オッサンラブ
一章 9
目が覚めると知らない部屋だった。
あれ?
あぁでも作りは一緒だけ、ど…。
寝起きの頭でぼんやりと記憶を辿った私は一瞬で青くなって、勢いよく起き上がった。
ふわふわの布団がとても気持ちいいって違う!
割れるように痛む頭を抱えて必死に記憶を呼び起こす。
私の部屋じゃないって事は…。
思い当たったほぼ確信に近い仮定に、私は青ざめて更に頭を抱えた。
「あぁ起きたかい」
「ぶっぶっぶちょう!」
静かに開いた扉から顔を出した見慣れすぎた顔に、私は慌てて頭を下げる。
「す、すみませんでしたっ」
頭が凄く痛いけどそんな事を言っている場合ではない。
何よりやばいのは昨日マンションに戻ってきてからの記憶が全くないと言う事だ。
私、昨日、何した?!
絶対とんでもない事をやらかした。
部長の部屋で寝ているのが何よりの証拠だ。
居た堪れなくて顔が上げられない。
「ふっはははっ!」
…へ?
もはや土下座状態の頭に何とも気の抜けた笑い声が振ってきた。
思わず顔を上げると、部長が笑いながらベッドの前まで歩いてきていた。
そのまま、当たり前のように手が頭に伸びてきてぽんぽんと撫でるように叩かれる。
「お前は面白いねい」
楽しそうに笑う部長の様子に、私はホッとした。
どうやら怒ってはいないらしい。
「あの、昨日はすみません…でした?」
「何で疑問系なんだよい」
「あ、いえ。すみません」
改めてベッドの上でビシッと土下座をすると、部長はまた笑って頭を撫でた。
そろっと見上げるとぶつかる視線。
部長がニヤリと笑った。
「どうせ覚えてねぇんだろい。まぁ運命の人ってのに会えた記念だ。なかった事にしてやるよい」
初めて見る部長の挑発的な視線に、私は不覚にも顔が赤くなってしまう。
そう言えば昨日運命の人に出会ったばかりだと言うのに、早速浮気か、私!
いや、まだ付き合ってないけどって言うか忘れてたけど。
そもそも私、別に部長の事好きじゃないし。
あぁそうだ、そうだった。
こんなにダサい男を好きになる事なんて一生ない。うん。
こんなダサ…あれ?
ダサ部長はスーツ部長に変身していた。
「何してんだい、早くしねぇと遅刻だよい」
慣れた手つきでネクタイを締めながら、部長が掛け時計を顎でしゃくる。
「何でもっと早く起こしてくれなかったんですかー!?」
私は残像が残るほどの素早さでベッドから飛び起きて、自分の部屋へと駆け出した。
バカ部長!との遠吠えを残して。
【知らず知らずに縮む距離】
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