新聞部の推理人
仮説
入学してから四回目の登校。入学当日から部活に授業にこんなに忙しい学生はほかにいるのだろうか。
「おはようございます。拓人さん」
生徒用玄関の前で声をかけてきたのは結衣だ。彼女は学年トップクラスの美人らしく、周りの男子生徒全員が拓人の方を視線を移した。
「おはよう。何かわかった?」
「いえ、インターネットを使っていろいろ調べてみましたがこれといった成果は何もなくて」
結衣は少し厳しい表情を浮かべた。
「まぁそんなもんだろ。今日も放課後部室な」
「わかりました。それでは放課後」
別れ際は必ず笑顔を見せる彼女のその笑顔は、果たして本物の笑顔なのだろうか。新聞部の部長(仮)である拓人もその厳しい顔をせざる負えなかった。
新聞の記事ができるのは早いことに越したことない。学期末に家に仕事を持って帰るなど考えたくもない。
「おい拓人!さっきのは一体何なんだよ!」
教室に入ると同時に群がってきたのは、クラスの男達だ。朝、昇降口の前で皆が狙っている学年一位の人気を持つ結衣と歩いていた。それは誰が見ても誤解されるだろう。
「あぁあれか?あれは部活の――」
「いいよいいよ、わかってる。まぁお幸せにな」
「おい!ちょっと!」
そう言って彼は廊下の方へ立ち去った。彼の名前は野島由人。クラスないの数少ない友達と言えなくもない存在だ。
クラスの男子からの拓人への視線は、とても鋭いものだった。
中島が立ち去ったあともクラス内の男子からのとても鋭い視線が彼に注がれた。
そして、そんな時間が過ぎて放課後。
「なぁ。なんか先輩からの視線が痛いんだけど」
「仕方ないよ。一年生で一番綺麗な女性とも言われている人に手を出したんだから」
「だから何もしてないって。俺部室行くから」
後輩にとてもかわいい女子が入学したと聞いたら、ほとんどの先輩は彼女と付き合いたいと考えるだろう。
そんな女子がその同い年の後輩の特に目立たない男子生徒に取られたとあれば、それは余りにも先輩からしたら面白くない話だ。
「どうも、今朝ぶりだな」
「おはようございます。今朝ぶりですね」
二人の部活の始まりは挨拶から始まる。周りから見たら誤解する人もいるかもしれないが、これが彼らの日常だ。
「じゃあ早速始めるか」
そうつぶやくと拓人は、教室の端からホワイトボードを机の近くまで持ってきた。
「まず、わかっていることを整理するとこの事件は全て60年代初頭から70年台にかけて、いわゆる学生運動が盛んな時代だった訳だ」
「と言うことは七番目の事件も学生運動ということですか?」
結衣は目を輝かせてこちらを見つめてくる。
「そう言い切れる根拠は無いが、流れからするとそれかそれに関連したものに違いないだろう。それと……あまりこちらを見るな」
「あっ、すみません」
彼女は頬を赤くし少し俯いた顔をしていた。
しかし、拓人の方はと言うと注意をしたもののあまり気にしていなかった。
「それでは話を戻して。この七回目の事件が伝えられていない理由だ」
拓人は考えられる理由として四つをホワイトボードに書いた。
一、七件目は最初から存在していなかった為。
二、七件目は伝えられるに連れて忘れ去られてしまった為。
三、七件目の事件は発生したが、後から学校側が揉み消した為。
四、七件目は被害者もしくは被疑者の生命の危機があった為。
「ほほう。どれも実際にありそうですね」
結衣は興味深そうにホワイトボードを見つめている。
「俺が現時点で考えている内容は以上だ。質問はあるか?」
「無いです。たった一晩でこれだけ考えられるのはすごいです」
この四つの可能性をたった今考えついた内容であることは結衣にとっては秘密であるが、結衣はこれらの可能性に熱心に食いついていた。
「それでは次は私の番ですね」
結衣は席を立ち上がりホワイトボードへと向かった。それと入れ替わりに拓人はホワイトボードの前に用意された椅子に座った。
「私が一晩考えて思いついた内容はこれら三つの可能性です」
一、七件目の事件は誰かが死亡もしくは重傷を負いそれを隠すためにその事件を七件から外した。
二、七件目は製作者が面白さを出すために存在しないものを入れた。
三、七件目はこれから起きる可能性があるもの。
「私が考えたのは以上です。何か質問はありますか?」
結衣は発表を終えるとホワイトボードの前にある席へ座った。
「いや、俺からは特にない。お前は?」
「僕からも特には無いね」
「きゃっ!」
結衣は突然現れた彼の姿に思わず椅子から転げ落ちてしまった。
「大丈夫か?」
「平気です。ところでこちらは」
「あぁ。こいつはゴミ――」
拓人が珍しくボケようとした瞬間に襲われた後頭部を強打するような感覚は、悠斗が振り上げた教科書だ。
「ハハハ。ごめんごめん。僕の名前は椚原悠斗。この新聞部のもう一人の部員さ」
「それはそれは――私は錦戸結衣と申します。今後はよろしくお願いします」
「おい――俺――は――」
拓人は先ほどの衝撃で椅子の後ろで頭を抱えながら倒れ込んでいた。
「けどすごいね。たった一晩でノート一冊分もまとめて更にそこから可能性を絞り込んだんだから」
「そうですかね?私はただ夢中に調べてノートに書いていただけですから」
「俺のこと……忘れてないか?」
復活した拓人の声に驚くように振り向いた二人は、彼の存在をようやく思い出した。
「わ、忘れてないよ――けど拓人のことだからこれ以外にももう少しはわかっていることはあるんじゃないの?」
「あぁ。少しはな」
そう言うと拓人は、ホワイトボードへと向かい書いてある内容をすべて消した。
「色々挙げたけどここからさらに絞り込むとだな」
拓人は手元に置いてあったペンを持つと、ホワイトボードに内容をまとめ始めた。
「まずは俺が上げた三つ目だがこれは無い。自分で上げたもので何なんだけどもし、もみ消していたとしたらこの七大事件は残っていないだろう」
拓人の説明に、結衣は彼の説明に全神経を集中させていた。
悠斗は壁に寄りかかって大人しく聞いている。
「そして俺が上げた四つ目と結衣が上げた一つ目。これも可能性は低いだろう。たかがひとつの高校の運動で死者を出すほどのことはやらないだろうし、もしやったとしたらそれはなにかの公的記録に残るはずだ。
そして結衣が選んだ三つ目。これもおそらくないと思う。この七大事件を選んだ奴はそこまで考えているとも思えない」
「なるほどね」
悠斗は拓人の説明を聴き終わると寄りかかっていた体を立ち上げた。
「自分で言ったことを後でちゃんと否定できるあたりさすが拓人だね」
「うるさい黙れ!」
拓人は表情はあまり変えなかったものの、今の一言で少しイラっとしていた。
「僕もその説明は納得かな。結衣さんはどう?」
「私の意見が否定されたことはショックですけど、否定はできません」
結衣は一瞬ショックそうな顔を見せたが、すぐに笑顔へと切り替わった。
「まぁけど、断言はできないから今後調べないとな」
拓人が説明を終えると、最終下校時刻が近づくチャイムが校内を包んだ。
「じゃあそろそろ帰りますか」
「そうだな」
三人は素早く片付けを行い、教室を後にした。
そして、結衣は違う方向のバス、悠斗は車で迎えの現在、帰りのバスとバスが来るまでの待ち時間は拓人の一人での時間がやっと出来た。
拓人は今日の内容を整理して、明日以降の行動スケジュールを考えていた。
部長(仮)ならではの仕事だ。
「明日も調査会議かな……」
そんなことを呟いて、彼の一日が終わった。
「おはようございます。拓人さん」
生徒用玄関の前で声をかけてきたのは結衣だ。彼女は学年トップクラスの美人らしく、周りの男子生徒全員が拓人の方を視線を移した。
「おはよう。何かわかった?」
「いえ、インターネットを使っていろいろ調べてみましたがこれといった成果は何もなくて」
結衣は少し厳しい表情を浮かべた。
「まぁそんなもんだろ。今日も放課後部室な」
「わかりました。それでは放課後」
別れ際は必ず笑顔を見せる彼女のその笑顔は、果たして本物の笑顔なのだろうか。新聞部の部長(仮)である拓人もその厳しい顔をせざる負えなかった。
新聞の記事ができるのは早いことに越したことない。学期末に家に仕事を持って帰るなど考えたくもない。
「おい拓人!さっきのは一体何なんだよ!」
教室に入ると同時に群がってきたのは、クラスの男達だ。朝、昇降口の前で皆が狙っている学年一位の人気を持つ結衣と歩いていた。それは誰が見ても誤解されるだろう。
「あぁあれか?あれは部活の――」
「いいよいいよ、わかってる。まぁお幸せにな」
「おい!ちょっと!」
そう言って彼は廊下の方へ立ち去った。彼の名前は野島由人。クラスないの数少ない友達と言えなくもない存在だ。
クラスの男子からの拓人への視線は、とても鋭いものだった。
中島が立ち去ったあともクラス内の男子からのとても鋭い視線が彼に注がれた。
そして、そんな時間が過ぎて放課後。
「なぁ。なんか先輩からの視線が痛いんだけど」
「仕方ないよ。一年生で一番綺麗な女性とも言われている人に手を出したんだから」
「だから何もしてないって。俺部室行くから」
後輩にとてもかわいい女子が入学したと聞いたら、ほとんどの先輩は彼女と付き合いたいと考えるだろう。
そんな女子がその同い年の後輩の特に目立たない男子生徒に取られたとあれば、それは余りにも先輩からしたら面白くない話だ。
「どうも、今朝ぶりだな」
「おはようございます。今朝ぶりですね」
二人の部活の始まりは挨拶から始まる。周りから見たら誤解する人もいるかもしれないが、これが彼らの日常だ。
「じゃあ早速始めるか」
そうつぶやくと拓人は、教室の端からホワイトボードを机の近くまで持ってきた。
「まず、わかっていることを整理するとこの事件は全て60年代初頭から70年台にかけて、いわゆる学生運動が盛んな時代だった訳だ」
「と言うことは七番目の事件も学生運動ということですか?」
結衣は目を輝かせてこちらを見つめてくる。
「そう言い切れる根拠は無いが、流れからするとそれかそれに関連したものに違いないだろう。それと……あまりこちらを見るな」
「あっ、すみません」
彼女は頬を赤くし少し俯いた顔をしていた。
しかし、拓人の方はと言うと注意をしたもののあまり気にしていなかった。
「それでは話を戻して。この七回目の事件が伝えられていない理由だ」
拓人は考えられる理由として四つをホワイトボードに書いた。
一、七件目は最初から存在していなかった為。
二、七件目は伝えられるに連れて忘れ去られてしまった為。
三、七件目の事件は発生したが、後から学校側が揉み消した為。
四、七件目は被害者もしくは被疑者の生命の危機があった為。
「ほほう。どれも実際にありそうですね」
結衣は興味深そうにホワイトボードを見つめている。
「俺が現時点で考えている内容は以上だ。質問はあるか?」
「無いです。たった一晩でこれだけ考えられるのはすごいです」
この四つの可能性をたった今考えついた内容であることは結衣にとっては秘密であるが、結衣はこれらの可能性に熱心に食いついていた。
「それでは次は私の番ですね」
結衣は席を立ち上がりホワイトボードへと向かった。それと入れ替わりに拓人はホワイトボードの前に用意された椅子に座った。
「私が一晩考えて思いついた内容はこれら三つの可能性です」
一、七件目の事件は誰かが死亡もしくは重傷を負いそれを隠すためにその事件を七件から外した。
二、七件目は製作者が面白さを出すために存在しないものを入れた。
三、七件目はこれから起きる可能性があるもの。
「私が考えたのは以上です。何か質問はありますか?」
結衣は発表を終えるとホワイトボードの前にある席へ座った。
「いや、俺からは特にない。お前は?」
「僕からも特には無いね」
「きゃっ!」
結衣は突然現れた彼の姿に思わず椅子から転げ落ちてしまった。
「大丈夫か?」
「平気です。ところでこちらは」
「あぁ。こいつはゴミ――」
拓人が珍しくボケようとした瞬間に襲われた後頭部を強打するような感覚は、悠斗が振り上げた教科書だ。
「ハハハ。ごめんごめん。僕の名前は椚原悠斗。この新聞部のもう一人の部員さ」
「それはそれは――私は錦戸結衣と申します。今後はよろしくお願いします」
「おい――俺――は――」
拓人は先ほどの衝撃で椅子の後ろで頭を抱えながら倒れ込んでいた。
「けどすごいね。たった一晩でノート一冊分もまとめて更にそこから可能性を絞り込んだんだから」
「そうですかね?私はただ夢中に調べてノートに書いていただけですから」
「俺のこと……忘れてないか?」
復活した拓人の声に驚くように振り向いた二人は、彼の存在をようやく思い出した。
「わ、忘れてないよ――けど拓人のことだからこれ以外にももう少しはわかっていることはあるんじゃないの?」
「あぁ。少しはな」
そう言うと拓人は、ホワイトボードへと向かい書いてある内容をすべて消した。
「色々挙げたけどここからさらに絞り込むとだな」
拓人は手元に置いてあったペンを持つと、ホワイトボードに内容をまとめ始めた。
「まずは俺が上げた三つ目だがこれは無い。自分で上げたもので何なんだけどもし、もみ消していたとしたらこの七大事件は残っていないだろう」
拓人の説明に、結衣は彼の説明に全神経を集中させていた。
悠斗は壁に寄りかかって大人しく聞いている。
「そして俺が上げた四つ目と結衣が上げた一つ目。これも可能性は低いだろう。たかがひとつの高校の運動で死者を出すほどのことはやらないだろうし、もしやったとしたらそれはなにかの公的記録に残るはずだ。
そして結衣が選んだ三つ目。これもおそらくないと思う。この七大事件を選んだ奴はそこまで考えているとも思えない」
「なるほどね」
悠斗は拓人の説明を聴き終わると寄りかかっていた体を立ち上げた。
「自分で言ったことを後でちゃんと否定できるあたりさすが拓人だね」
「うるさい黙れ!」
拓人は表情はあまり変えなかったものの、今の一言で少しイラっとしていた。
「僕もその説明は納得かな。結衣さんはどう?」
「私の意見が否定されたことはショックですけど、否定はできません」
結衣は一瞬ショックそうな顔を見せたが、すぐに笑顔へと切り替わった。
「まぁけど、断言はできないから今後調べないとな」
拓人が説明を終えると、最終下校時刻が近づくチャイムが校内を包んだ。
「じゃあそろそろ帰りますか」
「そうだな」
三人は素早く片付けを行い、教室を後にした。
そして、結衣は違う方向のバス、悠斗は車で迎えの現在、帰りのバスとバスが来るまでの待ち時間は拓人の一人での時間がやっと出来た。
拓人は今日の内容を整理して、明日以降の行動スケジュールを考えていた。
部長(仮)ならではの仕事だ。
「明日も調査会議かな……」
そんなことを呟いて、彼の一日が終わった。
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