PROMINENCE

第11話 従姉妹



  ふと歩夢は目を覚ました。

辺りを見回すといつもと変わらぬ部屋がそこにあり、服も昨日着替えたままの服装だった。

ベッドから身を乗り出すと、時計へと目をやる。

時刻は朝の7時、日付は土曜。

長い事眠っていた様にも感じたが、本当に長く眠っていたらしい。




12時間近く爆睡してたのか?

まぁ、寝てたとは言えない時間もあったけど…。



──仕方無かろう。ささ、昨日説明した通り儀式を始めるかの。


  頭の中から女性の声が響く。

太陽神アマテラス。

本当の名前は天照大御神と言い、太陽神であると共に巫女でもある。


その女神である彼女に言われるがまま、俺は庭へと足を運ぶ。



「それで、一体何を始めるんですか?」

──そうじゃの。先ずは魔力の練り方じゃな。


そう言うと、アマテラスは昨日説明した通りにやってみよと促して来る。


「えっと、腹に力を入れつつ胸と背筋にも…っ!?」

  昨日、アポカリプスで指示された通りに歩夢は力を込める。


腹に力を入れ、そのまま胃を伝い胸へ。

そのまま力を込めつつ背筋から首へ。

その瞬間、体から溢れんばかりの魔力が漲るのを感じる。


昨日までは見えなかった自分の魔力が、そこにはあった。

紅く炎の様に燃え上がる魔力。

歩夢はそれを確かめる様に、手を何度も開いたり閉じたりを繰り返す。


「すげぇ!!  身体が軽いし、腹の底から何か溢れてる見たいだ!!」

──流石じゃの!!  元々の魔力と妾の特性を混ぜた為、魔力は炎みたくなっておるが。
正真正銘、それは主様の魔力じゃ!!


  歩夢は喜びの余り何度も地面から飛び跳ねる。

魔力を纏った状態の為、体は軽く羽根のような心地よいだ。


ガタッ!!


 何度か飛び跳ねていた歩夢の後ろから、突然物音がした。

驚いて歩夢は後ろを振り返ると、そこには女の子が1人立ち尽くしていた。

しかし、歩夢はそれを見るや安堵あんどし近寄る。

──だ、誰じゃ!?

「従姉妹だよ…」

──はぇ?

状況を飲み込めないアマテラスは、すっ飛んきょんな声を漏らした。

「ふ、ふぇぇ?!」


  もう1人状況を理解出来ていない従姉妹、桐咲 綾は口元に手を宛てながら座り込んでしまう。

「ど、どうした?具合でも悪いのか?」

  歩夢は慌てると、手を綾へと差し出ししゃがむ。

その手を握り締めながら、綾は大きく瞳を開けて歩夢を見やる。

「あ、歩くんこそ…どうしたのソレ?」

「ソレ?」

──…魔力の事では無いかの?主様よ。

歩夢が頭を捻ると、アマテラスは助け舟を出す。

「あぁ、これ?  話すと長いんだけど…」





  歩夢は昨日あった出来事を、従姉妹である綾に軽く説明した。

勿論、話す前にアマテラスからも確認を取り二人で出した結論だ。


──主様とその周りも少なからず巻き込まれる。
それなら先手として、仲間を1人潜ませて置くのが良かろう。


  その言葉に納得して現在話しているのだが。

綾はその話を聞くやいなや、青ざめた表情になり歩夢の心配をしてあたふたし始めたり。

体の至る所を触って無事かどうかを確認していた。

「綾ぁ…俺は無事だってぇ」

「話が本当なら、歩くん怪我とかしてるでしょ?!」

  確かに、天井にぶつけられて落ちたり。
変な睡眠薬らしき物で拉致られたけど、大して気にする様な痛みや副作用は今の所無い。


「…歩くん。この事はお母様達には?」

「言ってないけど…?」

  言おうとも考えたが、俺の魔力は元々封印されていたらしいからなぁ。

もし何か理由があって封印されてたとしたら、また封印されかねないし。


「あっ…でも、もうバレてるのかも知れないか」

  魔力についての知識があるのであれば、感知する事も多分出来るはずだ。

「どうだろ? てか、歩くん忘れてるの?」

  考え事をしている歩夢を、綾は訝しげに見やると腕を組んで胸を張る。


いや、女性なんだからそこは気を付けて欲しいけど!!

…忘れてるって何を?


  そう思いながら小首を傾げた歩夢に、綾は軽くデコピンをする

「いてっ」

「お母様とお父様は、仕事の都合で数日帰れないって言われてたでしょ!!」


  あぁ、そうだった!!

何か仕事で大きな騒動があったらしく、それを処理する為に数日缶詰になるとか…。


──肝心な所で抜けとるのぉ…主様は。

「しょうがないでしょ…昨日あんな事があったんですから」

──それでもじゃ!!

  大きな声で反論して来るアマテラスに対して、耳を塞ぐがそれと意味は無かった。

直接脳に響き渡る声なのだからしょうがない。


諦めて手を耳から離すと、ジト目で綾に見られていた。


「例のアマテラスさん?」

  あぁ、声とか聴こえるのは俺だけなんだっけか。

──他にも、アポカリプスを開いた者とは通話とかは可能じゃぞ?


「そうそう」

「女神アマテラス…スサノオとかのお姉さんで太陽神でしょ?」

  え?なんで以外と詳しいのこの子?

「ゲームとかで有名でしょ!!  それに美人だって噂も良く聞くし!!」

──ふふむ!!この娘っ子、中々見所があるの!!

  綾の言葉を聴いたアマテラスは、鼻息を荒くしながら歓喜混じりに声を荒らげる。


騒がれると頭に響く!!

  頭を押さえながら歩夢は左右に振る。

その時、胸元が微かに光ったのを綾は見逃さなかった。


「あ、歩くん…ソレ」

「ん?」

  綾に指摘されて歩夢は漸く気付く。
胸元の光は弱々しくも、しっかりと光り輝いていた。

「何だこれ?!」

──お、同調が上手くいった様じゃの?


「ど、同調?」

「同調…?」


──最初に説明したであろう。


神々の力は大きい力。

その力を引き継ぐにしろ、最初は契約という形に留めてそこから徐々に身体に慣らして行く。

いきなり冷えたマグカップに熱湯を注ぎ込むと割れてしまう様に、先ずは器となる身体を強化。

そしてそこに少しずつ力を馴染ませて行く。


「それで、それが全部終わる頃には俺は神になると」 

──成るか成らぬかは主様次第じゃがの。

  殆どの人は従者になる事を選ぶらしい。

力を引き継いで神になっても、それは永遠の命を得る事とかには成らないそうだ。

転生した場合に力を引き継ぐ事が出来るが、その先も真っ当な人生なんぞ歩めないわけで。

それなら一時力を手に入れ、私利私欲の為に利用しようとする輩の方が多いらしい。

政治家等にも多いと聞いた時には、妙に納得が出来た。

記憶力や支配力を持てば、人の上に立てる。

しかし、その力を悪用しない為にも神々が継承者を選び。

更に現界、つまり今の世界の何処かにも監視役が居るらしい。


「へー。案外、天皇様とかがそうだったりして?」

  少しおどけて綾は話すが、あながち有りそうで怖い。

「てか、これで契約は完了した訳か。
何か実感湧かないなぁ…」

──そうじゃの。主様よ、少しずつ魔力を上げて見てはくれぬか?

「…?  解りました」


  アマテラスさんに言われた通りに、少しずつ魔力を練っていく。

腹に力を入れ、身体全身を内側から何かを流す様な感覚で…。





ボッッ!!




  その瞬間、歩夢の身体に微かに光っていた光が大きく輝く。

そして身体全身を炎の様な魔力が包み込む。


「あ、歩くん!?」

「す、すげぇ!!」 



ギュォォォォォ…!!


  歩夢が喜びながら辺りを見渡していると、遠くの建物へと視線が行き、そのままそれが望遠鏡で覗き込んだ様に視界に映る。


「な、なんだこれ?!  建物の奥まで見えるぞ!?」

──神眼しんがんじゃよ。 神の目は遠くすらも良く見通せるのじゃ。
今の主様の視界じゃと、数メートルから数キロが限界かの?


  これは凄い!!

空を飛んでる鳥すらも近くに見える!!


「歩くん…そろそろ魔力を鎮めないかな?」

  顔を青ざめながら綾は歩夢に提案をする。

「どうした綾!!」

「うぅっ…、魔力に当てられたみたぃ…」

  よろよろと壁に体を預け、綾は地面へと座り込む。

歩夢は直ぐに魔力を解くと、綾の方へと駆け寄る。

──主様の魔派のせいかの?

  俺の魔派?

綾を見る限り、具合が悪く 車や船に酔った様な感じだけど…。


「大丈夫か?  何処か怪我とか…?」

  綾の様子を伺うが、綾は大丈夫と言って立ち上がろうとする。

手を貸して上げると、先程とは反対の手がチラリと見えた。

そこには絆創膏等が貼られて、処置のされた跡があった。


「それは?」

「あぁこれ?  昨日、郵便物を切る時少し深めに切っちゃって…あははは」

  そう言って照れながら手を隠す所を見ると、ドジをしたのを知られたく無かったのか。

顔を少し赤らめて視線を逸らされた。


「一旦、部屋の中に戻ろうか。俺も出掛ける準備するし」

「そ、そだね。 お昼とかは?」

「多分食べて来るかな?」

  色々と話し合うから、時間は掛かりそうだし。


「分かった!!  じゃあ、部屋に戻るね!!」


体調が戻ったのか、綾はそそくさと玄関の方へと向かい家の中へと入って行った。

──主様も戻ろうかの?

「そうだな」

アマテラスさんの言葉に肯定して、俺も家の中へと戻って行く。










あぁもうビックリした!!

ただでさえ歩くんが魔力使える様になってるのに、神だなんだって!!

もう訳わかんないよ!!


それに、て、手を握られたし!?



  いち早く家の中へ戻った綾は、玄関先の廊下でうろうろしていた。

先程とは打って変わって、慌てふためき。

時には、にへらと顔を歪ませたりと。

まるで百面相の様に表情がコロコロと変わっている。



そう言えば、絆創膏取り替えなきゃ。



  手を握られた嬉しさに、しばらく にへらにへらして摩っていたら、絆創膏が取れかけていたのを思い出した。

そのまま、茶の間の救急箱のある棚へと迎い  絆創膏を剥がすと、綾は小首を傾げ指を見入る。

「あれ? 傷がもう消えてる?」

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