PROMINENCE

第24話 運命の歯車


  桐咲 歩夢は疲れ果て、灰になっていた。

学校に行き、帰って来てからは修行。
それを毎日繰り返す事1ヶ月。

それも1ヶ月前に美鈴からの電話で、烏丸達が入院した等の連絡が入り。
大急ぎで病院に駆け付けたら、何故か二人は重症の筈なのに元気だった。
挙句、救出した女の子を預かって欲しいと言われ家族に相談。

快く引き受けた綾の両親だったが、また仕事で長期出張へ。
綾は怒り狂った挙句に修行に力を入れまくるし。

「怒ってたのは、歩夢お兄ちゃんのせいだと思うけど…」

俺が項垂れて居ると、隣で件の少女が冷やかな目で俺を見ていた。

遠坂 美羽。
ネクロマンサーとかいう魔術師により、体を乗っ取られていたらしく。
その時の記憶は断片的に持っているらしい。
夜中に泣きながら布団に入ってくる辺り、歳相応の行動なのだが。
憑依されていた時の名残で、魔力が途轍もなく強い。

そのせいで夜中に妙な威圧感に襲われるのだが、本人はお構い無しだ。


──主様よ、話がある。


「…!!  アマテラスさんか!?」

  突如、脳裏に響き渡る声に俺は飛び上がる。
その行動を見て、美羽はキョトンとした顔で何が何だか分からなく焦っていた。

取り敢えず、今はそれはどうでも良いとして。


「アマテラスさん今まで何処に──





居たんですかあぁっ!?」

最後に声が上擦ったのは、目の前の景色が急に変化したせいだ。

前にも何度か来た事のあるホール。
そこに設置されているソファにアマテラスさんは座っていた。

「済まぬな、5日程間を開けてしまって」

優雅にお茶を啜りながら、アマテラスさんは俺に謝罪の言葉を投げ掛ける。

俺は仕方無くソファに腰掛け、出されていたお茶に目をやりながらある事を気に止めた。

「誰か居たんですか?」

  その言葉にアマテラスは表を突かれた様な顔で歩夢を見る。


「主様、何故その様な事を聞くのじゃ?」

「あ、いや。何となく違和感があったので…」

「ふむ…。いや何、主様に関係する事じゃから隠さぬが つい先程までルシファーの奴が来ておったのじゃ」

「ルシファーが…?」

  その名前に俺は息を飲んだ。
初対面がアレなだけに警戒してしまうなぁ。烏丸さん達の事を考えたら、来ていてもおかしくはないけど。

「その烏丸と主様達に関する会議をしておったのじゃよ」

  あっ、また心を読まれた。

  契約の時に書いてあったのだが、契約が成立した者同士で了解さえあれば心を通わせる事が出来るらしい。
アマテラスさんは場合が場合の為に、その説明を省いていたけど。
俺はその後も困る事は特に無いので、そこはそのままにしている。

まぁ、相手が神である以上 読心術なんて余裕だろうし。

「良いかの?」

「あっ、はい」

俺の心を読んで、アマテラスさんはタイミングよく話を進めてくる。

そして今まで腰に差していた刀を1本抜き取り、それを俺に差し出して来た。


…こんな事、前にもあったよな?

「これは…?」

「幾つか調べを取ってみたのじゃが、持ち主が不明でな。
しかも、どういう理由か主様に反応してる様なんじゃよ…」


  反応?
刀が意思を持つとは思えないけど…神様がこうやって実在するしなぁ。

考え事をしながら、差し出された刀を両手で受け取ると…。


「えっ…?」


  不思議と刀が手に馴染む感じがし、驚いた。
まるで俺に合わせて持ち手が変わっているかの様に、とても持ちやすく軽い。


「重いじゃろ?  普通の刀に見えるが、まるで鉄の塊じゃよ」

  俺の反応を見て、余りの重さに驚いていると勘違いしたアマテラスさんは呆れた顔でそう言ってきた。

これが鉄の塊みたいに重い?

「あの、めちゃくちゃ軽いですよ…これ」

「なぬ?!」

俺の言葉に驚き、刀をジロジロと眺める。

そして深い溜息を吐きながら、アマテラスさんはソファに倒れ込む。

「嘘じゃろ…?」

「ど、どうしたんですか?」

ヨロヨロと指を刀へと指し、アマテラスは力無く言葉を紡ぐ。

「その刀…『生転夢幻(せいてんむげん)』かも知れぬ。
伝説の名刀の一太刀じゃ…。」


  生転夢幻…?

この刀が名刀?

一気に話を大きくされ、頭で追い付かない歩夢は刀を見遣る。

「何故?と思っておるのじゃろ?
妾達も解らぬのじゃよ。普通なら最初に手にした者か、所有者が死んだ時にしか刀は次の持ち主を選ばぬのじゃがな…。
どういう理由か主様に反応を示したのじゃ。
そして主様は重さ等を感じぬ…これは刀が主様を持ち主と認めておる証拠なのじゃ」


  長年魂を捧げられた刀には、その所有者を選ぶ意志が宿るらしい。
そしてこの刀は進化する刀。
所有者の能力や成長過程により、本来の姿を変えたり 重さを変えたり等が出来ると伝えられている。


「まぁ好都合じゃ。これからの主様の修行に刀術も加えられるからの」

  言いながら腕を組むアマテラスは、とても嬉しそうな表情で笑う。


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