PROMINENCE

第32話 招かれざる客






宮城県上空にその姿はあった。

「幾つか強い魔力が感じられる…」

「今回の目標人物ターゲットはガキじゃねェのか。おっ、中々良い女だァ」

「ノイズ、くれぐれも悪い癖を出さない様に」

「前科持ち」

「うっせェなァ、分かってンだよ」


複数の人影は、雲の切れ間から照らされた月明かりに照らされ姿が露になる。

「『追跡者チェイサー』は手術後から間もないけど大丈夫なの?」

「大丈夫。ベリーは?」

「大丈夫よ」

少女達は互いに確認を取ると、ベリーと呼ばれた少女が手を挙げる。

「我等『応答せし軍団リプラード』。
その名の通りに國信田様の期待に応えるわよ!」

「はい」

「あいよ」

それぞれの返事を聞き、ベリーは情報を整理する。

「私が病院制圧。ノイズが待機しつつ後にくるブラッドと合流。
その後、ターゲットである『ニーア・キャロルフ』を拉致。
チェイサーはバックアップとして二人に付いていて。
作戦は午前11時に決行、私は10時に病院を襲撃しますからそれを合図に準備を。」

「終わったら合流地点の病院に私達が向かう」

「そこで扉を開く。ンでその攫った姫さんを利用するのか」

「えぇ、これは失敗してはいけない任務よ」

「了解です。それから、丁度来た見たいですよ」

それを言い切るか否や、もう1つの人影が猛スピードで3人に接近し止まる。

「おっととと、これ中々なれないネ」

  ふらふらとバランスを取りながら宙を彷徨う男。
見た目からして日本人ではない。
釣り上がった目と、細くヒョロっとした姿。

「中国からの派遣。リン・チャオで宜しいですか?」

「貴方ハ、ハーヴェスト・ベリー?
まだまだ子供ネ。大丈夫?」

  その言葉を聞いた瞬間、ベリーから冷たい眼差しが放たれる。

「それに、彼女もまだ幼い様ですガ?」

「私は論外」

「まァ、年齢はコイツには関係無ェンだよな」

「そうですカ。負け犬と子供が任務に着けるとハ、日本人ハやはりバカデスネ。」

日本人そいつに利用されてンのは何処かの国だけどなァ」

  啀み合う。
互いに睨み合いながら威圧する。

その二人を押し退け、チェイサーは下を指差す。

「来た。敵襲 人数は10人」

「やっとかよォ。わざわざ判りやすく空に居ンだから、もちっと速く来いや」

下を見ると、幾つかの影が動いていた。
その中で白装束を着た者が1人真ん中に居る。


「貴様等!此処で何をしている!!」


白装束の男性が先陣切って4人に近寄ると、大人しく手を上に上げろと命令する。

「あン?  両腕を上げるだけで良いのかよ」

「大人しくしろ!  貴様等は全員魔術師だろ?」


「そうです。私達は魔術師…まぁ、1名は最近なったばかりですけど」

「ワタシの事言うなラ、その小娘も大概ヨ」

「うるさいです」

「えぇい!貴様等全員黙れ!!」

痺れを切らした男は、4人をそれぞれ連行する様に他の者に命じる。

「おいおい、今時 縄と手錠かよ。魔術師ならもっと良いモン持ってンだろ?」

「馬鹿にするなよ? これは特別製の縄と手錠だ。」

ソレを聞いた瞬間、ノイズキャンセラーはニヤリと口角を上げた。

「我々が欲しがっていたのを、わざわざ持参して頂けるとは…感謝します」

「はぁ?何を言って…うっ?!」


大口を開けて喋っていた男は、突然喉を抑えゆらゆらと不安定に飛び始めた。

「下に車有る」 

「予備とかも積んであるでしょうから、それ等も回収です」

「がっ…、おい!お前ら…も…っ!!」

周りを見渡すと、一緒に来ていた者達はゆっくりと降下を始めていたのだ。

男はその様子を不気味に思い、4人を睨む。

「貴様等何をっ!?」

「1種の催眠効果ですよ。彼等は此処に来た時から既に私の魔術の手中にありましたから」

「何…を……」

「あぁ、貴方も駄目でしたか。少しは長く耐えれた様ですが」

「何…を…何……を…」

「『そのまま降下して、車から荷物を降ろしなさい』」

「は…ぃ…」

男は項垂れながら返事を返し、地上へと戻る。
車を開けて予備のロープや機材を全て外に出すと、虚ろな目で空を眺める。

その光景を流石に不気味と感じた3人は、肩を震わせながら荷物を袋へ詰める。


「しっかし、お前の魔術は恐ろしいなァ」 

「同意。これもアレの一部なのですか?」

「日本人…怖いネ」

「う、うるさいわね。良いから荷物をまとめたら、明日までホテルで待機よ!!」






桐咲 歩夢は病院に居た。
昨日の戦いで魔力を一気に使い体にボロが出ていた為である。

「オレが退院する前日に、まさか歩夢くんが病院送りにされるとはね…」

  新聞に目を通しながら隣に座る烏丸。
読み終わったのか、新聞を畳んで歩夢へと手渡して来た。

「読んでみな。2枚目の下から3行目」

「えぇっと…『失踪者の情報求む 今月に入り27名に及ぶ行方不明者 依然として情報は皆無』」

大きな見出しと、太文字の文が幾つも記載されている。

どれも失踪や行方不明といった文字が見受けられ、被害者の家族のコメント等も添えられていた。
それがまた心を締め付ける。

「っ…?! これ、他県にも被害者が!!」

目を通した更に先の文には、様々な県の名前も書かれていた。

「元々、家出だのなんだのは多かったからな。
ソレを更に利用して人を集めてるんだろう」

「テレビとかで見た事あります…。 でも、それすらも利用して研究をしているだなんてっ!!」

「熱くなるな。冷静に考えてみろ、これはある意味で好都合な事なんだ」

  鋭い言葉を投げ掛けられ、歩夢は息を飲んだ。

「この地域が本拠地になってるなら、オレ達でそいつ等全員救えるって事だ」

「でも…」

「歩夢くん、これ以上は危険だぞ。
今からでも一般に戻るんだ」

「な、何を言ってるんですか?!」

烏丸の不意な言葉に歩夢は絶句した。

「今の君なら魔力を感知して『関わらない様に避ける』事が出来るレベルになった。
此処が潮時だとオレは考えて居る」

  言葉が出ないとはこの事だ。
何を発したら良いか、歩夢は混乱する頭で必死に考える。

「上に掛け合ってみたら、君の事を全面的にバックアップしてくれると報告が届いた。これで危惧していた國信田に襲われるという事も無くなるだろう」

「俺はっ…」

「子供は子供らしく学業へと戻るんだね」


烏丸は思いを云い終えると、受け付けに向かい会計を済まし出て行った。

取り残され、先程の言葉を考える。
しかし、一向に考えは纏まらなかった。


「歩夢、検査は終わったのかい?」


顔を上げると、目の前には美鈴さんが立っていた。
彼女も検査を終えたのであろう。片手には会計表や薬の入った袋を携えていた。

「…美鈴さん、実は俺」

先程 烏丸に言われた事を歩夢は説明する。
初めは驚いた美鈴であったが、話を聞いてるうちに溜息を吐きながら頭を抱えていた。

「あの馬鹿、本当に言葉足らずっていうか。話し下手なんだから」

「えっ?」

「アンタ、ウチを助けた時…一般人を殺してしまって凄いショックを受けたでしょ?」

そうだ。
俺はあの時、ノイズキャンセラーと戦って一般人を殺してしまった。
人を…関係の無い人を殺してしまったんだ。

「あの後、死体を鑑識に回してくれたらしいんだけど。あの死体は『不明』だったんだってさ」

「不明…?」

「あの時にノイズキャンセラーが一般人を盾にしたなら、少なからず遺留品やその人の手掛かりがあるハズでしょ?
なのに無かったのよ。それこそ何にも」

「それって、どういう事ですか?」

「検査の結果はノイズキャンセラー本人かも解らないし、身元も全く不明なのよ。
手術後の形跡も、病院のカルテにも痕跡は無かった。
指紋も誰のモノとも一致しなかったらしいし」


正体不明の死体。
そんな事があるのか?

「得体も知れない奴を殺っただなんだって、アンタが悩んでしまうのなら。
この事件から手を引いて貰った方が良いって思ったんだろうね。
命を殺める事はアンタの歳には重すぎる」

だから烏丸さんは俺を遠ざけようと…。

「それでも…立ち止まるのは嫌です」

「そうかい。じゃあ、もっと強くならなきゃね」

穏やかな表情を浮かべ、美鈴は歩夢の頭を撫でる。
最初こそ驚いたが、歩夢は抵抗せずにそれを受け入れ大人しく撫でられた。


『番組の途中ですが、此処でニュース速報です』

病院に備え付けてあるテレビから、ニュース速報のアラームが鳴り響き。お昼前の番組が中断され、急遽ニュース番組へと切り替わった。

『日本海にある『失われし島ロスト・アイランド』から…』

「失われし島…って、確か震災前に出来た島ですよね?」

「突然地形の一部が変化して出来た小島…。
最初こそ何も無かったのに、1人の少女が降り立った瞬間に草木や花々が咲き誇ったらしいね」

「まさか、これも魔術師絡みじゃないですよね?」

「……」


嘘だろ。
当てずっぽうで言ったのに何その反応…。

「2011年の東日本大震災、その翌年の2012年 第二次東日本大震災と呼ばれたあの震災の時にね…。
あの島から異常な程の魔力が放出されたのよ。
まるで近隣の村を守るかの様に。実際はどうだか解らないんだけど。
そしてそれを『神の奇跡』と讃え信仰する輩も出てきたわけ」

「聞いた事はあります。確か、震災時に島が光を放ち近隣の村と人々を救ったと…。
確かその時、初めて上陸した子を巫女だかに推薦して崇めてるとか」

実際、そんな話はあんまり信じて居なかったけど。

当時は色々な噂が飛び交っていたものだから、多少なりとも その話を歩夢も耳にしていたのだ。

震災があったのは1年前だったので歩夢も良く覚えている。

しかし当時の情報が本当なら。

「そこを新しい開拓地にし、更に女王としてその子を崇め奉る事を条件にアメリカが在住を許可したんでしたよね?」

「そうよ。日本とアメリカの友好の島…戦争を失くした島として付けられた名前が『失われし島ロスト・アイランド』」


そのネーミングセンスもどうだろうか。

「表上はそうだけど『失われし島』ってのは実の所、他国への見せしめでもあるのよ」

呆れた顔で語る美鈴。
歩夢が首を傾げると、続けて説明をしてくれた。

「『核を失わせる為の島』って事よ。日本とアメリカは永続的に核の生成を辞め、戦争の無い平和な条約を結び合いますっていうね」

「まさか、それを気に食わない人が何かするんじゃあ…」

『───誘拐されました。犯人は依然逃亡中です』

…は?

『繰り返します。ロスト・アイランドの女王として君臨していたミーア・キャロルフ様が、本日午前11時過ぎに誘拐されました。
犯人は依然逃亡中です。この情報を受け、アメリカ側からは捜査の手を広める事を──』

「…美鈴さん、これって……」

「わ、私が話したからじゃないわよ!?」

焦って自分を私呼びする美鈴。

この人って、実は女性らしいのが素なんじゃないのだろうか?

普段の大雑把なのはキャラで。

「取り敢えず、烏丸に連絡してみるから。アンタは大人しく家に戻りな」

「でもっ…」

「アンタ、昨日の疲れも残ってるんだから。それに国が関係した事件は、少なからずトップの方からも応援要請が掛かるはず。
そしたらウチとアンタはそれこそ弾きにされるよ」

「烏丸さん達みたいに、政府直属の機関が動く…」

そんな事を望むのなんて、1人しか居ない筈だ。

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