PROMINENCE
第10話 夢か現か
  ──此処は何処だ?
部屋で眠った筈なのに、気付いたら白い空間に放り出されていた。
立ち上がり、地面を何度か踏むと硬い感触が伝わって来る。
  夢じゃないのか?
という事はアマテラスさんの居る世界か?
  辺りを見渡すがそれらしい建物も無く、ただただ広い空間が広がっているだけ。
取り敢えず歩き始めて見るが、方向感覚が狂いそうになり始めるので直ぐに辞めた。
「なんだ?此処…。アマテラスさーん!!」
ザザッ──ザッ────
  大きな声を出して呼んで見ると、辺りの景色が一変する。
『──こ─こが──』
  そこには國信田が映し出され、歩夢が触れた本と似たモノを手に持っていた。
『──タルタロスさん。人間は進化してるのだよ♡』
『貴様ッ!! それをどうする気だ!?』
もう一人の大男が両目を抑えながら國信田を睨む。
しかし、それをモノともせずに國信田は本を胸の前に押し付けると何かを唱え始める。
『混ざり合い  溶け合う  我が血肉となりし  その力─『融合魔法』発動!!♡』
──ザ─ザッ─
  映像にノイズが入り、そして最後は途切れてしまう。
「融合魔法…?」
  國信田は最後、本を胸に吸収するかの様に取り込んでいた。
「そうじゃよ」
「アマテラスさん?!」
  いつの間にやら後ろに立っていたアマテラスの声に、歩夢は大きく驚きたじろぐ。
「すまぬな。 ちと情報を整理していたせいで世界が歪んでおった…」
  そう言ってアマテラスがコツりと腰に差していた刀を地面に当てると、そこから何かが崩れて大きな建物が露になる。
「入れ、少し主様と話がしたかった所じゃ」
「すまぬな。國信田という男が余計な事をしたせいで、今まで神の世界で会議があっての。」
  疲れた様に呟くと、アマテラスはエントランスにあるソファに深く座り込む。
余程疲れているのか、着物も少し崩れていたが直す気が無いらしい。
「…主様が先程見たのは『記憶の欠片』といってな。
先程タルタロスが寄越したのじゃが、酷く損傷していて、至る所にバラけての」
  回収している最中に俺が来て、それに欠片が反応してしまったらしい。
だからノイズだらけだったのか…。
 それにタルタロスって、さっきの國信田と対峙していた…あの大男か。
「國信田のせいでタルタロスはダメージを負ったがの、彼奴は無事じゃよ。
元々は身体の一部を此処に置いていたのじゃが、運悪く交代時期に襲撃されたせいで力が弱っておったらしい」
「身体の…一部?」
「タルタロスは深淵そのものとも言われておる特殊な神でな。
複製を作り出して、こちら側に存在しておるのじゃよ」
  地球の中核付近に存在する神タルタロス。
悪魔からは牢獄神と呼ばれていて、悪魔や堕天使。
他には裏切った神等も収容されているらしい。
ざっくりと内容を説明したアマテラスは、腰に差していた刀を1本歩夢へと手渡す。
それを受け取りつつ歩夢は首を傾げた。
「何じゃ? 主様のではないのかえ?」
「えっ、あぁ…はい」
「うむ。主様が帰ってから外を見たら、そこの入口に落ちておったのじゃが…誰かの忘れ物かの?」
  刀を振りながら小首を傾げるアマテラス。
刀が落ちてるってなんだよ…物騒だな。
  戦国時代でもそうそう無いだろ。
「まぁ良い」
  良いのかよ?!
「主様が来たのじゃから、どうせなら色々と説明してやろうかの」
  そう言うと、アマテラスはあの本を取り出しテーブルの上に置く。
そして最初の1ページ目を捲ると、赤い光り輝く文字で『契約者  桐咲 歩夢 』と書かれている。
「なんですかこれ?」
「契約書みたいなモノじゃよ?  力を持つモノを管理する名目なのじゃが、神によっては…跡継ぎ候補を……作る為に名前を書かせる者も居る…」
  徐々に力無く、目を逸らしながら答えた。
候補者って何だよ、候補者って…。
 
  アマテラスはこほんと咳払いをすると、何事も無かったかの様に話を続けようとする。
  顔面は赤面しているんだけどね。
「恥ずかしい話、神の力を授ける為の契約なのじゃが…神にも色々と居るのじゃ。
触れんでくれ…」
  呆れた顔をしている所を見ると、まぁ大体察しが付くけど…。
「と、取り敢えず。  主様と妾は契約した身じゃ!
これからその力についての勉強も、少しずつじゃが教えてやる!!」
「あぁ、俺が國信田の所に行く前に言ってましたね」
  そう。
國信田との戦いの前に、俺はアマテラスさんに魔力とかについて軽く教えて貰い。
その応用で、あの人間離れした國信田と戦えたんだ。
まぁ、結果は散々だったけど…。
「仕方あるまい。彼奴の方が魔力についての知識があった分、更に力を手に入れられたのじゃから大差があって当然じゃ。
寧ろ、よく生き延びて来れたと褒めたい所じゃよ」
  そう言いながらアマテラスは人差し指を立て、手を空でクルクルと回す。
ボンッと音を立て、何も無かった空間から急須と湯呑みが出現しテーブルへと落ちて来る。
静かにストンと着地した急須と湯呑みには、温かな湯気が立っていた。
「お茶じゃよ? どうぞ飲みなされ」
ニコリと綺麗な笑顔を向けて来たアマテラスに、歩夢は頂きますと軽く会釈すると湯呑みへと口を付ける。
あっ、美味い。
「美味しそうで何よりじゃ」
  ニコニコとお茶を飲みながら俺を見ていたアマテラスさんは、暫くすると真面目な顔に戻り俺の顔を真っ直ぐに見詰めてくる。
「どうじゃ? 少しは何か感じるかの?」
「え? あぁ、そう言えば心無しか体がスっと軽く…」
「うむ!そのお茶は特別なお茶での。
魔力や体力を回復する速度を速めてくれるのじゃよ」
  湯呑みをテーブルに置くと、アマテラスは歩夢の胸元へと手を伸ばす。
それを焦って後ろに仰け反りながら避けようとする歩夢を、アマテラスは大人しくしておれと一喝して止める。
「ふむ、回復速度もまぁまぁ速いようじゃな?
もうほぼ全開じゃぞ?」
「あんまし実感とか無いですけどね…」
  そう、魔力と言われても自分のはまだ目に見えてるわけでない。
なので回復したと言われても、どのくらい回復したのかも何も分からないのである。
「そうじゃの。その為に妾直々に稽古してやる」
  腕を組んで、さも当然のように語るアマテラスに歩夢は面を食らう。
「國信田の奴、秘密を知って力を得た主様を抹殺しに来るぞ?」
「っ…!?」
  やはりか。
あんなヤバい組織だ、その覚悟は何処かでしていた。
それなら…。
「丁度いいっ…!!」
  歩夢は鋭い目付きでニヤリと笑う。
「目の前で子供達を殺されてんだ。
こっちからも反撃してやるっ!!」
   バシッ!!
  力強く拳を掌にぶつける。
その様子をアマテラスは悲しい目で見詰め、そして優しく拳へと手を差し出し握り締める。
「主様、妾の力を未来の為に使ってくれるかの?」
「未来の…?」
「そうじゃ」
  そう言ってアマテラスは立ち上がると、静かに目を閉じる。
空気が微かに揺れ、変化した気がした。
そしてアマテラスの体から、紅く燃えるような何かが溢れ出る。
「妾の能力は太陽…『紅炎』なのじゃ。
皆を照らし、悪しきモノを焼き払う。
能力を使う者が復讐に囚われてしまってはいけぬ…。」
  手を通して、暖かい何かが流れ込んで来るのを感じる。
「これから主様に、妾の全てを捧げる」
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