普通な僕の非日常

Kuro

第4話 また、同じことを・・・・・・

    話が終わり、教室へ戻ろうとする頃には陽が既に傾いていて、校内は昼とは違い閑散としている。
いつもは雑踏の中に消える足音も、廊下に反響してどこか気味悪く感じた。
窓の戸締りがされてあることもあってか、外の運動部の声も聞こえない。まるで自分だけがこの場に取り残されたような感覚に陥ってしまう。
   高橋先生と話したせいだろうか、何年も昔のことを思い返して感傷に浸っている今の僕にとって、この妙に居心地の悪い雰囲気はむしろ気持ちがよく、相反する感覚が共存している奇妙な状態にあった。
    そんな気分の中、歩を止めることなく来たせいで割と早くFクラスの前まで来た。そこで気づく。明かりがついていることに。
まだ誰かいるのだろうか。
新しいクラスになって初日なこともあって、クラスメイトの部活を把握しきれてない。
   期待半分、不安半分な心持ちでドアをスライドさせて顔を覗かせる。
「あ、佐藤くん!」
今しがたの変な空気を打ち消すような元気よく可愛い声の主は、件の編入生の篠宮 美愛さんだった。
「あぁ篠宮さん、まだ残っていたんだ」
「えっと・・・・・・うん・・・・・・佐藤くんを待っていたんだけど・・・・・・」
軽く俯きながら話す篠宮さんはどこか言いづらそうだった。心なしか顔が紅い。窓から入る夕陽のせいだろうか。
「あれ?篠宮さんと何か約束してたっけ?」
「ううん、違うの。あたしが勝手に待ってただけ・・・・・・」
良かった、女の子との約束を反故にする最低主人公の一人に数えられるところだった。危ない。
「篠宮さんは僕に何か用があるってこと?」
「用事というか、なんというか・・・・・・」
「???」
「佐藤くん!一緒に帰らない・・・・・・?」
わお。進級初日からこんなこといいのだろうか。
クラスで一二を争う美少女と二人きりで下校するだなんて。
最近の僕は運を使いすぎな気がする。狙って使ってる訳では無いからどうすることも出来ないことだが。
帰り道轢かれたりしないだろうか・・・・・・
「良いけど、篠宮さんは家この辺?」
「割と近いよ!だから、歩きなんだけど佐藤くんは?」
「僕も結構近いから自転車」
「そうなんだ!良かったぁ~」
安心して胸を撫で下ろす篠宮さんも可愛い。
多分篠宮さんは何をしてても可愛いとさえ思えてきた。
なんでそんな子の告白を断ったのだろうと今更ながらに思う。
意気地がないというかなんというか。あの日の自分をぶん殴ってやりたい。
「じゃあ、自転車取りに行くから先に校門で待っててくれるかな?」
「わかった!先行っとくね」
そう言って、一旦篠宮さんと別れた僕は駐輪場へ向かう。
その途中、僕より十センチ以上は背丈の高い男子生徒にめちゃくちゃ睨まれた。
確か同じクラスだった気がするが、名前が出てこない。
何故睨まれたのか全く検討がつかない。
まさか、篠宮さん親衛隊とかが既に設立されちゃってて、僕が近づきすぎたがために第一の抹殺の対象になったことを言外に示してきたとかそんなことが・・・・・・あるわけないか。もしそんな事だとしたら僕が可哀想過ぎるじゃないか。不可抗力で殺られるだなんてたまったもんじゃない。
でも、それが違うのだとしたら、どうして睨まれたのだろうか。
何となく嫌な予感がする。こういうの当たっちゃうから嫌なんだよなぁ。本当に・・・・・・
   悶々としてしまった気持ちを振り払うために駐輪場への足を早めた。

*******************

篠宮さんと再び合流して、僕ら二人は学校を出た。
女の子と肩を並べて下校するなんていつぶりだろうか。
彼女ができたことのない僕にとって今の状況は、実に小学生以来である。
小学生の時の記憶はほとんど無いから明確な事を言うことは出来ないが、こんな可愛い子と下校するのは間違いなく初めてだ。
結構、明確に言ってますね、はい。
    さっきまでは何ともなかったのに、意識しだすと動悸が激しくなる。
篠宮さんに聞こえてないだろうかと考えるとさらに勢いが増す。
    一応言っておくが、恋に落ちたとかそういうことではない。単純に緊張というやつだ。
可愛いから恋に落ちるだなんて、そんなのただ外見で判断しただけじゃないか。見た目に惚れるのと恋をするのでは全く別物だと僕は考えている。
きっと、こんなこと言ってるから彼女が出来ないんだろうな。
   そんな観念を持っている僕だから思ってしまうのだろうか。
「(あの日なぜ篠宮さんは告白をしてきたのだろう)」と。
別段容姿が良いわけでもないし、ましてや会うのだって初めての僕に。
普通として生きてきたから有名人でも無いし、もちろん校外に僕の名前を知っている人等はいる方が珍しい位のはずだ。
  疑問に思うのは告白の件だけじゃない。
初対面だった僕の名前を知っているのもおかしい。
  卒業式の時も出てきた色々な疑問符がぶり返し、前回は失敗したその謎解きをもう一度試みようと思った。
 「篠宮さ――――――」
声をかけようと隣を見れば篠宮さんがいない。
すると、後ろから声が掛かる。
「佐藤くん・・・・・・あたしの家こっちの方向なの」
少し苦笑を浮かべた篠宮さんが僕の少し後ろにいた。
気がつけば既に通りを二つほど抜けていて、左右に別れた道にいたのだ。
緊張やら考え事やらなんやらで無意識にいつもの帰路につこうとしていたようだ。
  自転車をターンさせ、篠宮さんの隣に戻ると僕らは再び歩き出した。
今気づいたことだが、ここまで来るのに二人とも無言だった。折角篠宮さんが誘ってくれたのに面目ない。
まさかの失態だ。
ここまでのことを挽回しようと意気込み、口を開く。
「篠宮さん、なんで僕の名前を知ってたの?」
告白について聞くつもりだったが、どうにも言い出しづらい。
相手の告白を無下にしておきながら、傷を抉るように話を出すのは男として、いや・・・・・・人としてどうなのかと疑ったので流石に質問するのは厳しかった。
「えっ!?あ、えっと・・・・・・」
篠宮さんの目が凄く泳いでいる。
何か言いづらい事情があるのだろうか。そうだとしたらとても不味いことをしてしまった。
自分から話を振っておいてなんだが、助け舟を出すことにする。
「僕と篠宮さんってどこかで会ったことあるっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
え。嘘。もしや、あの日に触れること自体がNGだったのだろうか。
もしそうなら、最初から詰んでるじゃないか。
  だが、ここで話を終えるのも何となく気まずいので、今度は僕自身を助けるがために船を漕ぎ出す。
「・・・・・・篠宮さん?」
「へ!?あ、うん!あたし達、小さい頃に会ってるよ!」
篠宮さんはまるでさっきの僕のように驚いた様子で返事をした。
一応、助け舟は成功したので助かった。お互いに。
「ちなみに小さい頃っていつ――――――」
「あ、ごめん佐藤くん!家、着いちゃった・・・・・・」
目の前にはなかなかに立派な高層マンションが建っていた。おそらくそこが篠宮さんの家だろう。新設なだけあって、セキュリティが厳重そうなマンションだ。
「わかった、じゃあ、また明日学校でな!」
そう言いながら踵を返し、自転車に跨る。
「うん!今日は送ってくれてありがとう!」
篠宮さんはとびきりの笑顔をたたえながら手を振って、僕を見送ってくれた。
あの笑顔を見るためにこの世に生まれてきたのかもしれないとすら思えた。過剰表現などではない。素直にそう思えるほど彼女の笑顔は可愛いく、そして美しい。

    自転車を漕ぎ始めて二十分頃、既に日は沈み、辺りは街灯の光で照らされる時間帯。
生憎、月の光は当てにならないほどか細かった。星の光などは言うまでもない。
白い光がまばらに点在する路地を自転車で駆け抜ける。
話相手がいなくなった今、胸に蟠っていた天使との会話、もとい篠宮さんとの会話を思い返す。
「(さっきの話・・・・・・)」
篠宮さん程の美少女であれば生涯忘れることのないはずだが、僕の記憶の中には篠宮さんが存在しないのだ。
確かに彼女は小さい頃に会ったと言っていた。
しかし、初めてあったのは間違いなく卒業式の日なのだ。
篠宮さんが嘘をつくとは思えない・・・・・・
堂々巡りの末、家に着くなり僕は考えるのをやめた。
「(明日、篠宮さんに聞いてみよう)」
そう思ったところで、連絡先くらいは聞いておくべきだったと後悔に打ちひしがれながら、長かった一日を終えた。

*******************

進級後、二日目。火曜日。
    まだ生活リズムを取り戻せない僕は、眠気に襲われたまま登校していた。とは言うものの、生活リズムを取り戻せないだけが睡眠不足のせいではない。
昨日の出来事が気になりすぎて眠れなかったのである。
    一度考えるのを止めはしたものの、やはり気になるものは気になるもので諦めることが出来ず、十分な睡眠を取るには至らなかった。
   眠りの妨げを解消すべく、首を巡らし篠宮さんを探す。
案の定すぐに見つかった。
あんな美少女は探すまでもなくオーラでわかってしまうのが僕であり、男である。
早速話しかけようとするが、それが出来ないことに遅れて気がつく。理由は二つだ。
   一つ目の理由。篠宮さんの周りに女子が沢山いて話しかけられる状況じゃない。
これは何とかできる問題ではあるのだが、交友関係を邪魔してまで自分の欲求を満たすのはどうも気が引ける。
    次に二つ目の理由だが、これは本当にどうしようもない問題だ。
   前日も言った通り、親衛隊に抹殺される。
どうやら昨日の夜に親衛隊が設立されたらしい。僕のところにも情報が回ってきた。
まさか昨日の今日でここまでの大型の組織に成長するだなんて思いもしない。既にクラス内で連携が取られており、不用意に話しかけようものなら僕の命はないだろう。
しかし、これは篠宮さんの美少女レベルがかなり上のことを指し示している。
僕が確信していた二大政党はほぼ現実になっていた。
    ちなみに桜美さんの親衛隊も存在している。
桜美親衛隊は学年には収まらず、学校全体に広がっている。先生の中にもいるそうだ。
さすが完璧超人の桜美さん。
まぁ、今は篠宮親衛隊は学年の規模だが、一週間もすれば校内規模にまで成長するだろう。
   ここまで人を動かすのだからやはり「可愛い」は正義に違いない。
   おっと、そんな益体もないことを考えてると始業のベルが鳴るころだ。
篠宮さんとの会話は昨日のように放課後にすればいいだろうと思いながら授業に臨んだ。

    この時はまだ、今日が僕の転機になろうとは微塵も思っていなかった・・・・・・

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