PROMINENCE

第37話 神々の思惑



全能神ゼウス』の神殿。
此処では現在、現代では有り得ない程の実力を持つ神々が集まっていた。

天照大御神
クーフーリン
ヤハウェ
ブラフマー
ヴィシュヌ

この神々が各々に並び立ち、その中央の玉座にはゼウスが座っている。

 「錚々そうそうたる顔触れだな」

クーフーリンが皮肉混じりに口を開く。
それに反応してか、ブラフマーは眉間にシワを寄せてクーフーリンを睨む。


「緊急招集なんて数十年振りだからね。ボクも軍の会議を抜けて来たんだ。早々に要件を聞きたいね」

「私は…この状況なら仕方ないと思ってます…」

「ヤハウェよ、お主は部下から話は聞いておろう?」

「聞いてるけどね。ボクは現状、軍隊を纏めて指揮を取るので忙しいんだ。
人間界の不審な動きのせいで、アポカリプスの扉を厳重注意して警護しなくちゃいけないんだよ?」

「し、仕方ないじゃないですか…!!
警護班の私と『万軍』を率いてる貴方が管理しなきゃ、事態は悪化しますし…」

「君ねぇ、そんなんだから舐められるんだよ?
タダでさえ、女神で気弱な神で軍から邪魔者扱いされてるってのに…それじゃあますます」

「口を閉じておれ愚か者。女神が舐められてる?
そ奴等全員を後で叩き直してやるわ」

ヤハウェの愚痴に申し訳なさそうに意見を言うヴィシュヌ。
  その話に割り込んでアマテラスが仲裁するが、ヤハウェは触れてはいけないモノに触れた子供の様に嫌な顔をする。


「皆、良くぞ集まった…」

───ビリッ─

たった一言が、全ての言葉を飲み込み静寂を生んだ。

ゼウスが口を開き言葉を発した瞬間、神達は咄嗟に口を閉じたのだ。

(ふむ、炙り出しか。警戒するのは当然じゃな)

(へぇ…流石は万能神オールドゼウス)

(すげぇ圧だなぁ。ボクの闘争心ココロが踊っちゃうよ)

(…コレは?!)

(ひぇ…お腹痛いですぅ…)


それぞれ顔色は変えず(ヴィシュヌを除き)にゼウスの覇気を耐え抜く。

「──ぐっ!! ばぁ…か…なっ…」

ゼウス達の居る、神殿に幾つもある1つの内の大広間。
そこに今は閉ざされている出入口の扉の向こうから、悲痛の声と何かが倒れる音が響いた。

扉が開き、1人の天使の兵隊が放り込まれる。

「─ジィさん、コイツだ内通者っつーのは」

「ふむ、ご苦労じゃったなルシファーよ。お主も中へ入れ。
茶でも飲むかい?」

兵隊を放り込み、魔力で作り出した縄の様な物で縛り上げたルシファーに、ゼウスはニコやかに話し掛ける。

ルシファーはバツが悪そうに頭を掻きながら、首を横に振り、お茶を拒否した。

「ジジィ、オレは子供じゃないんだから」

「──これ、ルシファーよ。全能神様に対して、何だその口の利き方は?」

先程まで沈黙を保っていたブラフマーが、ルシファーを一喝する。

「良い良い、ルシファーも並べ並べ」

威厳はどこへやら、まるで孫を甘やかす おじいちゃんの様にゼウスはニコやかに笑みを浮かべていた。

ルシファーもブラフマーも一瞬互いに顔を見合わせ、どういった状態か聞こうとしたが、ゼウスが急かすせいでルシファーはブラフマーとは反対の位置となる場所へと並ぶ。

アマテラスやクーフーリンはそのやり取りを見て、クスクスと笑っているのがルシファーの視界に入った。

「(君等、何か言ったのか?)」

すぐ隣に並ぶクーフーリンに小声で問い質すも。クーフーリンは笑いを堪えながら首を横に振る。

「(ジィーさんも嬉しいんだろうぜ。現状は最悪になりつつあるが、それでもお前が本当の意味で還って来れたんだから)」

  その言葉にルシファーは目を見開きクーフーリンを凝視した。

  過去に天界に充満した悪意を全て引き受け、そのまま地の果てまで潜り込み封印仕様としたが、自らの肉体や精神がソレに耐え切れず移し替えた姿。
サタンの誕生。
その際にゼウスはとても悲しんでいたと聞いた。

『万能神』でありながら、天界が闇に染まろうとしていたのに気付けずに居た事。

そのせいでルシファーという大切な人を失った事。

そして、それからというもの。ゼウスは悪魔の殲滅に身を乗り出した。

(オレはそれを覚えている…あの時のゼウスの顔も全てっ…)

信じられなかった。
ゼウスが悲しむ?オレの為に?

違う、ゼウスは憎んでいたんだ。

悪意であるオレを…サタンを…。



「では本題に入るとしようかの」

その声で、ルシファーは深い思考から抜け出した。


「本来なら、ポセイドン達にも招集を掛けたのだがのぉ」

「何かあったのでは無いのか?」

「ふむ。そこの者よ。
此処に来たと言う事は、何か知っておるのじゃろ?」


先程捉えた兵隊に、ゼウスは目を細めながら問う。

問われた内容が内容なだけに、兵隊は一瞬口を閉ざそうとしたが辞めた。それもそうだ。
この状況で口を割らない方が無理な話なのだから。

少数とは言え、皆最高神やそれに連なる者達。

実力は知れている。
たかが一般の兵1人でどうこう出来る相手では無い。

「…『トキガミ様』です」

兵士の発言に皆息を飲んだ。

「『トキガミ様』っ?!」

「彼奴が…絡んでおったのか…」

皆が驚く中。全能神だけは静かに何かを確認するかの様に兵士を睨む。

その視線に気付いた兵士は青ざめ。
徐々に、生気を失うかの様な表情を浮かべていった。

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