片思い

日向葵

49話 どうにかしなくちゃ

「では、ここで。」
「うん、今日はありがとう。ちょっと冷静になって考えられるようになれたよ。本当にありがとう。」
 翔太先輩に家まで送ると言われたものの、家の近くの公園で別れることにした。
先輩は、律儀にもお礼を言いその場を離れていく。
(ああ、行っちゃう…、一度でいいから振り向いて!)私は心の中で懇願した。
 すると、くるりと私の方を振り返って翔太先輩ははにかんで「また、学校で!」と言い、手を振ってくれた。私は振り返った翔太先輩に驚いたが、心はホカホカしてからカーッと熱くなるものを感じた。
(これが恋なんだな)
そう思うと更に顔は赤くなって両手で頬を覆う。

熱い。

でも、なんだか心地がいい。
 公園から家までは歩いて5分くらいだった。私は家に向かいその場から歩き出した。家についても落ち着かなかった。
それもそうだ。好きな人と一緒に下校できるなんてこれほど幸せなことはない。
思い出してもニヤニヤしてしまう自分に流石に気持ち悪さも感じた。でも、嬉しいのだ!なんて素敵な一日だったんだろう。おとぎの国のお姫様が歌を歌う気持ちが分かった気がした。

そう、こんなに嬉しいのだから!



 一方、幸せそうに帰っていく2人を遠くから見ていた3人はそれぞれの感情に溺れた。
(何で?何で翔太、あの女と帰ってるの?私の告白はもう無効なの?)
(あいつ!俺のことを馬鹿にしやがって!あの男も男だ!馴れ馴れしくしてんじゃねーよ!)
(私のこと応援してるって、あれ、嘘だったんだ…。あれ?何で泣いてるんだろう、私…。違う!まだそうと決まったわけじゃ…でも、一緒に帰るってことはもう親密な仲ってこと?私が入る隙なんてもうないの?)
 疑問、怒り、裏切り、悲しみ、虚しさ…。
 それでも、どうにか自分たちの思い通りにしたいと思う想いが無理矢理ねじ曲げようと、歯車は回る…。そして3人の意思は重なった。別に話し合ったわけでもないが。
(どうにかしなくちゃ!)
(なんとかあの2人を引き離して…)
(俺の方があんな男よりも何倍も好きだって証明してやる!)
 そのためには、どう踏み込んだらいいだろうか。


 翌朝、私はいつも通り学校へ登校した。
下駄箱に靴を入れようとした時、4つ折りの紙が置いてあるのに気づいた。
(なんだろう?また嫌がらせ?)
私は恐る恐るその紙を開く。
メッセージには、こう書いてあった。
[沼田へ 放課後、話がある。 田辺]
私は朝からブルーな気持ちになった。
よりにもよって田辺からなんて…。
もう一度折り畳んだ紙をポケットに入れら下駄箱に靴を置き、教室へ向かった。教室に着くなり、荷物を置き、座ろうとした時だった。
「沼田さん」
 振り返れば進藤さんがいた。なんだか、目が腫れてて少し充血している。
(泣いてたのかな?何かあったとか。)
「おはよう、進藤さん。」
「見間違えなら、謝るけど…昨日、翔太先輩と帰ってなかった?」
(え?)
私は目を瞠いた。でも、事実は事実。嘘を言っても仕方ない。
「うん、帰ったよ。」
私の言葉に「そう」と言うと俯く進藤さん。

嫌な間が流れる。
早く断ち切りたい。

 ちょっと顔を上げては、私を見るなり進藤さんは目を潤ませた。そして、その目は睨むように鋭い目つきへと変わっていった。だが、すぐに目元が緩み泣き出しそうなでも、悔しいのかどことなく強がっている。
その口は開かれた。
「嘘つき…」
「え?」
「沼田さんの嘘つき!」
一気に顔を上げた進藤さんの顔は、怒りと悲しみ、そして…なんとも切ない表情を見せた。
「え?何で…」私の声は掠れた。私もその言葉にはショックだった。
でも、進藤さんは私よりそのショックは大きい。比べられないほどに。
応援すると言われてたのに、裏切られ、しかも自分が恋する相手と一緒にいたらそれはもう計り知れないほど。
「ごめん、でも、それは」と弁解しようとするがそれは遮られた。
「嘘つきに何言われても信じない!」
突き放すような言葉には何を言っても通用しないことを知らしめられた。頬の涙を拭い、鼻を啜り進藤さんは力なくこう言った。

「信じてたのに…」


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