片思い

日向葵

58話 好きだからこそ


 空は青々として気持ちの良い天気だった。
翔太からメール。
今からそっちに向かうとのこと。
ドキドキが止まらない、本当に来ちゃう。
 数分後、タタタタッと階段からかけてくる足音が聞こえる。キーっとドアが開き振り返ると翔太がいた。
 息が荒く、肩を上下して呼吸するその姿にも私はときめいてしまう。急がなくて良いのに…。私のためにわざわざ。
「ごめん!待った?購買混んでて、それでっ!」
コッペパンに紅茶を手に持って、私のところまで来る。何故かもう一つ飲み物を持ってる。あ!
「はい、華恋の好きなやつ!」
渡されたのはもう一つの飲み物である紙パックのいちごミルク。自動販売機に売っている一つ130円の紙パックの飲み物。
私は、わざわざ買ってきてくれたの?と聞くと、うん、好きなんだーって前言ってたからとニコって笑い渡してくる。
翔太、こういうことするから、気があるのかなって期待しちゃうんだよ。
あーあ、言いづらくなってきた。
好きなのに、好きのたった2文字がこんなにも重く、口にするには難しいなんて。
私はうっすら涙を浮かべた。でも、言わないときてもらった意味がない!
いちごミルクをもらい、ありがとうと言い、顔を背けた。涙がバレるわけにはと強がる私。どっかの誰かさんみたいとふっと笑みが溢れる。
 翔太は呼吸を整えて私に、なんかあったの?と聞いてくる。いきなり本題は気まずい。でも、言わなきゃと覚悟を決める。
ここでは泣かない。泣いていっても翔太が困るだけ、そんなことさせない。
私の想い、どうか届きますように。
私ねと言いかけて、翔太が私の顔を覗きみる。
え?何?
私の泳ぐ目に翔太はご飯食べながら話せる話?と聞いてきた。
私は横に首を振って応える。
そうかと翔太が呟く。
沈黙が続く。
静まり返る空気に私は居た堪れなかった。そのことを察した翔太は、「話、聞くよ。ここ座って?」と自分の隣に座るよう促し、2人並んで腰を下ろした。
私がなかなか話さないからか、言いづらいこと?と翔太が聞き返す。私はううん、来てくれてありがとうと翔太に語りかけた。
「私ね、前にも言ったと思うんだけど、翔太のことが好きなの。」
「うん、聞いた時は驚いた。華恋とは、幼馴染で一緒にいる時が多いからね。」
私は翔太の言葉に少しざわつきを覚えた。幼馴染だから、人より過ごした時が多いから、そんな理由で好きになったんじゃない!
「私、そんな事が理由じゃない…。」と翔太の言葉に反論した。すると、翔太はそうかと言い、「何で俺のこと好きなの?」と聞いてきた。ブワッと頬が赤く熱くなるのを感じる。「えーっとだから」と質問に狼狽えてると、翔太は「俺のどこが好き?」と次々に質問してきた。
「あーもー!人がせっかく真剣に話してるのに」
私はさっきまでの緊張感が溶けて、プーっと膨れてみせた。
「ごめんごめん、ちょっとふざけすぎた。でも、不思議なんだ。何で俺なんだろうって。」
「え?」
翔太は、不思議そうに私を見てニコリと笑って続けた。
「俺のどこがいいのかなーって。俺、あんまり自信ないからさ。告白なんて全然無いし。頭もそこそこだし。どこにでもいる、男子そのものっていうかー。」あははと笑って自分でモテてますなんて言わないかと言って私も笑ってしまう。
「そんなことないよ!私にとって翔太はなんか温かな存在でとっても大事なんだー。ちょっと鈍臭いとこも可愛いし。」
私の言葉に照れ笑いして、可愛いとこあるのかよ俺ってと言って頬を掻いた。
「うん!優しくて、一緒にいて楽しくて、メールきただけでも舞い上がっちゃって、バカだなーって自分でも思うくらい。そんだけ翔太のこと私は好きなんだーって思うの。」
言い終えると私はすごい告白をしていることに気づき頬を赤らめ、翔太も恥ずかしそうにそうなんだと呟いては赤面になっていた。
「…」
沈黙がまた続いた。
どうしよう…。困らせちゃったかな。
「翔太は私のことどう思う?」
恐る恐る私は翔太を見ては尋ねた。
「俺は華恋こと可愛いって思うよ。」
ドキッ。言われては顔がさらに紅潮していることに気づく。内心ドキドキしながら翔太の話を聞いていた。
「引っ越してきた時から知ってて、そりゃー、よく男子から華恋のこと紹介してくれって頼まれて大変だったな。大きくなるにつれてモテていくし、礼治ともヒヤヒヤしながら見守ってさ。変な虫がつかないようにって。」
「嬉しい。守ってくれてたなんて。」
「でも、俺のことを好きになるとはなー。」
翔太は盲点だったわと自分の鈍感さに、カラカラと笑った。
「嬉しかった?」
私は翔太に恐る恐る聞いてみた。告白されて迷惑じゃなかったかなと心配だった。
「嬉しかったよ。」
あ。その顔。翔太の顔に困惑の表情が浮かぶ。
私は悟った。
嬉しかったでも、それ以上は無いと。
そっかと私は呟き、聞いてくれてありがとうと応えた。怖くなった。これ以上聞きたくなかった。言い終えたらお腹空いた!と私が言うと、肩の力を抜けてホッとしたのか、一緒に食べようと翔太が言った。
翔太と私は話をしながら昼食を摂った。こんなふうに2人で話をするのは何年振りだろう。他愛のない話をして幼馴染だからこそ話せる昔の話も掘り下げて喋り合った。さっきの空気とは全然違う楽しい時間を過ごせた。
翔太のことは確かに好き。
でも、こう言うなんでも無い話ができることってすっごく幸せなんだなって気付かされた。そんな時間はあっという間に過ぎてお弁当も空っぽになっていた。
予鈴が鳴り、お互いクラスに戻る時間。
翔太は「華恋の気持ちは分かった。考えさせてほしい。」と真剣に受け止めてくれた。
でも、私はまだモヤモヤしていた。さっき気づいたことがあった。それは好きな時よりもっとすごく幸せでかけがのない時間を過ごせることだった。気持ちを受け止めてくれて考えてくれることは確かに嬉しい。でも、私の中で何かが変わった。
私が翔太に本当に伝えることは…。
「翔太」
私は翔太を呼び止めた。翔太は何?と応えると私は晴れやかにこう言った。
「翔太のこと好きになれて良かった!大好きだったよ。」
先行くねと私は翔太から過ぎ去ろうとした、その時だった。翔太は私の腕を掴んで私を覗き見た。その目は私を真っ直ぐ見つめてくる。その瞳に吸い込まれそうになる。私の瞳から一雫の涙が溢れた。隠そうとした、でも、遅かった。その涙がどんどん溢れ出してきて翔太の顔がぐちゃぐちゃになって声を上げて泣いた。翔太は、何も言わず私を強く抱きしめた。「ごめんね、気づいてあげられなくて。ごめんね。」と何度とも謝ってきた。
違う!違うの!翔太!私が勝手に好きになってね、苦しんでね、もう言葉にならないくらい。
それっくらい好きだったんだよ!
大好きだったんだよ!
なのに、何で?何で叶わないの?
本礼が鳴っても翔太は泣き崩れる私を離さず、泣き止むまでずっと側にいてくれた。




「大丈夫?」
たくさん泣いたから頭が痛いけど、笑って大丈夫と伝え、ありがとうとお礼を言った。
「情けないところ見せちゃって恥ずかしい…。」
「そんなことないよ。まぁ、俺が言えたことじゃないけど。」
「ごめんね、授業…。」
「いいよ。俺の勝手だから。」
「本当にごめんね。」
「いいって。それより、目腫れてる。」
「え!?本当だ!最悪〜。まぁ、化粧すれば大丈夫か!」
そうなの?と不思議そうに翔太は聞いてくるのでおかしかった。
大丈夫だよ!と今度こそ笑顔で応えた。
そっかと翔太は呟き、あんま無理すんなよと言ってくれた。
うん、ありがとうと伝えて、じゃ、と翔太に背を向けて歩き出した。
「華恋!」
不意に呼び止められて翔太の方に向き直る。
何?と伝えると翔太は意を決してこう伝えた。
「好きになってくれてありがとう。」
その言葉に私は笑顔で応えた。
どういたしまして!と。
翔太に手を振って私は自分のクラスへと戻った。翔太は私が見えなくなるまで見送ってくれた。
クラスに戻ると、ざわついたけど動じず堂々と自分の席に着いた。目が腫れていることに友達が気づき、次々と心配の声が出た。
私はこっそりとフラれたことを伝え、後で話そうと言ってくれた。
最後の授業を終え、友達が私のところに集まってきた。
「大丈夫?」
「うん、なんかスッキリした!」
「強がってない?」
「うん、ちゃんと言えたし、納得してる。」
「そうか。」
友達が同情してくれるのは嬉しいけど、暗くなるのは嫌だった。
「それに久しぶりに2人っきりで話せて、気づいたんだよね。私、確かに翔太のことは好きだったけど、それって恋人同士になりたいことだって思い込んでもっと大事なことに気づけてなかった。本当は何でも話せる翔太だったから好きだったんだって。恋人同士になったら、意地張って本音も話せなくなりそうで。今のままの関係が良いってことに気づけたんだ!」
華恋がそんなこというなんてと涙を流してくれる友達。
偉いよ華恋!大人だね!と褒めてくれる友達。
めっちゃ良い恋してんじゃん!羨ましい〜!次行こう!次!と励ましてくれる友達。
こうなったらカラオケ行こう!朝まで歌っちゃおう!!と元気付けてくれる友達。
私、良い友達にめぐり会えて幸せだー!
みんなのこと大好き!!

翔太、恋させてくれてありがとう!
大事なこと気づくきっかけをくれてありがとう。
やっぱり翔太は私にとって、大事な存在でした。さよなら。ありがとう。

 そんな様子を廊下から見ている1人の男子生徒が立っていた。
「んだよ、俺からの励ましなんていらないじゃん。」
遠くから見ていた男子生徒、田辺は呟いた。
「お疲れ、頑張ってたの見てたぜ。」
実はあの時、田辺は屋上で密かにあの場を見守っていた。
「ま、俺からはまた今度ってことで。」と、自動販売機で買ったいちごミルクにメモを貼り、華恋の下駄箱に置きに行った。
メモにはこう記して。

失恋バンザイ!

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