PROMINENCE
第40話 奇跡の光柱
病院の屋上。
そこには2つの人影があった。
「貴女がミーア・キャロルフ?」
「……」
屋上へと繋がる階段のドアを閉めながら、ベリーは縛られ横たわるミーアへと話し掛ける。
  しかし返答は無く、ただ鋭い目付きで彼女は睨みつけて来るだけ。そんな事を露知らずか、ベリーは彼女の横たわっている場所に描かれた魔法陣へと足を運ぶ。
「白いワンピース汚しちゃってゴメンね。すぐ終わるから」
「……」
「黙りか。まぁ、騒がられるよりはマシなんだけどね」
「貴女は…何をしようとしているのか解っているのですか?」
  鈴のような声がベリーに向けられ、それに反応しベリーはその声の主へと振り返る。
「『アポカリプスの扉』を開いたら、神の待つ社に呼び出されるんでしょ?
そこで『ある力』を得られる」
「違います。何かを得るには大なり小なり、代価を支払うモノです。私もそう…」
  ミーアは顔を曇らせる。
その表情はとても切なそうで、ベリーは一瞬我を失い掛ける。
「私はどんな代価を払ってでも、どんなに手を汚してでも欲しいモノがあるのよ」
玄関ホール内。
「─── がはっ…」
ブラッドは血反吐を吐きながら片膝を地面に着く。
「流石『回復闘士』ね…。
まさか、魔力を解放したアンタの力がここまでとはね…」
  腹部の破けた服の下から打撲痕とみられる痕があり 、攻撃の破壊力がどれだけ大きいかを物語る。
そして、それを行った美鈴は先程のダメージを回復したかの様に平然と立ち尽くしていた。
─否。
彼女は文字通り回復したのだ。自らの魔法を使い肉体を回復させ、ダメージを消し去ったのである。
「思い出したわ。アンタの事…確か、烏丸ちゃんと一緒に居た子猫ちゃんね?」
「えぇ、アンタに何度か戦闘訓練も教わったわよ?
陸軍憲兵中尉殿」
「中尉クラス…? この強さで?」
  美鈴の横では、よろよろとしながらも真人が近付いて来ている最中だった。
「クラスってなんです?」
疑問そうな顔をしながら質問を投げ掛けた歩夢に、真人はブラッドを見ながらそれに答える。
「魔術師で軍に配属される場合、魔力の質や能力で所属・地位を決められるんだ。」
「本来なら、この人の地位は『少佐』くらいはあるハズだ…」
「何を言ってんのよ。 魔力を解放した貴方達の方が私より上じゃないの♡」
「アンタには…ハンデがあるでしょ」
「「「ハンデ?!」」」
美鈴の発言に3人は驚く。
ブラッドはやれやれと首を振りながら、サングラスを横からクイッと直し、四人を見やる。
「ブラッドのハンデ…それは『魔力不全症』よ」
「あら、やっぱり知られてたのね?」
「えぇ、医者のカルテを見て驚いたわ。
アンタは数年前に起きた事故以来、魔力の消費量がおかしくなってしまっている事に…。
アンタ、内蔵の殆どをやられたんでしょ?」
  美鈴の問にブラッドは沈黙を貫く。
しかし、美鈴はそれでも問うのを辞めない。
彼が『心に秘めている真実』を吐き出してくれるのを待っているから。
その答えを聞きたいが為に、何年も烏丸と2人でブラッドの行方を追った事もあった。
「…真実なんてね、蓋を開けたら毒でしかないのよ?」
ブラッドは静かに、悲しげな声で語る。
「美鈴ちゃん、アンタの話しも聞いてるわよ。
私を追っ掛けてる最中に、アンタの働いていた料亭で事件が合ったのよね?
しかもそれがアンタの周りの人間を追い詰めた…。
あのカメラマンね、  政府が雇った刺客だったのよ。」
「なっ…?!」
「政府は私の素性を探れば、アンタ達が自ずと『あの事件』の事を知ってしまうのを判っていた。
だから、そうなる前に圧力を掛けたのよ。
『これ以上探るな。でなければ周りから潰して行くぞ』ってね。
烏丸ちゃんは直ぐに気付いた見たいだったけど…」
  美鈴の顔が段々と青ざめてゆく。
歩夢は状況が分からずに混乱していた。
真人と圭一は美鈴を黙って見守るしか無かった。
先程までチームワークが取れていた4人に、微かに…否、大きな歪が生まれたのをブラッドは見逃さなかった。
「悪い事は言わないわ。アンタ達もこちら側に来るべきよ。
政府が世界が述べている事なんて、殆ど上っ面だけの綺麗事よ」
「っ…!!」
「美鈴さ…なっ!?」
───ドクンッ─
歩夢が美鈴の元へ向かおうとした瞬間、大きな鼓動がなり響く。
魔法陣に触れながらベリーは魔力を流し込む。
そうする事で魔法陣は輝き、発動した事が伺える。
「國信田は命を捧げていたけど、案外簡単に開くものね」
「これ以上魔力を流さないで!!
扉を開けば、貴女も危険なんですよ!!」
ミーアの声は虚しく、ベリーはボソリと「もう引き返せないのよ」と呟いた。
そして魔力をありったけ込めると、魔法陣は強烈な光を放ち病院を覆う。
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