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時塚オイモ

第30話 〜彼岸花と切り裂き〜

「貴方は、フィアーの人……ですか?」


意外にも僕は冷静だった。だから、目の前にいる女の人に向かって冷静に聞いた。


「あら?驚いたわ。もっと動揺するのかと思ったけど、意外に冷静なのね。『叶目悠斗』君。」


「どうして僕の名前を知ってるんですか?」


「そんなの決まってるじゃない。『暗殺対象』の名前くらい知ってて当然でしょ?」


暗殺!?まさか……明智光秀に命令されて?だけど、幾ら何でも早すぎる!昨日の今日だぞ!まだ、皆が弱っているのにそんな………弱ってる?まさか!?


「なるほど……私以外、戦える者がいない今を狙ってきたという訳か!卑怯者め!!」


「うふふふ。私達は暗殺者よ?どんな手を使ってでも暗殺対象を殺す……それが暗殺者。」


女性は微笑みながら右手で自分の頬を撫でる。


「だったら!俺はどんな手を使ってでも、悠斗の暗殺を阻止してやる!」


「ええ!悠斗君を殺させはしない!」


そう言って透と瑠美は僕を守るように僕の前に立つ。


「駄目だ!危険すぎる!」


冷静だからこそ分かる。きっとあの女性は何人者プレイヤーを殺して来た程の実力を持っている。それにあの時、幼女が僕を殺そうとした時に幼女の気配は少しも感じなかった。信長さえ、気配に気付くのが遅くなり直ぐに反応が出来なかった。そんな危険な相手に透と瑠美が勝てるはずない。ルパンやユグドラシルだって、動くのがやっとなのに………


「うふふふ。そんなに殺気を出さなくていいわよ?直ぐに終わらせて………あ・げ・る。」


女性がそう言うと幼女が一瞬で消え、気づけば僕の目の前まで迫っていた。だが、それに気づいた信長は直ぐに僕の前に立ち、幼女の攻撃を防いだ。


「今度は捉えたぞ!」


信長は微笑むが、汗が出ている。それ程、余裕が無い相手なのだろう。


「もーう!邪魔ー!」


幼女は、信長の刀を振り払い後ろへ下がる。


「どうして邪魔するのー?ジャックにお兄ちゃんの心臓食べさせてよー!」


幼女はとても不機嫌そうに頬を膨らませながら言ってくる。


「ふざけるな!貴様に悠斗を殺させはしない!」


信長は刀を構えて幼女を見つめる。


「うふふふ。落ち着きなさいジャック。そんなに急がなくても、獲物は逃げたりしないわ。」


女性は幼女の頭を撫でながら微笑んでいる。


「えへへー!ねぇーマスター!早くあのお兄ちゃんの体を切りたいなー?切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って切り刻みたい!そして早くー赤くてぇ甘くてぇ美味しい心臓を食べたいなぁ!」


「うふふ。そうね。でも、残念だけどまだその時では無いわ。あの子には恐怖というのが今は無いの。だから、今食べても美味しくないのよ。」


「ええー?じゃあまだ食べられないのー?」


「ええ。そうね。あの子が恐怖に落ちた時、あの子の心は熟されて、とても甘く美味しい心臓になるのよ。だから、今日は我慢してね。」


「はぁーーーい。」


幼女はガッカリした顔でダガーを納める。そして、女性は僕を見て笑顔で喋る。


「ごめんなさいね。今日殺そうと思っていたのですが、気が変わりました。今の貴方を殺してもつまらないです。」


女性はそう言って振り返り、帰ろうとする。だけど、僕は彼女にどうしても聞きたい事があったため、彼女を引き止めた。


「待って下さい!貴方が僕を狙う理由は、『明智光秀』に命令されて……ですか?」


そう言うと、彼女はまた振り返り僕を見て答える。


「ええ。そうよ。明智様の命で貴方を殺しに来たの。」


「じゃあ、僕を殺しに来たのに何で他のプレイヤーを殺したんですか?」


「昨日の事かしら?勿論、あの男も暗殺対象でしたのよ。『叶目悠斗を殺す前に、近くにいるプレイヤーを先に殺せ』と言われてね。ああーでも勘違いしないでね。私は暗殺対象しか殺さないし、貴方のお友達は暗殺対象では無いわ。だから殺したりしないの。お友達は……ね。」


女性は怖い笑みで僕を見つめる。この人は完全に狂っている。平気で人殺しが出来るなんて……そんなの人間じゃない!


「貴方は………何者なんですか?」


僕は冷静な顔をして聞くが、内心では少し恐怖を感じていた。


「私?そうねぇ………『彼岸花』と名乗っておこうかしら。花言葉は、『また会う日を楽しみに』だったかしら。」


「ジャックはねぇ、『ジャック=ザ=リッパー』だよぉ!早く美味しくなってねーお兄ちゃん!」


2人は笑顔で、暗闇の中に消えていった。もう、2人の気配が無くなったのか信長は刀をしまった。正直、あのまま戦っていたら僕は殺されていた……かもしれない。


「彼岸花に、ジャック=ザ=リッパー………か。」


「すまない……悠斗………」


振り向くと、信長は暗い顔で下を向いていた。


「………しょうがないよ!さっきのは不意打ちだったんだ。それに、不意打ちじゃなく正面からの勝負だったら信長は勝て…………」


「駄目だ!!」


僕は信長に気にしないでほしいと笑顔で言おうとした時、信長は急に大声で怒鳴った。


「信……長………?」


「すまない悠斗……さっき奴と正面から戦ったが、あれは強い。正直に言うと勝てる気がしないんだ。今の私では、守るのが精一杯だ。」


あの信長が、こんなにも落ち込むなんて………それ程、あのジャック=ザ=リッパーは強いのだろう。そして、一瞬の油断が命取りになってしまう。危うく僕の首が切られそうになったのだから。

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