PROMINENCE

第26話 それぞれの力



此処は市内でも1番大きな病院。

そこで烏丸と真人の二人は入院していた。

「真人、傷の具合はどうだ?」

「特に異常は無いよ…」

そう。
二人はあの事件が原因で入院していたのだ。

烏丸は体の節々がやられ。
真人は腹部に負った傷が原因。

両方共、入院して数日で回復し元気を取り戻したものの。
医者にしばらく安静と、精密検査等でまだ入院していた。

「アイツ、狙いは何だったんだろうな」

「まるで僕等に何かヒントを与えて、逃げて行ったみたいに感じるけど…」

真人の言葉に、烏丸は眉をひそめ聞き返す。

「ヒントぉ?  冗談じゃねぇ、死に掛けてんだぞこっちは」

「でも、僕の傷は急所を外してあったし。烏丸、君のあの力も僕を引き金に発動したよね?」


それは…と言いかけた瞬間、二人の病室のドアからコンコンとノック音が響く。

二人は反応し互いに目配せをすると、警戒しながらドアを睨む。

「どうぞ…」

烏丸の一言でドアがゆっくりと開けられ…訪ねて来た人物が露になる。

「入ります。烏丸啓吾殿!東條真人殿!」

入口を閉じ、敬礼をする若い男性。
片目には深い切り傷が刻まれ、髪は白髪瞳は赤色。
身長はやや高めである。

それを見た二人は安堵し、枕に腰を深く掛ける。

圭一けいいちか、此処に来たって事は…」

「はい!本日を付けで、自分も任務を命じられ此処に駆け付けました!!」


圭一は姿勢を保ちつつ話を続ける。
それに嫌気が差したのか、烏丸は崩せ崩せと手をヒラヒラさせる。

圭一はそれを見て、二人に一礼をして姿勢を崩す。

「2年前にお前を拾ってからだから…随分時間が掛かっちまったな。」

「いえ、記憶を失ったのは自分の責任ですから…」


実は、日野圭一は記憶を失っていた。
2年前にボロボロになり山で倒れていたのを烏丸が拾い、政府に預かって貰っていたのだ。

政府が何故、一般市民を受け入れこの様な任務に着かせたかと言うと…。

圭一の微かな記憶の断片には、國信田に関する情報があったからだ。

それだけではない。
高い魔力を秘め、ボロボロになっていた所を見ると。
何かしら事件に巻き込まれた側だと判定された。

実験の被験体として拉致された者は数多く。
行方不明者も多数。
中には高魔力持ちや、高い技術力を持った者も居た。
そして、その拉致が國信田の犯行だと教えてくれたのも彼だったのだ。

その功績もあり、政府では記憶を完全に蘇らせる事を義務付け。
オレ達、特務機関の1人として位置付けた。


「此処にはオレ等以外誰も居ないんだから、楽にしろ。その堅苦しい言葉遣いも要らねぇ」


「たく、烏丸さんはいつもそうなんだから」

そう言いつつも、圭一は気が楽になったのか。
表情が柔らかくなり、言葉も堅苦しい言葉遣いではなくなっていた。

「コードネームは『嘆きの亡霊ファントム』…。皮肉だねぇ」

手渡された書類に目を通し、そこに記載されていた圭一の『政府特務称号コードネーム』を読みながら烏丸はケラケラと笑う。

「記憶を失くした俺は、亡霊と同じって事ですか…」

引き攣った笑で応えながらも、圭一は嬉しそうに二人を見る。

『政府特務称号』は国から授かるコードネームであり。
その名を持つ者は、一定以上の国の援助を行って貰える。

例えば、一般人等が入れない極秘の資料庫の入室許可。
移動時の交通費も全額負担等、様々な恩恵を貰えるのだ。


「それで、撃たれた傷はどうです?」

「何とか塞がったかな…。最初に圭一くんに回復させて貰ったし」

苦笑しながら答える真人の腹を、失礼しますと言いながら圭一は触れる。

しばらくすると触れている箇所がぼんやりと輝き、痛みや傷跡を綺麗に消し去ってしまう。


「いつ見ても凄いな、その魔法」

真人は無くなった傷跡を擦りながら、圭一の扱う魔法に驚いている。

「原理は不明ですけど、何故か出来てしまうんですよね…」

  ──不明魔術。
記憶は失っているが、日常に必要な記憶。
つまり学習能力で得た経験等はそのままらしい。

何か余程のショックが有り、記憶を閉ざしていると言った方が良いのかもしれない。


「『解析不能の鍵プロテクト』が掛かっていないという事は、記憶は何者かに襲われた時に閉ざされた…」

「そして、襲撃した可能性がある犯人は…國信田って事だけ。
それが現状で解っている唯一の事だ。」

「そう言えば。先輩達が襲われて1ヶ月経ちましたけど、あちら側からはまだ何もして来ませんね。」

「それでも、もう1ヶ月だ。
基地がいくつも在るらしく、尻尾すら掴めない以上。
アイツ等の出方を伺っていたが…。
お前が持って来た書類に、少しばかりだけど情報は有った。」


  幾つもの書類に目を通していた烏丸は、ベットに設備されてある簡易テーブルを開くと書類を広げ始める。

「建物の崩壊に…意識不明の重体」

真人は書類に目を通して、目立った事件の形跡を追ってゆく。

「どれも共通するのは『原因不明』…」

「此処も見てくれ」

  烏丸が指を指した箇所。
そこには画像が貼られており、日付も書いてあった。

「これは、最近出来たコンビニじゃないか?」

「あぁ、蛇田へびた方面に新しく出来たばかりのコンビニだ。
なのにこの建物、脆くなって建物が崩れたと書いてある。」

  あの東日本大震災から半年、何処も彼処も復興の為に一生懸命である。
しかし、この事件はソレを嘲笑うかの様に襲撃しているのだ。

「復興している地域を狙ったテロか」

「悪質だ。確実に人目が多い所を狙い、復興を行っている奴等の妨げをしているな」

  その言葉に圭一は頷くと、次の書類を取り出す。

「実は、その妨げは宇陀  典明うだ  のりあきさんにも被害が来てるんです」

「宇陀さんにもか…。まぁ、政府が派遣依頼を出した復興支援団体とかもあるからな。
責任は取らされるだろう…。」

  宇陀典明は政府側の人間であり、烏丸達の直属の上司である。
この書類も宇陀典明が用意したものであり、病院の手配等もしてくれている。

「どちらにしろ、接触はしてくるだろうから警戒が必要だね」

「そうだな。すまないが圭一、退院の手続きを…」

「してあります。速くて烏丸さんは明日、真人さんは4日に退院となります」

「オレの方は魔術による負荷だが、真人は撃たれてんだ。そのくらいは当然だな」

「何を言ってるんだか、僕達は圭一くんの魔法で最初の頃から全開に近かったでしょ。」

烏丸の言葉に呆れながら返す。
しかし、それでも残り4日は身動きが取れない。
それは確かな事だ。

「今回の編成は自分と烏丸さんの2人…美鈴さんには真人さんとこの病院で待機して貰います。」

  その言葉に最初に違和感を覚えたのは真人だった。

「美鈴さんもって、宇陀さんは何故今更になって一般人にまで手を借りようとしているんだ」

  僕達は政府直属…国からの使命として働いているが、美鈴は少なからずこっち側の人間では無い。
裏方で僕達との関わりがあるのは昔ながらの縁だからなのだが、今更 山城家から抜けた美鈴さんを傘下に加えるだなんて都合が良すぎる。


「山城美鈴さんを…見張っていて欲しいのでしょう。
今回の任務には…」

一瞬間を置いて圭一は辛そうに語る。



その言葉を…



「『山城家殺人事件』の犯人らしき人物が、國信田の傘下に加わっているからです」

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