PROMINENCE

第15話 状況確認

切り出したのは烏丸さんからだった。

部屋に戻り、烏丸さんがトイレから戻って来て間も無く。

現状についての説明がされる。



1.國信田隼人は国が極秘裏ごくひりに進めているプロジェクトの研究者であった。

2.プロジェクトの内容は『現代魔法において それは武器となるか』と『医療として成り立たせる事が出来るのか』という内容である。

3.政治家の中にはそれ等を利用して、他国へ情報を流したり。それで邪魔な人物を消す事が可能と判断し、國信田を買収した者が居る。

4.これを機に日本を潰そうとしている国がある。

5.烏丸率いる数名の研究員は、國信田が依頼を受けている奴等よりも上の人間である。


簡単に分けてこんな感じだ。

突拍子も無い話だと、普通なら信じない所だけど。状況が状況なだけに、これは嘘ではなく本当の事だと判断出来る。


そして何より、國信田の居た研究施設がそうだ。

廃墟に見せた建物。

廃墟となって登録されているなら、それはその土地の所有者か国の所有物として登録されている筈だ。

そしてもう一つ、烏丸さんが俺と同じ部屋に閉じ込められて居た事。

これは烏丸さん曰く 研究員の中に裏切り者が居ると勘づいた上の人間が、國信田に報告をした為に炙られたらしい。


上層部が政治家なら、国の動きにも敏感な筈。

そこから圧力を掛けたとなれば納得もいく話だ。

そしてその政治家の動きを感知したのが、烏丸さん達の上に居る存在。

その人達の命令で真人さんが帰還し、烏丸さんを助ける予定だったらしい。


俺も巻き込まれて居た立場だから、そこは理解がすんなり出来る。


「でも、國信田は何故アポカリプスを開いたんです?」

「それは僕が説明するよ」

俺の質問に、真人さんは真剣な表情で答えてくれた。

「元々、『アポカリプス計画』は昔からあったんだよ」


  しかし、アポカリプス計画には大勢の人間の命を利用しなければいけない。

その為 國信田は今回の様に国や他国の人達が協力してくれて、尚且つ罪に問われないやり方を考えていた。


そしてある日、他国から大量の罪人リストが送られて来た。


そう…それは、この中から好きなだけ生贄として使ってくれという意味の手紙。

裏を返せば『生贄を提供する代わりに 情報を寄越せ』という意味だったんだ。


当初はそれを国は強く拒否し続けた。

でも、欲に塗れた人間は少からず出て来る。

國信田もその一人だった。



そしてある日…

政治家の一人が裏ルートで人を買収し

それを國信田にプレゼントした。


小さな子供と大人数人。


國信田は歓喜し研究に没頭した。

勿論、部下の僕達には秘密でね。

そして実験を実行した…。






「等々、実験が可能な段階に入りましたね!!」

  一人の女性研究員は國信田の元へと駆け寄ると、地面に描かれた魔法陣をうっとりと眺める。

「この研究が成功すれば、人間ではなくても動物なら可能という理論が成立しますね!!」


「やりましたね所長!!」


次々と研究員達は歓喜の声を荒らげる。

國信田はニッコリと微笑むと、部屋に入って来た烏丸へ視線を向ける。

「お疲れ様です。」

「はぁ〜い♡お疲れ様」

その視線に気付いた彼は、國信田へと近付くと訝しげな顔で質問を投げ掛ける。

「今まで、ネズミや何やらで試して見ましたが…まさか成功出来る生物が居たんですか?」

「居たよ〜♡  繁殖し切ったお猿さん♡」

  その言葉に烏丸は眉をひそめた。

「猿…ですか?」

「うん♡  あの入れ物の中には猿を数匹入れてあるんだ♡」

おっと、そろそろ始めようか。と國信田は手を叩く。

それに合わせて研究員達は魔法陣の上に並ぶと、國信田は一礼する。

それに合わせて研究員達も一礼をした。


「さぁてさて、今から特別な実験を行うわけですが〜♡」



ダンッ!!


  何かが破裂した様な音が響き渡る。

それは國信田の手を見たら直ぐに理解出来た。

鉄砲だ。

片手で持てるサイズの小さい鉄砲が、その手には握られていた。

そしてその銃が向いていて発砲された場所…それは、烏丸の腹部であった。


「ごぶっ…?!」

血を吹き出し、地面に倒れ込む。

腹部からは大量の血がドバドバと溢れ出し、魔法陣の上を血で染めてゆく。


「な…ぜっ…」

「君が裏切り者だと判ったからだよ?♡
この間〜君の服に盗聴器を仕掛けて置いたんだ♡」


  腹部が焼ける様に痛む。

鋭く走る痛みと鈍く響く痛み。

その両方が交互に押し寄せる。

しかし、その中で烏丸は妙な違和感を感じていた。

「何で誰も動揺しないかってぇ〜?♡
簡単だよ♡  皆催眠術に掛かってるんだから♡」

「て…めぇ…!!」

「言ったろ?♡ 繁殖し切った猿が居るって♡」


入れ物に光が刺されると、そこには痩せた日本人や外国人の子供や大人が詰められていた。

「先ずはこの子達で扉が開くかの実験だよ〜♡
君は成功した後に生贄として使ってあげるね♡」

「やっ…めろ!!」
 




その瞬間、烏丸の意識がバチッと火花が散った様に途切れた。







「此処までが扉を開く実験…そして同時に違う所でも扉の実験がされていたんだ。」

真人の言葉に歩夢はゴクリと喉を鳴らした。

綾は口元に手を当てながら、苦しそうに呼吸をしていた。

隣に座った美鈴さんは綾の背中を摩りながら、優しく頭を撫でている。


「そして、扉が開くと解った國信田は…更に狂い始めた。」


子供の拉致。

國信田は、扉の先にある力を得る為に手段を選ばなかった。

力が手に入れば、後は国を出て他国へ乗り移る準備までしていたらしい。

しかし、欲深い奴等は大量に資金を提供し。

他に身を隠す施設まで用意していたらしく、國信田は現在も日本に滞在しているらしい。


「オレはその間、1年半投獄されてたってわけさ」

「そして、違う場所での実験で研究員の数名は扉を出入りしていた…」

  瞬間、烏丸の目は黒く染まり 瞳は黄色く輝く。

そして真人の魔力は青紫になり、目で見えるくらいに強くなる。

「俺は1回目の扉の記憶が無いんだ。
多分意識をそのまんま飛ばしていたせいかもな」

  烏丸は頭を掻きながらバツが悪そうな顔をする。

「僕のこの魔力は後で説明するけど、とても良いモノとは言えない…かな」

  そして真人は苦笑する。

二人の魔力は違えど、その濃さは目に見えて凄かった。


──主様も魔力を解放するのじゃ。

  先程まで静かになっていたアマテラスが歩夢に話しかけ、魔力を解放する様に促す。

歩夢は最初は驚いたが、静かに目を瞑り瞑想をし魔力を練る。


「俺の力は…紅焔。『紅焔プロミネンス』と呼ばれる太陽の力です」

  歩夢はゆっくりと瞳を開ける。

紅色に染まった瞳に、皆が息を飲んだ。


「綾…大丈夫?」

  先刻の事もあってか、歩夢は綾がまた魔力に当てられていないかを確認する。

しかしどう言った理由か、綾は平気そうに3人を見ていた。

「私も、元々は魔力を扱えたから…壁くらいは作れるの」

オドオドしながら答える綾だったが、その理由は烏丸が直ぐに理解した。

「綾ちゃん、どうして歩夢くんの魔力は封印されていたんだい?」

「それは…桐咲家のゴタゴタがあったせいで、歩くんのお父様とお母様が歩くんを普通の人間として育てようとした見たいです…。
詳しくはあんまり…。」

「親父かお袋に聞くしか無いのか…」

綾の言葉に、歩夢は苦虫を噛み潰したような表情で俯いてしまう。

「歩夢くん、ご両親に連絡は?」

真人の問に歩夢は首を横に振る。

「それは…無理です。俺の両親は、三年前に亡くなったんですから」


刹那、烏丸・真人・美鈴は息を呑んだ。

それを聞いた綾だけが、とても寂しく悲しい顔で歩夢を見ていた。

歩夢は魔力を弱めると、綾の近くに寄り頭を撫でる。

「此処は元々俺の両親の家なのですが、今では綾のご両親が面倒を見に来てくれています」

「そう…だったのか」

烏丸は何とも言えない状況に言葉が詰まる。

「その綾の両親も、仕事が忙しくて留守にする事が多いんですがね」

苦笑しながら歩夢は頬を掻く。

突如後ろから回された美鈴の手により、歩夢は頭を撫で回される。

「えっ?!」

「アンタもそうなのかい…」

寂しげな美鈴の言葉に、歩夢と綾は首を傾げた。

「美鈴もお前らの歳くらいの時に両親が亡くなってな。 そこからこっち側の仕事にスカウトされたんだ」

烏丸の言葉に、今度は歩夢が息を呑んだ。

こんな偶然なんてあるのだろうか。

同じ様な境遇の人間が、まさかこんな風に出逢うとは。



美鈴はしばらく頭を撫で回した後、歩夢を抱き寄せながら「よし」と気合を入れる。

「お姉さんが今から稽古付けてやる!!」

  その言葉に、様々な感情と優しさが込められているのを歩夢は咄嗟に理解し。

お願いしますと答えしまう。





その間、ベッドに座っていた綾から物凄く鋭い視線が放たれていたけど。


気付かなかった事にし…

「歩くん…嬉しそう」

ようとしたけど無理でした。

低い声で言われたのに、凄く良く聴こえたのがめちゃくちゃ怖い。


──魔力を多少解放しておるから、聴力も上がっているのじゃな。


冷静なアマテラスの分析に、歩夢は心の中でそんな機能の説明を今しないで下さいとツッコむ。


それを烏丸と真人は楽しそうに笑いながら見ていた。



…その後の美鈴さんの「アンタらも手伝う」って言葉で、酷く項垂れてたけど。


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