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時塚オイモ

第33話 〜幸運と災いの女神〜

「……あれ?ここは………?」


さっきまで家の風呂に居たはずなのに、気づけば周りは何も無い真っ白な所で、音も無く静かな場所だった。


「僕は……死んだのか?」


「いいえ。まだ生きているわ。主人公さん。」


そう言って微笑みながら歩いて来たのは紫色の長い髪をし小学生くらいの体型をした1人の少女だった。


「………君は?」


僕は不思議な雰囲気を持った彼女に聞くと、彼女は笑顔で答えた。


「私は『パンドラ』。幸運の女神でもあり、また災いの女神でもあるの。」


「パン……ドラ?あっ!僕は………」


彼女が名前を名乗ってくれたのだから、僕も名乗ろうと思い名前を言おうとした時、僕よりも先に彼女は僕の名前を名乗った。


「『叶目悠斗』。知ってるわ。だって貴方はこのゲームの主人公なんだから。いいえ。『主人公に選ばれた者』と言った方が良いのかしら。」


「どうして僕の名前を?それに……主人公?」


「そう!貴方は主人公なの!だから名前も知ってる。」


「嬉しいけど、僕は主人公じゃないよ。」


僕は主人公じゃない。只の一般人でAVOのプレイヤーの1人でしかない。だから僕は彼女の言葉を否定した。


「………そう。まぁ、いずれ分かる時が来るわ。それよりも貴方、意外に冷静なのね。もっと驚くのかと思ったのだけれど。」


「今までに色々あったからね。もう慣れてしまったからそこまで驚かないよ。」


「うふふふ。そう?じゃあ、此処は何処か分かる?」


彼女は笑いながらこの場所を聞いてきたので、僕は周りを見渡しながら考える。


見渡しても真っ白だ。何も無い。彼女以外、声も音も聞こえない。まるで此処に居るのは、僕と彼女だけ。後は何も無い…………無い?


「『無』の………世界?」


「あら!意外に鋭いのね。流石、主人公さん!でも残念。ちょっと違うわ。」


その後、彼女はこの場所を笑顔で説明してくれた。


「此処は、生と死の狭間。『む』の世界であり『無』の世界では無いわ。『夢』の世界。つまりは此処は夢の中の世界なの。」


「えっと……つまり僕は死んだ訳じゃなくて、夢を見てるって事?」


「うーん。遠からずも近からず?」


「何で疑問形なの?」


「夢は夢なのだけど……最初に言ったわよね。此処は生と死の狭間。つまり、貴方は死んでもいないし、生きてもいない。」


「そうか!確か僕は…………」


この時僕は、僕の身に何が起きたのかを全て思い出した。


僕は信長に追いかけられて、そして追い詰められて刀で斬られそうになった時に僕は足を滑らせて、それから………


「そう。頭をぶつけて現実の貴方は只今、気絶中ってわけ。」


そっか。じゃあきっと2人共、心配してるだろうな。早く戻らないと。


「ねぇ。パンドラはどうして、僕の夢の中に出てきたの?」


彼女は何故、僕に接触してきたのか。彼女の目的は何なのか。僕は気になり聞いてみた。


「そうね。貴方に接触したのは2つ理由があるの。」


「2つ?」


「そう。先ず1つ目は、『主人公に選ばれた報告』。貴方はこれから沢山の楽しい事や辛い事、悲しい事が起きるわ。だから、曲げずに頑張ってほしいの。私、結構貴方の事気に入ってるから。」


「それは………どうも?」


「そして2つ目!近々、貴方の周りに『災い』が降り注ぐわ。」


「えっ!?どういうこと!?」


「本当は、あまり教えてはいけないのだけど、貴方になら少しだけ『ヒント』をあげる。」


「ヒント?」


「ええ。貴方の義妹『神谷朱莉』には気をつけなさい。」


朱莉!?朱莉がどうしたんだ?まさか……何かに巻き込まれるんじゃ!


「朱莉に気をつけろってどういう事!」


「あら?そろそろ時間ね。今日は話せて楽しかったわ。」


「まっ、待って……ぐっ………」


急に目眩が……まさか現実世界に戻るのか?だけど、その前に朱莉の事も聞きたいけど、何よりも………


「君は一体何者なんだ!」


「うふふふ。言ったじゃない。私はパンドラ。幸運の女神でもあり災いの女神でもあり、そして…………」


僕は彼女の最後の言葉を聞く前に、意識を失った。


「また会いましょう。『私の主人公さん』。」


「……と………ゆう……と………」


誰だろう?誰かが僕を名前を呼んでる。


僕はゆっくりと目を開ける。すると、目の前に涙目になっている信長と朱莉が僕の顔を見ていた。


「悠斗!?良かった!悠斗!」


信長はそう言って僕に抱きつき、そして泣いた。


「もう!死んだと思ったじゃない!馬鹿兄!」


「ごめん。朱莉………」


朱莉を見た瞬間、パンドラが言っていた言葉を脳裏に浮かんだ。


『神谷朱莉には気をつけなさい。』


あれは一体どういう意味だったんだろうか。でも、あれが嘘だとは何故か思えない。これからは、朱莉を気にしていこう。災いなんて起こさせやしない!必ず!

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