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片思い

日向葵

50話 田辺からの告白

「嘘つき」

 進藤さんの言葉が脳裏から離れず、授業は全然集中出来なかった。先生に当てられても、ボーッとしてしまい、上の空だった。度々先生から注意を受けたが、全く言葉が理解できずにいた。
 授業が終わり、終礼が始まり掃除の時間になって、ボヤボヤしながら歩くと田辺と目が合った。その途端ハッとした。
そう言えば、掃除が終わったら田辺と話さなきゃいけないんだっけ。はぁ、なんて憂鬱なんだろう…。今は田辺よりも進藤さんへの誤解を解きたいのに。
そんなこんな考えていても時間は無条件に進んでいく。ついに掃除も終わり、その時はきた。すれ違いに田辺は屋上で待つとだけ告げて、さっさと行ってしまった。
誰にも怪しまれたくないんだろう。帰りの支度を終え、約束の場所へと足を進めた。

 私は言われた通り、屋上へと向かった。
そこには田辺の姿があった。
背を向けてどこか遠くを見て黄昏ている様子。私は、田辺のちょっと後ろに立って「話って何?」と伝えた。一呼吸入れて、田辺は私の方を見ず遠くを見て「お前、あの先輩が好きなの?」と唐突に聞いてきた。え?と私は短く答えたが、「どうなんだよ!」と大声で催促された時はもう答えるしかないと思った。「うん、そうだよ。」とシンプルに答えた。「だろうな」と田辺も短く返事をした。
 二人に沈黙の時が流れた。
重い沈黙。
 早くここから離れたい。だが離れられない何かがそこにはあった。その沈黙は田辺によって打ち破られた。
「俺も何でお前なんかを好きになったのか、いまいちわかんねーんだわ。」
俯く田辺はぽつりぽつりと話し始めた。そんなのこっちが知るかよ!と内心思いながらも、聞くことにした。
「最初はさー、何つーか。ノリ?みたいなもんで。別に好きでも嫌いでもなくて。でも、なんか気になって。気がついたら、目で追っててさ。お前が現れるたびになんか話さなきゃって思って適当に言ってただけなんだ。」
遠くを見て私には背を向けて話し続ける田辺を私はただ聞いていた。
「そしたら、周りの奴らもなんか言い始めてさ。なんかムカついてきて。」
そこで大袈裟ってくらいのため息をつき、「何でお前らまで言うんだよって思う自分に気づいちまったんだよ」と吐き捨てるように言い、舌打ちをした。苛立っているのがわかって怖くなったが、引き下がれなかった。田辺の気持ちは、なんとなくだが理解出来た。最初は軽い気持ちだったのに、どんどん独占欲が勝りついには本気になってしまったというところだろう。それが、恋だと気づいてしまったから。
「まさか俺がお前なんかを好きになるなんて考えてなかったのにな。」なんでなんだよと呟く田辺は悲しそうだった。今にも泣きそうな顔で「でも、好きになった気持ちに嘘はつけねーんだわ!」と私の目を見て言い放つ。その言葉が私には、いつものお調子者の田辺には似ても似つかない真剣さを感じさせた。そしていつも荒々しい印象とは全く異なり、切なくも悲しい告白の仕方と分かった。好きな人にはもう別の好きな人がいる。その好きな人を好きと言っている人も知っている。でも、私が折れて田辺と付き合うなんて選択肢はどこにもない。
だから、ごめん。ごめんって言うのもなんだが違う気がする。でも、田辺にはもうこう言うしかない。意を決して言おうと思ったその時、田辺の瞳からきらりと光る雫が頬を流れた。私はその表情に言葉が詰まり、言うタイミングを完全に見失った。
「沼田」
田辺は泣くのを堪えて、睨みつけるように私を見て少し笑ってこう言った。
「俺を振ってくれ」と。
 ︎
 沼田の答えはもう俺には分かっていた。絶対ノーだと。それは絶対だった。なぜなら、好きな人がいるからだ。だから、俺に勝ち目がないのは分かりきっていた。でも、俺と言う人間はなんとも傲慢で往生際が悪い。諦めたくても諦められない。諦めたくない気持ちが勝って、意地でも振り向かせたい気持ちでいっぱいだった。
どうにか振り向いてくれないかと思考を巡らせるが、そんな方法思いつかなかった。なぜなら、沼田は俺のことを怖がっている。そりゃそうだ。今までの行いがそれを語っている。俺が沼田をいじり、周りの奴らまで馬鹿みたいな言葉を浴びせ嫌な思いをさせたからだ。そんな奴を好きになるわけがない。俺だって最初は軽い気持ちから始まって、ちょっとからかっただけだったのに。まさか自分がそっち方面に行くなんて想像出来なかった。と言うよりも、そんなのあり得ないとたかを括っていた。

 まさかは自分の心にある。
 まさかなって。まさか、俺がって。

 でも、あいつを探しては見つけている自分に気づいた。見つけた時は狩猟に出る奴が獲物を見つけてを狙うように俺もそれに似た感じがあった。だが、その目には俺は映らなくて、別の奴が映ってて、そいつと喋ってるのと俺との差がありすぎてムカついた。
 何で俺には怯えるんだよ。怯えたような目で俺を見てたじゃねーか。なのに、あいつには笑ったり顔を赤らめて恥ずかしがったり、嬉しそうにするんだよ。俺の嫉妬心は熱を熱して炎がメラメラと燃え広がった。
俺の前でも笑って欲しかった。
俺の前でも嬉しそうに駆け寄ってきて…。
そんなことを考えていることに気づき気持ち悪がって、「うぜー」って言ってた自分が一番腹立たしかった。
本当はそうして欲しかったのか。
俺は俺にそうだよなって納得させた。
そして俺は踏み留まったが、中々燃え広がった炎は消えることはなかった。消火しようにも何度も何度も再燃した。  

だったら仕方ねー。
自分自身で決着がつかねーんなら。
自制が利かないなら。
もういっそ俺のことを本気で振ってくれた方がマシだと思った。
俺を諦めさせてくれ!
それは俺が俺自身で出来ることじゃない。その鍵を持っているのは沼田、お前だ!
今度という今度こそ俺を納得させる答えを出してくれ…

 そう心の中で祈るように約束の場所へ足を運んだ。
約束の場所で、俺は沼田に一方的に話をした。意を決して俺はあいつに言おうと思ったその時に感情が先に走り出し、涙が頬をつたい、泣き笑いみたいになってカッコ悪くなった。でも、この言葉を言うのには相応しい表情になれたから自然と言葉が流れた。
 ︎
俺を振ってくれ。
田辺の言葉に衝撃的すぎて言葉を失った。
てっきり、また告白し直してくるのかと思ったら、まさかの言葉が降り注いだ。
私は絶句してしまい、頭の中も真っ白で思考も停止しつつも、田辺の言葉を反芻した。
 自分を振ってくれとは、なんて一方的な言葉を投げ込むのか。投げ込まれた方は、その言葉を受け止めることなど無理なことだった。
投げたボールが強すぎて、身体に当たって弾かれて痺れと痛みを生じたような気持ちになって心が傷んだ。
なんて言うか、田辺らしいというより、投げやりで横暴で攻撃的で…そんなやり方しか出来ないのだろうかと私は思った。
でも、それが田辺の出した答えだとしたら、私は返事をして楽にしてあげたいと同情さえ思えた。でも、それに納得いかない自分もいて葛藤にかられ心の中で戦闘が起きた。

 今まで散々な目に合わせて置いてこれでいいの?あっさり許すの?
 でも、意を決して言ってくれた言葉だと思うの。考えて考えて悩み苦しんできた私なら分かるよね?恋に対してなら。

そう自分に言い聞かせて、やっとの思いで口が動いた。 
「田辺が今までしてきたこと、私は辛かったし、嫌だったよ」
田辺は無言で私の話を聞いた。私が田辺にしたように、田辺は私の話を静かに聞いた。

クラスの生徒までいじめられて辛ったこと
好きな人の前で告白されて迷惑だったこと
好きな人に恋してる人と組んで私の恋を邪魔したこと
私をたくさん泣かせたこと

言えばきりがないくらい、田辺の存在は私にとって嫌いな存在になっていた。

言うのも嫌になって、私はついに口をつむんだ。
静かに聞いていた田辺が、「俺ってやな奴だな」と静かに笑った。
「お前に嫌われることしか、してこなかったってことか。そりゃあ、俺の前では怯えるわけだ。」
田辺の言葉にそうだよと短く返事して私は、言わなきゃいけない言葉を口にした。
「田辺のことは好きになれない。」
口にはしなかったけど、心の中ではごめんと呟いた。
私の言葉に、田辺は項垂れたように泣き崩れることなく、晴れやかにカラッとした晴天のごとく晴れ晴れとしていた。
断られたら普通泣くとか、それこそ感情的になって物に当たるのかと思ったが、田辺には決着がついたのだろう。
そして、私を見て「謝んなよ。」と言い、荷物を持って一度も振り返らず潔く屋上を降りていった。

一つの恋に終止符を打ち、俺は落ち込むよりも不思議なくらい晴れ晴れしていた。強がりかもしれないが。
沼田の言葉にはちょっとだけ優しさを覚えた。好きになれなかったと言った。好きになる努力でもしたのかと変な期待を持ちそうでその言葉を俺の中で訂正した。
好きになれなかったのではなく、好きじゃない。俺のことは好きじゃなくて嫌いだったが正解だなと俺自身の中で落とし込んで納得させた。
「何よ、カッコつけちゃって」
屋上から階段で降り終えたところに、園崎華恋の姿があった。
「盗み聞きとか趣味悪」
「勝手に聞こえてきただけだし」
そんなわけないだろと言い、園崎に背を向ける。
「いいの?これで。」 
「何が?」
「諦めちゃって。」
言われたくない言葉を言われて苛つく。これで良かったんだってさっき落とし込んだはずだったのに、蒸し返すなよと心の中で舌打ちをした。
「ああ、俺は納得してる。もう終わったことだ。」余裕のある表情を見せてやった。
でも、それが強がりによる仮面であることを園崎は見逃さなかった。
「あんたの悪いとこは素直じゃないところだよ。辛いなら泣きなよ。」園崎の表情がふわって優しい笑みを向けた。
園崎の言葉に俺はカーッと熱くなるものを感じた。普通に恥ずかしかった!さっきは、沼田にこれ以上情けない自分を晒したくなかったがためにとった防御的な行動。それを悟られないように頑張って表情を崩さないようにしてきたのに、頬に一筋の雫が流れた。
あーあ、カッコ悪。女子の前で、しかも二人に泣いてる姿を見せるなんてなー。
でも、俺は素直じゃなかった。
「さ、帰ろ」
園崎の優しさに触れて脆く儚く崩れ落ちそうになった心にビンタした。しっかりしろ!
俺はやっぱり素直になれねーな。プライドが勝って、本当なら泣き崩れてしまいたい。でも、屋上には沼田が残ってる。いつ降りてくるか分からない。泣いてるところをまた見られたら、あいつも俺も居た堪れない。それにカッコ悪すぎる。
園崎の優しさには感謝する。でも、甘えたりは俺は絶対しない!幕は自分で下げるよ、ありがとな。心の中でそう呟き、俺は自分の道を歩くことにした。

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