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新聞部の推理人

神木孝弘

入部

 桜も少しずつ咲いてきて、いよいよ春らしくなってきた。
 気温も過ごしやすい正に最高と言える時期が近づいていた。
 
 「卒業証書  吉岡拓人」

 さて、3月に入るとどの学校も卒業シーズンを迎える。 
 卒業するのが悲しくて泣いている人。
 未来への期待を込めて歩む人。
 卒業が嬉しくてしょうがない人。
 そんなことどうでもいいと思っている人。
 卒業生にも様々な人がいるだろう。

 「ご卒業おめでとうございます。保護者を代表しましてお祝いの言葉を申し上げます」

 そんな俺、吉岡拓人は今日この、浜崎中学校を卒業した。
 青春の三年間を刻んだこの学校を今日、離れることとなる。
 その三年間が果たして最高の三年間だったか最悪の三年間だったかは人それぞれだろう。
 俺の意見は、とてもどうでもいい。
 人生何十年の三年だ。そんな三年間よりもそのあとの高校の入学式までの春休みの方が俺にとっては楽しみだ。

 「よし拓人!このあとカラオケでも行くか?」
 「いいや、俺はパス」
 「それじゃあ春休み中も連絡くれよ!」

 卒業式の終わったあとの玄関は、とても賑わっている。
 俺は、その人ごみをかいくぐり家路に着いた。
 
 
 朝7時ちょうど。拓人の寝室には目覚ましが鳴り響いている。
 
 「あぁ……学校ダル……」
 
 今日から新しい日常が始まる。青春で一番輝く薔薇色の高校生活の始まりの日だ。
 高校へは家から自転車で30分。遠くもなく近くでもない距離だ。
 とても輝いている朝日は、春休みの間引きこもっていた彼にはとてもきつい。
 
  「こんな時間から郵便か?」

 玄関横のポストに少し視線を移すと、手紙が一通入っていた。

 『弟よ!元気でやっているかな?私は今日から世界一周の旅が始まります!君が新たなスタートを切る瞬間に立ち会えないこととても悔しいです。』
 「あはは、良かったな」
 『さて、君は今日から浜岡高校に入学するわけで私の後輩となります。これからは先輩であるお姉ちゃんに敬語を使うこと(笑)』
 「いや、それは無いな」
 『と、そんな話は置いといて弟くん。君は部活や委員会に入りたいとは思って……はいないよね(笑)そんな君にお姉ちゃんからサプライズ!君の入る部活をあらかじめ恩師の先生にお願いしてあります!』
 「は?おいちょっと」
 『ホームルームの後に迎えが来ると思うわ。それじゃあ私は最初の国、オーストラリアに向かいます。それじゃあ着いたら電話するね。弟くんの新たなる旅立ちを祝して。see you again
 吉岡恵美』
 「……」

 その手紙を読み終わったあとの拓人の顔は死んでいた。
 目はまるで死んだ魚のような目をしてただ呆然としている。
 手紙の感想は……言葉が出なかった。

 「あのクソ姉貴ィィィィィィィィィ」
 
 彼はその呆然とした顔のままバス停に向かった。右手に姉からの手紙を持って。

 「よ!拓人。どうしたそんな浮かない顔して」
 「この手紙を見てくれよ……」

 数人が並んでいるバス停の一番後ろに拓人と小学生の頃からの親友の悠斗がいた。
 
 「これは傑作だ。いいじゃん高校生らしい生活が送れるんだから」
 「笑うなよ。これでもいい迷惑なんだよ」
 
 悠斗は腹を抱えて笑った。周りの乗客が一斉に悠斗の方を向き、悠斗は笑い声を抑えた。
 
 「けどさ、いいお姉さんだと思うけどね」
 「あれのどこが……というか俺は帰宅部が良かったのに」
 「もう決まったことだよ。僕も気が向いたら手伝ってあげるからさ」

 そんな会話をしていると、学校方面へ向かうバスがやってきた。
 時間は朝7時。通勤時間帯で満員だ。バスの車内に一杯の乗客を乗せてバスは出発した。
 
「次は 浜岡高校前 浜岡高校前……次、止まります」

 降りるバス停の放送が聞こえても、誰かがボタンをすぐさま押してくれる。なんとまぁめんどくさがりの人には親切な仕組みなのだろう。

 「着いたね。これが毎日とか考えるだけでぞっとする……」
 「ほら行くぞ。文句よりも受付が先だ」

 バスを降りた二人は目の前の校門に向かって歩き始める。

 「ところで拓人はなんでこの学校選んだの?」
 「姉貴の御意向だよ。俺は別にどこでも良かったからさ」

 二人の会話は、高校入学直後の生徒によくある会話だ。実に青春らしい。
 
 「受付お願いします」
 「お預かりしますね。えっとー吉岡拓斗さん」
 
 高校生活はおそらくとても楽しいものだ。そんな高校生活がまもなく始まろうとしていた。受付の周りは記念撮影する人、友達を待っている人など様々だ。入学式当日ぐらいは誰しもが浮かれるだろう。拓人のように入学式に嬉しいや希望という単語が頭にひとつも浮かんでいない彼はある意味特殊だろう。   

 「吉岡拓人さんのクラスは1年C組です。そこの階段を上がって二階になります」
 
 受付が完了すると、拓人は少し速歩きで教室に向かう。
 既に彼の頭の中には校内の見取り図がインプットされている。先輩の案内など余計な世話をかけないためにだ。

 「何組だった?」
 「C組。お前は?」
 「残念。僕はF組だよ」
 「じゃあお前とはここでサヨナラだな。それじゃあ」
 「ちょっと待ってよ!もう……」
 
 C組は2階、F組は3階にあるため階段でふたりは分かれるのだが、拓人は早く一人になりたいため急ぎ足でC組に向かった。
 そしてそれからは何も起きることなく、ホームルームと入学式が執り行われた。
 そして放課後。

 「やっほー!拓人」
 「お前なんでこんなところにいるんだよ」
 「いやだってさ、君が何部に入るか気になるからさ」
 「お前絶対面白がってるだろ」
 「そんなことないって」

 悠斗は笑顔でその笑いを隠しながらそう言った。
 いよいよその部活の迎えがやって来る時間がやってきた。

 「失礼します。吉岡拓人さんはこちらにいますか?」

 やってきたのは一人のスーツをしっかりと着こなした大人の女性という感じの人だった。年齢は……明らかに高校生ではない。見た感じ先生だろう。

 「俺が吉岡拓人ですけど」
 「そうですか……お姉さんから聞いています。それではこちらへ」

 彼女は数秒間拓人のことを見ると、特に理由など言わずに案内を始めた。

 「眠いのになんでこんなこと……」
 「先生に聞こえるよ。僕もついて行ってあげるから」
 「別にお前はついてこなくていいんだけど」

 三人が向かった先は特別棟4階。情報研究準備室だった。

 「それじゃあここが部室になります。入部届けが書けたら職員室石垣先生のところに持ってきてください。それじゃあ――」
 「ちょっと待ってください!ここ何部ですか?
 「見てわかるでしょう。新聞部ですよ」
 「ほかの部員は?」
 「あなた達だけのはずです」
 
 部室内はとても閑散としていた。特別棟の最上階の一番端にあるため前の廊下も通る人は少ない。
 
 「すみません。私は顧問じゃないのでこれ以上はわかりません。それでは」
 
 そう言い残すと、先生は教室を去っていった。
 部室内は、再び静寂に包まれる。特別棟の最上階の一番端など来る生徒はほとんどいない。そもそも特別棟の最上階の教室はほとんど使われていない。

 「拓人はどうするの?」
 「ほかにやることもないし、入らないと姉貴に何されるかわからないからとりあえず入るしかないよな」
 「じゃあ僕も入ってあげるよ」

 こうして、二人の新たな高校生生活と新聞部での生活が始まった。
 


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