PROMINENCE

第48話 見通す神


  話し合いは一時中断され、皆それぞれにホールの外へと向かっていた。

「すまぬが、主…圭一と申したか?」

ゼウスに呼び止められ、圭一はホールの少し奥へと移動する。

「お主、何か隠し事をしては居らんかの?」

  静かに問い出すその声に、圭一は顔色を変えた。
先程からゼウスが話す度にまるで何かを思い出そうとしている様な仕草を、圭一は時折していたのだ。

ゼウスもそれが気になっていたのか、はたまた『何か』を見通して問うているのか。

しかし、圭一は口を重く閉ざしてしまう。

「ふむ。それではこう問うてみようかの──」



「『お主はこの世界の住人か』?」


──ドクンッ!!


  圭一の鼓動は大きく跳ね上がる。




暫くして、ヤハウェ達はそれぞれの用事の為に帰ってしまい。ゼウス・アマテラス・クーフーリンの3人が残った。

ルシファーは外で見張り番をするらしい。



「…人間世界あっちの世界に戻ったら、僕は上に探りを入れてみるよ」

「私も頼れそうな所を見繕って、穴が無いか調べとく。
昔使われていた病院や学校施設も怪しいからね」

  真人と美鈴は階段の端で話し合っていた。

「あんまり無茶しないでくれよ?  山城さんったら、色んな事に首突っ込むから危なくて」

「何さアンタの方も大概じゃない。
てか、山城さんじゃなくて美鈴って呼びなさい」

「たまに呼んでるんだから良いだろ!慣れないんだよ名前呼びが!!」

  珍しく感情的に声を荒らげる。
真人の焦る姿を楽しげに見る美鈴は、彼の肩を何度か軽く叩く。






「何だか上が騒がしいわね」

「……」

「何よ? まだ考えてるの?」

  ブラッドは扉を抜けて直ぐにある、中庭の手摺に腰を掛けていた。
隣にはベリーが同様に手摺に腕を預け、渋い顔をして中庭を見ていた。

「『時神』に関してもそうだけど、まさか彩斗本人が『こっち』に出入り出来るなんて…」

  険しい表情で頭を掻きながらベリーは愚痴を零す。

ブラッドはそれを横目に、腕を組みながら上を見上げ少し何かを考える。

「裏をかこうとしていたのはお互い様って事よ」

  それでも、相手の方が1枚…いや、2枚か3枚は上手だった。

現にポセイドンを単独で倒してしまう程の実力と、『時神』の能力を持っている時点で、ブラッド達ノーマルな人間には勝ち目が薄い。

「こうしてる間にも妹や…子供が死んでるのよ!!
速く…手を打たないとっ…!!」

「焦っちゃダメよ。私だって腸煮え滾る思いなんだから」


  サングラスの横から見える瞳に、ベリーは一瞬恐怖した。

これが本当に怒りで満ちた人の瞳なのだろう。
眼光だけで獣すらも逃げ出しそうな勢いだ。




  中庭では、アマテラスから生転夢幻を渡して貰い修行をする歩夢が居た。

そこへミーアが近付き声を掛ける。
振り上げていた刀を下げ鞘へと納めると、歩夢はミーアへと振り返る。

「ミーアさん…?」

「すみませんお邪魔してしまって」

「そんな、大丈夫ですよ!」

  頭を深く下げる彼女に、歩夢は焦り答える。

お姫様と呼ばれるだけあってか、彼女は気品があり礼儀正しい行動が目立つ。

わたくしは『神代』として存在していませんが、歩夢さんは違いますよね。
自ら『神代』になろうと必死になっている…」

「その『神代』なんですけど、確か神の化身になる…自分が神になる事ですよね?
俺、自分が神になるとか良く分かりません。
この力だって、神になる為じゃない。誰かを護る為に借りているんです」

「…だからこそ、貴方が神代にふさわしいのですよ。
『神代』となる者が邪気に塗れていては、邪神と成り災いを呼ぶ。
清き心を持ちし者こそが、『神代』となるのです」

「…それで誰かを護れるなら、俺はそれでも良いです。
でも、覚えておいて下さい。俺は人間です。
怒りや私情で力を使う事だって考えられるんですよ?」

  歩夢の言葉にミーアはクスリと微笑む。
歩夢はその笑顔に一瞬見とれてしまいそうになるが、首を振って邪心を振り払う。

「神だって感情的になりますよ。私は…歩夢さんが『神代』に成れる者で良かったです」







  ゼウスは圭一の確信へと迫ろうとしていた。

(俺が…この世界の人間じゃない?)

  時折現れる記憶の断片的映像。
何故か森で記憶を失い倒れていたのに覚えていた『國信田隼人』の事。
そしてそれが組織として纏まっているという事。

(どうして俺は初めから知っていたんだ?)

  分からない。
記憶の重要な点が、まるで靄が掛かった様に思い出せないのだ。

それでも先程は1つだけハッキリとした事が口から次いで出た。


『クロノスさんじゃない』


どうして知っていたんだ?

どうしてソレに確信を持って言えた?

そしてこの魔法もそうだ。
少しの事を思い出してから、身体が記憶していたかの様に魔法を扱える様になっていたし。

魔力の流れも読み取れる様になっていた。

「俺は…誰なんだ?」

「お主は記憶を失っておるのか?」

  記憶を失っている?

ゼウスの言葉に圭一は更に思考を深く深く張り巡らせてゆく。


何かを知っている。

失っているんじゃない。

閉ざしているんだ。



何に?

──恐怖に。

誰に?

──彩斗に。

何故に?

──失ったから。


──ザッ────ザザッ─────


『炎の記憶』


─ザザッ──ザッ────ザザザッ───



紅い炎が頭に思い浮かぶ。

何だこれは?

熱い…!!


「ゼウス殿!!  これは!?」

アマテラスが2人へ駆け寄ると、アマテラスは瞳を見開き圭一を見る。

圭一から漏れた魔力は紅く燃える様な炎の形をしていた。

しかし、驚いたのはその魔力では無い。


「その瞳ッ…!!  そしてこの炎は『記憶の炎』!?」


火の魔力は大きく膨れ上がり、アマテラス目掛けて弾け飛ぶ。

「ぐぁっ…!!」

「オイオイ、天照?!」

「待たれよクーフーリン!!」

  駆け寄ろうとしたクーフーリンを静止し、ゼウスはこの成り行きを見届けようと呟く。

全能神に刃向かう事が出来るハズも無く、ゼウスに考えがあるのだろうとクーフーリンは大人しくそれに従った。

「これは…!!  お主ッ!まさか!!」

魔力に包まれたアマテラスは、ソレから何かを感じ取ったのか。
圭一を見るや、涙を流し魔力を受け続ける。

「ぐっ…!!」

「はぁっ…はぁはぁ…」 

圭一は魔力を使い果たしたのか、炎の塊は綺麗に消え。
2人は同時に地面へと崩れ落ちた。

「大丈夫か天照?」

「だ、大丈夫じゃ…。それより、この者の正体が少し分かったぞ…」


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