PROMINENCE

第47話 鍵


 神殿の中央ホール。
そこに神が6人。元天使1人。人間が7人という異常な空間となっていた。

「うむ、久しいの『奇跡の姫君』…キャロルフ殿」

開口一番を切ったのは全能神であるゼウスであった。

それに対し、神々の前に並んでいた一同の中からミーア1歩前に出て会釈をする。

「お久しぶりです。ゼウス様」

「半年振りじゃの…今年の初めに『扉』を開いて以来か」

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。何分、『扉』の開き方を分からなかったものですから…」


  この2人が言う『扉』というのはアポカリプスの事を指しているのを、この場の全員が理解していた。

「『奇跡』の代償が随分と侵食している様じゃの…。
やはり、『神代』として生きてみてはどうかの?」

  また『神代』か?と歩夢は心に疑問を抱く。

「いえ、私には過ぎた力です。それは誰かの必要な時に取って置くのが得策ですよ」

「ふむ。して、天照の『神代』は誰かの?」

「は、はい。俺です」

  ゼウスが問うと、歩夢が返事をして前に出る。
そのタイミングでミーアは後ろへ下がり歩夢達と交代する形になる。

「む…お主じゃったのか?  いや、失敬失敬。顔を見せておくれ」

一瞬戸惑ったゼウスは、謝罪をしながら軽く頭を下げる。 


てか、全能神が頭を下げてる光景ってやばいよな…。


  言われるがまま、歩夢は顔を上げてゼウスを見る。
暫し見つめ瞳を見たゼウスは、何かに納得し頷いていた。


「『神代』としては歪 いびつじゃの。器に見合う魔力では無い…だから封印を…?しかし川に蓋をしても溢れて漏れでる…」

  何かをブツブツと呟き考えるゼウス。
周りの神々も、歩夢の様子を伺いながら何かを感じていた様だ。

「器は今鍛えてる最中じゃ」

「主にオレがだけどな…ぶぐづ!?」

アマテラスの言葉にクーフーリンが被せる。
脇腹を思いっ切り肘打ちされ、クーフーリンは声にならない声で悶絶する。

「成程…して、気になるのがそこの少年じゃな」

  ゼウスの言葉に皆首を傾げた。
歩夢以外の男で少年と呼べるのは、この中にはもう居ないハズ。

皆で互いに見合うが、誰を指し示しているのか分からなかった。

「それより〜♡  現状の話はしないのかしら?♡」

先程まで静かにしていたブラッドが口を開く。

「そうじゃな。歩夢くんがポセイドンから持って来た『時神』が動いた情報じゃが。
ワシ等の推測が正しかった様じゃな」

「ボクは外れて欲しかったけどね〜。時神が動いたって事は、犯人は彼でしょ?」

「うむ。勝ち目は低い」

ヤハウェの言葉にブラフマーは頷き腕を組む。

「彼って…誰ですか?」

「歩夢くん、時神で有名と言ったら…」

  真人が教えようとした時、コホンと咳払いをしてゼウスは軽く髭を撫でる。

「時神…『時間の神クロノス』じゃな。皮肉な事に、我が父と似た名前を持つ彼奴が裏切るとは…頭が痛いわい」

  眉間を抑えながら愚痴るゼウス。

クロノスといえば色々な物語にも使われていて、超有名な神の1人じゃないか。
何でまた、そんな大物が裏切り行為をしたんだろう。


「…っス……」


  隣で囁く声に、歩夢は反応して顔を覗く。
隣に居たのは圭一であり、彼は今の話を聞き。俯いて肩を震わせていた。

「圭一さん?」

「違うっ…!!」

  皆の視線が圭一へと注がれる。

「クロノスさんじゃないっ!!  真犯人は…真犯人はっ…!!」



「真犯人は『吠舞羅  彩斗』」



思い掛け無い方向からの回答に、皆一瞬思考が停止する。

その声の主はブラッドの隣でずっと静かにしていたベリーのものだった。

「吠舞羅彩斗…っ!?  ネクロマンサーの彼が言っていた奴か!!」

「あの時の?!」

真人と歩夢はその名前に聞き覚えがあり、顔を見合わせて確認した。

ネクロマンサーが消える前に話していた内容に関わっている人物。
それが吠舞羅ほむら彩斗さいとであったのだ。


「んも〜ベリーちゃんってば、バラしちゃダメじゃない」

ブラッドがくねくねと奇妙な動きをしながらベリーを責めるが、ベリーは何食わぬ顔で皆へと向き返す。


「私はハーヴェスト・ベリー!!ハーヴェスト財団の娘よ!!」

別は胸を張りながらそう言うと、1枚の写真を取り出し。
ゼウスへ頭を下げながら前へと出る。

「私には1人の妹が居るの。その子は今、人質として利用され…研究材料としても扱われているの」

  取り出された写真には、笑顔をいっぱいに写した家族写真の様なものであった。

ベリーはそれを大切そうに握り締めながら、ミーアへと頭を下げる。

「ごめんなさい…!!  貴女を利用してしまって…。
私は、どうしても『扉』を開けて『ヨハネの黙示録』を手に入れなければならなかったのっ…」

  肩を震わせ涙を流す彼女に、ミーアは駆け寄り頭を撫でる。

「えっ…?」

何が起こったのか分からない様な表情で、ベリーは顔を少し上げ、ミーアへを覗き込む。

「知っていましたよ。貴女が来る事も、その理由も。
ねぇ?ゼウスさん」

その言葉にゼウスは髭を2、3回撫でながら罰の悪そうな表情を浮かべる。

「すまぬな…。実はヴォルヴァという巫女が半年前に現れ、ミーアちゃんが来る事を予言していてな。
その時に君の事も少しじゃが予言していたのじゃよ」


「しかも、それは貴女が吠舞羅 彩斗に逆らい『死んでしまう』という運命も予言していました。だから私は『扉』を開くまでに貴女を阻止しようと考えたのです。
そしたら…私の魔力が反応してしまって、天界へと『扉』を通り越して来てしまったらしいのです…」

  ベリーは唖然としていた。
まさかの展開に頭が追い付いていかないのか、オドオドとブラッドを見る。

ブラッドとはブラッドで何か納得する事でもあったのだろうか。手をポンと叩きにこやかな笑みを浮かべた。

「だから護衛が少なかったのね!弱っちかったし♡」

成程と頷くのを横目に、真人はミーアへと質問する。

「予言が外れていたら、貴女は自身が危ないとおもわなかったのですか?」

「大丈夫です。いざとなれば『扉』の向こうへ逃げましたから。ゼウスさんからなら、簡単に私を呼べたハズですし」

「まぁの」

「あぁ、経験があるなぁ…」

  自分では開き方が分からない。でも、神が内側から呼び出す場合は簡単に連れて来られるのだ。

「実際に今回はワシの所へ来れる様にしておいたのじゃが、成程…運命はこう動いたのじゃな」


  髭を撫でながら皆を一瞥する。

「此処に居る者達には、例外として『アポカリプスの扉』の『鍵』を授けよう」

「鍵…?」

  歩夢が首を傾げ問うと、アマテラスは手を開き腕を上げる。

「妾の所は良いぞ」

「オレも別に」

「ゼウス殿が示す道筋なら、我も従おう」

「わ、私も…」

「ボクは嫌だよ」

  神々がそれぞれに肯定的な意思を示すと、ヤハウェ以外は皆腕を上げ空へと掌を向ける。

──カツンッ。


  ゼウスが杖を床に付け鳴らすと、何も無い空中に大きな光の球体が現れる。
神々しく輝く球体は、ゼウスの元へ近付くと弾けて7つの小さな球体へと変わる。


「これは鍵となるモノでな。今から主達に1つずつ授けよう」

  そう言って空に浮かぶ球体を放り投げる仕草で歩夢達へと向けると、球体はふわりと舞い上がりながらそれぞれの前に1つずつ止まり、ゆっくりと胸の中へと入ってゆく。


「これからは『扉』に出入りしたい時は、心に念じながら扉よ開けと唱えるのじゃ。
そしたら、この者達の所への扉がそれぞれ開くからの。そこから行きたい神の所へ行けるハズじゃ」

 そんな簡単に出入り出来るものなのか…。

「本来なら『神代』となる者だけが授かる鍵じゃ。
大切に使うのじゃぞ?特に歩夢」

「なっ?!」

  急な名指しに歩夢は赤面しながら驚く。

なんだこの授業参観で先生に名指しで注意されたような、恥ずかしい気持ちは…。

「待て待て、なんでブラッドまで?!」

美鈴の声に皆ハッとしながら見やる。

ブラッドは注目されたのが嬉しかったのか、くねくねしながら何とも言えない表情で喜びを表していた。

「あっ、あの…実はブラッドさんは…」

「私わぁ〜傭兵よぉ?♡  ハーヴェスト財団からのご指名でこの子の護衛としてぇ、國信田ちゃんに近付いてたワ・ケ♡」

「な、現に俺等を襲ったりとかしてたじゃないか!!」

  圭一の言葉に、ブラッドは人差し指を向けて左右に振る。

「ノンノン♡そりゃあ味方の振りしなきゃいけないのに、貴方達相手に手を緩めて何も得られなかったじゃあ駄目じゃないのぉ。
そ・れ・にぃ♡ 彩斗ちゃんが裏で色々と根回しをしていたからねぇ…軍や政府に貴方達から情報が漏れたりしてみなさいよ。 この子の妹、人質に取られてんのよ?」

  考えれば納得のいく話だ。
手を抜けなかったという話だが、この人が本気で殺る気だったなら。俺等をいつでも殺せたハズなのだから、この人も根は優しいのが解る。

それに魔力制御装置ばかりを狙っていたのは、それを取って俺等を逃がそうとしていたのでは?

魔力を解放したこの3人を同時に相手をしたとなれば、逃げられてもおかしくは無いし。

あれ?色々と辻馬が合うぞ?

「安心せい、邪気は感じられん。主様の記憶を妾も今覗いて見たが、多分同じ考えに行き着いたぞ?」

  アマテラスさんが俺の心を読んでか、そんな言葉を投げ掛けて来てくれた。
俺はそれに頷くと、皆も多少なり不安はあれど。了承する形になった。


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