七つの役職

狩巣栄斗

予言の四行詩

「人狼ゲームのこと、みたいだけど」
 雄一はとりあえずそれだけを言った。
「人狼ゲームですか、少し知ってます。テレビでやってるのを、見たことがあって」
 雄一はうなずいた。雄一の人狼ゲームに対する知識もそんなものだった。
「この四行の文章……詩かな? の、三行目までは人狼ゲームの説明に見える」


 八人が集う山小屋には 人狼が紛れ込んでいる
 人狼は夜が来るごとに 人を喰らう
 人にできることは 昼のうちに疑わしきを吊るすことだけ
 しかしこの戦いは 人狼が勝利を収める


「そうですね」
「でも、この四行目はおかしい」
 できるだけ名探偵っぽい口調を気取りながら、雄一は指摘した。
「人狼ゲームのルールを言いたいなら、ええと、『はたして人間は人狼を突き止めて生き残れるのだろうか』とか、そんな文章がふさわしいと思うんだ」
 雄一の言葉に女の子はうなずいている。
「それなのにだ」
 雄一は言葉を続ける。
「ここでは、『人狼が勝利を収める』と結論が書かれている。これはなんだか不自然だ。だから、これは人狼ゲームのルールを説明する文章とか、そんなものじゃない」
「ということは?」
 期待するような口調で女の子がそう言った。
 むむ、いい感じだけど、ここで失敗するわけには行かないぞ、と雄一は思う。
 次の一言はズバッと真相を言い当てないと……。
「……犯罪……」
 ズバッと真相を言い当てるのは無理だったが、なんとか関係ありそうな言葉を口にした。
「え……」
 女の子は不安そうな表情になっている。
 雄一の頭のなかに不吉な予感がよぎった。
「もしかして……これは……犯行予告……?」
 演技ではなくてシリアスな顔で、雄一は言った。
「どういうことですか……」
 女の子の質問に、雄一は口ごもった。
 雄一が考えたのはこういうことだ。
 この建物には、雄一たちを含めて8人の人間がいて。
 その中に1人、殺人をしようとしているやつがいて。
 そいつは、僕たち7人を皆殺しにしようとしている?
 この文章はその予告……。
 そこまで考えて雄一はため息を付いた。
 バカバカしすぎる。
「あの……」
 雄一は女の子の方を見た。かなり不安そうな表情をしている。
「いや、多分大丈夫だよ」
 殺人とか、そんな大事件が起こるはずはない。
「もうちょっと色々調べてみよう。一緒に来てくれる?ええと……」
 雄一はここで女の子の名前を聞いてなかったことを思い出した。
「二階堂です」
 女の子が名乗った。
「二階堂さんか。僕は木場先きばさき雄一ゆういちです。よろしく」
二階堂にかいどう深水ふかみです、よろしくおねがいします」
 ふかみちゃんっていうのか。変わってるけどかわいい名前だな。
 心のなかでそう思うと、雄一はまだ開けてないドアに向かって歩き出した。

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