普通な僕の非日常

Kuro

第1話 待って、この人誰!?

    三月、それは別れの季節・・・・・・


一面桃色の通学路を抜け、いつもの見慣れた門は朝の陽光に照らされ、普段より輝いて見える。
門の先には、この一帯では割と新設の校舎がそびえ立つ。校庭には同じ制服の男女がひしめき合い、彼らはどこか浮き足立ってるように見える。

この描写で既にお気づきの人もいるだろうが、今日は僕の通う私立豊沢高校の卒業式である。
卒業式とは高校生活における最大のイベント――かどうかは人それぞれだと思うが、最後の行事なだけあって何かと重要視はされている。
けれど、僕にとっても卒業式は重要であるかどうかと言えば、結構どうでもよかったりする。多少なり感傷的にはなるが、涙を流す程ではない。
実際、中学の卒業式は淡々と終えた。だが、さすがに薄情者と思われるのは気が引けるので、一応は目薬をさしてはいたけど。
きっと高校の場合もそうなるのだろうと漠然と考えている。
おっと、念の為注意しておくが
「友達が少なくて別段楽しい思い出がなかったから悲しさもない」という理由ではない。
・・・本当に違うからな?


さてさて、無駄話をしていたせいで式はもう開始直前だ。僕はリハーサルで座っていた椅子と一日ぶりの再会を果たし、これからの戦いに備える。
戦いと言っても魔法を撃ち合ったり、レールガンを撃ったりなんかはしない。
卒業式での戦いは大きく分けて二つだ。一つは校長先生の話を右から左に聞き流すこと。学校の嫌なことランキングを作ったら絶対に上位にランクインする「校長の話」は卒業式でも例外ではない。
そして二つ目は卒業証書を受け取ること。うちの高校は結構な生徒数がいるので全員の卒業証書受け取りを眺め続けるのは苦でしかない。単純な作業を見続けるため、下手をすると校長の話より嫌いだ。
この二つの戦いには必勝法も無ければ、浅はかな作戦も通用しない。一番楽な「居眠り」という選択肢は父母の監視により論外だ。勿論、私語なんて言語道断である。
そんな作戦とも呼ぶことが出来ないような益体のないことを考えながらも式は進行していった。


式は遂に佳境を迎え、プログラムも数個残すだけとなった今も僕はまだ無益な思考を続けていた。
「(登校する時に踏まれるだけの存在だった校庭の石畳も、式が終われば涙を流す男女の青春のラストページの舞台に早変わりか・・・・・・かなりの出世だ)」
こんなふうに思考はどんどんエスカレートしていったが突然思考を停止した。
耳に違和感を覚えたのだ。
「(ずっと同じ声が聞こえる)」
ここまで数時間近く無駄なことを考え続けた僕の脳は一つ上のレベルに上がっていた。
故に、耳の違和感という些細なことが新たな真実を発見したのだ。卒業式が重要視されるその真実を。
「(この行事は他のどの行事よりも皆の心を一つにするから注目されているんだ)」
九割以上の人が今一つのことを考えているという確信が僕にはあった。そう、皆こう思ってるはずだ・・・・・・



「(さっさと話終われよPTA会長!!)」

要するにこういうことだ。
〈何十分も一人で喋り続けるPTA会長に対しての全員気持ちが一つになったことに卒業式の真意を見出した〉
果てしない思考の上に考えついたのがこの発想なので、どうやら僕の脳レベルは間違った方に一段上がっていた模様。



その後、三十分以上も喋り倒したPTA会長の話は終わり、卒業式は幕を閉じた。
そして僕は今屋上にいる。
ここから見下ろせる校庭では写真撮影が行われており、まさに青春そのものだった。
うん?僕も混ざらないのか?だって?
混ざるはずないじゃないか。まだ高校一年生だぞ?卒業の年ではないよ。
卒業式には「卒業生」ではなく、「在校生」として参列していただけだ。
部活にも所属していなく、親しい先輩もいないので別れを惜しむ人もいない。
すぐに帰ってしまえば良かったのだが、ヒートアップし過ぎた脳を冷ますためにこうやってお気に入りの場所にやって来た。
ここ、豊沢高校は学校では珍しく屋上が解放されている。しかし、中学からの教えなのか誰も人は来ない。
ベンチが結構な数置いてあるから僕が知らないだけで実は禁止だったとかは無いだろう。
と、そこまで考えたところでそろそろ帰ろうかと思っていると――――ガチャリと音を立て屋上に繋がる唯一の扉が開かれた。
「(珍しいな、ここに人が来るの)」
そこに居たのは、綺麗な黒髪をショートボブで切りそろえており、顔立ちの整ったそれなりに可愛い女の子で、身長は女子の平均くらい。歳は同じくらいだろうか。
同学年に一人や二人いそうな美少女という感じだ。
その子は妙に頬が紅潮しており、「熱でもあるのかな・・・・・・」と心配したところで、ふと思う。
「(なんでこの子はここにいるのだろう)」と。
不思議に思ったのはここが誰も来ない場所だからではない。彼女はここにいてはいけないはずなのだ。あ、幽霊とかそういう類の話ではないよ?
「(うちの高校の制服じゃない)」
そう、明らかに他校の生徒なのである。しかも、この近隣の高校じゃないはずだ。
「ちょっと、キミ。ここで何をーー」
と僕が言いかけたところで、
「佐藤翔太さんですよね?・・・私と付き合ってください!」
・・・・・・・・・・・・!?
「(なんで俺の名前を?君の名は?その前になんて言ったの?てか、ここで何してるの?声大きくなかった?綺麗な声だなぁ…)」
一つ場違いな気持ちも抱きつつ、僕の脳内は疑問符で埋め尽くされた。
そんな中、死力を尽くして絞り出した声は・・・
「ごめん、よく聞こえなかった」
なんだその難聴主人公のセリフは?と自分で思いつつも出てしまったものは仕方ない。
今の言葉を撤回すべく、口を開きかけるとーー
「佐藤翔太さん、私と付き合ってください!」
目を見つめられながらさっきよりも大きく芯の通った声で言われた。
「(これはあれだ、付き合うっていう言葉の綾だ、そういう事だったのか、納得納得)」
「えっと、何に付き合えばいいのかな?」
努めて平静を装い返した。散々動揺しまくった後じゃ全く意味を持たないだろうけど。
僕の言葉に相手は一瞬ぎょっとして、さらに頬を赤らめながら口を開いた。
「私と交際して下さい・・・・・・」
「(高裁?虹彩?公債?・・・交際!?)」
またまた僕の頭は疑問符で溢れる。
今度こそ聞き間違えようがなかった。あの顔で言われたら、明らかに男女間の関係を持つということだろう。
生まれて初めての告白がまさか知らない人からだなんて。
誰がそんなこと思おうか。
僕は跳ね上がる心臓を抑えながらしっかりと、彼女の目を見る。
そして勢いよく頭を下げた。
「すみません!よく知らない人とは付き合えません!」
僕の返事に彼女は一瞬悲しそうな表情を浮かべると、すぐに、元の可愛い顔に戻り、
「確かにそうですよね、では、友達から始めていただけますか?」
この質問にはさっきの様にはならず、すんなりと言葉が出た。
「そういうことなら、勿論!」
友達ができることはなんら問題が無い。それに、すごく可愛いし。
「これからよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ!」
初めて会った人同士の正しい会話を済ませ、僕が抱いた疑問の一つ一つを紐とこうとした時ーー
「ピリリリリリリリ」
ケータイの音が鳴った。僕は電源を切ったままなので彼女のものだろう。
彼女は慌てて電話に出ると数秒会話をして切った。
「私、急用が出来てしまい帰らなくてはいけなくなりました」
「あ、うん」
「今日は突然変なこと言ったりしてごめんなさい!」
「いいよ、気にしないで」
「話はまた今度にしましょう?すぐに会えます」
彼女はにっこり笑ってそう言うと、駆け足で入ってきた扉に向かった。
「(嵐のような人だったな…)」
僕は卒業式よりも熱くなってしまった頭を冷ますため、もう一度ベンチに腰掛ける羽目になった。

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ここまで、読んでいただきありがとうございます!
初めてこのような文章を書くので慣れないことや知らないことが沢山ありますが、よろしくお願いします!

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