PROMINENCE
第22話 それぞれの働き
神々の世界─天界の麓
  天界にある山の麓に、ルシファーは一人立っていた。
「…力に呑まれているのか烏丸」
  苦々しい表情を浮かべ手を握りしめる。
微かな魔力。
腕を伝い漏れ出る魔力を彼は抑え、山の中へと進んで行く。
──もう何時間も胸の疼きが治まらない。
  現界で烏丸の身に何かあったのだろう。
これ程強く力を引っ張られるのは、誰かを憎み恨んでいる証拠だ。
堕天した際に負った呪いは鈍くルシファーを蝕む。
憎悪の塊…
彼は堕天した際に多くの天界の者から『憎しみ・妬み・怨み・辛み・苦しみ』を奪い去り、『嘆きの川』に迎いあるモノと戦った。
そのモノの名は『悪魔大王・ディーテ』。
当時、魔界で最強クラスの悪魔であり 様々な災厄を招き 憎悪をバラ撒いた張本人。
彼を倒し、負った呪いは『深淵に集いし闇を受け入れる』呪いであった。
ディーテの災厄により生まれた憎悪と、深淵の闇を受け入れなくてはいけなくなる。
神に初めて背いたのは、その時の天界人達を放っておけないという彼の優しさからであったのも事実。
彼は天界の住人を救ったのだ。
どんなに苦しもうが耐えて耐えて耐え抜いた結果、その身が闇に染まろうとルシファーは誰かを愛す事を辞めなかった。
神に天界を追放されようとも。
皆を愛す気持ちは神よりも強かったのだ。
堕天した後はサタンとなりて、悪魔達を収めて来た。
そんな彼が天界に戻れるようになったのは、ゼウスとアマテラスによる抗議の為。
神々はルシファーの行いを改めて認め直し、天界への帰還を命じた。
しかし、現在も彼は苦しみ続けていた。
その身にはとてつもなく冷たい魔力を宿し。
そして巨大な闇を抱えて生きて来た。
…っ、感情を制御する事で ある程度は落ち着いていたんだけどな。
少しは発散させた方が良いな。
ルシファーはそう考え、人気の無い山へと足を踏み入れていたのだ。
天界─訓練棟
此処は天界の神殿から西側に位置する訓練所。
普段は天使達が修行の為に使うのだが、アマテラスはそこで刀を振るっていた。
大きなホールに何万という人が余裕で入りそうな観客席まで設置されている。
そこに数人の天使達が立ちながらアマテラスの特訓を観ていた。
「よし、天使達よ!!  準備は良いぞ!!」
アマテラスの言葉を聞いた天使達は、手に持っていた弓を各自構える。
「『天使の矢』!!」
一人の天使が弓を放つ。
その矢は加速し光の矢と化す。
そしてそのまま真っ直ぐとアマテラスに向かうが…
パシィン!!
アマテラスは振り返りもせずに、ただ刀を横に振り相殺。
だが天使達は一瞬怯んだものの、各々に構えた弓に力を込めアマテラスをしっかり狙う。
「『降り注ぐ矢の雨』!!」
「『石穿つ矢』!!」
  同時に二つの技が繰り出される。
雨の様に矢は降り注ぎ、それに合わさる様に時折破壊力の高い矢もアマテラスを狙う。
「すぅ…はぁっ!!」
大きく呼吸を吸い、刀を頭上に振る。
ただそれだけで、降り注ぐ矢は全て弾かれてしまう。
天使達は圧巻され弓を下ろした。
「やはり、天照大御神殿は格が違い過ぎます…」
「我々天使では特訓の相手にも成りますまい」
「凄い剣技ですよね!!憧れるなぁ〜!!」
  天使達は脱力し、それでも楽しそうに退場していく。
アマテラスは申し訳無さそうにそれを見送り、もう1度刀を振り稽古を始めた。
「たく、精鋭部隊を相手に二撃で終わらせやがって」
「観ていたのかクー」
クーと呼ばれた男。
その名はクーフーリン。
槍の達人であり、精鋭部隊を育てている有名な神の一人である。
中肉中背だが、肉弾戦での接近戦も強く中・遠距離戦も得意とするオールラウンダー。
青い瞳。
長い青髪は、綺麗な宝石で出来た糸で結われている。
「消化不良ならオレが相手になろうか?」
槍を片手にクーフーリンは提案する。
アマテラスは槍を見て何かを考え、頭を傾げる。
「その槍は神にも有効では無かったか?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと傷にならねぇように加減すっから」
  軽口に聞こえるが、これはクーフーリンなりの優しさなのだ。
本来、クーフーリンの持つゲイボルグで刺されたら 大抵の傷は治らなかったりするからのぉ。
「良かろう」
二人は互いに正面に立つと武器を構えた。
(流石クーフーリンじゃ、隙の無い構えじゃの)
互いに動かず様子を探る。
静かなホールに二人の気迫がピリピリと響く。
隙が無いのは互いに同じ。
距離も近過ぎず遠過ぎず。
どちらかが踏み込めば、直ぐに間合いを詰めれるであろう。
「おっかねぇ女だぜ。攻め入って来ねぇのかい?」
「主こそ、いつまでレディを待たせるのじゃ?」
「熟すのを待ってんだよ。ほら」
  言いながらクーフーリンはゲイボルグを上に放り投げる。
それに驚き、アマテラスは一瞬注意を逸らしてしまう。
「武器だけじゃ戦場は勝ち残れねぇ!!」
ガシィッ!!
アマテラスは手刀を当てに走ったクーフーリンの手を受け流しながら手首を掴み、刀の柄で腹部を狙う。
「『穿つ槍よ我が手に』!!」
柄が当たる直前、ゲイボルグがその間に割り込んで邪魔をする。
「くっ!!」
カウンターに失敗したアマテラスは、クーフーリンの手を離すとまた距離を少し取る。
「流石だな。今ので避け無ければオレが勝ってた。」
クーフーリンの手に握られたゲイボルグは、少し形状を変化させ。
柄の所から棘が幾つか枝のように生えていたのだ。
パキッ…
「なっ?! ゲイボルグの棘が割れた?!」
硝子の様に乾いた音を立てながら崩れ落ちる棘。
先程の柄の衝撃が効いていたのであろう。
「力も化物並かよっ!!」
「うるさい…のっ!!」
ガキィン!!
刀と槍がぶつかり合い、火花を散らす。
「…その刀『紅炎』言ったっけか?」
ギリギリと音を立てながら二人は向かい合い、互いの武器に力を込める。
「よく覚えてるの…妾の力と同じ名前の刀じゃ。
その昔、名刀達がバラバラになった際に何故か1本だけ妾の元に来たのじゃよ。」
「良いねェ…それもまた運命だ!!」
キィンッ!!
「ルシファーと良い、アンタと良い…従者が見付かって何か変わったな」
「従者では無い。主様は妾の契約者じゃ」
キィン!!キィンッ!!
「神が従える立場ねぇ…」
「神とて人と変わりはせぬ」
「…違ぇねぇや!!」
  アマテラスの言葉にニヤリと笑い、クーフーリンは空に舞い後ろの客席の上へと着地する。
「おう、覗きとは趣味が悪ぃな?」
 客席の後ろに手を伸ばし、そこに隠れていた人影をクーフーリンは引きずり出す。
アマテラスも気付いていたらしく、少々呆れ気味にその者を見遣る。
覗いていたのは天使の少年。
少年はあたふたと慌てながら首を横に何度も振る。
「ち、違います!!  僕は土の精霊さんの言伝を伝えにっ!!」 
「土の精霊だぁ?  おっ、ホントだ」
  少年の横から黄土色に輝く光がクーフーリンへと向かう。
クーフーリンは少し静かにそれを見ていると、アマテラスに向き返り手招きをする。
「出るぞアマテラス」
「何じゃ? 土の精霊は何と申しておったのじゃ?」
一瞬でクーフーリンの背後までやって来たアマテラスを、少年は口をポカンと開けて見る。
あまりの速さに言葉が出ない模様。
「ルシファーの野郎、山で暴走しちまったらしい」
「っ…急ぐぞ!!」
神速。
その言葉の如き素早さで二人は訓練棟を後にする。
残された少年は魂が抜け落ちたかの様に、そこに座り込んでしばし動けなくなっていた。
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