私は、海軍最強航空隊のパイロットだった

高雄摩耶

プロローグ2


某日   太平洋上 

    空は黒に染まっていた。
    天気が崩れわけではない。
    しかし周囲は雷のごとく爆発音が響き、崩れゆく水柱は大雨となって艦上に降り注ぐ。
    まさしく戦場であった。

  「くそ!何も見えん!」

    第五航空戦隊旗艦、空母「瑞鶴」分隊長江川隆兵曹長は、至近弾による海水をあびながらたまらず叫んだ。
    彼が指揮をとる左舷後部の高角砲群はそんな事はお構いなしに敵機に向け火を吹き続ける。

   「左一二〇度より敵機!」
   「撃ち方用!」
   「撃て!」

     高角砲群は担当兵士の合図で次々に発砲し、砲弾が空に黒煙の花咲かせてゆく。
     しかし・・・
     (ダメだ、当たらない)
     対空砲火は全く当たらない。
     回避行動もむなしく敵機はついに爆弾を投下。
     吸い込まれるようして艦尾へ命中、爆発。

     「うぉぉ!」

      江川は衝撃でよろけたがすぐ体制を立て直す。

     「被害は!?」
     「艦尾機銃座が全壊!」

       見ると艦尾飛行甲板下にあったはずの機銃座が完全に吹き飛んでいた。

     「分隊長、敵機が!」

       防御のできなくなった艦尾めがけてさらに敵機がせまる。

      (これまで、か・・・)

      江川はじめ誰もがそう思った。
      と、その時。

    「ダダダダダッ!」
    「ドバーン!」

      突然の機銃音とともに敵機が3機まとめて火を吹き、そのまま海に激突する。

    「な、何が起きた!?」
    「分隊長、直掩の戦闘機隊です!」

      敵機を撃墜した直掩戦闘機はそのまま「瑞鶴」をかすめるようにして離脱した。

     「またあの人に助けられた。」

       ほんの一瞬の出来事であったが江川には機体に乗る人物が誰かすぐにわかった。

     「なんと美しい。」

       夕日に輝くその機体は、ここが戦場であることを忘れさせるほど美しく見えた。
       そしてその機体こそ、海軍の主力戦闘機であり世界最強といわれた戦闘機、その名前と撃墜できないという皮肉をこめて、敵はこう呼んだ。

       "ゼロ・ファイター"と・・・

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