていた。
エンジン部分の故障による不時着だった(機体は、空港にちゃんと着陸した。)
しかしこの不時着は、当時大きな話題を呼んだ。
生存者0名(パイロットを含む)。行方不明者0名。犠牲者235名。
エンジン部分の故障は、死者を出す程度のものでも無かったとされている。
……ぶるぶる。
何故か疲れた。寝るのもだるい程度に。
実家に帰るといつもこうだ。
まぁー気分転換が、必要なのかもしれない。
外は夕暮れなので散歩に行くことにした。
テレビを消し、靴を履き外へ出る。
そしてそのまま少し遠くにある公園に向かった。


公園には、たくさんの人で賑わっていた……なんてことは、無かった。
ほぼ無人に近い寂しい公園に成り果てていた。
無理もないと言えば、そこまでだ。
最近この公園の付近で、行方不明が発生しているからだ。
……怖いもんだ。
お陰様で子供の影は、なし。一応元気なおじいちゃんおばあちゃんが、トレーニングをしていた。
イヤホンを付けて音楽を流して歩く。
しばらく歩いていると公園の雑木林に入った。
「……!」
 暗くなった。
 まぁーそんなもんだろう。と、思う。
 上を見ると緑が深く、空は見えなかった。
 気味が悪いが、四、五分程度で抜ける雑木林なので気には止めなかった。
 風が吹く。
 少し冷えてきている。
 今は4月の上旬。言ってしまえば春休みである。
 明後日には春休みは明け新しく高校生活が始まる。
 期待など微塵も無いのが、鬼助であった。
 彼は、学力はあっても成績は最低だった。その理由は、この世界において誰もが持つ異能力と言う力を持っていないからだ。
 ましてや優秀な異能力者達が集う都市・星都市では、異能力の次に学力が来るので、話にならなかった。
 勿論高校も異能力だけしか見ないのである。(←正直なところ卒業以前に留年が、心配されている)
ガサッ、ガサガサ
風で草むらの草が、揺れる。
後1分もしないうちに雑木林を抜けるだろう。
しかし
ぺチャッ
水溜まりを、踏んだ音がした。
何気無く足元を見た。
そこには赤いアスファルトと同化するかのように赤い血溜りが、あった。

……。

一瞬赤いアスファルトを透かしている水かと思った。
しかし
ポチャ。
あかい水滴が、落ちてきた。
視線を上げる。
そこには○○が、あった。
後ずさった際に、滑り尻餅をつく。
先程までまで鬼助の首があった当たりを赤い輝きを放つ何かが一線する。
鬼助の上を紅い剣を持った黒ずくめの少年が、飛び越える。
黒ずくめの少年は、紅い剣を構える。
その視線は、鬼助を見ていた。
流石の鬼助も理解した。
自分は、狙われている殺されると。
ふざけてる。
今はそれしか頭に出てこない様だ。
1度に色々とあり過ぎる。
震えている体を動かし、立ち上がる。
黒ずくめの少年が斬りかかってくる。
鬼助はそれを左右に避ける。
そして後ろを見ずに走った。
元来た道を戻る。
今は逃げることだけを考えていた。
 武器になる物なんて一つも持ち合わせてはいない。
 異能力なんてクソ喰らえだ!
 黒ずくめの少年が、跳ぶ様に走ってきた。
(速っ!)
 黒ずくめの少年の紅い剣が、上へ持ち上げられる。
「うっ…」
 危うく左へ跳ぶ。
 紅い剣の振り下ろしからギリギリのところで逃れた鬼助は、草木が少し生い茂る道の外へ転がり出た。
 鬼助、本人は慌てて逃げるも行動一つ一つが、大雑把になっている。お陰で道の外へ出た際に、体力を結構消費した。
 黒ずくめの少年は、紅い剣の振り下ろしを避けられ、鬼助を見ていた。
「ちっ……」
 黒ずくめの少年が、舌打ちを漏らす
 ぽと……
 そこへ新たなが、飛んできた。
 勿論ただの火種である。先端に火が着いたマッチの棒が。
 黒ずくめの少年に当たり、そのまま道に落ちた。
 それを黒ずくめの少年は、白い肌をした裸足の足の裏で踏んだ。
「は?」
 流石の鬼助もあまりの驚きに間抜けな声を、上げた。
「ちちちちっ」
 熱いのだろう。黒ずくめの少年は、悲鳴とは分かりづらい声を、漏らす。
 そこへ火の塊が、勢い良く飛んできた。
 意識外からの襲撃で黒ずくめの少年は、火の塊をもろに喰らう。
「ぐあっ、グァァァァ!!」
 悲鳴の叫びが、のどかな公園に響いた。
「ぅるっさい!燃えるくらいで喚かないで頂戴!」
 赤い髪の少女が、やってきた。
 少女は、早速告げる。
「ねぇねぇそこの燃え盛っているお兄さん、この森の為に肥やしにならない?」
 それは煌めく無邪気な笑顔だった。
 夕日が沈む中、鬼助と少女は邂逅する。




ーー2

黒ずくめの少年は、燃えていた。
「ぐあ、グァァァァ!!」
一般市民が、利用する公園に男の悲鳴が、響く。
黒ずくめの少年の近くには、赤い髪の少女がいた。
「手応え無いわね」
鬼助は、赤い髪の少女を見たが、少女が鬼助を見ることは無かった。名前を聞いてお礼をしなくてはいけない。
黒ずくめの少年は、燃えてながらも戦おうと剣を構える。
赤い髪の少女も構える。
鬼助は黒ずくめの少年を見ながらも逃げることをしなかった。
鬼助は、安心していた。彼女に任せれば大丈夫だ、と。
……ん?
燃える黒ずくめの少年を見ている鬼助の視界に何かを捉えた気がした。よく見ると鬼助から見て歩道を越えた先の左側に少し大きな池が、あった。
ここは公園だが、池があることを鬼助は思い出した。
少しマズいな……。
黒ずくめの少年が、気付けば消火されてしまうだろう。
「うぐ、うぐぐぐっ」
「灰より炭がいいかしら?」
悲鳴をあげる黒ずくめの少年。
強気な赤い髪の少女。
それぞれが睨み合う。
黒ずくめの少年が、燃えてまだ三十秒も経ってはいないだろう。案外耐えていた。
そして葉が落ちた音を合図に二人が、動く。
赤い髪の少女は、黒ずくめの少年へ。黒ずくめの少年は、いつ気付いたのか池へと。
「なっ!」
黒ずくめの少年は、歩道を蹴り次の瞬間にはジャッボーン
と盛大な音を立てて池に沈んだ。
「ちっ」
赤い髪の少女が、舌打ちを漏らす。
「ねぇ?白髪のあんた、どうして動かないの?」
………うっ。
それを言われて鬼助は目を逸らす。
「ま、いっかー。あんた、もしかして__」
赤い髪の少女の言葉は、途中で切れた。
バシャッ
黒ずくめの少年が、勢い良く池の水面から出てきた。
「ゴホッ、ゴホッ」
黒ずくめの少年は、その場に水を吐いた。
赤い髪の少女は、「えいっ」と可愛い声と共に指パッチンした。
予想していたのか黒ずくめの少年の下に落ちた燃える枯葉が、炎上した。火柱が、高く立つ。
しかし黒ずくめの少年も学習しており、躱される。
「ねぇー白髪。あんたのタイミングで着火してあの黒ずくめに投げて」
そう言われマッチを投げられる。
……はぁ。
黒ずくめの少年は、赤い髪の少女を斬りにかかる。
「フッ、」
黒ずくめの少年が、赤い髪の少女がいる歩道へ上がる。
「とりゃ」
赤い髪の少女は、可愛らしい声と共に指先にある小さい焔を飛ばした。
飛ばした焔は、途中でボッという音と共に巨大化する。
「ハアァァァぁぁぁぁ」
黒ずくめの少年は、それを見事斬った。
しかし次の焔が、飛んでくる事に気付かなかったのか。
すぐさま後ろへ跳ぶ。そして歩道の外の一応整備されている芝生に立つ。
それから黒ずくめの少年と赤い髪の少女は、睨み合いによって固まった。
よし!今だ!!
鬼助はマッチに火を着け、走る。
鬼助の乱入に動いた黒ずくめの少年が斬りかかってくる。それを左に躱し、同時に脚を掛けた。
黒ずくめの少年は、前に倒れる。
すかさずマッチを芝生に投げて、その場から離れる。
そして赤い髪の少女は、笑った。
マッチの火は、芝生に燃え移りやがて黒ずくめの少年を囲った。
焔陣の檻フレイムサークル
黒ずくめの少年を囲った焔は、高く燃え上がる。
やがて燃え上がる火柱が、竜の形をしてきた。
「ふふふ」
赤い髪の少女は、不気味な笑を浮かべる。
黒ずくめの少年は、竜の形をした火柱を斬る。斬り続ける。
竜の形をした火柱が、黒ずくめの少年に噛み付いた。
燃え上がる焔の円から沢山と出てくる。
黒ずくめの少年は、何度も斬るが剣一つでは対応が、追い付かなくる。
そして黒ずくめの少年は、剣を止めた。
「分かった?私とあんたの力量差って奴」
そして
「どう……かな?」
悲鳴や叫びしか上げていなかった黒ずくめの少年が、喋った。
「ハアァァァぁぁぁぁ!!」
黒ずくめの少年は、下から上えと剣を振り上げる。
ヒューウゥゥゥゥゥ
物凄い風が、起きた。
鬼助は赤い髪の少女を、見た。
バタッ……
赤い髪の少女は、歩道に尻餅を着いていた。そして赤い髪の少女の目の前には、黒ずくめの少年がいた。
「……ッ」
鬼助は、赤い髪の少女と黒ずくめの少年に近づく。
鬼助は、黒ずくめの少年の首に小さく番号が、書いてあるのに気付いた。
0008
果たして何の数字か鬼助には、分からなかった。
黒ずくめの少年は、後ろを向くと猛然と走り出した。
公園に木々に隠れて見えなくなった。
………………………。
場に静寂が、訪れた。
何なんだ?訳が分からなかった。
鬼助は、黒ずくめの少年が消えて行った方から赤い髪の少女に目を移す。
赤い髪に赤い瞳をしており、服装は青いジャージを付けていた。ちなみにその青いジャージは春休みが明けたら鬼助が通う高校のジャージであった。
そして少女は、赤い瞳を少しずつ閉じて歩道に倒れた。
近付いて見ると、ギロリッと鬼助を睨んだ。
陽は沈み街灯が、未だつかない中芝生で燃える他に行き場の無い微かな残り火達は、鬼助と少女を照らしていた。

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