普通な僕の非日常

Kuro

第5話 まさか、そんなことが!

    太陽がちょうど真上にある正午ぴったりの時間。
三時限目の授業が終わり、一日を残り半分まで持ち込んだ。
耳に色々な声が入ってくることで自分が何処にいるのかの証明になっている。授業の折り返し地点だからだろうか、友人同士での会話でクラス中が喧騒に包まれていた。
    二年に進級してまだ二日目だが、既に男女のグループができており、うっすらと人間関係の把握が出来るようになってきた。
このクラスはかなり平和な方で、ハブられている人はいないように見受けられる。
まぁ、静かなグループと騒がしいグループでは多少の温度差はもちろんあるのだが。
ちなみに僕もグループに所属している。決して独りなどではない。今言ったばかりだが、「このクラスにハブりはない」。
所属しているグループは、前に登場したモブキャラBこと、須川正樹すがわまさきが属する冴えない男子五名くらいのグループだ。
モブキャラBで通そうと思ったが流石に辛いので紹介しておく。(次出るのはいつだろう・・・・・・)
しかし、冴えないとは言っても全員部活動には加入しているらしい。というか、このクラスは文化系と体育系の半々くらいの割合で部活動に励んでいる。
つまり、このクラスで僕以外の男子は全員部活生である。
豊沢高校は体育系と文化系の両方の部活動が盛んで、ここら一帯だとなかなかの強豪校だ。
そんな豊沢でも、ここまで部活動加入率の高さを誇るのはうちのクラスで間違いないだろう。主戦力が集まっていると言っても過言じゃない。
様々な行事が良い盛り上がりをを見せそうで、今から楽しみでさえある。
   そんなこんなしているうちに四時限目の開始直前だ。
次は数学。別段苦手な訳では無いが・・・・・・嫌だなぁ。
高橋先生の前じゃ居眠りが出来ないのだ。
あの人は容赦なく暴力を振るってくる。体罰反対。
今日も今日とて、ヒールをコツコツと高い音を鳴らしながら教室に入ってきた。それと同時に予鈴がなり、授業が始まる。
学級長がまだいないので出席番号一番の生徒が現在は号令をかけていて、全員の着席が済めば高橋先生はチョークで黒板を白く染め上げていく。
数学教師にしてはかなり字が達筆でかなり見やすい。
教え方もかなり上手い方らしく、他クラスから羨まれる程だ。
実際高橋先生のもつクラスは平均して点数が高い。
ここまでハイスペックにも関わらず、あの机の汚さ。
本当に勿体ない。自らの指先から繰り出される黒板の字のように綺麗にはならないものだろうか。
    僕は軽く指を鳴らし、シャーペンを握る。
よし。一時間頑張るか。と頬を叩いて気合を入れたーーーー
にもかかわらず、数分後には教科書の角で頭がへこんだのはまた別の話。
     

    痛みと熱気に塗れた地獄の数学を終え、今は昼休み。僕は正面に須川を迎え、昼食をとっていた。
    須川という男は口が達者な奴で、あることないこと、また、信憑性の薄いものや信じるにはかなり無理がある噂まで全て伝えてくる迷惑な男だ。たまに当たるが、本当にたまにだ。
数打ちゃ当たる法則に近いかもしれない。
今日も何か言いたそうにこちらを見てくるが絶対に尋ねてやらない。
なぜなら、あっちが勝手に話してくるからだ。
「次のホームルームは役員決めだってよ」
「そうか、僕には関係ないな」
「いやいや!自分のクラスなんだけど!?」
「どうせ誰かがやってくれるよ」
僕は須川に対して冷たく見えるかもしれないがこれが普通なのだ。男同士できゃぴきゃぴるんるんしてても気持ちが悪いだけだろうから。それに、昼食時間だ。誰かの気分を害してしまうのも忍びない。
「そんな奴がいるから決まらねんだよー」
「じゃあ須川、お前ならやるのか?」
「いや?やらねーよ?誰かがやるっしょ」
「おまえなぁ・・・・・・」
全くこの男は。自由というか馬鹿というか、阿呆というか、ゴミというか、薄情な野郎だ。
薄情な野郎、もといクズ人間の須川だがこれでも僕の友人だ。文句は心の中と頭の中だけでとどめておこう。
「ま、それはいいとしてあそこ見てみろよ」
と言って、須川の目線の先を追うと・・・・・・
「こ、これはすごい・・・・・・すごすぎる・・・・・・」
「な?あそこで飯食えたら死んでもいい!」
「あれ?なんかあそこだけキラキラしていない?」
そこにはなんと、篠宮さんと桜美さんが仲良く二人で談笑を交えながら弁当を食べているのだ。入学早々クラスのトップ同士で交友を深めるだなんて・・・・・・
二大政党ではなく、連合軍ができそうだった。
   それにしてもこの光景はしっかりと目に焼き付けておかなければ!
きっと天国があるなら僕の目の前に広がる場所が天国だ。
みんな!天国はあったんだ!しかもこの世に!
いや。この世にあったら天国じゃないな。そもそも天国の定義ってなんだーーーー
と思考が深まってきたところで須川に止められる。
「そういや篠宮さんってなんでこの高校来たんだろうな?」
「そりゃあ、迷える子羊達を天に導くためだろ」
「いや、まぁそうかもしれないけど・・・・・・」
「まったく!何言ってんだよお前・・・・・・アホなの?」
「え!?そこまで言う普通!?」
「そもそもの話、神がいる理由を問い詰めるのでさえおかしいだろうが!」
「待て翔太!そろそろやめとけ、お前のあまり確立されてないキャラが確立されないまま崩壊するぞ」
確かに須川の言う通りだ。確立云々はさておき、この段階で崩壊するのは流石にまずい。
須川の言葉で一度冷静になって考えると、確かに篠宮さんの編入は気になる。
  高橋先生は何か知ってる様子だが教えてくれないし、篠宮さんもきっとやんわりとしか教えてはくれないだろう。それでも本人に面と向かって聞いてやる。
やる時はやる男それが僕だ!・・・・・・と信じたい。
   あの時折角抑えた好奇心を須川に駆り立てられた僕は、増えてしまった話題の種を会話の中にどう切り込ませれば自然を装えるかを考えていたところで昼休みのチャイムが鳴る。
   面倒くさい授業は残りは二時間。
しかし、ホームルームなら集中する必要もないので思考を張り巡らすには十分な時間を得たと思えばその二時間はありがたい。二時間もあれば会話の予行演習を脳内再生しても時間が余るほどだ。
今日こそは謎を解いてみせる。
    
そう決意した僕を嘲笑うかのように神のいたずらが雪崩のごとく降りかかる・・・・・・
(この神は篠宮さんでも桜美さんでもありません)
********************

高橋先生と本日三度目の邂逅。
ホームルームは担任が担当するせいだ。
今回の内容は役員決め。須川に言ったようにぶっちゃけ僕には関係ない。
普通を望む僕にとって、このような目立つ係をやってはいけないのだ。書記や会計ならやぶさかではないが、級長や副級長となると全く別の話。
級長になってしまえば、承認式に出席しなくてはいけない上、号令もかける必要がある。
そんなことをしてしまうもんなら、普通でいることに困難を極める結果となる。
昔から避けてきた。今回も同じようにのらりくらりと流して終わりだーーーーーーと思ったが終わらなかった。
どこからともなく、突飛な発言が出たのだ。


「せんせー!級長は翔太がいいと思いまーす」


犯人はすぐに分かった。勿論須川だ。
あの野郎・・・・・・昼休み僕が馬鹿にしたことの当てつけだな。
だがな、須川。甘いぞ、甘すぎる!
何度も危機を脱してきた僕にとってこのような事は想定内。そして対策もある!
どんな策を講じてでも避けてみせるーーーー


「よし、佐藤〜お前に決定だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
待て待て待て待て待て!!
策も何も出してない!早いよ!早すぎるよ判断が!
今の場面は少し判断に迷ってそこから僕が論破して次善策に行く展開でしょ!
そもそもなんで即答!?
いくら担任だからって横暴だ。この独裁政治は辞めさせる義務が僕にある。ていうか、今できた。
負ける訳にはいかない。ここからの逆転劇を見せてやる。
「先生、なんで僕なんですか?」
「うーん。やりたい人いないし、推薦されてるし、部活入ってないから暇だし、人間だろ?」
「僕だってやりたくないし、推薦は悪ふざけだし、暇じゃない上、最後のは全員に当てはまりますよ!」
「いや〜でもな〜八割以上の票数得ているしな〜」
「・・・・・・何言ってるんですか?」
僕がそう聞くと、高橋先生はあごをしゃくって「周りを見ろ」と言ってきた。

  周りのほぼ全員が腕で丸を作って僕を見ている。

この奇怪なポーズが最近流行ってるので無ければ、つまりは僕が級長をやることに対しての同意を表しているのだろう。これまででこんな事は初めてだ。それ故に対処の仕方がわからない。
いくら僕と言えど多数の意見を覆す程の策は持ってないし、この状況を打破したところできっと級長になるより目立ってしまう。
改めて確認するが僕の最終的な目標は普通であることだ。
これからの生活を考えれば、ここで級長を拒否して目立つよりも潔く受け入れる方が正しい。
僕の逆転劇は出鼻を挫かられ、あえなく失敗に終わった。
「分かりました、やりますよ・・・・・・」
「素直でよろしい。全員、承認の拍手〜」
パチパチパチと乾いた手を叩く音が所々から鳴る。
半分以上が承認してないじゃないか・・・・・・
須川に目をやれば肩を震わせ笑いをこらえていた。
あの糞野郎。ぶっ〇してやる。

「次は副級長決めるぞ〜、やりたいヤツいるか〜?」
いるわけないだろ。と心の中で高橋先生の気だるげな声に答える。
だが、そんな僕の予想を裏切ってまっすぐしなびやかな手が挙がった。

「はい。私がやります」

桜の花が風に乗せられひとひら落ちるかのようなゆっくりした口調、澄んだ泉のごとく透き通っていて鈴の音を思わせる慎ましやかな声音。
決して大きな声量ではなかったにも関わらず、水面に一雫落ちて波紋が広がって全体に伝播するみたいに全員の心と身体に伝えた。
  まるで世界の中心がそこだと言わんばかりに全員の目線が声を発した少女に集まる。
桜美梓紗さくらみあずさだ。
桜美さんは数多の視線を意に介さず、見たものを吸い込んでしまうような大きな黒瞳に熱を帯びさせて高橋先生を見つめている。
「じ、じゃあ、副級長は桜美でいいな?」
桜美さんの発言を期に静まり返ってた空間が、高橋先生の言葉で一斉に拍手があがる。
さながらオーケストラの演奏が終わった瞬間の大喝采を思わせる。
僕の時とは大違いだ。級長変わってくれないかな・・・・・・
そんな冗談はさておき、これは僕にとって嬉しい話だ。
桜美さんの方が目立って僕が普通でいやすいこともあるが、最も嬉しいことは桜美さんとお近づきになれる事だ。
纏っている雰囲気が現実世界のものとかけ離れすぎて男子は話しかけることすらままならない桜美さんと、合法的に話すことが出来る級長というポジションは誰もが欲しがる地位なのだ。
   つい先程まで押し付け合いをしていた忌々しいこの肩書きは、誰もが欲しがる名誉に大変身を遂げた。
ちなみに親衛隊の心配はする必要は無い。なぜなら、公的な接触の妨害は彼らのポリシーに反するからだ。
   とんだハプニングだったが思わぬ幸福へと転じた。
須川を再び見れば、肩を震わせて拳を握り血の涙を流していた。元はと言えばあいつのおかげか。あとでお礼を言っておこう。
「では、級長を佐藤、副級長を桜美とする。二人は放課後残るように」
高橋先生はそう言い残して教室を出ることで、五時限目の終了を知らす。

・・・・・・うん?かなり重要なことを言ったな今。
「放課後残るように」ということは篠宮さんと話が出来ないじゃないか!
またもや謎の解明が遠のく。



こんなにも邪魔だてされると何か得体の知れないものが作用している気がする・・・・・・

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