普通な僕の非日常

Kuro

第11話 今、昔

    氷室雄輝ひむろゆうきの屈託ない表情の元、僕は静かに、しかし、多大な激情に駆られながら確かなものとして覚悟を固めた。
   氷室の質問に答えを示そう。
拳に僅かな力を込め、自分への意思確認を行う。
「氷室、お前が僕にした質問に答えるよ」
   口調は平坦に、表情には特別な意味を込めずに正面から向き合う。
「おっ?三つ目の質問がまだだぜ?」
   どこか嘲るように僕を上から見る。
「三つ目は要らなくなった」
   逸らすことなく双眸を合わせる。最早逃げることなど叶わない。
「そうか!なら答えてもらうぜ・・・・・・アレがお前の本当の顔なんだな?」
   ゆっくりとゆっくりと口元を意識して空気を震わせ、抑揚も起伏も無く極めてフラットに、そうであることが当然かのように、周知の事実であるかのように、彼へ正解を告げる。













「あぁ、そうだ。アレが本当の僕だ」







   彼は直立不動のまま数秒を過ごした。
「え・・・・・・マジで?」
どうやら僕の回答に驚いたらしく、こちらをまじまじと見つめる。
「なんでお前が驚いてんだよ」
   驚く権利は僕にある。氷室が驚いていることに僕が驚く権利が。
「いや~本当に当たってるとは思わなくて・・・・・・」
   頭をガシガシと乱暴に掻きながら妙に照れ臭そうにしている。
「お前、カマをかけていたのか?」
   まさかそんなことは無いだろうと八割がた冗談で言う。
「あー、いや、まぁ、そんな感じだな」
・・・・・・そんなことなくなかった。
   やはりコイツには勝てない。カマをかけられて負けるとは。というより、カマをかけられたことで負けるとは思わなかった。
    そもそも僕が勝てないと悟った理由は彼へ行った質問に全てある。
    僕が一番最初に立てた仮説から対策が生まれ、勝敗が生じた。
『氷室雄輝は絶対的な運を持つ』
それが僕の立てた「ありえるはずのない」仮説である。
何をしても上手くいき、何もしなくても上手くいく。完全無欠のパーフェクト人間。
一言で言うならガチのチート野郎、略してガチート野郎。あまり略す意味無いな。
    何でもかんでも事が良いように運びすぎだと思えてしまったのだ。僕の表情に気づいたのも、超絶イケメンなのも。その他諸々僕の知り得る範囲の出来事全てが。
    その仮説の立証のための最初の質問だ。
こう問いかけた。「今まで失敗したことがあるか」単純な話ではあるがこの問の答えが「ない」であれば晴れて仮説立証。何をしても無駄だと諦め、田舎に帰るため荷物をまとめていたっぺ。まぁ、僕の実家は田舎じゃないのだけれど。
    氷室の答えは「ある」だった。こちらとしては彼の示した答えは落胆させるものであり歓喜を与えるものでもある。
    表面上の意味のみを浚うのであれば、ガチート野郎ではない事の証明に留まるが、さらに深く意味を読み取ろうとするなら「勝てる可能性」が少なくとも残っていることに繋がる。
    第2の質問の登場だ。「生きてきた中で一番の成功はなんだ」と問いかけた。第一の質問ですぐさま破り捨てられた「運」というワードから手を離さずに仮説を再構築した。その結果出てきた結論は、
『何らかの運を持っている』
最初の焼直しと言われてしまえば返しようがないのだが、どうも他の考えには至らなかった。彼の気づきがそれほどまでに異様に感じられたのだ。
    彼は多少困惑しながらも答えた。「豊沢でレギュラーを取れたこと」と。
僕は言葉から、理論の抜け落ちた部分を補填しようと試みた。
   一番の成功がバスケットボールであるのならば簡単に目処が立ちそうなものであるが、実質そうではない。
   部活動でレギュラーの座を獲得するには技術があるのは大前提として、他にも様々な要因がある。
    例えば、練習中に怪我をしてしまえばレギュラー以前にプレイそのものがままならない。部の連携が自分と合わなければメンバーに選ばれることもない。監督とウマが合わないが故にバスケットボールを辞める人でさえいるのだ。
    『何らかの運』というアバウトすぎるワードの前では第二の質問だけでは情報が欠落しすぎている。
    決め手に近い何かが明らかに足りなかった。その何かを見つけるための余談を持ちかけ、同時に第三の質問が最大効果を生み出すように準備を進めようとしたのだ。
    結果から言えばそれら全ては無駄になってしまったけれど。
    氷室の中学校時代のエピソード。会話のクッションとして求めたそれが僕を真っ直ぐに正解へと導いた。本当に正解かどうかはわからないがきっと正解なのだろう。検証も試行も質問だってしていない。だがわかる。それがこの問の解で、一つだけだということが。
    氷室雄輝は運など持っていなかった。
    彼は、なんら不思議なことなど無く、無駄に頭を使って考えるのがバカバカしい程単純に、味気なく、踏んできた過程が全て無に帰すまでの――――――

















――――『天才』だった。









ただそれだけ。本当にその二文字に尽きたのだ。
    運が関係あるのは顔だけ。イケメンだけは超運がいい。
    『天才』とはいうものの、種類がある。ここから先は僕の想像なのだが、彼の場合は『努力の天才』だったのだと思う。・・・・・・僕は別に予備校教師になりたいわけでも熱いテニスプレイヤーになりたいわけでもないことだけは言っておこう。
    氷室の語った自分自身の姿は、それはそれはひたむきに努力する少年の話だった。偽りでも謙遜でもなく真実なのだろう。
    努力し続ける輝く男の道に、僕みたいな道端の石ころから欠けた破片如きが敗北を与えていいはずがない。だから彼が勝ち、僕が負けた。
    勘違いしないで欲しい、勝ちを譲ったのではない。本質的な負けはどう取り繕おうが負けなのだ。
    そもそも勝負にすらなっていなかった。始まる前から負けていた。氷室に会った時点で僕の勝負は始まり、終わっていたのだから。
    大体こんなものだろうか。とりあえずガチート野郎じゃなかっただけ安心だ。危うくライトノベルの主人公化するところだった。
    いや、天才という側面で見れば主人公なのか?下手をすればチートより酷いかもしれない。
・・・・・・まぁ、普通で凡人な僕には到底理解することなど不可能なことではあるが。



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そういえばよ、と前置きをして氷室が口を開く。
「なんで自分の表情を隠すなんて真似してたんだ?」
微塵も共感する点がないと言わんばかりの意味を込められた疑問を投げかけられた。
    当然といえば当然だ。特に彼にとっては迷宮入りするほどのミステリーに違いない。出会って数日もないがある程度のことはわかってしまう。こいつは表情が豊か過ぎる。篠宮しのみやさんに負けず劣らず言葉より表情で会話をする。多分両方とも嘘が苦手なタイプだ。嘘をつかれることに関しては見当がつかないが、つくのはめっぽう弱そうである。
    無意識に空中を捉えていた目線を彼にやる。
「・・・・・・長いが聞くか?」
   既に生徒は帰宅しているであろう時間だ。そろそろ警備員が各階を回る頃合い。幸い屋上の見回りは最後になるから時間はある。しかし、各々カバンやらリュックサックやらの荷物を同じ教室に放置しているため悠長に過ごしてはいられない。
    あまり気乗りのしない提案をもちかけてしまったものだ。どうもこれまでの自分とは心の持ちようが変わってしまったように思える。
「省略して聞かせてくれ」
「元々そのつもりだけど、篠宮さんはどう?時間も遅いし先に帰っておく?」
「ううん、あたしも聞きたい」
    表に出すことはなかったが内心ホッとした。篠宮さんに今から話すことを聞いて貰わなければ、僕は単に嘘つきの上辺だけの薄っぺらい紙のような人間だと思われてしまいそうだったから。ちなみに、実際そうじゃないか等のコメントは受け付けません。
「じゃあ、手早く話す。これは僕が小学校の頃の話だ・・・・・・」



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  昔の自分は何でもできた。なんでもとは言ってもその基準は小学校の低学年レベルの話だ。流石に微分積分やブラウン運動などの高等学校で習う分野の勉強はできないし、出来る範囲といえば精々中学校二年の初めのほうまでの内容だった。それでも小学校低学年にしてはかなりの天才であることは誰の目にも明白だった。運動のほうもそれなりにできるほうだったのも覚えている。リレーをすれば確実にアンカーに選ばれ、クラスに優勝をもたらす勝利の神さながらの働きをした。僕の小さいころにはこの言葉は流行らなかったけれど、いうなればチートであった。無論、自覚はあった。あったからこそ事件は起きてしまったのだ。

 すでに木々から伸びた枝からは緑が失われ、茶色にくすみつつある季節だった気がする。うん?なんでそんなに時期が曖昧なのかだって?すまない。当時のことはあまり覚えていないんだ。幼かったからでもあると思うが、僕にとっては最も消し去ってしまいたい過去だから。

 僕には特別仲のいい友人がいた。今も一緒にいれば確実に幼馴染みといわれるレベルの仲の良かった女の子が。顔や髪型や身長などの容姿だけにとどまらず、声も、名前でさえも今となっては何一つ記憶にないが間違いなく存在したのだ。仲良くなってしまった原因はわからない。気づいたら一緒に笑いあっていた。小学生にしては結構ませているだろうが、恋さえもしていたのだろう。・・・・・・なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。急に話すのやめたくなってきちゃった。もう終わっていいだろうか。・・・・・・まぁ、冗談は置いといて。

 そんな折である。周りの男子が不穏な動きを見せ始めたのは。その女の子にちょっかいをかけるようになったのだ。しかしながら、ちょっかいをかけるのは低学年男子にはよくあることではある。実際に僕だって他の女の子にふっかけたことだってあった。じゃあ何が問題かといえば、ちょっかいの度合いにあるのだ。最初のほうはどう見てもいじりの範囲であったけれど、日が経つにつれて看過できない領域にまで来てた。端的に言えばいじめに発展していたのだ。手を出されたり外面的な傷を負ったのではなく、陰口や根拠のない噂による被害などの表に出づらい陰湿なものだった。彼女の一番近くにいた僕でさえも気づくのにかなりの時間がかかった。というのも、彼女が我慢強い性格だったのだろう。いじめに発展した後も誰にも相談することもなく一人で耐え続けて、僕が問いかけるまで何も言うことはなかったのだ。

 僕はいじめが発覚した時、怒りで頭がはちきれそうだった。いじめた男どもには勿論のこと、それ以上に自らに腹が立っていた。気づいてあげれなかったことにではない。彼女から相談すらされない自分の頼りなさにだ。僕が信用に値する人間だったのであれば彼女のいじめを傷が深まる前に阻止できたはずだった。彼女にはすでに傷ができていて、何もかもが遅かった。

 いじめは最終的に僕が終わらせた。いじめていた男どもを全員ぶん殴ってそのまま終わり。当事者の一人になぜいじめを始めたのか聞いた時には心底くだらないと思った。なんだと思う?男の子はこう答えたんだ。

 「佐藤に嫉妬した」

 ただそれだけの理由で彼女は傷つけられたのだ。彼女には何の非もなかった。醜い感情に汚いやり方で、ごみのような人たちに穢された。
  僕は憎んだ。憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んだ末に醜い自分をまた憎んだ。
  僕は憎しみを自分の中に全部余すとこなく詰め込んだ。僕は救われてしまった。けれど、確実に救われない僕もそこにはいた。


 それから数日後。小学生の噂好きは目を見張るもので、その日の出来事はすぐに学校中に広まった。おかげで誰も彼女をいじめることはなくなった。加えて彼女に近づく人もいなくなった。誰一人として。あぁ、勿論僕も例外なく。関わってしまえば再発してしまいそうで怖かったから。傷つけるくらいならもう何もしないほうがいいと思ったから。そんな身勝手な、理由とも呼べない言い訳で彼女とのつながりを絶った。

 それから少しあと、彼女はどこかの学校に転校した。誰にも何も言わずに。結局僕はどこまでも助けることができなかった。何一つとして彼女にしてあげれなかったのだ。

 彼女が消えたあの日から、何でもできる僕は何にもできない僕へと姿を変えた。



*********************



 「それから僕は目立つのを避けて、『普通』を心がけて生きてきた。本当の顔を隠しているのはもう同じようなことを繰り返したくないからだ」
 フェンスの向こう側をふと覗いて見れば、今朝通った通学路の街灯に明かりが灯っていた。
かなり短縮して話したつもりだったが、ずいぶんと時間が経ってしまっていたらしい。頭上に広がる空は夜の色をたっぷりと吸い上げてしまっていた。
「踏み込んですまなかった・・・・・・」
   深々と氷室が頭を下げた。さっきまでの態度がまるで嘘かのように一変した。どうやら僕の話が想像よりも遥かに重かったらしい。
「聞いてくれと言ったのは僕のほうだ。お前が謝ることじゃない」
   半ば強制的に言わされた感は否めないが、最終的に聞いてもらったのは僕のほうからなのは間違いないので彼が謝るのは本当に筋違いなのだ。「いや、でも・・・・・・」という彼を押しとどめて僕はつづけた。
「謝らなくていい、その代わりにこのことは誰にも言うな。それで僕は満足だ」
「あぁ、わかった・・・・・・」
   氷室が頷きそれに倣うように篠宮さんも顔を縦に振った。
「なぁ佐藤、少し言い難いんだが・・・・・・」
   妙にもじもじしながら話しかけてくる氷室。なんだこいつ。そっち系の仕草をするのはもうやめてほしいんだが。
「おい氷室。そういうのはもうやめろよ・・・・・・」
「何をやめるんだ?」
「その~、なんだ。そっち系というか、ホモ的なやつをだな・・・・・・」
   なんでこんなことを顔を赤らめて言わなければならないのだろう。氷室ホモ疑惑が僕の中で着々と色濃くなっていくのだが。
「佐藤、お前やっぱりそういう趣味あんのか?」
「だからなんで僕がホモ扱いを受けてるんだ!?」
「いや、なんか俺に何度もホモとかそういう系とか『いかにも』なことばっかり言ってくるじゃん?」
・・・・・・全部の罪を僕に被せやがった。篠宮さんの前でこんな恥をかかされるだなんて思ってもみなかった。
今までので誤解されていたら氷室、お前の末代まで祟ってやるからな。
「それで、お前の言いたいことは結局なんだ氷室」
主に僕のせい(不本意だが)で大きく脱線してしまった話を最初の方に戻す。
「あ、あぁ。さっき、同じようなことを繰り返したくないって言ってたけどよ、周りは高校生なんだぜ?さすがにもう大丈夫なんじゃねぇのか?」
    確かに氷室の言うことは一理ある。しかし、だ。
「わかってるよ。でも、長年続けてきたのをやめるってのは難しいんだ。一種の癖のようなものなんだよ」
「そっか」と氷室が一言こぼす。それに、と僕は続けた。
「やっぱり完全に安心はできないから」

*********************

   かなりの時間遅れてしまった。下校時刻の午後七時半を大幅に過ぎ、生徒はおろか職員すら姿が見えない。僕ら三人は大慌てで階段を駆け下りている途中だ。おっと、良い子のみんなは階段を走ったらダメだぞ?幸い非常用出口の明かりが足元を照らすからなんとか躓かずに二年生のフロアまで来ることが出来た。
「一応教室まで行くか?」
「ダメ元で行ってみよう。戸締りが終わってるなら明日の朝早く登校すればいい」
   ダメ元とは言ったがほぼ百パーセント開いていない。開いていれば嬉しいことではあるが大問題である。戸締りは十分にしなければ夜中に学校に忍び込んで女の子の体操着をあんなことやこんなことに使うやつだっているからな。僕は違うぞ?やらないぞ?
   縦笛云々はいいとして、荷物が不安になる。スマホや財布は持ち歩いているから貴重品の心配をすることはないが、アレがあるんだよなぁ。そう、弁当箱。放置したら危ないんだよアレ。一度やったことがあるからわかる。臭いが強烈すぎて教室で開こうもんならテロだテロ。周りから白い目で見られる。白い目どころか酷いやつは白目むいてるかもしれない。はぁ・・・・・・嫌なこと思い出してしまった。
   至極どうでもいいことを考えながら歩いていると、廊下の突き当たりが見えた。ここを左に曲がればFクラスの教室が見える。教室が見えた途端、三人は顔を見合わせた。
「なんで明かりがついているんだ?」
「まさか、開いているとは・・・・・・」
「よかったぁ!弁当箱怖かったんだよね〜」
   篠宮さんが僕と同じことを考えていたことに思わず吹き出しそうになった。きっと篠宮さんもテロ経験者なのだろう。予想でしかないけど多分加害者側。今度これをネタに話してみよう。
「何はともあれ開いていて良かったな!」
氷室が僕のより一回り大きなリュックサックを背負いながら安堵の顔を浮かべる。
「荷物を置きっぱなしにせずに済んだのはいいんだが、鍵はどうするんだ?」
「警備員が巡回しているから大丈夫だと思うよ?」
と、悩む氷室の代わりに篠宮さんが答えをくれた。
「それじゃあさっさと帰ろうか」
   なんとなく悪いことをしている気になってしまい、警備員と出くわさないようにできる限り音を立てず、三人は校舎を後にした。

*********************
  
    校門を出た直後に氷室とは別れ、篠宮さんと二人だけの帰路についている。朝は乗ってきた自転車を今は押して進む僕の横に彼女が自転車越しに並んで歩く。昨日と同じように今日も月があまり綺麗に映えていない。月がきれいですねなんて言えないシチュエーションにガッカリだ。言えたとしても言わないけど。そんなことより、僕は彼女に訊きたいことがいくつかある。篠宮さんには謎が多すぎる。会ってから大した会話をしていないからって理由じゃ済まない程知らないことがある。これじゃあ気になって眠れなくなってしまう。そのせいで眠れなかったら授業で居眠りしちゃうじゃないか!
   「し、篠宮さん!」
    うっ。校舎を出た後から喋ってこなかったせいで変に声が詰まってしまった・・・・・・
「な、何かな佐藤くん?」
    ・・・・・・どうやらあちらも同じらしい。
「この前一緒に帰った時の話の続きなんだけどさ、小さい頃って何歳くらいか覚えてない?」
    前回話した時にはこの話題の途中で篠宮さんの家に着いてしまったのだ。今日はまだまだ話せる余裕がある。心理的にも距離的にも。
「う~ん。小さい頃のことって、あたし思い出せないの・・・・・・ごめんね」
   そう言って俯いてしまった。あの卒業式の日、彼女と最初に出会った時と寸分違わない表情が一瞬覗いたような気がした。
「そっか。なら仕方ないね」
   正直なとこ僕は今の問いかけに答えが貰えるとは微塵も思ってはいなかった。篠宮さんにとって幼い記憶とは触れられるのが嫌なもの、もしくは僕には聞かせることの出来ない内容なのだろう。家に送った時、明らかにはぐらかされてしまったのは勿論わかっている。あそこで気づかないのはアニメや漫画の鈍感主人公だけだ。僕は勿論気づいてしまう。というか、気づかない方がおかしい。だから、今日生まれたばかりの疑問を解消しようと思う。
「ねぇ、篠宮さん」
「うん?」
「篠宮さんも僕の表情のこと気づいていたんでしょ?」
「え・・・・・・」
   僕が一番気になったのはこのことなのだ。一応疑問形にしたがほぼ確証がある。確証があるとは言えど、本人から実際のとこを聞かなければただの妄想に過ぎない。今から妄想を現実に塗り替える。
「篠宮さんさ、氷室が僕の表情を指摘した時に全然反応しなかったでしょ?」
「・・・・・・」
   篠宮さんの沈黙は明白な肯定だ。否定されようものなら他にも論拠はあったが意外にもあっさりと認めてくれた。
   思えば高橋先生の言ってた「気づいてる人がいる」とは桜美さんでも氷室でもなく篠宮さんだったのかもしれない。いや、間違いなくそうだ。あの段階で僕と明確な関わりがあったのは篠宮さんだけだ。いくら高橋先生とはいえ未来を予知して桜美さんや氷室のことについて僕に警告なんてできないはずだ。・・・・・・できないはずなんだけど断言できないなぁ。あの人はどこまでも未知数だから何一つ言い当てることが出来ない。あ、彼氏とは別れるな。ほぼ百パーセント。
   高橋先生のことは置いといて、僕は立て続けに篠宮さんへ疑問を投げかける。
「もしかしてなんだけどさ、篠宮さんは『本当の僕』のことを話を聞く前から知ってたんじゃないのかな?」
   これに関してはなんと言うか、曖昧な部分が多い。こう言葉に表せない所謂、直感が働いたとでも言うのだろうか?どこかにキーワードとなるものがあった気がするがどうも上手く表現することが叶わない。さっきは論拠が沢山あったけど今は何一つとして提示することが出来ない。それゆえ否定されれば潔く受けざるを得ないが、篠宮さんはどんな答えを出すのだろう。
「佐藤くん、あたしは・・・・・・」
   













「あたしは覚えてないよ。・・・・・・小学校二年なんて昔のことは」

   やはりそうなるか。小さい頃を覚えてないとつい今しがた聞いたのだ、覚えてないと言われるのは当然のことである。
   ・・・・・・でも何だろう、篠宮さんの言葉に妙な違和感を覚える。まぁ、深く気にする事はないか。所詮違和感に過ぎないし、嫌な勘を働かせるのは得意だけどこの手の勘に自信はない。元々僕の直感によるただの憶測だ。勘同様に憶測に全幅の信頼を預けることもできない。と、いろんな言葉を使って言い訳をしたが、実のところ僕は感じた違和感を無かったことにしたいようだ。
   だって、今まで出会ってきた中で見たことがない、あんなにも寂しげな表情を隣に立つ女の子に見せられてしまったんだから。

*********************

   あーあぁ。やっぱりあたしのこと覚えてなかったなぁ佐藤くん。あたしは会った時から今まで一度だって忘れたことなんてないのに・・・・・・
   ついあんな顔しちゃったけど気にしちゃってたらどうしよ。悪いことしちゃったかな?でも、佐藤くんが悪いんだよ!急にあんなこと訊いてくるんだから。・・・・・・バレるのが嫌で嘘ついちゃったけど気づいてくれるかな?佐藤くんなら気づいてくれると思う。あ、でも、どうだろ。もしかしたら気づかないかもな〜。あたしのことぜーんぶ覚えてないんだもん。さすがにちょっとへこんじゃうなぁ・・・・・・
  それにしても佐藤くん。あんなに昔のことまだ引きずってたんだ。氷室くんが言うように気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ。責任感強いとこ全然変わってないなぁ佐藤くん。
  どうにかして少しでも楽にしてあげたいけど、あたしに何か出来ることないかな・・・・・・?
   
   

*********************
   
   みなさんこんにちは!kuroです!
   最終更新日であった冬から季節は移ろいで春も超えましたね。皆さんの環境が変わっていくようにどうやらノベルバさんも変わったみたいですね。
   さて、この度は更新が非常に遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした。まだ見ていてくれる方はいますでしょうか?いてくれると私は嬉しい限りです。
   これまでと変わらず更新日はまちまちになってしまいますが、リズムを掴めるようにやっていきたいと思っています。
   物語は次回から新しい章に入り、さらなる展開に期待していただければと思います。あ、やっぱりあまり、期待はしないでほしいです。
   では、これからも楽しんでいただければと思います!

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コメント

  • ☆ひじき☆

    この物語の感じめっちゃ好きです!

    1
  • Kuro

    ありがとうございます!

    0
  • うみたけ

    お久しぶりの更新!楽しみにしてました!

    1
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